著者
土井 綾子 設楽 紘平 土井 俊彦
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.10, pp.906-918, 2014 (Released:2014-11-01)
参考文献数
34

大腸癌の化学療法は,近年の新規分子標的薬の導入により,目覚ましい進歩を遂げている.RASをはじめとした,がん関連遺伝子変異と化学療法の有効性に関する報告やBRAF変異例に対する新規治療開発により,治療方法も個別化されつつある.現在明らかになっている遺伝子変異と化学療法の有効性に関する情報や,新規抗癌剤を含めた今後の治療戦略と将来展望について最新の知見を交えて報告する.
著者
山田 一隆 緒方 俊二 佐伯 泰愼 高野 正太 岩本 一亜 福永 光子 田中 正文 野口 忠昭 高野 正博
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.69, no.10, pp.513-520, 2016 (Released:2016-11-07)
参考文献数
20
被引用文献数
1

下部直腸・肛門管癌に対する括約筋間直腸切除術(ISR)に関しては,術後排便機能障害として便失禁が比較的高率であることが課題となっている.そこで,当施設において2001~2013年に下部直腸・肛門管癌に対してISR, partial ESRを施行した治癒切除178例を対象に,術後1年の排便機能について解析した.術後1年における排便機能に関しては,continent patients(Kirwan grade 1, 2)が64.9%であり,total ISR とpartial ESR症例では低い傾向であった.直腸肛門内圧検査と直腸肛門感覚検査を継時的(術前・術後3ヵ月・6ヵ月・1年)に施行し,肛門管最大静止圧,肛門管最大随意圧ならびに肛門管電流感覚閾値に術後3ヵ月に著明な悪化がみられ,その後の回復が比較的不良であった.これらの解析を基に,ISR術後の排便機能障害に対する対応について検討した.
著者
笠井 章次 唐崎 秀則 前本 篤男 古川 滋 伊藤 貴博 河野 透
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.91-96, 2018 (Released:2018-01-29)
参考文献数
15
被引用文献数
1

急性感染性電撃性紫斑病(acute infectious purpura fulminans:AIPF)は感染に惹起され急速に進行拡大する末梢の紫斑,皮膚壊死を特徴とする疾患である.死亡率は30%以上と高率で,救命し得た例でも最終的に四肢切断を要することが多い重篤な病態である.われわれはクローン病腸管切除手術後の重篤な麻痺性イレウス治療中にCitrobacter freundii菌血症からAIPFを発症したが,複数科の協力による集中治療で救命し得た40歳代女性の1例を経験したので報告する.クローン病患者は易感染状態であり,また血栓性イベントの高リスク状態でもあることから,AIPFを発症しやすい条件下にあるといえる.現時点で自験例以外にAIPFを合併した症例の報告はないが,クローン病の管理において知悉すべき病態であり,その治療においては複数科との協力の下,集学的に行うことが重要であると考えられた.
著者
飯高 大介
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.7, pp.302-306, 2018 (Released:2018-07-13)
参考文献数
22

進行大腸癌に対するFOLFIRI療法中に意識障害を伴う高アンモニア血症をきたした症例を経験した.症例は69歳男性で大腸癌腹膜播種に対してRamucirumab+FOLFIRI療法を導入した.3クール目に意識障害および血中アンモニア異常高値を認め,ただちに5-Fluorouracil (5-FU)投与の中止および輸液を行った.5-FU系薬剤を投与した際に意識障害を認めた場合は,高アンモニア血症を念頭におくべきである.
著者
黒田 顕慈 野田 英児 高田 晃次 南原 幹男 木下 春人 原 順一 河内屋 友宏
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.41-46, 2017 (Released:2016-12-26)
参考文献数
16

症例は44歳の男性.潰瘍性大腸炎に対して大腸全摘術(1期目:腹腔鏡下結腸全摘術・回腸瘻造設術,2期目:残存直腸切除術,J型回腸嚢肛門管吻合,3期目:回腸瘻閉鎖術)を施行した.術後12日目に腸閉塞症状が出現,その後下血がみられ,下部消化管内視鏡検査にて回腸嚢内に湧出性出血を伴う多発性潰瘍を認めた.回腸嚢炎と考え,抗生剤の投与にて経過をみたが,再度下血が出現し,ショックバイタルとなった.回腸嚢より口側からの出血が疑われ,緊急試験開腹術を施行した.術中内視鏡検査にて空腸内に散在性の潰瘍を認めたが明らかな出血源は指摘しえなかった.病状経過よりUC関連の小腸炎が疑われ,プレドニゾロンおよびメサラジンの内服加療を行ったところ,下血は消失し,6ヵ月経過する現在も再燃を認めていない.潰瘍性大腸炎に関連した大腸全摘術後の小腸炎にて治療に難渋した1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
著者
小川 仁 舟山 裕士 福島 浩平 柴田 近 高橋 賢一 長尾 宗紀 羽根田 祥 渡辺 和宏 工藤 克昌 佐々木 巌
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.455-459, 2004-08-01
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

