著者
白崎 護
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.106-134,351, 2005-11-10 (Released:2010-04-30)
参考文献数
42

This article examines the influence of personal communication and the media on partisanship and voting behavior in the 1996 general election based on an analysis of the JEDS96 survey data.Among the main constituents of social network including spouses, other family members, colleagues, and friends, the study finds that spouses' influence is by far the greatest. The influence of colleagues and friends is negligible unless they have a frequent political conversation with voters. In contrast, spouses and other family members influence on the voters regardless of the frequency of political talks.As for the role of the media, the main source of influence for the Liberal Democratic Party supporters came from television news, whereas those who supported the New Frontier Party were influenced by TV commercials. This implies that the LDP was unable to make effective use of mass media campaigns through election broadcasts or commercials, while the New Frontier Party's reliance on commercials means that substantial political messages were overshadowed by the presentation of superficial images.Lastly, even if voters got something good impression about a party from mass media, voters without political talks would not come to support the party.
著者
塩田 潤
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.2_145-2_167, 2022 (Released:2023-12-15)
参考文献数
47

熟議と政党に関する従来の研究では、政党外での市民による熟議が政党形成に果たす役割について光が当てられてこなかった。本稿では、アイスランドにおける憲法改正のための市民熟議と新政党アイスランド海賊党との関係性を分析し、市民熟議が政党の組織化につながる契機について解明する。 アイスランドでは2008年の金融危機を背景に、2009年から2013年にかけて市民熟議を通した憲法改正の取り組みが行われた。憲法改正は失敗に至ったものの、その後に新憲法制定を中心政策に掲げるアイスランド海賊党が台頭した。本稿では、まず市民熟議がアイスランド海賊党の組織化に影響を及ぼす際の環境的条件として、政治的機会構造の変容を考察する。そのうえで、集合的アイデンティティに着目して憲法改正の市民熟議とアイスランド海賊党の組織化との連関を分析する。 アイスランドの市民熟議は、政党なき民主主義の最重要事例として従来取り上げられてきた。しかし、本稿の事例分析では市民熟議がアイスランド海賊党の組織化に寄与していることが明らかとなった。こうした分析結果をふまえ、本稿は市民熟議が政党中心の民主主義にとって推進力となりうると結論付ける。
著者
靏岡 聡史
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.2_122-2_144, 2022 (Released:2023-12-15)
参考文献数
25

1896年の日独通商航海条約には、法権回復を達成した1894年の日英通商航海条約に比べ余り関心が払われてこなかった。 しかし、条約改正交渉では、ドイツもイギリスと並んで主導的な役割を担った国であり、決して無視し得ない。 そこで、本稿では、新たにドイツ側の史料に基づいて、日独通商航海条約を巡る交渉過程を明らかにした。 ドイツは、日英通商航海条約に衝撃を受け、当初慎重であったものの、ドイツの孤立を恐れたグートシュミット駐日独公使の催促を受け、交渉に臨むことになった。対日要求の作成には、外務省等の関係省庁の他、グートシュミット独公使や在日ドイツ人、産業界が加わり、その際、イギリスには対抗心が、日本には警戒心が、それぞれ示され、ドイツはイギリスより多くの利益を獲得しようとすると共に、日本を抑え込もうと、自国利益の最大化を図ることになった。 一方、日本は、ドイツの主張を認めようとする青木周蔵駐独日本公使の姿勢等もあって、特許等の保護等で譲歩を余儀なくされた。 日本がドイツから厳しい姿勢が示されたのは、ドイツから今後競合の恐れがあるとして認められた結果であり、明治期の日独関係が対等な関係へと一歩前進し、新たな段階に突入した証拠である。

1 0 0 0 OA はじめに

著者
久米 郁男
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.2_3-2_8, 2017 (Released:2020-12-26)
参考文献数
7
著者
松元 雅和
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.1_149-1_170, 2010 (Released:2016-02-24)
参考文献数
43

It is well-known that contemporary political theory has been greatly influenced by John Rawls' monumental work A Theory of Justice published in 1971. An equally well-known fact is that many Anglo-American political theorists since Rawls come under the heading of “analytical” political theory that flows from the school of twentieth century analytical philosophy. However, there is almost no study on the connection between these two familiar facts. The aim of this article is, by focusing on methodology, to draw an outline of analytical political theory that has been adopted by many theorists since Rawls. Firstly I will make clear what the word “analytical” means, and secondly overview Rawls' A Theory of Justice in terms of the method it employs. Thirdly, I will name the method of Anglo-American contemporary political theory “methodological Rawlsianism,” and discuss its characteristics with reference to Robert Nozick's theory of distributive justice.
著者
小須田 翔
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.1_225-1_247, 2018 (Released:2021-07-16)
参考文献数
40

