著者
五十嵐 元道
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.2_271-2_290, 2014 (Released:2018-02-01)

This article will show how the paradigm of development emerged in the British Empire in the 1930s. Some existing works on development seek to describe the power structure of ‘depoliticization’ in developing countries by analyzing development aid policies after decolonization. However, they hardly explain when and how the depoliticization of poverty and development began. This article will demonstrate that when the paradigm of development emerged in the 1930s, poverty and development were depoliticized from the very beginning. In the late 19th and early 20th century, British colonial administration was based mainly on the colonial philosophy of ‘indirect rule.’ However, in the 1930s, poverty was found by new experts such as social anthropologists and biologists in the British colonies. By using scientific methods, they constituted the paradigm of development which required social policies in dependent territories. In this process, the structure of depoliticization was established.
著者
仙石 学
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.2_44-2_56, 2021 (Released:2022-12-15)
参考文献数
15

本論文においては、ポーランドにおける若年層の政党支持に関する傾向を検討した。現在のポーランドでは、若年層の男性は反欧州を主張する自由独立連合を、女性は女性の立場やLGBTの権利を重視する左派を支持する傾向がある。この点については、まずはそれぞれの政党が、法と正義の政権のもとでは自分たちの利益が反映されないと考える若年層をひきつけることにある程度成功したことが作用している。ただそこで政党支持にジェンダーの差が生じた理由としては、反欧州と反ジェンダーが 「EUからの強制への反発」 という点で結びついているという要因が作用している。今後は今の若年層が社会の中心となっていく中で、この対抗関係がどのように変化するかを検討することが、一つの課題となるであろう。
著者
井上 拓也
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.2_19-2_41, 2012 (Released:2016-02-24)
参考文献数
22

Types of consumer groups can be classified as customer consumer groups or citizen consumer groups. The former pursues the consumers' economic interests and rights, and generally has a mass - based membership, whereas the latter pursues the social and political interests of the public and stresses consumers' social responsibility. Major consumer groups in most advanced countries were formed as customer consumer groups based on the model of the U.S. Consumers Union in the 1950s and 60s. By contrast, in Japan, major groups were rather organized as a hybrid of both types without a mass - based membership, and have slowly moved between them. This seems to be the main character of the contemporary Japanese consumer group system. The purpose of this article is to analyze how this system was established in the 1960s and why it has been maintained. The article points out three historical conditions that affected the way the CU model was imported to Japan. It also explains how non material selective incentives have employed in maintaining the above mentioned consumer groups in the system.
著者
武田 健
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.1_179-1_201, 2021 (Released:2022-06-15)
参考文献数
21

EUの内部において、一種の同調圧力がかけられる時がある。その圧力は、EU全体の目標に対して積極的に取り組もうとする国々から消極的な国々に対してかけられ、その圧力の結果、消極姿勢を改めて、EU全体の目標にコミットするように行動を変化させる国々が出てくることもある。同調圧力とは実際にどのようにかけられることがあるのか。そして、どのような状況であればその圧力は効果を発揮しやすいのか。本論は、これらの問いに取り組み、EU内部で作用する同調圧力の理解の向上を目指した。 本論が同調圧力の基底にある心理過程を理解し、その圧力が効果を持つ諸条件を推測する上で依拠したのは、認知・社会心理学の分野で発達してきた社会的アイデンティティ・アプローチである。経験的な観察対象としたのは、リスボン条約の策定に至る過程である。本論は、この交渉で実際にかけられた同調圧力の動態を、各国およびEUの公式文書や筆者によるインタビュー調査などに依拠しながら描き出し、その上で、EUに集う政治指導者のなかに、「私たちは一緒」 であるとの感覚が共有された者たちがおり、その者たちの間で、同調圧力が効果を発揮することがあるとの主張を提示する。
著者
岡﨑 晴輝
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.2_56-2_77, 2016 (Released:2019-12-10)
参考文献数
62

日本の政治学では, ジョヴァンニ・サルトーリの類型論が支配的地位を占めてきた。しかし, サルトーリの類型論は, 少なくとも原型のままでは有用性を喪失している。1988年から94年の 「政治改革」 以降, 政党システム=選挙制度をめぐる争点は<政権選択可能な二大政党制=小選挙区制か, 民意反映可能な穏健多党制=比例代表制か>へと移っている。ところが, サルトーリの類型論は二大政党制と穏健多党制の相違を過小評価しているため, この問いに答えることができない。我々に必要なのは, このギャップを埋めるため, サルトーリの類型論を修正することである (第4節の表3を参照)。この修正類型論を採用すれば, 政党システムをより構造的に分類できるようになるであろう。のみならず, 穏健多党制を多極共存型・連立交渉型・二大連合型に下位類型化することで, 政権選択可能かつ民意反映可能な政党システム, すなわち穏健多党制 (二大連合型) を特定することができるようになるであろう。
著者
栗崎 周平
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.2_36-2_64, 2017 (Released:2020-12-26)
参考文献数
29

