著者
平野 弘二
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.77-80, 1998-07-28
参考文献数
3
著者
光田 重幸
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.73-86, 1985-06-29

3回に分けて報告した西スマトラ州のシダ植物をこれで終わる.ここで扱ったのは,西スマトラ州の一部にすぎないが,総計で34科180種を確認した.種数の多い科としては,クラマゴケ科(15種),コケシノブ科(13種),ヘゴ科(10種),ホングウシダ科(9種),チャセンシダ科(13種),オシダ科(13種,うちナナバケシダ亜科10種),ヒメシダ科(17種),メシダ科(13種,すべてヘラシダ属),ウラボシ科(19種),ヒメウラボシ科(9種)などがある.とくに,せまい地域であるわりには,クラマゴケ科やウラボシ科の種類が多いのが注目される.初回の報告で,スマトラの高地の顕花の植物相は,中国南部から日本に広がる植物相と属のレベルで共通性が高いことにふれた.こころみにこの3回の報告で扱ったシダ植物の属で計算してみると,全82属中日本(沖縄を含む)に見られるもの61属,云南省や中国南部を広く含めると71属ほどが共通しており,それぞれの比率は74.4%と86.6%となる.これは,顕花植物で概算した比率(初回報告参照)と非常によく一致している.中国南部におけるシダ植物の分布は,まだよくわかっていない点もあり,ここでの86.6%というす数字は,控えめのものである.さてここで共通の属とされなかったもの,つまり中国以南にしか分布が知られていないものの内分けを見ると,Teratophyllum, Stenosemiaといった,マレーシアの低地から山地に特産もしくは準特産の属や,Orthiopteris, Didymochlaenaといった新旧両世界の熱帯に産するものが目だち,前者は地域としての特殊性を,後者は熱帯としての共通性を示している.オセアニアに分布の中心を持つ属が一つも出現していないことも注目されよう.この事からみると,スマトラ山地のシダ植物相は,東アジア山地のシダ植物相と極めて結びつきが深く,マレーシア域としての特殊性は多少見られるものの,オセアニア域との関連性は皆無に近い,ということになる.
著者
加藤 雅啓
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.61-90, 1996-07-10
参考文献数
8

1983年から1986にかけて3回の調査で収集した11, 000点以上の標本に基づく研究によって, セラム島とアンボン島には約700種のシダ植物が産することが分かった。この数は比較的小さな島のシダ植物相としては極めて多く, 四国と同じ面積でありながら日本全域の種数よりも多いシダ植物が分布するのである。その主な理由は, 世界で最も豊かなシダ植物相(2, 000種)をもつニューギニアが近くにあって, そこが供給源となっていることであると思われる。本稿ではコバノイシカグマ科(コバノイシカグマ属, ユノミネシダ属, イワヒメワラビ属, フモトシダ属, オオフジシダ属, ワラビ属, Orthiopteris属, Paesia属)の19種, シシラン科(タキミシダ属, シシラン属, Monogramma属)の15種, オシダ科ナナバケシダ亜科(カツモウイノデ属, ナナバケシダ属, Cyclopeltis属, Heterogonium属, Pleoenemia属, Pteridrys属)の35種を報告した。その中で, ユミノネシダの変種var.seramensis, Antrophyum lancifolium, Ctenitis calcicola, C.clathrata, C.coriacea, Tectaria crenata var.petiolata, T.melanocauloides, T.seramensisを新種あるいは新変種として記載した。
著者
梅崎 勇
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.56-62, 1955-10-30

1. Brachytrichia Quoyi (A_G.) BORN. & FLAH(アイミドリ)の葉状體の發生及び絲状體の分岐の機構を研究した。2. 葉状體の幼體期は小形實質半圓形である。絲状體はその内部に稍緩く直立し,平行に配列して,その基部で直立し,僅かに分岐する。3. 葉状體の幼體期の絲状體は Kyrtuthrix dalmatica ERCEG. 及び Hormactis Balani THUR. の幼體期のものとして記載し圖示したものは全く異なる。且つ全生涯を通じて斯様な絲状體を観察することが出来なかつた。4. 絲状體のV-分岐は幼體期は正のV形を,成體期の直立絲状體は逆のV形を示し,2型に分類出来る。5. Brachytrichia 〓の絲状體の分岐はV-分岐と言うよりは寧ろY-分岐と命名するのは妥當である。6. Kyrtuthrix 〓の分岐は厳密には分岐と言はれなく,Brachytrichia 〓の分岐と明に區別される。7. 本研究により将来 Brachytrichia 〓の分類の訂正が必要となつた。最後にあたり御懇篤なる御指導を頂いた米田勇一先生に,又研究材料を18回にも渉り採集して頂いた内海富士夫先生に感謝の意を表する。
著者
KOBAYASHI TOMIKI SASAMURA KAZUYUKI WATANABE KUNIAKI MURATA JIN
出版者
日本植物分類学会
雑誌
APG : Acta phytotaxonomica et geobotanica (ISSN:13467565)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.37-43, 2008-03-25
被引用文献数
1

