著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, 1978-11-30
著者
山中 二男
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.27-29, 1953

石立山の植物相の大要は上は述べた如くであるが,斯様な事實から,(1)此の山は未だ亜高山帯に達しないが區系的に注意すべき事は寒地性の依存分布があり,(例えばイワウサギシダ,ムシトリスミレ,その他)或は隔離分布を爲す著しい例が見られ,(例えばヒメフウロ,コウシユウヒゴタイ,その他)又一般に希少な植物がよく成長している事(例えばギンロバイ,イワユキノシタ,その他),(2)これらの植物は石灰岩地では可成り低い所まで見られる(例えばホソバシユロソウは500mまで),(2)石灰岩露出地の區系的組成乃至は植相は他の他の地方の蛇紋岩地帯とよく似た點が多い事(例えば群落が多く灌木叢林状でイワガサ,キハギ,イワツクバネウツギが優占的になる事など,その他)などが此の山でもうかがえる。斯様な點は石灰岩地帯に見られる特徴であり(植物研究雑誌XXVII, 33, 1952)區系地理學上意義が深い。今後更に精細な調査を行なう事によつて,或は更に新しい事實を見出し得るかも知れない。終りに本報文を草するに當つて,御教示をいたゞいた北村教授に厚く感謝する。又調査に際し種々御便宜をはかられた高知營林局和田豊洲氏高知大學の鎌倉五男氏に感謝する。
著者
加藤 雅啓
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.79-91, 1972-07-25

1. The vascular structure of the rhizome, stipe, and rachis was observed for 41 species of the athyrioid ferns (Athyrium, Diplazium, Cystopteris, and their relatives), for the problematic genera for their athyrioid affinity (Acystopteris, Gymnocarpium, Hypodematium, Matteuccia, Onoclea, Stenolepia, and Woodsia), and for the several groups to which those genera have been related. 2. The vascular structures are common to all the athyrioid ferns in strict sense except for a few specialized cases. Among the genera cited above, Acystopteris, Gymnocarpium, Hyodematium, Matteuccia, Onoclea, and Woodsia have quite the same vascular structure as that common to the athyrioid ferns, with an exception of the dorsiventral rhizome of Hypodematium. The vascular structure of Stenolepia is distinct from that of the athyrioid ferns, resembling that of the dryopteroid ferns. 3. Based on the vascular structure as well as the other taxonomic characters such as the trichome, sorus, and spore, it is concluded that Acystopteris, Gymnocarpium, Hypodematium, Matteuccia, Onoclea, and Woodsia are all belonging to the athyrioid group, and Stenolepia is better placed in the dryopteroid group.
著者
岡田 博 森 康子
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.1-9, 2000
参考文献数
8
被引用文献数
2

インドネシア東カリマンタンおよび西カリマンタンからサトイモ科の3新種,Aridarum incavatum, Bucephalandra magnifolia, Hottarum brevipedunculatumを記載した。これらは全て渓流沿い植物である。体細胞染色体数はいずれも2n=26であった。
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.77-92, 1990-09-25

Recently many Chinese specimens were collected by Chinese and Japanese botanists, chiefly in Yunnan, and sent to the herbariums of the Kunming Institute of Botany, the Tokyo University and the Kyoto University. I am still interested in the study of Compositae and identified these specimens. The critical study by new materials is the aim of this report. There are many common species between China and Japan, in this report, newly some common species are added. Acquainted with Yunnan compositae, I studied the Composit specimens of Bhutan formerly collected by S. NAKAO and added some news.
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.1, no.4, pp.277-296, 1932-12-01

シヤウジヤウハグマ族(Vernoniae) シヤウジヤウハグマ屬(Vernonia). I. 海濱に生ずる約10糎ばかりの小さき植物…ハマシヤギク(Vernonia maritima HAYATA). 2米乃至10米に達する攀〓植物…シヤウジヤウハグマ(Vernonia gratiosa HANCE). 30糎乃至80糎に及ぶ直立性の草本…II. II. 果實に毛なく油點がある…ウラジロカツコウ(Vernonia patula MERR.). 果實に毛あり…III. III. 總苞の長さは3.5粍…コバナムラサキムカシヨモギ(Vernonia parviflora REINW.). 總苞の長さは5粍…ムラサキムカシヨモギ(Vernonia cinerea LESS.). シヤウジヤウハグマは本島の特産である。ハマシヤギクはフイリツピンのバタン島にもあるがきはめて稀な植物である。コバナムラサキムカシヨモギはジヤバ,フイリツピン,臺灣南部,小笠原に分布する。ムラサキムカシヨモギは印度,支那,臺灣北部,琉球,九州に及ぶ。ウラジロカツコウは印度,印度支那,馬來,フイリツピンに分布する。本屬は熱帶に大いに繁榮分化したもので,内地には一種ムラサキムカシヨモギのみ九州に分布する。
著者
加藤 雅啓
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.152-159, 1975-03-31
被引用文献数
2

