著者
馬場 治 除本 理史 川辺 みどり
出版者
東京水産大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

アサリの全国生産量は1980年代半ばまでは12〜14万トン程度で比較的安定して推移してきたが、それ以降一貫して減少を続け、近年では5万トンを下回る水準にまで低下している。その中にあって、かつて熊本県に次ぐ全国2位の産地であった千葉県は、東京湾の臨海部開発の影響等を受けて全国の産地の中でもいち早く生産を低下させてきた。しかし、1980年代前半に生産低下に歯止めがかかり、それ以降は1万トン前後で比較的安定し、近年では愛知県に次ぐ全国2位の生産を維持している。千葉県における生産維持の背景として、木更津沖合に比較的条件のよい干潟が残されていたことと、そこを利用した養貝事業(特定区域に稚貝を放流し、成長してから採捕する養殖事業)が、地元漁協によって積極的に実施されていることがあげられる。千葉県の東京湾沿岸部では古くからノリ養殖とアサリ漁業が地域経済を支える重要な産業であったが、沿海部埋立が進行した今日においても木更津周辺においては依然としてこれらの漁業が重要な位置を占めている。そこで、残された干潟の効率的利用と地域産業振興という観点から、漁協だけでなく地元自治体も種苗放流に対して財政支援策を講じてきた。また、木更津周辺では、干潟を利用た潮干狩り事業が各地区漁協の手で行われており、都市部に位置することから多くの都市住民の関心を集め、木更津漁協だけでも年間約8万人にのぼる潮干狩り入場者がある。潮干狩り事業は都市住民に貴重な自然環境の中でのレクリエーション機会を提供するとともに、漁協経営の維持にとっても重要な位置を占めている。このように、干潟の存在は、漁業者および漁協の経営維持という機能だけにとどまらず、都市住民に対するアメニティーの提供、そしてレジャー客の来訪にともなう地域経済への波及効果等、この地域にとっては極めて重要な意義を持っていることが分かった。今後は、干潟の持つこのような重要な意義に注目して、臨海部開発と干潟の保護のあり方を注意深く検討する必要があろう。
著者
平山 信夫 桜本 和美 山田 作太郎 松田 皎 小池 篤
出版者
東京水産大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

漁業管理方策を立てる際、漁具の漁獲機構を予め知っておく必要がある。本研究は刺網の漁獲機構について、漁獲量を決定する因子(漁獲制卸操作因子)による数理モデル式によって表現し、漁獲性能決定パラメータとしての漁獲効率の諸性質と、その推定方法を研究した。さらに漁獲と魚群行動、および網目の漁獲選択と漁獲効率との関係をニジマスを用いて、野外水槽において実験的に調べた。また暗闇時の魚群行動の計測法、明暗変化と漁獲との関係も同時に行った。得られた結果は次のとおりである。(1)漁獲モデル式:漁獲式を既往の研究結果に基づいて次のように決定された。すなわち、単位漁具がt日浸漬した時の漁獲量C(t)はC(t)=k_1/(k_1-k_2)NoX(e^<-k2t>-e^<-k1t>)・で示される。ここでk_1は羅網係数、k_2は脱落係数、Noは漁獲可能魚群量である。異体類ではk_1=5.00、k_2=0.229、No=1.203kgと推定された。(2)漁獲効率の定義式と操業管理パラメータ:漁獲効率K(t)はK(t)=C(t)/Noと定義される。従って前項の式を変形して得られる。この式を用いて、管理のパラメータ、最大漁獲効率K_<max>=(k_1/k_2)k_2/(k_1ーk_2)温、最適浸漬日数t_m=1/(k_1-k_2)×lnk_2/k_1、脱落率δ(t)等が得られた。(3)漁獲効率と網目選択率:両者の関係を理論的に調べるとともにニジマスを用いて実験を行い、両者の関係を実際的に確めた。さらに選択率(絶対・相対)の吟味を行った。(4)魚群行動と漁獲効率の関係:野外水槽において、ニジマスによる暗闇水中における魚群行動計測法を赤外線エリアセンサおよびケミカルライトを用いて、その実用性を確めた。またこの実験と同時に、明暗時の照度匂配と漁獲効率の関係を統計的実験計画法に基づいて実施し、照度匂配の急激な時に漁獲効率の高いことを確めた。
著者
金森 修
出版者
東京水産大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