Based on morphology and chromosome numbers, Arisaema inaense (Seriz.) K. Sasamura et J. Murata is newly recognized at the rank of species and a new species A. nagiense T. Kobayashi, K. Sasamura et J. Murata is described. Both are diploid with 2n=26 and lack the accessory buds that always accompany the axillary buds of tetraploid plants of A. ovale Nakai. In the A. ovale group, A. nagiense is unique in the inflorescence unfolding before the leaf blade.
著者
小山 博滋
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.49-58, 1984-05-29

ショウジョウハグマ族Tribe Vernonieae はキク科植物で、頭花が両性の筒状花のみから成り、花柱分枝が先端へしだいに細くなり、葯胞の下部付属体が短かく矢じり状となるなどの特徴によって、他の族から区別される。約70属からなるが、大部分の属が熱帯域に生育するため、日本ではなじみの少ないものである。琉球、小笠原、九州南部でショウジョウハグマ属Vernoniaとミスミグサ属Elephantopusのそれぞれ1,2種がこの仲間のものとして見られるにすぎない。熱帯域に位置するタイ国にはこれらの属の他に、Camchaya, Ethulia, Struchiumの3属がある。属の数でいえば、タイ国は日本の2.5倍の属を有するにすぎない。しかし、ショウジョウハグマ属を取り上げると、日本ではムラサキムカシヨモギV. cinerea1種を見るにすぎないのに対し、タイ国には28種も記録されている。しかもこれまでのタイ国における野外調査で得られた資料標本の研究によって、この数はさらに増えそうである。この属の多くは広く東南アジアや中国西南部、さらにはヒマラヤに分布しているので、個々の種の実態を把握するためには近隣地域のものとの対比研究が必要である。しばしば種子植物の種属誌的研究は一通り終わったと云われるが、これは温〜寒帯域に生育するものに関してであって、熱帯産のものについてはやっと手がつけられ始めたというのが実情である。この論文でもCamchayaについて、2新種と2新変種が記載されている。Camchayaはショウジョウハグマ属に近縁で、カンボジア産のC. kampotensisをタイプとして記載された東南アジアの特産属である。冠毛は剛毛状で、1小花あたりせいぜい9本までと少なく、しかも容易に脱落する。また、すべて1年草で、平地の耕作地周辺や山地の路傍に生育する。一方、ショウジョウハグマ属は全世界の熱帯に広く分布する。冠毛は剛毛状で、小花あたり20本以上と多い。また、冠毛が容易に脱落するものもある一方で、短かい剛毛状や鱗片状のものを外側につけて2列性となるものも多い。一年草から樹高が10mを越える本格的な高木まであり、石灰岩地や落葉樹の林床などにも生育する。予備的に調査したタイ国産のショウジョウハグマ属10種余りの染色体数はいずれも2n=18, 36, 54とx=9の倍数であった。これに対し、Camchayaの各種はいずれも2n=20である。この染色体数の差に冠する評価は1000種を越えるとされるショウジョウハグマ属を検討する中で考えて行く必要がある。今得られる情報によると、アフリカ産のショウジョウハグマ属の1節Sect. Stengeliaはn=10の染色体数を持つが、2列性の冠毛を有するとされている。このことから染色体数20を有することと、冠毛を減少させたことに直接の関連はないといえる。ここで新しく記載したCamcnaya pentagonaは5稜形のそう果を持つことで特徴づけられる。これまでCamchayaのそう果は10稜形とされていたが、本種の存在で10稜形と5稜形であることになった。もう1つの新種C. spinuliferaの総苞片は多数からなり、いずれもきわめて細い披針形で、その縁にするどい刺を散生している。この総苞の特徴はC. montanaとよく一致するが、新種は次の点でC. montanaと異なる。すなわち、小花の長さは10mmで、C. montanaの3.5mmに比して倍以上である。また、頭花当りの小花数も約130個で、C. montanaの12から30個に比べて極端に多い。この子花の大きさと数による2型はその間に中間型があって連続するようには考えにくい。C. montanaのタイプ標本を検討していないので問題は残るが、これらの特徴で新種をC. montanaから区別し得ると判断した。ミスミグサ属Elephantopusについては植物研究雑誌57: 50 (1982)で解説している。Ethuliaは10種余りからなる属であるとする意見がある一方で、旧世界の単型属とする意見がある。私は未だ野外で本種に出逢っていない。過去に採集された場所から判断して、特殊な生育地に隔離されているようには考えにくい。一年草で、生える場所や季節によって姿を大きく変える性質があるのかもしれない。この論文では単型属とする意見に従った。Struchiumは単型属である。旧世界の熱帯に広く分布するが、熱帯アメリカ原産と云われている。私の採集した場所は耕作地横の小さな溝の中であった。ここに引用した他の標本も地名から判断すると、人手の加えられたところのようである。最近出版されたFlora Ceylonには比較的最近帰化したもので、最初の採集は1931年に行なわれたと記録されている。
著者
益村 聖
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.163-166, 1989-12