Detailed observation is made for the scales and the position of sori in Davallia divaricata, its close relatives, D. dimorpha and several species in Davalliaceae with the result that the following species have non-peltate scales besides Leucostegia and D. divaricata already described: all species of Araiostegia, D. dimorpha, close relatives of D. divaricata and Davallodes viscidulum, and that the sori are placed at the end of veins in Leucostegia, at the bending point and junction of veins in Araiostegia, at the bending point in Davallodes and at the junction in Davallia. These characters are discussed taxonomically. The definitions of Araiostegia, Davallia and Davallodes are revised on the basis of such characters as scales, soral position, hairs and the arrangement of basal pinnules on a pinna. According to this definition, D. divaricata, its close relatives and D. dimorpha are here transferred to Araiostegia.
著者
長谷川 二郎 和田 清美
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.37-43, 1992-08-05
被引用文献数
2

On the basis of observation in 12 Japanese species of the Anthocerotae as well as of a comprehensive survey of literature, the genera of the Anthoceroate are found to have in a sporophytic cell ; (1) one chloroplast(Dendroceros, Folioceros, Notothylas and Phaeoceros), (2) two (Anthoceros) or (3) two or more (up to 12) chloroplasts (Megaceros).This fact requires correction of the generally accepted view that the Anthocerotae contain a single chloroplast in each cell of gametophytes and two chloroplasts in each cell of sporophytes. We further discuss the taxonomic significance of this character together with a distinctness of the genus Anthoceros in the Anthocerotae.
著者
小泉 源一
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1-13, 1938-02-28

1. フセンキエボシサウ(新種) (第一圖) 咸南赴戰高原に登る松興線インクラインの終點赴戰嶺驛附近の山中に發見す.花は黄白色,全形タチキエボシサウに近けれど長梗を有するを以て著し.本種亦白岩山及江原道金剛山中にも産す,Aconitum puchonroenicum UYEKI et SAKATA と新稱せり. 2. カイマ(蓋馬) トリカブト(新種) (第二圖) 本種は南鮮智異山産の淡黄トリカブトに近似すれども子房は常に5-6個,稀に4個あり,葉形は全く異なる.花は帶黄白色,白岩山1200-1300米高附近の斜面に多く生ず,尚漢垈里の赴戰山荘の北方約3KMの路傍の草叢中に1株開花せるを車上より目撃したれば高原一帶に生ずるならむ.Aconitum kaimaense UYEKI et SAKATA と新稱せり. 3. ビロウドヒナノウスツボ(新變種) 松興線インクライン最高點白巖山驛(1580M)附近の山中に生ず,テウセンゴマノハグサの全草白毛を被り葉裏絨毛を敷く一變種と思考せらるも,昨夏長津郡の山中にて採種せられし標品をも見たれば或ひは高原一帶に産する獨立種と見倣しScrophularia paikamicola SAKATA と新稱する方可ならむ. 4. 八重ノルリハンシヨウヅル(新品種) 咸南遮日峰近くの草本帶の岩石地に稀産す,ルリハンシヨウヅルの花八重のものなり,Clematis nobilis f. plena UYEKI et SAKATA と新稱す. 5. キレベンチシマイチゴ(新品種) 前記草本帶岩石地に小區域を限りて生ず,チシマイチゴの花瓣齒縁となれるものなり,新に Rubus arcticus f. dentipetala UYEKI et SAKATA と稱す. 6. エダウチホソバキリンサウ(新變種) 赴戰高原漢垈里の山荘より雲隱嶺麓の石店街附近に至る岩上,路傍等に處々生ず,分岐性甚だしく腋出枝を數多出し,其頂及莖頂に岐繖花序の黄花を附けたるホソバキリンサウの一變種なり,水原に於ける栽培の結果此の分岐性は土地的の變異にあらざるを知る,新に Sedum Aizoon var. ramosum UYEKI et SAKATA と命名す. 7. 白花カメバヒキオコシ(新品種) 本夏筆者の一人佐方は知友を介して新興林業社長の厚意に依り,トロツコにて大沙水里事務所より松興へ下山の途中,伐木運搬用索道始發點近くの崖上に基本種紫花のカメバヒキオコシ中に白花品一株混生せるを發見したれば急停車を命じて採集し得たり,蕚は緑色,花は純白色,全然紫色を帶ぶる事なし,Amethystanthus excissus var. typicus f. albiflorus SAKATA と命名せり,又筆者植木は殆んど時を同うして之を金剛山中(集仙峯)に發見したるは奇とすべし.
著者
ブフォード D.E.
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.133-154, 1987-09-25

