著者
永崎 研宣 大向 一輝 下田 正弘
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.324-334, 2022-02-15

仏教学のための知識基盤の構築にあたり,テキストの共有は重要な課題である.これを効率的・効果的に実現することを目指すデジタル学術編集システムにおいて,近年普及しつつある国際的な画像共有の枠組みであるIIIF(International Image Interoperability Framework)は実装と運用の側面を改善する役割を果たしうる.筆者らは,仏教学のためのデジタル学術編集システムのモデルを設計し,そのモデルにおいて実装・運用面を改善する手段としてIIIFを位置づけ,仏典全文テキストデータベースSAT2018においてそれに基づく実装を行った.これを通じて,デジタル学術編集システムの運用におけるスケーラビリティと持続可能性に関する課題を明らかにした.
著者
下田 正弘
出版者
日本印度学仏教学会
雑誌
印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.1043-1035, 2020-03-20 (Released:2020-09-10)
参考文献数
19

More than fifteen years ago, Schopen (2004, 492) revealed his concern about a certain understanding widespread among scholars of the history of Indian Buddhism, writing, “[t]he historical development of Indian Buddhism used to be presented as simple, straightforward, and suspiciously linear. It started with the historical Buddha whose teaching was organized, transmitted, and more or less developed into what was referred to as early Buddhism. This Early Buddhism was identified as Hīnayāna ... , Theravāda ... , or simply ‘monastic Buddhism.’ ... A little before or a little after the beginning of the common era this early Buddhism was, according to the model, followed by the Mahāyāna ... ” A similar apprehension has recently been expressed in slightly different terms by Harrison (2018, 8–9). It is certainly surprising that scholars’ basic frame of reference for the history of Indian Buddhism is more or less what it was in the late 19th century, despite all of the progress recently made in this field. Developments in the particulars of the subfields of Indian Buddhist history have not entailed comparable developments in the broader frame of reference, despite the fact that such a frame is what allows us to identify and synthesize the details of our field. This paper attempts to address this problem by focusing on three points: first, it reexamines the current state of affairs of materials for the reconstruction of the history of ancient India; second, it reevaluates the status of Pāli materials as historical sources; and third, it reconsiders the concept of ‘canon’ in Buddhist studies.
著者
下田 正弘 蓑輪 顕量 永崎 研宣 大向 一輝 宮崎 泉 納富 信留 Muller Albert 苫米地 等流 藏本 龍介 船山 徹 高橋 晃一 師 茂樹 齋藤 希史 高岸 輝
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は「人文学がデジタル時代にいかに遂行されうるか」という次世代の人文学にとって重要なテーマについて、人文学諸分野が参照可能なデジタル知識基盤を仏教学から提供し、人文学全体が共同で未来を開く方法論を検討する〈統合デジタル研究環境〉を形成する。そのため、人文学におけるテキスト、画像、事物、行為等の研究対象の相違と、思想、言語、歴史、行動科学等の研究方法の相違の両者を視野に入れ、両者から生まれる知識の多様性を、デジタル技術を通し効果的に保存し利用する多層的概念モデルを構築し、新大蔵経データベース(新SAT-DB)に実装して提供する。
著者
下田 正弘 小野 基 石井 清純 蓑輪 顕量 永崎 研宣 宮崎 泉 Muller Albert 苫米地 等流 船山 徹 高橋 晃一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2015-05-29

本研究事業は、永続的に利用可能な仏教学の総合的知識基盤を日本に構築し、世界の仏教研究におけるウェブ知識拠点(ハブ)を構築することで次世代人文学のモデルを提供することを目的とする。これを達成するため、(1)大蔵経テキストデータベース(SAT-DB)を継続的に充実発展させ、(2)有望な新規国際プロジェクトを支援し、連携してSAT-DBネットワークを拡充し、(3)人文学の暗黙的方法の可視化を図って人文学テクストの適切なデジタル化を実現するためTEIと連携してTEI-Guidelinesを中心とするテクスト構造化の方法を精緻化し、(4)ISO/Unicodeとの連携し、国内のデジタル・ヒューマニティーズ(人文情報学)に関する研究教育の環境向上を図り、人文学国際化を支援する研究環境を整備する。これらの成果はSAT大蔵経テキストデータベースにオープンアクセスのかたちで反映させることをめざす。本年度は、James Cummings(Newcastle University, UK)、Paul Vierthaler(Leiden University, NLD)を迎えた国際会議「デジタルアーカイブ時代の人文学の構築に向けて」をはじめ、国際会議とワークショップを3回主催し、国内外で招待講演を行うとともに、東大から2度のプレスリリースを行って、当初の研究計画を大きく進展させた。その成果は、次世代人文学のモデルとなる新たなデジタルアーカイブSAT2018の公開となって結実した。SAT2018は、直接の専門となる仏教研究者にとって実用性の高い統合的研究環境を提供するばかりでなく、人文学研究のための専門知識デジタルアーカイブのモデルになるとともに、人文学の成果を一般社会に利用可能なかたちで提供する先進的事例となった。
著者
下田 正弘
出版者
日本南アジア学会
雑誌
南アジア研究 (ISSN:09155643)
巻号頁・発行日
vol.2010, no.22, pp.158-169, 2010-12-15 (Released:2011-09-06)
著者
永崎 研宣 三宅 真紀 苫米地 等流 A.CharlesMuller 下田 正弘
雑誌
じんもんこん2013論文集
巻号頁・発行日
vol.2013, no.4, pp.239-246, 2013-12-05