北部九州には,ドジョウツナギが平地や山間部の湿地にやや普通に産し,ヒロハノドジョウツナギが温帯域の清流沿いにごく希に産する。ところが,暖帯域の山足湿地に,〓生し匍匐枝をもつ点は前者的で,根茎を持ち葉鞘の格子紋が顕著な点は後者に似る中間的な固体群が4箇所で発見された。それでこの度,これら中間形と前二種を改めて入手し,詳細に比較検討した。体細胞染色体はドジョウツナギでは2n=40,ヒロハノイドジョウツナギでは2n=20であったが,中間形では調査した4産地とも2n=30を数えた。その他,花粉はいずれも中空,不定形,染色性(稔性)がなかった。これ等の事実から,この中間形はドジョウツナギとヒロハノイドジョウツナギを母種とする自然雑種であるとの結論に達し,学名:Glyceria×tokitana MASUMURA hybr. nov. 和名:マンゴクドジョウツナギと命名して発表する。
著者
田川 基二
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.1, no.4, pp.306-313, 1932-12-01

ホソバショリマ Dryopteris Beddomei O. KUNTZE. 本種は南印度,セイロン,ジャバ,フィリッピン,南支那,臺灣に知られて居たが肥前國藤津郡多良村,對馬國琴村にも産することを知つた.ハシゴシダの羽片が下方に漸次縮小したやうなもの.緒方正賛氏の圖集第4卷第167圖を参照されよ. カラフトメンマ Dryopteris crassirhizoma NAKAI var. setosa MIYABE & KUDO. ヲシダの羽片裂片が鋸齒〓乃至稍缺刻状鋸齒〓になつたもので,葉色も遙に美しい〓色のものである.從來樺太の特産と思はれてゐたが,今夏私はこれを甲斐國白根山北嶽に發見した.本州には新發見か. オホカウモリシダ (新稱) Dryopteris cuspidata CHRIST. カウモリシダ Dryopteris triphylla C. CHR. に似て遙に大形,尾状鋭尖頭の羽片が,五六對もあるもので,脈序にも差異を認る.ヒマラヤ,ジャバ.フィリッピン等に産するものであるが,土井美夫氏は西表島に,小泉博士は沖縄國頭郡佐手に採集された.但し模範型に比するに,葉片並に羽片は頗る小く,且つareola の数も少い.多分最小の一型で,變種とする程のものでもあるまい.本邦には新發見の一種であるから,次に簡單に記載しやう.根莖は匍匐,黒色.葉柄は25-35cm. 剛強,褐色,基脚黒色.葉片は25-38 ×10-15cm. 奇数羽状複生,上部羽片の腋には珠芽のあることもある.羽片は4-6對,疎在,斜上開出,短柄又は無柄,楕圓状披針形,8-12×2-2.5cm. 尾状鋭尖頭,通常尖端部稍刀状,楔脚,殆ど全〓,稍革質,羽軸及び兩面共に無毛,上面暗〓色,遊離細脈の先端部は上面に於て白色乃至稍帶赤色の斑點をなす.側脈は顯著脈間隙は中肋邊〓間に5-7,各嚢堆を有しない遊離小脈を入れる.嚢堆は圓形乃至長楕圓形,側脈間に2列,對をなす嚢堆は多く連續する.
著者
福岡 誠行 迫田 昌宏 三宅 慎也 永益 英敏
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.210-211, 1993-12-30
被引用文献数
1
著者
中西 弘樹 川内野 善治
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.169-171, 1995-04-28
被引用文献数
2
著者
加藤 雅啓
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.77-92, 1989-07-30

