著者
宮内 悠輔
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.2_145-2_167, 2020 (Released:2021-12-15)
参考文献数
30

欧米の先進デモクラシーにおいては、特定地域の利益擁護を目的とする地域主義政党が数多く活動し、ときに既成政党に迫る支持を集める。しかし、地域主義政党間で競合が起きた際の政党の政策変容については、十分に検討されてきたとは言い難い。本稿では、ベルギーの地域主義政党「ヴォルクスユニ」 (VU) を事例にとり、政党機関紙 『われわれ―フランデレン・ナショナル週刊新聞』 を用いて分析を実施した。この際、他党の政策方針を分裂させる 「ウェッジ (楔) ・イシュー」 の概念を手掛かりとした。その結果、地域主義政党 「フラームス・ブロック」 (VB) が仕掛けた排外主義というウェッジ・イシューによって、VUの政策の一貫性が動揺したことがうかがえた。VUは全面的に排外主義に転じることはなかったものの、強硬な移民・外国人政策を完全に拒絶することもできず、時折VBに近い立場を示唆することがあった。ウェッジ・イシューにあたらない領域的要求ではVUの政策が一貫していたことも、VUの移民・外国人政策における揺らぎを示す証左である。以上から、地域主義政党間の競争においてウェッジ・イシュー戦略が効果を発揮したことが明らかとなった。
著者
庄司 貴由
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.2_168-2_190, 2020 (Released:2021-12-15)
参考文献数
45

1993年後半、日本は歴史的転換期を迎えていた。非自民連立政権が誕生し、長らく続いた五五年体制が崩壊する。その直後、細川護熙首相が政治改革を最優先に掲げた結果、政治指導者たちはPKOをめぐる議論から遠退き始める。それでは、ONUSAL参加への道筋はいかにして整えられたのか。本稿の目的は、ONUSAL派遣をめぐる政策決定過程を、主として外務省に着目して明らかにすることである。 日本の対エルサルバドル外交は、外務省中南米局が準備した 「二つのD」 (民主主義と開発) 政策によって開かれた。和平合意の成立を機に、中南米局は 「二つのD」 の 「中核国」 にエルサルバドルを据え、中南米外交の強化を図っていく。クリスティアーニ大統領から選挙監視要員の派遣を要請されるや、中南米局と総理府国際平和協力本部は内々で調査を進め、武装強盗など紛争当事者以外の脅威まで 「発見」 するに至った。そうして得られた情報は、当時議論が集中した自衛隊や政治改革と掛け離れ、国会での建設的な議論に結び付かなかった。だが、ONUSAL派遣をめぐる営みは、新たに地域局主導のアプローチが形成される端緒を意味したのである。
著者
髙山 裕二
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.2_191-2_212, 2020 (Released:2021-12-15)
参考文献数
27

本稿では、政治座標軸が溶解してゆく 「経済優先の時代」、すなわち体制が民主化すると同時に大多数の国民が経済成長を第一に求めるような時代の先駆けと言えるフランス第2帝政において誕生した自由主義 「第2世代」 の理論を検討する。先行研究では、フランス革命後の自由主義 「第1世代」 であるバンジャマン・コンスタンやフランソワ・ギゾーに関心が偏重してきたが、2月革命後の第2帝政期に政治活動を始める自由主義 「第2世代」 は前世代と違って普通選挙制を受容することで初めて民主化する時代の政治座標軸として〈リベラル〉を形成しえた。具体的には、1863年の選挙の際に結成された 「リベラル連合」 のなかで理論形成の中心的な役割を担ったプレヴォ = パラドル (1829‒70) やE・ラブレー (1811‒83) の分権論に本稿では着目し、第2世代が自治 (政治教育) を争点に一つの党派としての〈リベラル〉を初めて形成しえたことを明らかにする。と同時に、同世代が前世代の自由主義者から継承する言論の自由や議会主義というリベラルな価値は保守主義者も共有しうる価値として提示されたことを指摘する。この考察を通じて、「経済優先の時代」 における政治座標軸の再検討という政治 (学) 的課題について、思想史研究の立場から取り組む。
著者
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.2_213-2_236, 2020 (Released:2021-12-15)
参考文献数
38