本稿は、大正新脩大藏經テキストデータベースにおける脚注の校勘情報を通じた人文学資料としてのテクスト構造化に関する研究を扱う。これはこのデータベースを構築・運用するSAT プロジェクトの次のフェーズの方針の策定に役立てることを目指すものである。大正新脩大藏經の校勘情報は、各一次資料の歴史的な関係からある程度想定可能だが、具体的に研究されてきたわけではなかった。ここでは、デジタル化された校勘情報を用いた分析を行ったが、結果は一般的な想定を裏付けするものであった。いくつかの例外的なものがあったことが、今後の方針を策定する上で有益かもしれない。また、Linked Data という形で校勘情報を扱うことで、一次資料公開に関する権利所有者との合意形成が容易になるかもしれない。
著者
下田 正弘 LEE J.-R.
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本研究の究極的な目標は、インド初期仏教教団の分裂と異説共存の問題を明らかにすることである。そこで、初期仏教教団で発生したと判断される様々な紛争事件を集め、その内容及び解決法などを吟味し、教団で起こり得る紛争の種類と、その解決法の多様性を把握する作業を進めている。その過程で、現前僧伽、すなわち、教団の実質的な活動の基準となる境界がどのように運営されていたのか、その具体的な姿の解明に力を注いだ。なぜなら、現前僧伽こそ、教団紛争の拠点となるからである。その結果、一つの境界によって成立する現前僧伽というのは、地域的な意味だけではなく、むしろ、精神的に結ばれた比丘たちが一定の場所に居住しながら、教団の行事や会議を一緒にしたり、また、布施物を一緒に享受するというような性格を持っている可能性の高いことがわかった。ここで、精神的に結ばれたというのは、例えば、教理の面で異見をもつ者がなかったり、あるいは、教団の決定に対して反対立場を取らないようなことである。現前僧伽がもつ独立した性格は、パーリ律の注釈からはより明確な形で現れており、時代が進むにつれ、段々強くなっていったと思われる。時々、相手の境界を壊すという表現が出てくるが、これは、各現前僧伽が、ある意味で、対立していた状況を思い出させる。一方、罪を犯した比丘に下される懲罰羯磨に関する諸伝承からも、現前僧伽の運営方針の一面を確認することができた。懲罰羯磨とは、罪を犯した比丘に対して教団が懲罰を下すために行う会議であるが、パーリ律とその注釈、及び、これに相当する漢訳律を比較検討した結果、その対象となる罪に不可解な点が存在することがわかった。比丘が罪を犯した場合には、普通、懺悔によって罪を償うが、この羯磨は、教団が告白懺悔を促しても全く耳を傾けず、勝手に行動して、教団の秩序に危険をもたらす者が主な対象となる。しかし、対象となるその具体的な罪の内容は非常に包括的であり、かつ、曖昧である。そして、すべての場合において強調されるのは、‘もし教団が欲するならば'という表現だけである。これは、同じ罪であっても、教団側の意思によって、懲罰羯磨の対象になることも、ならないこともあったことを推測させる。厳密な規則を立てず、すべてを現前僧伽の判断に委ねる態度からは、いつでも、問題児を現前僧伽から排除することができた可能性さえ窺える。点として数多く存在した現前僧伽は、むしろ、このような独立した性格に基づき、自由に分裂を重ね、また、それを包括する四方僧伽という概念によって仏教徒としてのアイデンティティを保つことができたと思われる。
著者
永崎 研宣 清水 元広 下田 正弘
雑誌
研究報告人文科学とコンピュータ(CH)
巻号頁・発行日
vol.2013, no.4, pp.1-6, 2013-01-18