本稿では,1983年から1986年にかけて調査したモルッカ諸島のセラム島・アンボン島から採集したシダ植物標本に基いて,ハナヤスリ科(3属5種),リョウビンタイ科(3属6種),ゼンマイ科(1属1種),マトニア科(1属1種),ウラジロ科(2属10種7変種),カニクサ科(2属7種),キジノオシダ科(1属2種)を報告する。ハナヤスリ属のO. reticulatumと仮同定したもの(胞子形態はO. parvifoliumと一致)はビナイヤ山頂の稜線裸地で1985年1月5日に採集したものであるが,1983年11月23日に登った時は展葉前であったため発見できなかった。リュウビンタイ科のChristensenia aesculifoliaは掌状に切れ込む葉とミカンのように同心円上に配列する胞子嚢をもつ点で特徴的なシダであるが,セラムの低山地帯の湿った斜面で採集した。ゼンマイ科のLeptopteris alpinaは山地林下の陰湿な斜面にはえる木生シダ(幹の高さは1mかそれ以上)であり,葉が細かく切れ込み,透き通るように薄いのがゼンマイ科の中では独特である。この属はポリネシア・ニュージーランド・オーストラリアからニューギニアにかけて分布する南半球型のシダであり,セラム島はその西端に位置する。マトニア科のPhanerosorus majorはこれまでニューギニア西方のワイゲオ・ミソール・アル島から知られていたが,今回セラム島から採集した好石灰岩性シダである。近縁種P. sarmentosusはボルネオに産する。これらは葉に不定芽をつけ,ウラジロのように新しい羽片を次々と古い葉の上に生じる。配偶体はリボン状で,縁部の細胞から新しい配偶体を生じ,栄養繁殖する。成熟すると受精して胞子体をつくる。これらは乾いた石灰岩上という生育環境に対する適応であろう。新種として記載したコシダ属のD. seramensisは低山地の裸地にはえ,近縁種とは小羽片の長さと幅,毛,脈理の形質の組み合せで区別できる。コシダはセラム・アンボン両島に7変種が分布する。新変種var. seramensisを記載したウラジロ属のG. peltophoraは小羽片が短く三角状で,ソーラスが葉裏面の陥没部につく特徴がある。
著者
伊藤 元己
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.94-102, 1984-05-29