グローバル化の進展とは相反するように、今世紀に入り各国で国家安全保障が政策領域として台頭してきた。国家安全保障は脅威やリスクに対する能力の強化という観点から主に議論されてきたが、それは国民 (Nationals) や国内社会との関係を含み、国民に如何に政策を提示し支持を得るかという国内関係から切り離すことができない。冷戦初期の米国におけるウォルファースとラスウェルの論稿は、国家安全保障が初めて政策名に冠された時代の目撃者ともいうべき論稿であるが、国家安全保障政策の必要性は認めつつも、それに伴う絶対性への警戒感を共有し、その国内関係へ重要な分析の視点を与えてくれる。ウォルファースは価値、規範性、主観と客観の齟齬、ラスウェルは市民的自由との対峙、民主的政治過程の担保、包括性から絶対的な国家安全保障の限界を指摘するが、それは冷戦初期の米国の国家安全保障政策への批判を越え、テロ、疫病など非伝統的安全保障の脅威が増す現代で、国民が政府に必要な保護を求めつつも、その政策を厳しく監視し評価するための議論の必要性を示唆する。そこには国民の不安や恐怖を軽減し、政府と国民との関係において如何に信用を確保するかという国家安全保障の隠れた課題が提示されているのである。
著者
水谷 仁
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.1_223-1_245, 2020 (Released:2021-06-16)
参考文献数
38

本稿は、マックス・ヴェーバーの帝国主義論について多角的に考察することを主な目的とする。先行研究において彼の帝国主義論は、ヴェーバーの国際政治思想におけるひとつの軸である、「世界政策」 (ヨーロッパにおけるドイツの大国としてのプレゼンスの追求) の延長上に位置づけられている。しかしヴェーバーは、グローバリゼーションという彼の生きる時代のドイツが直面した国際政治的な状況を視野に入れて帝国主義を論じ、ドイツが 「世界政策」 を保持し得なくなった後も、帝国主義について言及した。さらには、ドイツの帝国主義的な植民地領有に対する否定的な見解や、帝国主義そのものに対する制約、そしてドイツの帝国主義の放棄さえも主張していた。本稿は、ヴェーバーの帝国主義論を多角的に考察することで、ドイツ帝国主義の経済的・政治的なメリットやデメリットに対するグローバリゼーションの観点をも含んだ彼の評価と、「世界政策」 を保持し得なくなった後の、ヨーロッパにおけるドイツの国際政治的な生存の追求のための帝国主義に対する彼の批判を発見した。それに加え、帝国主義を批判するヴェーバーにドイツの植民地支配・侵略に対する視座が欠如していたという、ドイツ・ナショナリストとしてのヴェーバーの帝国主義論の陥穽をも明らかにした。
著者
竹中 勇貴
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.1_246-1_266, 2020 (Released:2021-06-16)
参考文献数
61

通説的に、議員とは別個に公選される執政長官 (大統領、知事など) は、望む政策を立法によって実現することに苦労しデッドロックに直面しがちであるとされてきたが、執政-議会関係についての近年の研究は、執政長官がポーク・バレリングによって議員の支持を取り付けるという形で議員に影響力を行使し、立法に成功しうることを明らかにしてきた。しかし先行研究では、執政長官の選挙前連合、つまり執政長官の選挙において同じ候補を支持する議員や政党の連合がポーク・バレリングによる執政長官の影響力行使や立法の成功をどのように左右するかについての分析は不十分である。 そこで本稿は、執政長官たる知事が公選され、様々なパターンの選挙前連合が存在した1991年から2005年までの日本の都道府県をケースとして、合理的選択理論による仮説構築と計量分析によって、知事は、選挙前連合が拡大するほど自らの再選を議員に依存するようになり、議員と協調的な関係を築くためにポークを増加させ、立法に成功していることを明らかにする。さらに、因果媒介分析によって、選挙前連合はポークを媒介して立法の成功をもたらすことも示す。
著者
山田 健
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.1_292-1_315, 2020 (Released:2021-06-16)
参考文献数
71