症例は23歳女性.5年前にスプレー缶の蓋を膣内に留置してしまったが医療機関を受診せず放置し,次第に月経周期に類似した下血と腰痛が出現したため近医を受診した.大腸内視鏡検査で膣内異物と直腸膣瘻を指摘され経肛門的に異物除去術が施行されたが,2カ月後も瘻孔が閉鎖しないため当科を紹介された.初診時2横指大の直腸膣瘻と膣狭窄を認めた.回腸にループ式人工肛門が増設されたが6カ月後も瘻孔は閉鎖せず,根治目的に手術が施行された.瘻孔周辺の直腸と膣は高度の線維化により強固に癒着しており直腸・膣の修復は不可能であったため,再手術により子宮摘出・直腸切除,結腸肛門吻合術が施行された.3年2カ月の間にこれらの手術を含む計6回の手術が行われ直腸膣瘻は根治した.膣内異物による直腸膣瘻はまれな病態であるが,治療に難渋した自験例を若干の文献的考察を加え報告する.
著者
三嶋 秀行 木村 研吾 池永 雅一 安井 昌義 内野 大倫 岩田 力 大橋 紀文 伊藤 暢宏 鈴村 和義 佐野 力
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.10, pp.897-905, 2014 (Released:2014-11-01)
参考文献数
5

切除不能大腸癌に対する化学療法は進歩し,3種類の殺細胞薬だけでなく,3種類の分子標的薬が使用できるようになった.生存期間中央値は2年まで延長したものの,未だに治癒を望むことは難しいので,化学療法の目的は,治癒ではなく延命である.抗VEGF抗体は単剤では効果がなく,殺細胞薬との併用により延命効果が期待できる.抗EGFR抗体にはバイオマーカーが存在し,RAS変異があると効果が期待できない.殺細胞薬と併用でも,単剤でも使用できる.FOLFOXとFOLFIRI,抗VEGF抗体と抗EGFR抗体どちらを選んでも効果に大差はないので,有害事象や腫瘍の状態に応じて選択する.注射のFUは効果を下げずに経口FUに置き換えることができる.重篤な有害事象の発生を好まない患者に対しては,支持療法だけでなく,分子標的薬をベースにすることや,用量調節により,QOLを維持した延命が可能になる.経口の分子標的薬レゴラフェニブの用量調節が困難な場合,titration法などを用いた工夫が必要になる.
著者
一万田 充洋 衛藤 剛 中嶋 健太郎 平塚 孝宏 赤木 智徳 柴田 智隆 上田 貴威 白下 英史 猪股 雅史
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.214-221, 2017 (Released:2017-03-30)
参考文献数
26
被引用文献数
3

目的:大腸癌手術の化学的腸管処置におけるカナマイシン(KM)+メトロニダゾール(MNZ)併用投与の有用性をSSIサーベイランスデータに基づき明らかにする.対象と方法:2010年1月から2015年12月までに行った大腸癌手術344例を術前の化学的腸管処置の方法により3群(抗生剤なし群178例,KM単独投与群87例,KM+MNZ併用投与群79例)に分けて創部SSI発生率を検討した.また,創部SSI発生と各リスク因子の関連について単変量および多変量解析を行った.結果:KM+MNZ併用投与群における創部SSI発生率は他の2群と比較して有意に低値であった(ともにP<0.05).創部SSI発生のリスク因子は男性(P=0.035),KM+MNZ併用投与群以外(P=0.011)であった.結語:大腸癌手術の化学的腸管処置における術前KM+MNZ併用投与は創部SSIの発生率低下に有用と考えられた.
著者
坂下 吉弘 竹末 芳生 横山 隆 大毛 宏喜
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.173-177, 2000 (Released:2009-06-05)
参考文献数
17
被引用文献数
2 1

潰瘍性大腸炎に対し,大腸全摘,回腸嚢肛門吻合術を行った若年女性患者の妊娠出産を含めた術後のquality of lifeについて,女性患者23例のうち,20~39歳の12例に対してアンケート調査を行い検討した.術後の出産症例は5例で,計7児出産していた.回腸瘻閉鎖から初回出産までの平均期間は3年8カ月(1年7カ月~8年3カ月)であった.分娩方法は帝王切開が3例計5回,経膣分娩が2例計2回であった.帝王切開の理由は,児逆位,胎児仮死,早期剥離で,いずれも産科的な適応によるものであった.児性別は男児4例,女児3例で,7例とも妊娠週数は,正期産であった.生下時体重は2,638g~3,778gで,いずれも正常児で身体的異常を認めなかった.妊娠中に排便回数の増加を認めた症例はなかったが,2例で妊娠後期に漏便の増加を認めた.しかし,分娩後,妊娠前の状態に戻り,機能低下を残す症例はなく,回腸嚢肛門吻合術後の妊娠,出産は安全であると結論した.
著者
斎藤 典男 更科 広実 布村 正夫 幸田 圭史 滝口 伸浩 佐野 隆久 竹中 修 早田 浩明 寺戸 孝之 尾崎 和義 近藤 英介 知久 毅 若月 一雄 鈴木 弘文 安富 淳 小林 信義 菅谷 芳樹 吉村 光太郎 石川 文彦 中島 伸之
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.381-388, 1995 (Released:2009-06-05)
参考文献数
21
被引用文献数
2 1