集団的自衛権の行使容認を中核とする日本の安全保障政策の転換を危機外交における軍事介入の問題と定式化した上で, それが, 平時外交における協調問題にどのような影響を与えるのか, ゲーム理論に基づく数理分析を行う。均衡は, 危機外交ゲームが平時の協調問題にどのように影響を与えるのかミクロ的基礎を提示し, 集団的自衛権の行使容認が安全保障のジレンマに影響を与えるのは, 非常に限定的な戦略的構造のもとでのみ可能であることが示される。その上で, 集団的自衛権の行使容認は, 危機発生を抑止する一方で, 日本が平時において非協調外交を推進する誘因を持つようになり, 安全保障のジレンマが悪化することが示される。これは, 危機外交と平時外交がリンクした結果, 平時外交における協調問題が, 将来の危機に備えたシグナリングの場へと変化してしまうからである。他方で, 集団的自衛権行使容認は, 相手国に協調外交への誘因を与え, 安全保障のジレンマを緩和する効果がある。
著者
大井 赤亥
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.2_288-2_308, 2012 (Released:2016-02-24)

The early 20th century was marked by the advent of both communism and fascism, and their challenges against the traditional western civilization. This paper examines the historical dynamism shown by those political struggles in the early 20th through the works of Laski. In the 1920s, Laski considered both communism and fascism as the negation of the legacies of western civilization. However, the political turmoil in the 1930s had led Laski to distinguish Soviet Union and Nazi Germany, and he thought Soviet communism as a “new civilization” which had been overcoming capitalist societies. But Laski's appreciation of Soviet communism was different from other British socialists in that Laski evaluated social welfare in Soviet Union as long as it served as the basis for individual freedom. This paper concludes that those Laski's ideas contain an actual potentiality in making contemporary criticism to liberal democracy after the collapse of Soviet communism.
著者
境家 史郎
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.1_236-1_255, 2013 (Released:2016-07-01)
参考文献数
30
被引用文献数
1 1

In the late 1980s, Ikuo Kabashima empirically showed that uneducated voters in rural areas were more likely to participate in elections in postwar Japan unlike other developed democracies. He argued that this participation structure was the key to Japan's postwar super-stable party system and rapid economic growth with equality. This paper reexamines this well-known “political equality” thesis. The analysis of survey data covering the period from 1958 to 2009 shows that the participation structure shown by Kabashima existed only in the 1970s-80s or the golden age of the 1955 system. The study then explores why the structure changed in the 1990s comparing data from the 1980s and 2000s. The analysis suggests that rural political networks became weaker and the political efficacy of urban educated voters increased over the past 20 years, which resulted in rural voters' lower turnout and educated voters' higher turnout in recent elections.
著者
德久 恭子
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.1_138-1_160, 2012 (Released:2016-02-24)
参考文献数
26

This article analyzes continuity and change of education policies in Japan, giving attention to political coalition and discourse related to that. The government had embarked in education reform since 1967. Most of them, however, could not be carried out because of a “immobilism”. This immobilism was enhanced by the status quo orientation of Ministry of Education (MOE) and the education zoku in LDP. At the same time, the conservatism and radicalism of the progressive opposition were maintaining institutions of ‘democratic’ education founded in Occupation Era. Public support to education reform was weak until 1993. After the election of that year, new government changed the policy toward reforms, induced political groups to a pragmatic policy line. The discourse of “Yutori” idea made MOE and Nikkyoso (Japan Teachers Union) settle their differences peacefully and achieve the reform.
著者
篠本 創
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.1_155-1_178, 2021 (Released:2022-06-15)
参考文献数
39

日本の市民による自国政府を対象とした安全保障問題に関する抗議行動 (安保系抗議行動) は、どのような条件下において発生するだろうか。本論文では、基地政治研究で主張されてきた内容をもとに、在日米軍のプレゼンスの規模、具体的には米軍により利用される軍事基地・施設の規模と、それらに関連して発生する経済的便益の大きさに着目し、これらの要因と安保系抗議行動の発生件数の関係性について2005年から2018年までの全都道府県のデータを用いた計量分析により実証する。加えて、自衛隊の基地・施設の規模を独立変数として組み込むことにより、在日米軍の基地・施設がもたらす影響との比較検討を試みる。 分析の結果、ある地域内部における在日米軍の基地・施設の規模が大きくなるほど、当該地域における安保系抗議行動の発生件数が多くなるということが示唆されたが、他方で、自衛隊の基地・施設の規模が安保系抗議行動の発生件数に影響を与える、という旨の仮説に合致する分析結果を得ることはできなかった。また、在日米軍の基地・施設に関連して発生する経済的便益がこの種の抗議行動の発生件数に影響を与えるという旨の仮説の妥当性には疑義が呈された。
著者
濱野 靖一郎
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.1_316-1_340, 2018 (Released:2021-07-16)
参考文献数
11