本論文は、戦後日本の中央-地方関係という行政学の伝統的な主題について、地方行政において重要な役割を果たしていながらその実態を十分に把握されていなかった中央省庁出先機関に焦点を当て、その再考を試みたものである。出先機関の活動について、行政学の通説は本省の方針に接近した活動を見出し、対抗説は地方自治体の方針に接近した活動を見出してきた。しかし、先行研究は、出先機関の活動に本省への接近・地方自治体への接近の二面を見出しうることを説明するに至っていない。すなわち、「なぜ、出先機関はある時に中央省庁本省の方針に接近し、またある時には地方自治体の方針に接近するのか」 という問いが残されていた。これに対して、本論文は、出先機関が制度設計による動機付けを背景として、「中央主導型」 と 「地方後方支援型」 という二つの自律的な行動様式を展開し、地方行政において看過しえない影響力を行使していることを明らかにした。そして、この知見をふまえて、国と地方自治体の単線的な関係として捉えられてきた中央-地方関係について、本省・出先機関・地方自治体の三者による複線的な中央-地方関係として再考しうることを提示した。
著者
秦 正樹 Song Jaehyun
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.1_58-1_81, 2020 (Released:2021-06-16)
参考文献数
37

本稿では、有権者が各政党のイデオロギー位置を認識 (推論) する際に、⑴ 各政党を代表する政策情報は、当該政党のイデオロギー位置の推論に役立つか、また ⑵ 各政党を代表する政策情報はイデオロギー位置を決定する際にどのような役割を果たしているのかについて、サーベイ実験とテキスト分析を組み合わせて検討する。具体的には、サーベイ実験の回答方法を従来的なnumericの場合と、自由回答にした場合の結果を計量的に比較することで、上記の課題に応える。分析の結果、政党の 「看板政策」 の存在が他の政策の重みを低下させたり、判断を歪ませたりすることによって、争点態度の集合とイデオロギーが一致しないことが明らかになった。たとえば、護憲と道徳教育を同時に掲げる政党に対して有権者は、本来 “左派” ではないはずの 「道徳教育政策」 の解釈を変え、当該政党を 「左派政党」 と認識させるのである。本稿の知見は争点投票における有権者の認知プロセスの重要性を再確認させただけでなく、政党のイデオロギーに反する政策を掲げる政党がいかに支持率を維持してきたかというパズルに対する一つの答えを提供する。
著者
末木 孝典
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.1_201-1_222, 2020 (Released:2021-06-16)

本稿は、明治期最初の議院規則における傍聴規定の成立過程を 「梧陰文庫井上毅文書」 所収の草案の順序を推定することにより、現行規定の傍聴席の細かい分類や傍聴人の服装などの規制が規定された経緯や、最終的に女性の傍聴禁止条項が廃止されるに至った経緯を考察するものである。 その結果、以下のことがわかった。第一に、傍聴席分類や傍聴人の服装などの規制は欧米諸国を調査した事務局グループが作成した草案に起源があり、議院秩序を最優先する発想から来ていること。第二に、議院規則を勅令で事前に制定する方式ではなく、憲法が保障する議院の自律性に配慮して草案の作成にとどめ、成案は議会が定める方式を採用したことが最終的に女性の傍聴禁止条項の削除を可能にしたこと。第三に、草案作成に際して事務局内に対立があり、総裁の井上毅は女性の傍聴禁止を明文化せずに運用で規制すればよく、傍聴席分類も厳しすぎると認識していたこと、海外調査組の金子堅太郎は秩序と事務処理を重視し、女性の傍聴禁止の明文化に反対ではなかったこと。最後に、現行の議院規則や傍聴規則が明治期から維持されてきた細かい規制をいまだに残したままであることである。
著者
鵜飼 健史
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.1_208-1_228, 2011 (Released:2016-02-24)
参考文献数
41