初発および再発直腸癌に対する骨盤内臓器全摘術(TPE)の適応と予後について検討した.対象は最近の13年間に施工した初発TPE22例と局所再発TPE14例の計36例である,36例中15例(初発6,再発9)に術前照射(30~40Gy)を行った.再発TPEでは初発例に比べ手術侵襲(手術時間,出血量)が大きく術後合併症の頻度も高く,術前照射群で同様の傾向を示した.5年生存率は初発TPE例で55.2%を示し,n0~n1群は良好であった.再発TPEの5年生存率は48.6%であるが,無再発5年生存率は31.1%と低値を示した.再発TPEでの長期生存例は,術前照射群に認められた.再発および再々発型式は,血行性転移が主であった.初発例のTPEは安全であり,遠隔転移の有無に関係なく局所制御の意味で従来の適応を拡大してよいと考えられた.再発例に対するTPEでは,厳重な症例選択により,生命予後の延長と良好なQOLの得られる症例も認められた.
著者
岡村 慎也
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.222-229, 1996 (Released:2009-10-16)
参考文献数
30

防御因子としての大腸粘液の重要性を明らかにするために, 雑種成犬12頭に慢性拘束ストレス負荷実験を行い, 消化管粘膜における粘液糖蛋白質の指標となる粘膜ヘキソサミン濃度を測定し, 大腸粘膜の粘液糖蛋白質量の変化を検討した.さらにストレスを継続しながら, 粘液合成・分泌促進作用を有するテプレノンを経口投与し, 投与後の大腸粘膜の粘液糖蛋白質量の変化を検討した.その結果, ストレス負荷によりイヌの大腸粘液糖蛋白質量は低下し, 大腸に粘膜病変を形成する傾向を認めた.またテプレノンは大腸粘液糖蛋白質の分泌を促進させ, 粘膜病変の形成を抑制する傾向を認めた.以上より, 大腸粘液は大腸粘膜を保護する防御因子として非常に重要であり, ストレス負荷により減少し, テプレノン投与により増加することが示唆された。
著者
石川 信 加藤 順
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.1010-1014, 2008 (Released:2008-11-05)
参考文献数
41
被引用文献数
8 7

大腸憩室は,欧米,本邦ともに年代とともに増加してきている.本邦での1980年の報告では大腸憩室の保有率は5.5%を占めるに過ぎなかったが,1990年代の発表では10.9%∼39.7%の頻度と報告されている.また,罹患率は加齢とともに増加し,40歳以下では16∼22%の頻度であるが,80歳以上では42∼60%に達する. 欧米において大腸憩室はS状結腸を中心に左側に群発するが,本邦では右側型が多くみられるのが特徴である.しかし,近年は右側型に左側型が合併した両側型が増加してきており,また,年齢とともに左側結腸の憩室が増加する傾向にある. 出血の頻度に関しては欧米の報告では大腸憩室の3∼47%に認めるとされるが,本邦では数%に過ぎず頻度は低い.しかしながら高齢者に多くみられるとの報告があり,今後高齢化が進む本邦においても憩室出血例が増加することが懸念される.
著者
多田 正大 下野 道広 本井 重博 須藤 洋昌 郡 大裕 川井 啓市
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.73-77,154, 1981 (Released:2009-06-05)
参考文献数
13
被引用文献数
1

大腸癌や腺腫の生体内における自然史に関して,明らかでない点が多い.殊に内視鏡検査の普及によって,大腸ポリープは発見され次第にポリペクトミーによって切除されるのが通例であるため,その長期経過観察例は稀である.著者らは大腸ポリープ7例について,経過観察することができたので,その自然史の一端について検討した.その結果,大腸癌のvolume doubling time(tD)は344.8日であった.腺腫では大きさにほとんど変化がないもの,急速に成長するもの,がみられた.成長する腺腫(腺管腺腫)のtDは213.4日であり,癌よりも短期間であった.腺腫の成長率の差は,その発生部位や個人の排便回数の差による細胞脱落因子によるものか,それとも宿主因子によるものか現時点では解明できないが,同様の数少い症例を集積して解明されるべき問題であると思われる.
著者
柵山 尚紀 小林 昭広 小嶋 基寛 池田 公治 松永 理絵 河野 眞吾 伊藤 雅昭 齋藤 典男
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.170-175, 2016 (Released:2016-02-22)
参考文献数
23
被引用文献数
1