科挙の無い徳川日本に於いて, 儒学は出世に必須ではなかった。幕末の能吏・川路聖謨も, 勘定所での実務能力で異例の昇進を果たした。しかし川路は数多くの儒者・蘭学者と交流し, 並の儒者では到底及ばない程の学識を持っていた。川路 (つまりは侍官僚) に於ける学問の意義が, 本稿の課題である。 川路は徳川家康を堯舜以上の名君とし, 「武士」 の理想を追求する (「聖人」 を目指してはいない)。川路の 「実用の学」 とは, 「修己治人」 を旨とした朱子学的 「実学」 ではなく, 「武士」 が 「御役目」 を適切に遂行する知見として 「実用」 か, との意味であった。そのため川路は朱子学に止まらず, 徂徠学や頼山陽の著作も精力的に読み込んでいく。 『寧府紀事』 に於ける御白洲と学問所の運営の記述を検討すると, 川路は朱子学関連の書を広く読み参考としながら, それとは異なる結果主義的な判断を多く下していた。更に理想的な統治者として, 法律の厳正な運用を行った子産や諸葛孔明を挙げる。川路にとって儒学も, 実務経験を基に取捨選択するものに過ぎない。それが儒者ならざる 「武士」 である川路の, 学問の活用であった。
著者
村井 良太
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.2_122-2_148, 2017 (Released:2020-12-26)
参考文献数
78

1960年代から1970年代の日本では保守長期政権下にもかかわらず 「革新自治体」 が全国に広がった。ここでは事例研究の一方法である政治史を用いて, 佐藤栄作政権 (1964 ~ 1972) が革新自治体の隆盛にどう向き合ったのかを, 特に重視された東京都と琉球政府/沖縄県に注目して分析した。明らかになったのは, 第一に, 保守中央政府・陣営も革新地方政府・陣営もともに日米安保条約が再検討期を迎える1970年を重視していた。第二に, 同じく双方とも, 政治・行政の科学化と社会開発を共通目標としていた。第三に, 佐藤政権は予想される70年安保や沖縄返還という困難な課題と向き合う中で革新地方政府を地域住民の代表として彼らと協働した。そして第四に, 革新自治体は複合的性格を持っており, 1970年以降, ローカル・オポジションの拠点から市民参加や自治体改善運動の場へと変化していった。
著者
西 平等
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1_13-1_35, 2019 (Released:2020-06-21)

本稿は、「主権者とは、例外状態について決断する者である」 という、カール・シュミットの主権の定義の意味を明らかにすることを目的とする。シュミットは、国家における主権の担い手という問題を回避する 「国家主権」 論への批判的視座を維持しつつも、規範主義や多元主義から提起された説得的な主権批判論に反論するなかで、この主権の定義を提示した。規範主義や多元主義が、国家を、法規範によって与えられた権限を行使する諸機関の集合体に還元することで、法を超越する主権国家という観念を批判したのに対し、シュミットは、規範なき決定としての 「例外状態に関する決定」 を主権者の指標とみなすことで、主権概念の再生を図る。このような主権論の背景には、媒介的世界と無媒介的世界の区別という秩序像がある。すなわち、他者の権限領域を尊重する適正な手続を通じてのみ、自らの価値や正義を実現しうる媒介的世界 (正常状態) と、そのような制約を度外視して、あらゆる事実的に必要な手段を用いて価値や正義を実現しうる無媒介的世界 (例外状態) との区別を基盤とする秩序像である。主権者は、その境界を司る者として定義される。
著者
庄司 貴由
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.2_164-2_185, 2019 (Released:2020-12-21)

これまで宮澤政権期のPKO政策をめぐっては、カンボジア派遣の事例に研究上の関心が寄せられてきた。ところが、実現こそされなかったものの、日本政府、とくに外務省内ではソマリア派遣の検討も同時に進められていた。そこで本論は、ソマリアでの国連平和維持活動 (PKO) 参加などに着目し、外務省がどのような検討を行い、いかに模索したのかを明らかにする。 まず、航空輸送をめぐる試行錯誤に触れ、その帰結としての世界食糧計画 (WFP) との共同空輸が残した問題点を浮き彫りにする。次に、政府調査団が指摘した情勢認識や人的貢献案を論じていく。最後に、外務省の関係省庁、首相官邸との交渉プロセスを、国連事務総長訪日なども交えながら解明する。そして結論では、外務省の説得が合意形成どころか、調整機能の停滞や深刻な対立を招いたこと、その一方でソマリアPKO派遣構想自体には、後の日本が直面する諸課題が凝縮されていたことを明らかにする。
著者
久保田 哲
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.2_232-2_252, 2014 (Released:2018-02-01)