This article aims to make clear the reasons of the absence of “the sovereign” in the contemporary theory of sovereignty. This article sheds light on the ontology of the sovereign which has been composed in current political theory such as Negri=Hardt and Laclau in order to reveal conceptual features of the sovereign. This article argues that the concept of the sovereign contains the political instance which provides the concrete meanings of the sovereign and, therefore, is changeable through public processes. Section 1 analyzes some of typical theories of sovereignty and refers to a common feature that the theory of the sovereign is absent. Section 2 confirms that there is a gap between the universal people and the particular nation in terms of the sovereign's existence. Then, Section 3 considers the conceptual relationship between politics and the sovereign. “The sovereign” is not theoretically required because it is provided by real politics.
著者
山本 英弘
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.2_181-2_201, 2012 (Released:2016-02-24)
参考文献数
34

Interest groups combine various lobbying tactics. While some tactics may be used on one level, other tactics may be used additionally to enhance their claimson another higher level. In this paper, I attempt to clarify such a hierarchical structure of lobbying tactics. My findings are based on Japan Interest Group Study II data.   First, for sector groups and policy beneficiary groups close to the LDP government, lobbying tactics in terms of their targets in sequence are: 1) ministries and agencies; 2) the mass media; 3) the LDP or public assemblies. For value promotion groups, the sequence of lobbying is: 1) public assemblies; 2) the DPJ or mass media; 3) the mass media or DPJ; 4) ministries and agencies.   Second, interest groups tend to upgrade the level of lobbying when conflicts between interest groups exist or elite actors are accessible.   Third, the interest groups that lobby at the higher level tend to influence policy - making. But the sector groups and policy beneficiary groups that lobby the mass media in addition to ministries and agencies tend to have as much influence. The value promotion groups that use all the tactics including lobbying ministries and agencies also tend to influence policy - making.
著者
武居 寛史
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.2_318-2_335, 2017 (Released:2020-12-26)
参考文献数
33

合意形成は, 政治学において重要な課題であり, 近年では, 討議民主主義の観点からの検討が活発である。本稿では, 討議という個人間の相互作用と, それにより生じる合意形成という集団の性質の関係について, エージェント・ベース・モデルによって検討を行う。先行研究のシミュレーションでは, 2者間の相互作用による, 意見の変化の積み重ねに基づく合意形成が分析されてきた。しかし, 討議型世論調査のように, 集団での議論が行われる状況も, 合意形成の過程としては考えることができる。シミュレーションで, この2つの過程を比較した結果, 2者間相互作用の方が, 集団相互作用に比べて, 合意が達成されやすいことが示唆された。本稿の結果は, 討議の場を設けた場合に, より合意が生じやすい環境を発見することに貢献しうるものである。
著者
川中 豪
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.2_152-2_176, 2018 (Released:2021-12-26)
参考文献数
34

本稿はシンガポールの一党優位支配を支える選挙システムに対する人々の評価に影響を与える社会経済的な属性を探るものである。検証には, シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院の政策研究所が2011年と2015年に実施した選挙直後の世論調査を使用する。選挙システムに対する見方に関し, 世代間亀裂, 所得格差, 教育レベルの相違, エスニシティといった四つの社会的な亀裂が影響を与えているとの仮説に基づき, 年齢, 所得, 教育レベル, エスニシティの四つの変数を独立変数とし, 選挙システムの公平性評価および選挙システムの維持に対する選好を従属変数として回帰分析を行った。結果として, 世代間の亀裂, 教育レベルの違いが統計的に有意なレベルで選挙システムの公平性, 維持に対する選好に影響を与えていることが分かった。一方, 所得格差の影響は頑強ではなく, エスニシティの影響も限定的だった。
著者
岩崎 正洋
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.2_91-2_109, 2014 (Released:2018-02-01)
参考文献数
37

In this article, we focus on a relationship between presidentialization and party politics. Especially, we pay attention to the governance of party politics. According to Thomas Poguntke and Paul Webb, phenomenon of presidentialization “denominates a process by which regimes are becoming more presidential in their actual practice without, in most cases, changing their formal structure, that is, their regime type.” They refer to as three faces of presidentialization, that is, (1) the executive face, (2) the party face, and (3) the electoral face. These faces are complementary in the democratic governance. In this paper, the phenomenon of presidentialization means the governance of party politics. There are two types of governance by political parties. One is “governance in the party” and another one is “governance among the parties.” It is useful for us to understand the changes of party politics by using the concepts of “governance in the party” and “governance among the parties.”
著者
善教 将大
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.1_127-1_148, 2010 (Released:2016-02-24)
参考文献数
66

