著者
狩谷 伸享
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.78-88, 2021-01-15 (Released:2021-02-19)
参考文献数
20
被引用文献数
1

まだ超緊急帝王切開を経験したことがない,という麻酔科医なら一度は超緊急帝王切開のシミュレーショントレーニングを経験されることをお勧めする.指導者としては,わずかな工夫で費用対効果の高いシナリオシミュレーションを実施して,学習者の満足を得たい.超緊急帝王切開のシナリオシミュレーションの実施の工夫について,筆者の経験を紹介する.
著者
横田 美幸 平島 潤子 大里 彰二郎 見市 光寿 風戸 拓也
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.573-585, 2019-09-15 (Released:2019-10-29)
参考文献数
8

麻酔科の診療報酬の変遷を俯瞰し,麻酔科医の立ち位置を考察した.麻酔科医は,その活躍や国民からの期待に沿って評価されている.麻酔料の基本,全身麻酔料(L008)の1986年を1として,2002年では1.74と大きく増加している.最近の麻酔科への逆風は,一部の麻酔科医師の不適切な行動にあるのかもしれない.この逆風の結果,麻酔料の基本部分は1.74から1.71に下げられ,それは他の部分に配分された.麻酔科の領域は広く,麻酔科医の責任は重い.この期待に応えるためには,安全性を確保した上での効率化,すなわち麻酔科医の行うべき範囲と他に任せることを明確にすることであり,そのことが調和のとれたチーム医療へと帰結していく.それを成し得たチームが,今後の変革に対応することができるであろう.
著者
宮原 誠二 田路 大悟
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.070-074, 2013 (Released:2013-03-12)
参考文献数
12

術後鎮痛として静脈内フェンタニル持続投与を行った249例を対象に,ジフェンヒドラミン・ジプロフィリン配合薬(以下DD配合薬)とドロペリドールのPONV予防効果を,男女別に後ろ向き比較試験として検討した.DD配合薬は,ドロペリドールに比べて男女ともPONVを有意に抑制した.さらに,その使用により,ドロペリドール投与時に高頻度に見られためまいや浮遊感などの前庭刺激症状も減少した.また,吸入麻酔を受けた女性の非喫煙者はPONVの高リスク群とされるが,それらの患者に対してもDD配合薬は優れた予防効果を発揮した.DD配合薬は,安価で副作用も少なく,オピオイド使用時のPONV予防策として,有用な選択肢の一つとなる可能性がある.
著者
藤田 宙靖
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.33, no.7, pp.990-998, 2013 (Released:2013-12-14)
参考文献数
5
被引用文献数
2 1

訴訟法学上,古くから,「裁判(司法)は法の執行なのか,裁判が法を創るのか」ということが問われてきた.最高裁判事としての私の体験に照らせば,我が国の現行法制度下,裁判官の行動規範として期待され,また機能しているのは,「具体的な個々の紛争につき最も適正な解決を図る」ということであり,決して法律の厳密な適用や憲法・法の一般原理等の実現そのものが自己目的とされているわけではない.従来の最高裁判例の意義を正確に理解するためにも,この点についての理解は極めて重要である.
著者
横田 敏勝
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.181-189, 1994-04-15 (Released:2008-12-11)
参考文献数
20

傷害に対する組織反応は,急性炎症の第1相,白血球反応の第2相,修復過程の第3相に分けられる。第1相,第2相では,内因性発痛物質と発痛増強物質が痛みを生じる。第3相では再生神経線維の側芽が痛みの原因になる。Aδ侵害受容線維の伝達物質はグルタミン酸,C侵害受容線維の伝達物質はグルタミン酸とニューロペプチド(P物質等)である。C侵害受容線維の興奮頻度が高まると,NMDA受容体を介する反応が加わって,2次ニューロンの反応性が高まる。この状態が続くと,ニューロン細胞体のCa2+濃度が上昇して,一酸化窒素合成酵素が活性化され,前初期遺伝子の発現が誘導される。これが引き金になって蛋白質の合成が始まる。
著者
光畑 裕正
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.479-487, 2012 (Released:2012-10-11)
参考文献数
25
被引用文献数
4 5

全身麻酔中に発症するアナフィラキシーは最も重篤な合併症の一つである.麻酔中は常に発症の危険性を念頭に置き,もし発症したら可及的速やかに治療しなければ死に至ることもある.迅速にアナフィラキシーと診断し治療を開始することが救命率を上げる最適な手段である.原因薬物として筋弛緩薬の頻度が最も高い.循環虚脱や重度な気管支痙攣の場合には心肺蘇生に準じた治療が必要である.気道の確保,呼吸の管理,循環の管理(救急蘇生のCAB)を行う.第1選択薬はアドレナリン,酸素,補液であり,ステロイドや抗ヒスタミン薬はあくまで第2選択薬である.アナフィラキシーの機序確認のため最低限度βトリプターゼの測定を行う.
著者
川村 隆枝
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.293-303, 2007 (Released:2007-08-12)
参考文献数
16