最近のクローン羊の事例などにおいても明らかなように、医学、生物学などの生命科学は専門内部での議論にとどまることなく、その成果が社会的、思想的に外挿されることで社会的波及性をもつ。本研究は、科学内在的に当時の科学の実質的内容を追いかけると同時に、それらの成果が当時の社会の思想的側面にどのように波及していったのかを具体的に調査することを目的とする。この問題設定の霊感源は、筆者が長く研究を続けてきたフランスのエピステモロジーに根ざすものである。この研究が始まる時点で予定していた進化論思想史の一端としてのル・ダンテク論や、19世紀生理学史を彩るクロード・ベルナール論などはすでに完了した。ただしベルナール論については、共著者まちの状態で、刊行にはまだしばらく時間がかかる。平成9年度は黎明期細菌学と黎明期免疫学の研究を主に予定していたが、その後者の研究はすでに開始されたが、前者は依然未完了に留まっている。ただ資料収拾は完了した。その代わり、昭和期に活躍した特異な生理学者、橋田邦彦の調査が進み、専門雑誌にその研究成果を発表することができた。また、今世紀の代表的文芸理論家であるバフチンが若い頃、精神分析にどのような対応を示したのかをめぐる論考、さらにヘッケルの生物発生原則が精神分析や解剖学など、周辺領域にどのように受容されてそれぞれの領域で独自の論考の霊感源となっていたのかをめぐる論考を完成することができた。総体的にみて、三年間続いた本研究は、一九世紀後半から二十世紀初頭という比較的限られた時代状況のなかにおいてさえ、実に多様なアプローチが可能であることを改めて私に確認させてくれた。研究成果としては、進化論思想史、薬理学思想史、免疫学思想史、生理学思想史、現代の実験室研究、生物発生原則という単一概念の外挿研究など、いろいろな場面での多角的な研究ができたと思う。
著者
大槻 晃 橋本 伸哉 土屋 光太郎 佐藤 博雄 吉田 次郎 和田 俊 石丸 隆 松山 優治 前田 勝 藤田 清 森永 勤 隆島 史夫 春日 功 鎌谷 明善 村野 正昭 多紀 保彦 平野 敏行 白井 隆明 荒川 久幸 兼廣 春之 平山 信夫
出版者
東京水産大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

本研究はROPME-IOCの要請に答えるものとして計画された。本年度の主目的は、調査海域を更に広げて昨年と同様な継続的な観測を行うと共に、ROPME側から要望のあったホルムズ海峡における流向・流速の係留観測を再度試みることであったが、ROPME側で係留流速計の調達が出来なかったこともあり、急きょ底生動物採取等に時間を割り振ることになった。又本年度は、最終年度となるため、ROPME事務局のあるクウェートに入港するこを計画した。本研究グループは、研究練習船「海鷹丸」を利用する海域調査班(研究者7名、研究協力者8名)と車で海岸を調査する陸域調査班(研究者4名)とに分かれて行動した。海域班としては、ROPME事務局が計画した調査航海事前打ち合わせ会(9月26〜27日)に、研究代表者と「海鷹丸」船長2名がクウェートに赴き航海計画、寄港地、ROPME側乗船人数等を伝え、要望事項を聴取した。陸域調査班は、10月28日成田を出発し、バハレーンを経て、クウェートに入り、車を利用して海岸に沿って南東に下り、サウジアラビアのアルジュベールで調査を終了し、11月7日に帰国した。各地点で原油汚染・被害の聞き取り調査、研究試料・魚類試料の収集、水産物の流通・利用の調査を行った。海域調査班は、11月15日に遠洋航海に出発する「海鷹丸」に調査研究器材を積載し、アラブ首長国連邦アブダビ港で乗船すべく12月11日成田を出発した。シンガポールを経て、アブダビに到着、13日には「海鷹丸」に乗船し、器材の配置等研究航海の準備を行った。12月14日ROPME側研究者14名(クウェート4名、サウジアラビア7名、アラブ首長国連邦1名、オマーン1名、ROPME事務局1名。尚、カタールから1名乗船予定であったが出港時間迄に到着しなかった)をアブダビ港で乗船させ、12月15日朝調査を開始するため、出港した。先ず、ホルムズ海峡付近に向かい、1993年に調査した最もホルムズ海峡側の断面から調査を行い、徐々に北上、アラビア湾中部海域に向った。アラブ首長国連邦クワイアン沖からサウジアラビア・アルジュベール沖までの7断面24地点の調査を行い、12月26日予定より1日早くクウェートに入港し、ROPME側研究者及び日本側研究者全員下船した.調査成果の概要は、以下の通りである。1)全ての地点で、湾内水塊移動及び海水鉛直混合調査のためのCTD観測、溶存酸素及び塩検用試料採取と船上分析を行い、観測データを得た。2)全ての地点で、栄養塩測定用試料採取(オルト燐酸イオン、珪酸、アンモニュウムイオン、硝酸塩、亜硝酸塩)を行い、更にそれらの船上分析を行い、観測データを得た。3)海水中の原油由来の溶存微量炭化水素分析用の試料採取、及び船上抽出を行った。4)全ての地点で、底泥の採取に成功した。5)全ての地点で、ボンゴネット及びプランクトンネットによる動・植物プランクトンの採取を行い、幾つかの地点で基礎生産力の測定を行った。6)全ての地点で、海水の光学的特性と懸濁粒子の分布調査を行った。7)全ての停泊地点で、3枚網、籠網、縦縄、釣りによる魚類採取を行う予定であったが、航海後半の悪天候の為、前半に6調査地点に限られた。8)全ての地点で、稚魚ネット引きを行い試料を得た。12月27日には、ROPME事務局関係者2名、日本側研究者7名及び、ROPME研究者7名が参加し、ROPME事務局において、「海鷹丸」による調査結果を主体とした成果発表会をどのように行うか検討会がもたれた。その結果、1995年12月5〜8日まで東京水産大学で行うことが決定した。12月30日クウェート空港を出発し、シンガポール経由で12月31日参者全員帰国した。
著者
尾城 隆 竹山 春子
出版者
東京水産大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