本稿では, 熟議民主主義論における規範的研究と経験的研究の協働の試みを, ミニ・パブリックス実験を通して精査する。熟議民主主義論は, 過去30年にわたって, 規範的研究と経験的研究の双方から着目されてきた。規範的研究は, 熟議民主主義の理想的な理論を特定し, 経験的研究は熟議的なミニ・パブリックスを実験として用いることによって理想化された諸想定を検証してきた。そうした想定のいくつかについては, 肯定的な実験結果が出されてきた。しかし, 規範的研究と経験的研究の協働において, 熟議民主主義論の理想的な想定を否定する実験の結果をどのように解釈するのかという問いが残されている。協働の既存のアプローチは, 規範的諸想定を超越させ実験結果の意義を否定するか, もしくは規範的諸想定を現状維持にまで切り詰める傾向があった。本稿では, 理想的な熟議民主主義論の諸想定は, 決定形成手続きの正統性を判断する規準としての正統性規準と, よりよい帰結をもたらすための制度ガイドラインに区別することによって, 既存研究の問題を乗り越えることができ, 規範的研究と経験的研究の協働を発展させることができると論じる。
著者
三浦 まり
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.1_96-1_118, 2022 (Released:2023-06-16)
参考文献数
37

コロナ禍において顕在化した新たなケアの危機に焦点を当て、妊婦/母親/労働者の三領域における日本の政策対応の特色とその要因を分析する。雇用の危機と比べるとケアの危機への対応は鈍く、ケア提供者は二次的依存のために職や賃金を奪われ、ケアニーズもまた充足されなかった。このような事態となったのは、ケアの代表が不十分であり、行政による恣意的なニーズ解釈を許すことになったからである。それを防ぐにはケアの権利及びセクシュアルリプロダクティブ・ヘルス/ライツの保障が必要であることを指摘する。リプロの面では政策の前進も見られたが、これまでの政策基調であった「新自由主義的母性」―新自由主義的な女性労働力の活用と国家家族主義的な母性活用の結合―は、自己決定権の選択的拡大と異性愛規範の強化という新たなかたちで維持された。新自由主義の政策基調は強いものの、保守主義の強い影響力を理解することが、日本の政策対応の正確な把握には必要であることを明らかにする。
著者
牧原 出
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.1_171-1_201, 2018 (Released:2021-07-16)

政治と司法との関係を裁判所の制度的定着過程から分析することを目的とした本稿は, 1960年代から70年代にかけての国際司法裁判所の危機とその収拾過程を歴史的に解明する。南西アフリカ事件の判決によって, アジア・アフリカ諸国から批判された裁判所は, 付託件数が僅少になるという事態に立ち至った。裁判所は, 国連総会に所長以下が出席してそのプレゼンスを強化するとともに, 裁判所移転問題としての国際司法裁判所規程第22条改正を総会の議題となるよう働きかけて, 総会での裁判所改革の論争に能動的に対応しようとした。こうした国連の諸機関との外交交渉を通じて, 裁判所は単なる孤立ではなく能動的な中立を志向する。結果的に裁判所は, 1970年代に規程改正を取りやめるが, 裁判所棟増築を実現させ, 徐々に付託件数も増えることで制度的定着を果たしたのである。
著者
谷 圭祐
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.2_200-2_223, 2018 (Released:2021-12-26)
参考文献数
43

政党やその執行部は, 与党からの転落や政党の消滅につながる, 所属議員の離党をどのように防いでいるのだろうか。先行研究は, 政党間移動を専ら議員が所属政党を選択する結果ととらえ, 議員の誘因の観点から説明を行ってきた。 これに対して本稿は, 政党執行部が政党間移動に対し戦略的に対応していることを主張する。この戦略的行動とは, 政党にとって価値の高い議員に対して, 資源配分による 「補償」 を行い慰留するものである。 実証分析では2011 ~ 12年に発生した民主党分裂を扱った。分析の結果, 議員と首相との政策選好の乖離が離党行動に与える効果は, 選挙区での政党への支持の大きさに条件づけられていた。すなわち, 政党への支持が小さい選挙区の議員ほど, より政党の議席拡大にとって重要であるため, 政策選好の乖離が離党行動に結び付きにくくなっていた。さらに, 政策選好の乖離が, 大臣ポストの配分に与える負の効果についてもこの交互作用があり, 政党からの資源配分による補償も確認できた。党内統治が失敗したとされる民主党において本稿の理論が実証されたことは, より一般的に政党間移動に対して執行部が主体的に行動していることを示唆する。
著者
秋吉 貴雄
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.2_110-2_133, 2012 (Released:2016-02-24)
参考文献数
38

This chapter analyzes the change of political strategy of interest groups in the process of deregulation. Since 1980s, in Japan, the problem of government regulation has been argued and deregulation has been done in several industries by government committees under the direct control of Prime Minister. This deregulation has affected the political environment of interest groups. First, according to the change of the style of regulation, the relationship between interest groups and regulatory agencies has changed. Second, the arena of regulatory policymaking has transferred from regulatory agencies to government committee. And we found that these changes have increased the importance of discourse for interest groups, and they have changed their political strategy.   To examine these changes, we analyze the process of deregulation and reregulation in taxi industry from the viewpoints of discourse. First, in the process of deregulation, the discourse to claim the merit of competition had the power to persuade the public, and also formed the discursive coalition to promote the reform. Second, in the process of reregulation, the discourse to claim the negative effect of deregulation, especially on the decline of salary of taxi drivers, had changed the problem recognition of public on deregulation, and also could form the another discursive coalition from several actors.