ラリンジアルマスク (LMA) は, 気管挿管とフェイスマスクの中間に位置する気道確保の一手段である. 利点としては, 侵襲が少なく, 操作が簡単であり, 咽頭喉頭を損傷することが少ないこと, 欠点としては, 誤嚥の危険性, シール圧の限界があげられる. 確実性・安全性に関しては, 気管挿管には及ばないが, フェイスマスクに比べればはるかに優れており, 特に挿管困難症例に有益である. しかし, 残念なことにLMAの利点を経験することなく遠ざけている麻酔科医も多い. 本稿では特に未使用者のためにLMA誕生の歴史と背景, 使用方法の実際的なコツとポイントに重点をおいて記述した. 開発者Dr. Brainの意図を理解し, 一人でも多くの麻酔科医がその恩恵にあずかれることを期待する.
著者
青柳 誠司
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.697-702, 2013 (Released:2013-11-09)
参考文献数
7

人間は蚊に刺されて吸血されてもほとんど痛みを感じない.高速度カメラを用いて透明なポリマー製の人工皮膚への蚊の穿刺の様子を詳細に観察し,その結果に基づいて蚊の穿刺メカニズムを推測した.蚊の口器のうち,穿刺に重要な役割を果たしている大顎と,その両側の小顎2本の合計3本の針について,それらと同様の形状・寸法を持つ3本の針をマイクロマシニングの技術を用いて工学的に実現した.これらの針を蚊と同様に互いに位相差を持たせて協調動作させ,人工皮膚への穿刺実験を行った結果,穿刺抵抗力が1/3~1/4に低減されることが確認できた.痛みと穿刺抵抗力には相関があるため,痛みの低減が期待できる.
著者
鶴見 友子 大津 敏 池田 修 崎尾 秀彰
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.176-181, 2007 (Released:2007-03-30)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

待機的胃癌手術に持続硬膜外麻酔併用全身麻酔を行ったところ, 術直後からTh10以下の感覚および運動神経麻痺を呈した症例を経験した. 術後の硬膜外造影で血腫は否定された. MRIおよび脊髄造影の所見から脊髄動静脈奇形 (arterio- venous malformation: AVM) と診断した. 胸髄完全麻痺のため, 外科的治療の適応がなく, 治療はメチルプレドニゾロンの大量投与とリハビリとなった. 2ヵ月後対麻痺が回復することはなく, 合併症の悪化により死亡した. あらかじめ無症候性の脊髄AVMを診断することは困難であるが, 硬膜外麻酔後に対麻痺が出現したときには留意すべき疾患の1つと考える.
著者
中村 公昭
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.706-711, 2017-09-15 (Released:2017-10-20)
参考文献数
11
被引用文献数
1

消毒薬は消毒できる微生物の範囲から3つのレベルに分類されているが,単に効果の強い消毒薬を使用すればいいというわけではなく,使用目的に応じて適切な消毒薬を選択する必要がある.消毒薬は成分,溶媒,添加物によって消毒効果や適用可能な範囲が異なるため,その特徴を理解し適正に使用しなければ期待する効果を得られない,また副作用を生じる可能性がある.手術室で使用する主な消毒薬を取り上げて,各消毒薬の使用方法,特徴,使用上の留意点について紹介する.
著者
小川 節郎
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.31, no.7, pp.903-909, 2011 (Released:2011-12-13)
参考文献数
9

神経障害性疼痛はペインクリニック診療上,治療が困難な疼痛性疾患の一つである.その理由は疼痛の発生機序が複雑で,機序に見合った鎮痛薬や鎮痛の手段の選択が明確になっていないことがあげられる.本稿では,末梢の神経線維の状態,本症の末梢性疼痛機序に関し,異所性イオンチャネル,神経成長因子の関与,リゾホスファチジン酸の作用,エファプスの発生,アロディニアの発生機序,グリアの関与などにつき解説し,治療においては疼痛機序に見合った鎮痛法を選択することの重要性を強調した.また,近年,本症に対する薬物療法に注目が集まっているので,最近の情報についても解説した.
著者
村田 寛明
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.184-192, 2019-03-15 (Released:2019-04-19)
参考文献数
18

胸壁で超音波ガイド下神経ブロックを行う際の注意点について胸部傍脊椎ブロックとPecs blockに焦点を当てて概説する.これらの超音波ガイド下神経ブロックでは標的とする神経が描出されないため,薬液を注入するコンパートメントを同定することが重要である.解剖を意識したプローブ操作が必要であり,各ブロックに共通の注意点は気胸と血管誤穿刺を回避することである.
著者
檀 健二郎
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.160-162, 1990-03-15 (Released:2008-12-11)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1
著者
冨安 志郎 橋口 順康
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.561-569, 2006 (Released:2006-10-25)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