コンピュータ上で外字を扱うことは,人文学研究,とりわけ古典を扱う場合には避けることが難しい事柄である.やみくもに外字を増やすことは望ましいことではないが,字形の違いをなかったことにしてしまうことには潜在的な問題がある.したがって,包摂を前提とする UCS 符号化文字集合をそのまま全面的に導入することは困難である. SAT 大蔵経テキストデータベース研究会では,外字の扱いを巡って検討を重ねてきており,近年普及しつつある IVS を利用することで UCS 符号化文字集合の適切な利用方法を模索することを開始すると同時に,約 3000 字の漢字に関して IRG に対して符号化提案を行った.本稿では,そこに至る検討過程について報告するとともに,外字を UCS 符号化提案した際の具体的なデジタル技術の活用の仕方についても紹介する.As a result of the process of encoding all texts in the primary canonical collection of Buddhist scriptures composed in classical Chinese, called the "Taisho Shinshu Daizokyo," (collection of Buddhist canonical texts compiled during the Taisho era) the SAT Daizokyo Text Database Committee began to address UCS encoding of unencoded ideographs contained in this collection. This paper describes the usage of digital technologies for this work and discusses some technical issues concerning unencoded characters in the humanities.
著者
永崎 研宣 苫米地 等流 下田 正弘
雑誌
研究報告人文科学とコンピュータ(CH)
巻号頁・発行日
vol.2013, no.1, pp.1-8, 2013-01-18

SAT2012 は,テキスト・データベースの利便性を高めるべく,パラレルコーパス等を構築するとともに,様々な他のリソースとの連携機能を盛り込むなどして公開された新たな Web サービスである.本稿では, SAT2012 構築に際して採用した人文系データベースの構築手法や他のリソースとの連携手法について,近年の Web 技術やデジタル・ヒューマニティーズの手法の流れの中に位置づけつつ報告し,テキスト・データベースの新たな可能性について検討する.The SAT2012 is a new version of a Web service that delivers online Buddhist scriptures along with various cooperative resources as a way of bringing forth the optimum possibilities of a textual database. As the result of a collaborative effort, the SAT database is now seamlessly interacting with several online projects that deal with CJK ideographs, as well as field-oriented bibliographical databases. This paper describes the technical aspects and management of the collaborative works of the SAT2012 by comparing it with recent trends in current Web technologies and the digital humanities, at the same time discussing the possibilities of textual databases in general.
著者
下田 正弘
出版者
CHISAN-KANGAKU-KAI
雑誌
智山学報 (ISSN:02865661)
巻号頁・発行日
vol.65, pp.051-060, 2016 (Released:2019-02-22)

イスラム思想研究の泰斗、井筒俊彦は、さまざまな言語で記された古典一次文献の精読を根拠として得られた広く深い知見をもって東西思想の比較研究を進めた。その結果、東洋思想、あるいはむしろ非西洋近代思想には「共時論的構造」があることを看取し、その代表的事例として大乗仏教思想を論じた。遺作となった『意識の形而上学』における『大乗起信論』理解には、言語を媒介としつつ意識と存在を照らし出す思想の構造がみごとに示されている。 井筒が明かす「東洋思想」には、「西洋思想」の歴史において一貫した課題でありつづけた「時間」の問題が表立っては登場せず、存在をめぐる思索の運動があくまで「空間」的に表出されている点が目をひく。この空間は、だが、もとより外的空間ではなく言語空間であり、井筒自身はそうした表現は取っていないものの、言語の存在自体を可能ならしめる「場」を隠喩的に表現したものにほかならない。 ここで注目すべき点は、こうした特性をもつ「東洋思想」を理解する井筒には、言語が仮象であることが自覚され、したがってここにいう言語空間あるいは場は、仮象の空間であり場であると、明瞭に意識されている点である。「形而上学の究極において言語はその機能を失う」のである。だが、じつは言語の機能のこの限界点が照射されるからこそ、その限界領域において意識と存在の問題が言語によって生産的に構成されている瞬間が浮き彫りとなる。限界点はたんなる終点ではなく、未知の可能性出現の起点であり、両者の起滅が同時に明らかになる地点である。 井筒の思想構築の特質は、テクスト内の言説の展開に忠実にしたがいつつ、限られた数の鍵概念に考察の焦点を合わせ、それらが相互に反発、融合しながら、思想体系のダイナミズムを構成してゆくさまを再現する手法にある。ミクロなレベルの精緻な読みから開始され、語の意味の微妙な震動をとらえつつ、それらがしだいに螺旋的に次元を上昇し、やがて大きな安定的思想構造に帰着する運動を辿る思索は、余人の追随を許さぬ鋭敏な言語感覚によって支えられている。 概念の卓越した分析をなす井筒の研究に足りないものがあるとすれば、分析が概念を超えて、文やテクスト全体への広がりにまで及ばない点にある。そのため、著者性や読者性といったテクスト論は「東洋思想」の射程に入ってこない。それは言語のもつ行為遂行論的側面への配慮の不足であり、場合によっては社会性、歴史性、倫理性の欠如につながる可能性もある。 (注:本論は日本宗教学会第74回学術大会(2015.9.6創価大学)で発表した内容の英文版である。そのため本要旨は『宗教研究』第89巻別冊(2016.3発刊予定)所収の要旨と重なりがある)
著者
永崎 研宣 大向 一輝 下田 正弘
雑誌
じんもんこん2020論文集
巻号頁・発行日
vol.2020, pp.75-80, 2020-12-05

