著者
石井 哲雄 近藤 純正
出版者
日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.310-324, 1993-05-31
参考文献数
5
被引用文献数
3

東シナ海・黄海・ボッ海における熱収支の季節変化を調べた.海洋運搬熱の発散値F_&ltDIV&gtの季節変化を重点的に調べた(F_&ltDlV&gt&gtOは流出,F_&ltDIV&gt&ltOは流入).その結果によれば,海洋運搬熱の発散値F_&ltDIV&gtは2~5月の期間には,九州西方から久米島を通り石垣島にかけての帯状のメッシュに負の最も大きな値を持ち,そのメッシュから北西に遠ざかるにつれて,黄海の西側から正になりはじめ,しだいに正の領域が増える.それに呼応して貯熱量Sが正になりはじめて,しだいに大きくなってくる.従って貯熱量Sの大きな値の分布と海洋運搬熱の発散値の負で絶対値の大きな分布領域とが,大体一致している.この2~5月の期間,貯熱量を支配する因子は海洋運搬熱の発散値とみなすことが出来る.7~8月の期間,海洋運搬熱の発散値は九州南方と西方の狭いメッシュだけ負となり,ここに海洋運搬熱が収束するため,貯熱量はここが一番大きな値を示す.海洋運搬熱の発散値は九州南方と西方以外は,全域で正の値を示し,その絶対値は黄海西部とボッ海で大きい.貯熱量が九州南方と西方のメッシュで最大になる理由は前報告(石井・近藤,1987)で示したように7~8月は海面が大気から正味吸収する熱が黄海とボッ海で一番大きいために,大気から海洋へ正味入った熱量が海洋運搬熱として黄海とボッ海から東シナ海へ流出してここで収束するのに加えて,この海域自体が大気から正味吸収した熱量(大きな量ではないが,黄海の半分程度の熱量)が追加されるためである.このようなメカニズムで夏の期間に大量の熱収束が九州南方と西方のメッシュに起こるので,このメッシュの貯熱量が最大になり,このメッシュを含む東シナ海に大量の熱が貯えられる.しかし10月以後,海洋運搬熱の発散値は,ほとんどのメッシュで負となり始め,1月に南西諸島北方海域に負の最大値ができる.秋から冬にかけて(9~1月),海面が大気から正味獲得する熱が負で絶対値が大変大きくなるので,海洋運搬熱の流入があっても,貯熱量は減少し続ける.年間を通してみると,対象とする全海域に海洋運搬熱として周辺から入ってくる熱量は年平均値で7.4×10^13Wとなり,前報告(石井・近藤,1987)で求めたように海面が大気へこれだけの熱量を年平均で失う.
著者
板野 稔久
出版者
日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.57, no.7, pp.513-516, 2010-07-31
参考文献数
8
著者
杉山 昌広 西岡 純 藤原 正智
出版者
日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.58, no.7, pp.577-598, 2011-07-31

気候工学(ジオエンジニアリング)は「人為的な気候変動の対策として行う意図的な惑星環境の大規模改変」である.緩和策・適応策の代替にはならないが,温室効果ガス排出削減がなかなか進まない中,地球温暖化が危険な水準に達してしまうリスクを踏まえ,昨今,気候工学は欧米を中心に注目を浴びている.IPCCの第5次評価報告書でもレビューの対象となった.気候工学は,太陽放射管理(SRM)と二酸化炭素除去(CDR)の二つに大別される.SRMは太陽入射光を減らすことで気温を低下させる.CDRは二酸化炭素のシンクを促進するか工学的回収をして地球温暖化の原因を除去する.例えば海洋に鉄を散布し光合成を促進させる手法が提案されている.数ある気候工学で最も注目されているのはSRMの一つである成層圏へのエアロゾル注入である.火山噴火後の気温低下が示すように物理的な裏づけがあるが,降水の地理的パターンを変えるなど副作用も懸念されている.成層圏エアロゾル注入を主な対象とする気候工学モデル相互比較実験GeoMIPも立ち上がった.地球温暖化対策とはいえ,気候を直接改変する考えには,さまざまな社会的な課題がある.気候工学は一国が実施すると地球全体の気候に影響がでるため,何らかの国際枠組を必要とする.短期的には自然環境での実験についてのガイドラインが不可欠であり,国際的な議論がはじまっている.
著者
神田 学 張 翔雲 鵜野 伊津志 川島 茂人 高橋 裕一 平野 元久
出版者
日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.267-277, 2002-04-30
参考文献数
20
被引用文献数
3