がんが発生すると, がんの増大に伴う機械的刺激やがんが誘導した炎症細胞から放出される発痛物質により持続的な侵害刺激が発生する. やがて疼痛伝達系全体に感作が発生すると, 病巣から離れた皮膚の痛覚過敏, アロディニアなどの知覚異常, 立毛筋収縮や発汗などの交感神経刺激症状, 筋肉の収縮, 周囲の圧痛といったいわゆる関連痛が発生する. 内臓や骨などの深部体性組織に発生したがんでしばしばみられる現象で, 内臓や骨が侵害刺激を入力している脊髄レベルに同様に侵害刺激を入力している皮膚, 同脊髄レベルに遠心路核をもつ筋肉, 交感神経に症状が出現する. 痛みの部位に病巣がない場合は, 関連痛を念頭において異常のある皮膚, 筋肉のデルマトーム, マイオトームから責任脊髄レベルを同定し, そのレベルに侵害刺激を入力する内臓や骨の異常を検索することが病巣の早期発見につながる. また, 関連徴候として神経障害性疼痛様の知覚異常が出現することを知っておくことは鎮痛薬選択の意味から重要である.
著者
林 玲子
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.331-336, 2012 (Released:2012-07-05)
参考文献数
23

分娩の痛みは個人差があるが,陣痛の刺激により母体の血圧上昇,過呼吸を生じるような場合は二次的に臍帯血管の収縮,子宮胎盤血流低下をきたし,さらには間接的に胎児への酸素供給低下などの影響を起こしうることがわかっている.よって硬膜外麻酔による無痛分娩は,母体の痛みを取り除くだけではなく胎児に起こりうる二次的な悪影響を防ぐことが可能である.母体への硬膜外麻酔が与える胎児・新生児への影響は直接的,間接的なものが考えられるが,臍帯血流の維持を念頭に硬膜外麻酔による合併症の早期発見がなされるような麻酔管理が行われていれば,麻酔の利点を最大限に胎児・新生児に還元することが可能である.
著者
天野 完
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.237-242, 2008 (Released:2008-04-16)
参考文献数
16

分娩時の不安感, 疼痛など過度のストレスによって, 過換気により酸素解離曲線は左方移動し, カテコールアミンの遊離などから子宮胎盤血流量は減少する. 胎児にとっては低酸素負荷となり, 特にハイリスク妊娠は無痛分娩の適応となる. 無痛分娩には母児にとって安全で, 十分な効果が得られ, 分娩予後や周産期予後に影響しない方法が望ましく, 硬膜外麻酔が第一選択の方法である. 低濃度局所麻酔薬とオピオイドを併用した持続硬膜外麻酔が主流となりつつあるが, PCEA (patient-controlled epidural analgesia) やCSEA (combined spinal-epidural analgesia) も行われている.
著者
坊垣 昌彦
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.232-237, 2017-03-15 (Released:2017-04-21)
参考文献数
2

東京大学医学部附属病院は2011年4月から総合周産期母子医療センターに指定されているが,産科からの要望により2013年4月に麻酔科専門医を配置するための講師ポストが新設され,これを契機に周産期医療に麻酔科がより積極的に関与することが求められるようになってきている.本稿では,筆者が周産期センターのポジションを得てからの約2年間で東大病院での周産期医療がどのように変化してきたかを振り返り,周産期センターに麻酔科医のポジションを得た意義について検討を加えた.他施設での周産期医療の安全性向上のために参考としていただければ幸いである.
著者
小田 裕
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.523-533, 2010 (Released:2010-10-28)
参考文献数
22

長時間作用型局所麻酔薬による難治性の心毒性に対しては,有効な治療法がないとされてきた.脂肪乳剤がブピバカインによる心停止からの蘇生に有効であることが動物実験で示されて以来,臨床症例においてもその有用性が示されつつある.海外のガイドラインにおいては,“20%イントラリピッド1.5ml/kg bolus投与後,0.25ml/kg/minで持続投与”が治療法として推奨されている.局所麻酔薬中毒に対して使用した脂肪乳剤による副作用は報告されていないが,多量の向精神薬による意識障害,心停止に対して使用した症例で,呼吸器系合併症が生じたことが報告されており,その使用に際しては注意を要する.
著者
市田 蕗子
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.674-683, 2014 (Released:2014-10-25)
参考文献数
28

小児循環器医学の診断技術の進歩や内科的・外科的治療により,重症の先天性心疾患でも生存率は飛躍的に向上した.一方で,精神神経発達の異常が予想を超えて高頻度であることが明らかになってきた.この発達の異常には,染色体異常や遺伝子異常などの患者固有の因子,心疾患に伴う脳循環の異常や低酸素,あるいは手術や内科的治療に伴う危険性などの因子のほか,家庭や学校,職場などの環境の因子も影響を及ぼしている.先天性心疾患児の発達障害は,認知,社会性,言語,注意欠陥など高次脳機能の障害が特徴的である.早期から,心理発達検査スクリーニングを行い,発達異常を認識し,心理カウンセリングなどのサポートを始めることが重要である.