ミズタマソウ属は北半球に広く分布し、落葉樹林の湿った林床に生育する匐枝を持つ多年草である。本属は2つの群に分けられる。第一群の花は総状花序の軸から開出した小花柄につき、(Fig.1-d)、花序が伸長した後に開く。柱頭が雄ずいより長いため、葯は直接柱頭に花粉を落とせない。また、葯の裂開も一斉ではない。一般に、毎日一花序あたり1~2個の花が開く。この群の多くは蜜腺が花筒の開口部からつき出している(Fig. 1-e)。開花は気候と温度に関係があり、蕾が開きはじめる15℃は本属の訪花昆虫が活発になる温度である。花が互に離れているので、訪花昆虫は花から花へ飛び移る必要がある。この群は本来他家受粉であるが、自家受粉の可能性もある。第二群の花は総状花序が伸長する前に数個同時に開く。この時に小花柄が直立しているので、アブラナ科に見られるように、開いた花は互に接している(Fig. 1-a)。この群の花を訪れる昆虫は開花している花を花から花へと歩きまわって訪れることができ、飛ぶ必要がない。柱頭と雄ずいの長さは等しく、受粉はしばしば蕾の中で行なわれていることがある。このことは天候不順時に普通に見られるが、良い天気の時には葯が烈開する直前に花が開くこともあるので、他家受粉も可能である。訪花昆虫の主なものはSyrphidae(双翅目、ハナアブ科)とHalctidae(膜翅目、コハナアブ科)である。一般に、ハナアブ類は湿った。日影に生える植物を訪れるが、コハナバチ類は乾いた、日当たりの良い所を好む。これらの昆虫は花を動きまわっている間に、受粉を行っている。舌の短いハエやハチの訪花は植物群に選択性を与えてきたようである。その結果、外交配をする第一群の多くは蜜腺を持っている。一方、一部の外交配機構を残しながら、自家受粉機能を発達させた第二群は、冷温帯の林床に生育するミヤマタニタデに顕著な分化をもたらした。
著者
迫田 昌宏
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 : bunrui : 日本植物分類学会誌 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.75-76, 2002-08-31
著者
川窪 伸光
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.153-164, 1995-01-28
被引用文献数
1

日本産アザミ属植物はすべてが両性花を咲かせる雌雄同株として取り扱われてきたが, 最近になってノマアザミCirsium chikushiense Koidz.がメス株を分化させた雌性雌雄異株(gynodioecy)であることが判明した。そこで日本産アザミ属全体に, メス株を分化させた分類群が, どの程度存在しているかを明らかにするために, 京都大学理学部所蔵の乾燥標本(KYO)を材料として雄ずいの形態と花粉の有無を観察した。その結果, 観察した97分類群のうち約40%の39分類群において, 花粉を生産しない退化的雄ずいをもつ雄性不稔株を確認した。これは種レベルで換算すると, 68種中の約43%の29種で雄性不稔が発生していることを意味した。発見された退化的雄ずいのほとんどは株内で形態的に安定しており, 雄性不稔の原因が低温障害などの一時的なものではないと考えられた。また22種類の推定雑種標本中, 5種類においても雄性不稔を確認したが, それらの雑種の推定両親分類群の少なくとも一方は, もともと雄性不稔株を生じていた分類群であった。雄性不稔株を確認したすべての分類群がメス株を分化させているとは言えないが, 雄性不稔株の発生頻度の高い分類群の多くは遺伝的にメス株を維持し, 雌性雌雄異株の状態にあるのかもしれない。
著者
田村 道夫
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.127-131, 2001-04-02