地域気象モデルに花粉の移流・拡散・発生・沈降の物理プロセスを組み込んだ花粉予測モデルを開発した.花粉発生フラックスは・スギ林上の集中観測結果と物理的考察に基づき大気飽差の関数としてモデル化された.スギ林データベースや花粉自動観測システムが整備されている山形盆地を対象として検証計算を行い,花粉個数濃度の日変動特性が概ね良好に再現された.とりわけ花粉が夜間の弱風時に盆地内で滞留し高濃度化する現象が計算で示された.また,地表面摩擦速度や花粉粒子の沈降速度が花粉発生に及ぼす影響を感度分析により検討した.
著者
久野 勇太 日下 博幸
出版者
日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.61, no.8, pp.661-667, 2014

2002~2009年(8年間)の6~9月のアメダス10分値データおよび愛知県・岐阜県の川の防災情報10分間雨量データを用いて,濃尾平野周辺における強雨発生頻度の地理的特性を調査した.熱的局地循環が発達するような条件下での強雨に着目するために,対象期間全日と濃尾平野内で真夏日を記録した午前無降水日の2つの対象日ごとに解析を行った.その結果,以下の傾向が見られた.(1)2つの対象日ともに,10mm/hour以上の1時間降水量を観測した日数は濃尾平野近傍の北~北東の山地で多い.(2)濃尾平野の平均的な強雨日数は,愛知県沿岸部における強雨日数に比べて多い.(3)濃尾平野近傍の北~北東の山地では,15~18時に強雨発生頻度の極大値が存在する.ただし,関東平野とは異なり,濃尾平野の内陸部では時間帯による強雨発生頻度の極大値は見られない.(4)10mm/hour以上の強雨発生日は,強雨の非発生日に比べて濃尾平野周辺の大気が不安定な傾向にある.
著者
岡田 憲治 牧原 康隆 新保 明彦 永田 和彦 国次 雅司 斉藤 清
出版者
日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.349-356, 2001-05-31
参考文献数
16
被引用文献数
17
著者
佐々木 華織 菅野 洋光 横山 克至 松島 大 森山 真久 深堀 協子 余 偉明
出版者
日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.51, no.12, pp.881-894, 2004
参考文献数
25
被引用文献数
3

山形県庄内地方に発生する清川ダシの集中気象観測を行い,峡谷出口に強風域が局限される事例(Obs-1)と,全域で強風の事例(Obs-2,3)を観測した.峡谷出口でのパイバル2点観測の結果,東風成分の高度は事例によって異なり,Obs-2では下層200~400mに最強風帯が,その上空付近には1m/s以上の強い上昇流が発生していた.峡谷出口の風速は,峡谷内の気圧傾度によって加速された,地峡風の風速と同様の傾向であったが,Obs-1ではばらつきが大きかった.付近の高層データから,全ての事例で逆転層が認められた.Obs-1では上流である仙台の逆転層が清川周辺の山脈と同程度と低く,フルード数は0.11であり,峡谷出口付近でHydraulic jumpが発生していた可能性がある.一方,Obs-2,3では仙台の逆転層が高く,フルード数は最高0.58で,強風が平野全域に現れやすい状況であったと考えられる.
著者
山口 隆子 Takako YAMAGUCHI 東京都環境科学研究所基盤研究部 The Tokyo Metropolitan Research Institute for Environmental Protection
出版者
日本気象学会
雑誌
天気 = Tenki (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.265-275, 2006-04-30
参考文献数
44
被引用文献数
1