スイレン科の植物と単子葉植物との関係についてはよく議論される.一般的には双子葉植物として分類されているが双子葉植物と単子葉植物を結ぶ位置にあるという意見や単子葉植物に入れるべきだという意見も出されている.これはスイレン科の植物が単子葉植物的な特長をいくつか持つとされるからである.単子葉植物的な特徴のなかで胚と実生については以前(分類地理33巻143-148)詳しくは議論したのでそちらを参照にしていただきたい.スイレン属では花の維管束走向は複雑で今までの研究では十分にその基本的構造が理解されたとはいいがたい状況である.今回とりあげた材料のヒツジグサはスイレン属に属する多年生水草で北半球の暖温帯から冷温帯域に広く分布する種である.この種はスイレン属のなかでは小形の植物で花も直径1-2cmで,植物園の温室の水槽によく植えられている熱帯スイレンの仲間の花と比べてはるかに小さい.一般的には花は大きくなるとその中を走る維管束の数は増えそのため維管束走向も複雑になる.(CARLOUIST 1969).それで比較的単純な維管束走向を有するヒツジグサで詳しい観察をおこなった.上記の単子葉植物的特徴のなかで重要な特徴として不斉中心柱的な維管束配列をとりあげて単子葉植物との類縁関係について議論されることが多い.しかしながらスイレン属におけるWEIDLICHによる茎の維管束の観察や前回報告した花の維管束の形態の詳しい観察によると一見,不斉中心柱的と思われるのはスイレン属において維管束が特殊化しているために起因していると思われる.すなわち,維管束が原形成層から分化するとき木部柔組織により分断されサテライト管束と呼ばれる維管束が原生木部から分離された形で形成されるためである. 前回の報告ではこの一本の原生木部から分化する維管束複合体,すなわち1-6個のサテライト管束と原生木部が一般の被子植物と一本の維管束と相同であると結論した.このような特殊な維管束を持つために成熟時の花での観察だけでは維管束系の基本構造は複雑すぎてよくわからない.特にスイレン属では花床下部にreceptacular plexusと呼ばれる維管束が複雑にからみあった構造が存在する.このreceptacular plexusはスイレン亜科の他の属-コウホネ属,オニバス属,オオオニバス属,バルクラヤ属(現在はHydrostemmaという属名が使われる.)なおにもみられる.しかしながらこのような特徴にはジュンサイ亜科のジュンサイ属やフサジュンサイ層ではみられない.またスイレン科に近縁であると推測されるハス科においてもこのような構造はみられない.そこでスイレン科の系統を考える上でもこのreceptacular plexusの構造の理解が重要であると思われる.そこで成熟花の観察に加え維管束系の形成過程を追跡することにより花の基本構造の解明を試みた.花柄からあがってきた維管束はreceptacular plexusと呼ばれる構造を形成する.このplexusからガクへの維管束および花弁とおずいへ維管束を出す子房壁管束が出される.成熟時の花ではこのreeptacular plexusは複雑で構造がよく認識できない.しかし花芽の形成時からの分化過程の追跡によりplexusはgridling bundleと呼ばれるリング状の維管束とこの維管束から内側に向かって分枝される不規則な維管束から形成されていることが明らかになった.花弁,雄ずいへの維管束は子房壁管束から分枝されるがこのときには明確なギャップは形成されない.すなわち基本的にはopen vascular systemで形成されている
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.188-189, 1973-03-30
著者
秋山 弘之 山口 富美夫 Mohamed Maryati
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.135-141, 1999-02-28

マレーシア,サバ州キナバル山の登山道沿い,標高3300mの周辺から蘚類スギゴケ科Polytrichadelphus属の新変種P. archboldii var. kinabaluensisを報告した。この植物は,雌包葉の先端が朔に届くほど著しく短い朔柄を有していることで基本変種から区別される。1997年1月および12月の2回現地で観察したが,両シーズンとも多くの群落で胞子体を旺盛につけていた。本属はおもに南米を中心に分布しており,アジア・太平洋地域ではニュージランドとニューギニアからそれぞれ1種が報告されているのみである。北半球からは初めての産地であり,すでにキナバル山から見つかっているナンジャモンジャゴケなどともに植物地理学的に興味深い分布を示す蘚類の一例である。
著者
古賀 啓一 角野 康郎 瀬戸口 浩彰
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 : bunrui : 日本植物分類学会誌 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.121-130, 2006-08-20
被引用文献数
3

キンポウゲ科バイカモRanunculus nipponicusは,分布の南限にあたる近畿地方で絶滅が危惧されている水生植物である.近畿地方における本種の生育地の特定と,生育地の現状について2004年に調査を行った.その結果,標本に記載された生育地15ヵ所のうち, 6ヵ所でバイカモの生育が確認されず,過去に存在していた生育地の40%が失われたことが明らかになった.その一方で,滋賀県では新たな生育地3ヵ所を発見した.バイカモは近畿地方において現在12ヵ所で残存しており, 5ヵ所が滋賀県に, 7ヵ所が兵庫県に分布していることが明らかになった.今回の調査で確認できた生育地の半数以上は,河川改修工事によって川岸や川底をコンクリートで護岸された水路や河川であり,この場合には河床に土砂が堆積していた.土砂には埋土種子が含有される可能性があり,生育地の復元に利用できることも考えられる.近畿地方に現存するバイカモの生育地12ヵ所のうちで保護されている場所は2ヵ所のみであり,他の生育地においても保護施策が必要である.