はじめてこの植物について記したH.Eichlerは、Revision d. Ranunculaceen Malesiens(1958):53において、「Naraveliaのまだ記載されていない種がタイにある。この植物、Kerr 2903(BM,K)は茎の特徴や葉質ではN. siamensisに近く、葉は2回羽状複葉で、羽片は3小葉よりなり(全体で12小葉)、巻きひげがある。痩果は明るい褐色で、種子のあるよじれた部分は無毛である。CraibはFI. Siam. Enum. 1(1925):18において、この標本をN. siamensisとして引用している。さらにこの属の入念な研究が望まれる」と述べている。Kerr 2903は、大英博物館、キュウ王立植物園のほか、エジンバラ王立植物園にも保管されている。Naraveliaの花にはさじ状または棒状の花弁があり、葉の最下の小葉は全縁、先の3小葉は巻きひげに変化している。Kerr 2903は果実の標本で、痩果はNaraveliaと酷似しており,私もこの植物をNaraveliaと考え、N. eichleri Tamuraとして記載した(Tamura,1986)。その後、1995年11月末、当時、Huay Kaew樹木園にいたRachan Poomaより、変わったボタンヅル属の植物がQueen Sirikit植物園にあるので見にこないかとの連絡を受けたが都合がつかず、,翌1996年2月中旬に行った。その時、Huay Kaew樹木園にはR. Poomaと交替してPrasit Sa-adarwutがいたが、Queen Sirikit植物園のSawat Chantabunらの協力により、その時すでに果実になっていた植物を採ることができた(この時の標本Pooma 1926は私の採集品である)。その場所は、同植物園内600〜700mのMae Rim渓谷である。その果実は全くKerr 2903と同じであるが、葉には巻きひげはなかった。同年11月下旬、Chamlong Phengklai博士、P. Sa-adarwut、S. Chantabunらと行って花を探った。しかし、以前あった場所とは数10メートルも離れたところで、同じ場所ではなかった。花には花弁はなかった。1997年11月初旬にも、P. Sa-adarwut、S. Chantabunらと行って花を確認したが、その時もかなり離れた別の場所で見つけた。Clematisの分類には芽生えにおける葉序変化が重要な特徴となるので、痩果を探ろうとし、その年の11月上旬、翌1998年の1月下旬、さらに1999年1月下旬にも探したが見つからなかった。この植物の葉には巻きひげがなく、花には花弁のないことが分かったが、果実の状態はNaraveliaそっくりで、この植物こそKerr 2903に違いないと確信した。Kerr 2903の葉は大形で、3枚のタイプ標本を見ても巻きひげは見当たらない。Eichlerが巻きひげと思ったのは、多分、小葉柄、葉柄、細い枝などを見間違えたものと思う。また、Naraveliaの主葉脈は,葉の基部より少し上で分かれるが、この植物はボタンヅル属の多くの種と同様、葉の基部で分かれる。そこで、1997年秋、この植物をボタンヅル属に組み替えてClematis eichleri (Tamura) Tamuraとした(Tamura,1997)。このように、Queen Sirikit植物園の植物がなくなったので、ほかに産地はないかと調べてみると、Chiangmai大学の森林回復研究所(The Forest Restoration Research Unit)のJ.F.Maxwellが他の2ヵ所、すなわちDoi SutepのRu-See渓谷と、Doi Kunn国立公園のPah Droop滝で採集していることが分った。後者はかなり難しい所だというので、1999年11月30日、前者へ連れていってもらった。ところが、以前あった場所には無くなってしまっていて、新しい所で見つけた。先の場所と同じ渓流沿いの常緑広葉樹林のなかで、つるは高さ5m以上あり、太さは約1cmくらい、花は高い所に咲いていた。そして、2000年2月29日、やっとのことで果実を採集した。その時、葉はほとんど枯れてしまっていたが、ひょっとして株全体が枯死したのではないかと思った。しかし、ボタンヅル属には落葉性のものも多いので、さらに、同年6月28日、再びそこを訪れ、個体全体が枯死していることを確認した。一回結実性という性質はボタンヅル属では聞いたことがない。熱帯-亜熱帯広葉樹林において、このような性質がどのような役に立つのか分からない。しかし、これでこの植物が毎年花の場所を代えていた理由は分かった。その時採集した果実はChiangmai大学の森林回復研究所の苗園に播種し、現在、高さ40cmくらいに育っている。ボタンヅル属の芽生えには、始めのうち葉が互生するものと、始めから対生するものとがある。この植物の初期案序は互生しており、第5、または、第7葉あたりより節間が伸長し、葉は対生する。しかし、2枚の対生する葉の展開には大変差があり、少なくとも第15葉節あたりまでは、出来上がりは等しくても、1枚は完全に展開しているが、もう1枚はまだ小さいままである。次にこの種(Fig.1)の簡単な記載を示す。植物は蔓性で、大きくなれば高さ5mを越え、茎には縦に20以上の条がある。1回結実性、多分半落葉性。葉は草質で乾燥すれば黄褐色、30-50cm、そのうち葉柄は約10cm、羽状複葉で5-7個の羽片をもち、最下の羽片は3出、有柄、最上の
著者
田村 道夫
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.106-110, 1986-12-25
被引用文献数
1