日本における百葉箱の歴史と現状について調査した結果,以下のことが明らかになった.19世紀中頃のイギリスで開発が始まった百葉箱は,1874年に日本へ導入され,1875年からの観測に使用したものが最古の記録であり,1886年までに「百葉箱」と命名されていた.百葉箱の読み方は,「ひゃくようそう」と「ひゃくようばこ」が混在しているが,小学校理科教科書に関しては,1969年以降「ひゃくようばこ」もしくは振り仮名なしで統一されていた.百葉箱の現状であるが,現在,気象庁の観測では百葉箱は使用されておらず,教育現場においては,1953年の理科教育振興法公布以前から設置されている.また,その設置状況は,東京都のヒートアイランド観測を行っている106校の東京23区内の小学校に関して,設置地表面状態に関してはほとんどの学校が気象庁の設置方法に準拠しているものの,日当たりに関しては37%,風通しに関しては43%,扉の向きに関しては37%の学校しか準拠しておらず,設置基準全ての項目を満たしている学校は106校中4校のみであった.さらに,理科の授業における使用状況は32校中24校で使用しているものの,観測を実施している学校は2校のみであった.
著者
河村 武
出版者
日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.19, no.9, pp.467-483, 1972-09
著者
村上 正隆
出版者
日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.50, no.9, pp.715-720, 2003-09-30
参考文献数
1
被引用文献数
2
著者
原岡 秀樹 遠峰 菊郎 川端 隆志 宮本 一彦 深渡瀬 角太郎
出版者
日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.369-379, 1995-06-30
参考文献数
14
被引用文献数
2

三沢飛行場における海霧の予報に資するため,1992年6月22日から7月14日の間,飛行場の東南東約6kmに位置する三沢漁港において,小型係留ゾンデを用いて大気境界層内の観測を行い,海霧の発現前後の温湿度場及び風系の鉛直構造を調べた.海霧発現時には,高度300m以下に気温傾度が2℃/50m程度の逆転層が形成され,その底部は200m付近に位置することが多く,混合層内よりも逆転層下層の方が比湿が大きくなっていることが分かった.また,海霧が発現した場合は逆転層内に比湿の大きな湿潤域が存在していたのに対し,発現しなかった場合は湿潤域が存在しなかった.逆転層下層において比湿が小さいと,ここに湿球温位から見て不安定な層が形成され,逆転層底部での乱渦混合が凝結を妨げるように働くと考えられる.このことから,逆転層内に比湿の大きな湿潤域を持つ,逆転層下層において湿球温位からみて安定な場で海霧が発現し易いことが分かった.
著者
中西 幹郎 原 由紀男
出版者
日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.91-103, 2003-02-28
参考文献数
11
被引用文献数
9

夏の午後に短時間強雨をもたらす熱雷・界雷性の降水系の降雨が,東京都市部(23区を想定)で強くなることがあることに注目し,23区でその周辺よりも降雨が強まった日(強化日)とそうでなかった日(非強化日)を比較して,23区での降水系の降雨強化に結びつく局地風の特徴を調べた.強化日,非強化日ともに,23区で降雨が始まる2時間前,鹿島灘からの東寄りの風と相模湾からの南寄りの風の少なくとも一方が吹いていた.このような海風系の局地風により,強化日には23区に強い収束が継続し,降雨開始時刻になると急速に増強した.このとき,強化日6件中4件で,降水系に伴う局地風すなわち冷気プールからの発散風が確認できた.非強化日には強い収束があっても継続せず,発散風があっても収束の増強は確認できなかった.降雨開始前の海風系の局地風による強い収束の継続と降雨開始頃の主に発散風による収束の増強が,23区での降水系の降雨強化に結びつくことが示された.
著者
大久保 篤 市川 寿 田中 強 河野 智一 藤部 文昭
出版者
日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.227-234, 2005-04-30
参考文献数
8

諏訪湖の沿岸では, 冬季夜間の著しい低温時に周期数十分, 変動幅数℃の大きな気温変動が観測されることがある.この現象を解明するため, 気象庁のルーチン観測資料を解析するとともに, 2003年1~2月に諏訪湖周辺で野外強化観測を行った.気温変動は, 諏訪湖が全面結氷し積雪があり, 晴れて風が弱まった夜に発生していた.また, 気温変動はほぼ諏訪盆地内全域で発生しているが, 変動幅は湖岸に近い地点ほど大きく, 気温が急降下するタイミングは湖畔の方が早かった.気温変動に対応して風向も変動し, 湖からの風のときに前後の時間帯に比べて低温となる傾向があった.さらに, 気温変動の発生する時は, 地上から高度50m付近にかけて冷気層が存在し, 地上気温の変化と対応してその厚みが変動していた.これらは, 「諏訪湖上に現れる冷気層の崩壊・流出と再形成のサイクルが気温変動に関与している」可能性を示唆している.