IIIF(International Image Interoperability Framework)の登場と普及は,仏教文献研究において様々な課題をもたらした.とりわけこれまで閲覧が容易ではなかった典拠資料の確認を容易にしたことは,研究環境の在り方に大きな変革を引き起こした.これをより適切な形で解決するためには,IIIF APIの特徴を活かした協働的な仕組みが有用であり,本稿では,その事例としてSAT2018における画像とテキストデータのリンク機能とSAT2020におけるテキスト公開のモデル,及びそれを実現する協働的なAPIについて報告する.そして,このようなコラボレーションに基づく「人文学のためのAPIチェーン」の構築の有用性を示す.
著者
下田 正弘
出版者
日本印度学仏教学会
雑誌
印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.1043-1035, 2020

<p>More than fifteen years ago, Schopen (2004, 492) revealed his concern about a certain understanding widespread among scholars of the history of Indian Buddhism, writing, "[t]he historical development of Indian Buddhism used to be presented as simple, straightforward, and suspiciously linear. It started with the historical Buddha whose teaching was organized, transmitted, and more or less developed into what was referred to as <i>early Buddhism</i>. This Early Buddhism was identified as Hīnayāna ... , Theravāda ... , or simply 'monastic Buddhism.' ... A little before or a little after the beginning of the common era this early Buddhism was, according to the model, followed by the Mahāyāna ... " A similar apprehension has recently been expressed in slightly different terms by Harrison (2018, 8–9). It is certainly surprising that scholars' basic frame of reference for the history of Indian Buddhism is more or less what it was in the late 19<sup>th</sup> century, despite all of the progress recently made in this field. Developments in the particulars of the subfields of Indian Buddhist history have not entailed comparable developments in the broader frame of reference, despite the fact that such a frame is what allows us to identify and synthesize the details of our field. This paper attempts to address this problem by focusing on three points: first, it reexamines the current state of affairs of materials for the reconstruction of the history of ancient India; second, it reevaluates the status of Pāli materials as historical sources; and third, it reconsiders the concept of 'canon' in Buddhist studies.</p>
著者
川幡 太一 鈴木 俊哉 永崎 研宣 下田 正弘
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告. DD, [デジタル・ドキュメント]
巻号頁・発行日
vol.2013, no.7, pp.1-4, 2013-07-19

悉曇文字は日本において、仏典の研究や菩薩の種字等に用いられるインド系文字の一種である。本報告では、日本の悉曇文字の国際符号化文字集合 (UCS) への提案活動に関して、その概要・標準化の経緯・および標準化にあたっての技術的課題および今後の予定について述べる。
著者
渡邉 要一郎 永崎 研宣 大向 一輝 下田 正弘
雑誌
研究報告人文科学とコンピュータ(CH) (ISSN:21888957)
巻号頁・発行日
vol.2020-CH-124, no.4, pp.1-4, 2020-08-29

上座部仏教の聖典言語であるパーリ語の文献研究は,Vipassana Research Institute によって制作された電子テキストとその検索システムであるChattha Sangayana CD(CSCD)によるデジタル化の波を大きく受けた.しかしこの CSCD が依拠している電子テキストは,ビルマ第六結集版という研究者が標準的に用いるテキストでないものにもとづいたものであった.一般に研究者が用いている標準テキストは Pali Text Society(PTS)によって出版されたものであり,パーリ語の単語や文の位置している頁・行数は PTS 版のそれに従って記述されるのが通例である.そこで筆者は,研究者のニーズを踏まえ,PTS 版の電子テキストを用いて PTS 版の頁・行番号が簡単にとれる検索システムを作成した.