Naraveliaはキンポウゲ科のなかで分布域が熱帯に限られている雄一の属である。インド南部よりインドシナを通って中国西南部に、また、マレーシアを通ってモルッカ諸島にまで分布しており、7属が知られる。この属はセンニンソウ属Clematisにごく近いが、細長い花弁があることと、巻きひげがあることで区別されている。この属の花弁は細長く、がく片よりも長くて先が膨らみ、大ていは棍棒状かスプーン状である。センニンソウ属でも、ミヤマハンショウズル節Clematis sect. Atrageneは花弁をもつが、この節の花弁は巾が広くてへら状となり、雄蕊との間に移行型がある。Linne(1753)は花弁をもつことを重視して、Naraveliaをミヤマハンショウズルの仲間とともにAtragene属に分類している。しかし、両軍の花弁は大へん異なっており、独立に起源したものと考えられる。この属の雄蕊では、葯隔が突出したり、また、巾が広くなって葯が内出することが多く、著しい場合には、木本性多心皮類にみられる葉状雄蕊のようになる。そのような著しいものはないが、センニンソウ属でも花糸が広がり、葯が多少とも内向することはごく普通にみられるし、また、葯隔の突出するものも少なくない。葯隔がかなり著しく突出するものには、東南アジアに分布するヤエヤマセンニンソウ節Clematis sect. Naraveliopsis やオセアニアに分布するC. subsect. Aristatae などがある。これらの分布範囲はNaraveliaと重なるか、隣接して、何らかの系統的関係が示されているのかもしれない。Naraveliaの葉はふつう1対の小葉をもち、葉の軸はその先で3分し、3本の巻きひげとなる。したがって、この巻きひげは、頂小葉および上部の1対の小葉の変形したものと見なされる。Naraveliaにおける諸形質の変わり方はセンニンソウ属によく似ており、例えば、センニンソウ属と同様に、茎に12本の太い維管束があって12条の稜が目立つもの(N. dasyoneura, N. siamensis, N. pilulifera)を多くの条があって断面をほぼ円いものに分けることができ、また、腋生する花序の花の数(N. dasyoneura, N. paucifloraでは花数が少ない)も種を区別する重要な特徴になる。さらに、N. dasyoneuraの痩果の花柱は、Clematis brachyuraやC. cadmiaのように短くて羽毛状に伸長しない。このようにVaraveliaをセンニンソウ属と区別する特徴は、花弁のように、センニンソウ属にも見られるもの、または巻きひげのようにセンニンソク属にあるものの変形にすぎず、また、形質の変化のしかたもよく似ており、Naraveliaはセンニンソウ層内の特殊化した一群とみなす方がよいかもしれない。POIRET(1811),O.KUNTZE(1885)らはこれをセンニンソウ属に含めているし、PRANTL(1887, 1888)はそのなかの一節Clematis sect. Naraveliaとして扱っている。しかし、便宜上のことではあろうが、近年は独立属として扱われることが多い。Hj. EICHLER(1958)は'Revision der Rannnculaceen Malesiens'のなかでタイのBan Pong Yengで採集されたNaraveliaの標本、Kerr2903に言及している。この植物は葉は2回羽状で3出すると羽片と巻きひげをもち、痩果の種子は入っていてよじれている部分は無毛またはほとんど無毛であり、茎と葉質の特徴はN. siamensisに似ている未記載の種であるという。筆者はタイ植物誌のためにキンポウゲ科をまとめた際、各地の標本庫や野外でこの植物を探し求めたが、同じ植物から採集された3枚のKerr2903以外見つけることはできなかった。これら3枚の標本はキュウ王立植物園、エジンバラ王立植物園、大英博物館に保存されている。他のすべての種では、羽片は、単一、時に2裂し、痩果は細毛に被れており、(ただし、巻きひげについては、葉がこわれていて確認できなかった)、一見して区別できるので、乏しい資料ながら新種N. eichleriとして発表する。
著者
山城 朝美 兼本 正 傅田 哲郎 横田 昌嗣
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 = Acta phytotaxonomica et geobotanica (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.21-29, 2000-09-12