The purpose of this article is to examine the effect of trust in government on voter turnout in Japan, based on the analysis of large-scale panel survey datasets. In previous works, on static approach, it had been argued by many scholars trust hardly influences on voter turnout. This approach, however, is so inadequate for an examination the effect of trust could have been estimated only to partial. In this article, I argue that not only perception in present but also in the past must be necessary for it, and, on dynamic approach, there is “continuing” and “reflected” effect in trust. The results of logit estimation and post-estimated simulation show (1) the effect of trust in the people whose perception in the past and present is same is stronger than different, and (2) even if the perception in present differs, that difference is not effective when the perception in the past also differs.
著者
池谷 知明
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.2_59-2_79, 2015 (Released:2018-12-15)
参考文献数
34
被引用文献数
1

イタリアの共和体制は政党によってつくられた。「政党の共和国」, 政党支配体制といった表現に示されるように, 政党は政治の中心に位置していた。1990年代半ばの選挙制度の変更と政党の交代によって第2共和制に移行したと言われるが, そこで現出したのは「政党の第2共和国」ではなく第1共和制において政党の陰に隠れていた大統領であり, 第2共和制は「大統領の共和国」と称されたりもする。第2共和制において左右の2極化と政権交代は実現したが, 安定した政党システムは確立されなかった。左右の対決政治が先鋭化したことによって, また, 多数決型政治と合意形成型制度の齟齬の中で大統領は政治過程に積極的に関与するようになった。公式の権限に加え, チャンピ, ナポリターノの二人の大統領は, 非公式の権限としてのコミュニケーション・パワーを行使し, その存在感を高め, 世論の支持を受けた。不安定な政治状況の下で, 大統領は「国の統一を代表する」 (憲法第87条1項) 役割を果たしている。
著者
大庭 大
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.2_312-2_335, 2019 (Released:2020-12-21)
参考文献数
35

本稿は、純粋手続き的正義の理論に焦点を当て、その理論的意義を明らかにするとともに、制度的考察までを射程に含む分配的正義の有力なアプローチとしてこれを提示することを目指す。純粋手続き的正義のアプローチがロールズ理論の体系において一貫性をもつことの論証を通じて、その理論的擁護可能性を示したのち、純粋手続き的正義のアプローチが制度・政策のパタン指定性について独自の視点を提供し、制度的構想を導く指針ともなりうることを示す。より細かくは、まず1 ~ 2節で、純粋手続き的正義について、ロールズの議論を分析・整理することでその特徴の精確な見取り図を提示する。純粋手続き的正義の異なる類型をみたのち、原理適用段階における正義の指令を統べるアプローチとして、準純粋手続き的正義の社会過程説を特定する。そのうえで3節では、パタン指定という論点を中心にロールズ的な純粋手続き的正義の分配制度上の含意を論じる。4節では純粋手続き的正義の非ロールズ的構想について検討する。
著者
板山 真弓
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.2_186-2_207, 2019 (Released:2020-12-21)
参考文献数
19

1978年の 「日米防衛協力のための指針」 策定は、従来、秘密裡になされていた共同計画策定が公式化された、日米安全保障関係史上、画期的な出来事だと位置づけられる。本論文では、この 「指針」 策定をもたらす契機となった米国側のイニシアチブ、すなわち公式化要請の背景には、従来見逃されてきた、米国の国内政治要因があったのではないかとの仮説を提示する。具体的には、米=タイ間の秘密裡の共同計画が米軍の越権により策定された等と議会で問題視されたことを受け、日本との同様のそれについても批判を受けるのではないかと危惧されたことが背景にあったとする。他方、 「指針」 策定作業においては、この米国側の要請を受けた日本側が 「指針」 の基礎となる文書を起草する等、イニシアチブを取ることとなった。これは、日本の国内政治上の理由より、共同計画策定が秘密裡に実施されるようになったとの歴史的経緯より、公式化を実現する上では、日本側が自らの問題を解決すること、すなわち、日本国内において共同計画策定に関する政治的なコンセンサスを形成することが最も重要な課題であったことに由来する。