S状結腸癌とその術後肝転移に日本住血吸虫卵が併存した症例を経験したので報告する.症例は72歳,男性.貧血,便潜血陽性を主訴にS状結腸癌と診断され,手術治療目的に当院紹介受診となった.S状結腸癌type2 cSS N1 H0 P0 M0 cStage IIIbの診断で,腹腔鏡下S状結腸切除術を施行した.術後病理診断は,S状結腸癌 pSE,pN1,pM0 pStage IIIa with Schistosoma japonicum eggであった.虫卵の分布は切除腸管全般にわたっており,癌との関連性は否定的であった.術後,9ヵ月後に肝転移を発症し腹腔鏡下肝部分切除術を施行.術後病理所見は転移性肝癌でも癌部非癌部にかかわらず虫卵の併存を認めた.患者は生活歴に山梨県甲府市に在住があった.本症例では虫卵が死卵であり活動性もないことから日虫症に対する治療は施行せず,術後化学療法も通常通り施行した.
著者
樋渡 信夫 中嶋 和幸 山崎 日出雄 熊谷 裕司 山下 和良 森元 富造
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.40, no.7, pp.889-893, 1987 (Released:2009-06-05)
参考文献数
14
被引用文献数
6 2

炎症性腸疾患の家族内発生の頻度と臨床像を明らかにする目的で,自験例について検討した.潰瘍性大腸炎296家系(1954年~87.6)のうち,潰瘍性大腸炎の多発は8家系(2.7%)に認めた.このうち6家系は兄弟例,2家系は母子例であった.発症年齢の近似は2家系,発症時期の近似は3家系,病型の類似は3家系に認められた。家族内発症例と"非家族例"との比較では臨床像に差はなかった.クローン病に関しては,85家系中3家系(3.5%)に家族内発生を認めた.1家系は母子例,2家系は兄弟例であり,3家系ともそれぞれ罹患範囲が同じであった.同一家系に3例以上の発症や,クローン病と潰瘍性大腸炎の混在を認めた家系はなかった.炎症性腸疾患の家族内発生が高頻度にみられたことは,偶然によるものではなく,遺伝的要因と環境要因が病因に強く関与していることが示唆された.
著者
張 仁俊 澁澤 三喜 角田 明良 神山 剛一 高田 学 横山 登 吉沢 太人 保田 尚邦 中尾 健太郎 草野 満夫 田中 弦
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.254-259, 1997 (Released:2009-06-05)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

クローン病による消化管膀胱瘻は比較的まれで本邦では62例の報告がある.今回,著者らは教室においてクローン病による消化管膀胱瘻を2例経験したので報告する.症例1は32歳,男性.腹痛,発熱,混濁尿のため慢性膀胱炎として治療を受けていたが,糞尿が出現したため入院となった.小腸造影,注腸造影にて直腸S状結腸瘻,回腸直腸瘻がみられた.膀胱造影にて造影剤の漏出を認め,腸管膀胱瘻が強く疑われた.症例2はクローン病のためsalazosulfa-pyridineの内服治療を受けている28歳の男性.血尿,気尿,発熱を主訴に入院.膀胱造影にて直腸が造影され,クローン病による直腸膀胱瘻と診断した.いずれの症例も中心静脈栄養や成分栄養剤,prednisolonの投与等の内科的治療が奏効せず腸管切除と瘻孔部を含めた膀胱部分切除術を施行した.
著者
中嶋 均 村元 和則 奈良 秀八州 芳賀 陽一
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.51, no.8, pp.573-580, 1998 (Released:2009-06-05)
参考文献数
33
被引用文献数
1

Crohn病と潰瘍性大腸炎の家族内発生は特発性炎症性腸疾患の成因,とくに遺伝的成因を究明する上で注目されている.筆者らは潰瘍性大腸炎とCrohn病の父子発生の1家系を経験した.症例1は25歳の男性,増悪する腹痛に対して開腹手術を施行し,その手術所見および手術標本の組織所見よりCrohn病と診断された.症例2は症例1の父で息子(長男)のCrohn病発症4年経過後に,粘血便を主訴として受診し,大腸内視鏡および生検組織所見にて潰瘍性大腸炎と診断した.本邦においては,Crohn病と潰瘍性大腸炎の異種の炎症性腸疾患の家族内発生例はこれまで6例と稀である.この家系におけるHLA検索ではこれまで同種の家族内発生例で示唆されているような一定の表現型を指摘し得なかった.