沖縄島の固有種クニガミサンショウズルの染色体数について詳細な調査をおこなった結果,染色体数2n=16,26,38,39,52の5つのサイトタイプが確認された。このうち,2n=26以外の染色体数は初めての報告である。2n=16の染色体数を持つサイトタイプの起源は明らかではないが,残り4つのサイトタイプは,それぞれ,x=13に基づく二倍体,低数性三倍体,三倍体,四倍体であると思われる。5つのサイトタイプの中では二倍体が最も多く,分布域全体を通して高頻度で出現した。一方,倍数体は比較的稀で,二倍体の分布域の中に散在的に出現した。二倍体と倍数体は同所的に生育しており,両者の生育環境に顕著な違いは見られなかった。また,二倍体と倍数体の間に形態的差が認められないこと,クニガミサンショウズルが近縁種から地理的に隔離されていることなどから,クニガミ,サンショウズルの倍数体は同質倍数体ではないかと思われる。
著者
角野 康郎 碓井 信久
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 = Acta phytotaxonomica et geobotanica (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.131-135, 1995-12-01
被引用文献数
2

タシロカワゴケソウは, 1977年8月に鹿児島県の大隅半島にある田代町「奥花瀬」の雄川上流で新敏夫博士によって発見された(新, 1977)。新博士はこれをカワゴケソウ属の新種と考えたが, 花を得られなかったために正式の発表を控えた。新博士はその後まもなく病床に伏し1982年に逝去されたため, 正式の報告がないまま"幻の新種"となって今日に至っている。我が国におけるカワゴケソウの発見者である今村駿一郎博士も, これを新種と考え, "タシロカワゴケソウCladopus austro-osumiensis"という和名と学名を付した資料を残されている(「カワゴケソウ科分布現況略図」と題する手書きの地図で, 水草研究会会報23号の拙稿「今村駿一郎先生を悼む」に転載してある)。この名前が新博士によるものか今村博士によるものかは不明である。新博士と親交のあった土井美夫氏は, 『広島県植物目録』(1983)の末尾に「鹿児島県植物目録追加」としてタシロカワゴケソウ発見の経緯を記録し, 「在鹿の人により正式の発表」がなされることへの期待を述べている。その後, 鹿児島大学理学部ならびに水産学部の卒業研究などでカワゴケソウ科植物の現状に関する調査は幾度か進められたが, タシロカワゴケソウの記載は行なわれないままになっていた。このような状況の中で1990年12月, 筆者のうちのひとり碓井は雄川上流の田代町新田南風谷橋付近で良好に生育するタシロカワゴケソウの群落を再発見した。そして, その標本を角野に託した。今回得られた標本は, 採集時の水位の関係と思われるがつぼみの状態か既に果実になったものばかりで, 開花中のものは無かった。しかし, 幅0.4〜1mmしかない細い葉状体は他種には見られない特徴で, 花は無くとも新博士の慧眼どおり新種に間違いないと判断し, 記載の準備を開始した。一方, ほぼ同じころ, 鹿児島大学理学部堀田満教授研究室に所属する学生の谷口宏君が, 同じ場所でタシロカワゴケソウの調査を進め, 花についても詳しい観察資料を得ていたことが後日判明した。私どもは, 保全の取り組みのためにもまず種として正式に認知することが急務と考え, 手元にある標本に基づいて記載の準備を進めていたが, 今回の報告に際し堀田先生から谷口君の観察資料の一部を御提供いただくことになった。花の記載を盛り込むことができたのは, 堀田先生の寛大な御好意の賜物であり, 心より感謝する次第である。周知のように, カワゴケソウ科植物は急流にのみ産する特異な植物として注目され, 日本では鹿児島県と宮崎県の11水系の河川から2属6種が知られていた。しかし, 近年, 河川改修や水質汚濁の進行などでほとんどの種が絶滅の危機に瀕し, 保護の重要性と研究の必要性が訴えられている。タシロカワゴケソウも例外ではない。今回の新種記載を契機として, その形態についてのさらに詳しい研究が行なわれるとともに, 生態や現状についての詳しい調査が進むことを期待する。