According to Article 5 of the Meiji Constitution, the Imperial Diet was identified as a kyosan organization. Then, what intention did Ito have to identify it as a kyosan organization?   Ito learned from Mosse and Stein that the legislature should not be allowed to act completely arbitrarily, but that the legislative process for deliberation bills was required for a constitutional system of government. Those days in Japan, as such a fixed legislative process did not yet exist, this point can be considered pioneering. Moreover, while Ito thought that Japan was not yet ready for party politics, he hoped that the Imperial Diet would support the enactment of the law that suited national polity in the future. Ito having an antinomic “legislation” perspective - a legislature not acting arbitrarily and the hope to enact the law which suited national polity - found flexibility in the constitutional positioning of the Imperial Diet.   It can then be said that kyosan was an exquisite expression which includes Ito's “legislation” perspective.
著者
髙杉 洋平
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.1_270-1_292, 2018 (Released:2021-07-16)
参考文献数
37

本稿の目的は 「新体制試案要綱」 の策定に関わる民間シンク・タンク国策研究会と陸軍省軍務局幕僚の関係を再評価すると共に, 軍務局幕僚の新体制構想の実像を明らかにすることにある。従来, 国策研究会は陸軍のブレーン・トラストと考えられており, 同会が策定した 「新体制試案要綱」 は, 未発見の陸軍の新体制構想を代替するものと明確な根拠を欠いたまま推測されてきた。しかし 「新体制試案要綱」 の策定過程を確認すると, 同要綱が多様性に富んだメンバーによって立案され, 審議の過程や結論が広く公開されたこと, その内容も議会や旧政党を尊重するものであったことが分かる。この事実は同要綱と軍務局幕僚の関係を一見否定するものである。にもかかわらず, 既存研究はこの矛盾について全く説明しえていない。本稿は, 当該期に軍務局幕僚が陥っていた政治的苦境を指摘し, 軍務局幕僚にとっては国策研究会の 「中立性」 や 「公開性」 にこそ同会の利用価値の本質があったことを指摘する。そしてこの考察の過程で, 当該期の軍務局幕僚の新体制構想が, 議会政治や政党政治に肯定的評価を与えるものであったことを明らかにする。
著者
石井 知章
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1_181-1_203, 2019 (Released:2020-06-21)

中華人民共和国の成立 (1949年) とともに、主権理論は共産主義イデオロギーとして、現行憲法においても社会主義 (共産主義) 原理の根幹をなす 「人民主権」 として規定されてきた。だが、1990年代以降、グローバリゼーションの急速な展開にともない、主権理論が再び脚光を浴びると、人権、人道的干渉、途上国への民主化支援、グローバル・ガヴァナンス、経済グローバル化などの展開とともに、国際関係・国際法における 「伝統的主権」 論が大きく動揺していった。こうしたなかで、主権の時代遅れ論、主権の再配分、ウェストファリア体制の終焉といった考え方が登場すると、主権理論をめぐる論争が展開され、新しい主権理論の探究も急速に広がってきた。それらのことを象徴的に示しているのが、現在、習近平体制が精力的に推し進めている中国主導による 「逆グローバリゼーション」 としての経済外交戦略、すなわち 「一帯一路」 構想である。本稿は、一党独裁体制下における 「伝統的主権」 論が、とりわけ現代中国で影響力を強めているC. シュミットの憲法論・政治論との関連で理論的にどのようにとらえられ、かつどのように変化してきたのかについて概観する。
著者
坂本 治也 秦 正樹 梶原 晶
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.2_303-2_327, 2020

<p>1990年代末以降、日本では特定非営利活動法人 (NPO法人) や一般社団法人などの新たに創設された法人格を有する (広義の) NPOが多数誕生した。組織レベルでみた場合、NPOの活動は明らかに活性化している。にもかかわらず、一般の人々のNPOへの参加は依然としてまったく広まっていない。</p><p> なぜ多くの日本人はNPOへの参加を今なお忌避しているのであろうか。どのような要因が参加忌避を引き起こす原因となっているのであろうか。どうすればNPOへの参加をより増やしていくことができるのだろうか。</p><p> これらの点を探索的に解明するために、本稿では筆者らが独自に実施したオンライン・サーベイのデータを用いて、コンジョイント実験 (conjoint experiment) を通じてNPOへの参加の規定要因の解明を試みた。</p><p> 分析の結果、デモなどの政府への抗議活動を行うこと、多額の寄付を集めること、自民党寄りないし立憲民主党寄りの組織であることは、参加忌避に大きな影響を与える要因であることが明らかとなった。つまり、NPOの 「政治性」 やNPOの 「金銭重視」 姿勢が参加忌避をもたらす主要な原因になっていることが本稿の分析から示唆される。</p>