1.産卵ホルモン(CDCH)の筋収縮作用の検討:精製CDCHを用いたin vivo投与では、排卵誘発効果を確認できなかったが、CDCHを多量に含む脳交連(COM)のリンゲル液抽出物は、in vitroで両性生殖腺(一部)から放卵を誘起した。さらに、両性生殖輸管後端部の生体外収縮・弛緩を電気生理学的手法で記録し、その筋収縮効果を直接証明できた。2.卵母細胞の減数分裂抑制因子のin vitroでの解析:排卵された卵細胞は、体内受精後輸卵管に入る直前まで不定形で胚胞を有するが、摘出して生殖腔液よりやや低張なリンゲル液、ヘモリンパ液、および蒸留水中に移すと、直ちに吸水して球形となり、続けて正常な成熟分裂と発生とを行った。しかし、実際のGVBDは産卵直前まで、極体放出と卵割は産卵直後まで抑制された。この抑制は、卵細胞を包むカプセル構造(囲卵腔液+卵膜)によることが判明した。産卵直後の卵をカプセルごと0〜1000mMのマンニトール液に浸すと、極体放出・発生は体液より高張の140mM以上で起こらず、低張液でのみ起こった。また種々の溶液への浸漬実験では、卵膜は卵白など高分子物質を通さず、低分子物質のみを速やかに通した。すなわち、体内では種々の電解質や低分子物質による浸透圧差は生じず、囲卵腔液はコロイド物質で周囲の体液より高張となる。実際、輸卵管内で卵膜は常に膨張状態を保ち、囲卵腔液は体液より高張で、その結果極体放出・発生は体内では抑えられるが、淡水中に放卵されカプセル内の浸透圧が低下すると誘発されると考えられる。3.卵白腺に対するエクジソンの分泌促進効果の検討:産卵中の親貝をβ-エクジソン溶掖に浸漬すると、産出卵のカプセル容積全体が増加する傾向を示すことから、エクジソンが卵白分泌を促進するものと推定された。4.エクジソンレセプクー遺伝子のクローニング:卵白腺を含む生殖器官系からmRNAを抽出し、RT-PCR法で増幅したcDNAをクローニングし、そのシークエンスを解析した。その結果、Drosophilaにおけるエクジソン応答タンパク質(E74B)、および接着タンパク質(Lgp-1)などに相同性の高い配列を得たが、エクジソンレセプクー遺伝子そのものは得られなかった。5.ヘモリンパ中のエクジステロイドの変動(HPLC-EIA法):CDCH放出推定時刻より、ヘモリンパ中のβ-エクジソン濃度は急激に増加し、卵の梱包(packaging)初期、すなわち卵白腺の分泌期に最大となり、以後急激に減少した。α-エクジソン濃度は遅れて増加し、卵莢膜腺分泌期から産卵直前にかけて最大となった。β-エクジソンは卵白による卵の梱包を促すことを介してそのGVBD・発生を抑制し、α-エクジソンは産卵直前のGVBDを直接・間接的に誘起する可能性が示唆された。