著者
三須田 善暢
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.100, pp.9-38, 2017-09-14 (Released:2021-12-12)
参考文献数
7

本稿は、Iターン就農者が農業面・生活面で重要な位置を占めるようになった集落のここ数年の現状と展望を、営農=生活志向および部落総会での議事から考察したものである。その結果、以前の調査時点(二〇〇七-八年)よりも、営農継承に対する危機感が強まり、ちょうど二〇一六年末に組織された集落営農法人と相俟って、集落営農への意向が強まりつつある。また、非農家を含めた営農=生活志向を概観するとき、将来世代にわたっての集落への定着志向が弱くなっており、代替わり時などでの離村も増え、いわゆる「限界集落」にすすむ可能性もある。また、伝統的な集落の祭礼の開催を減らす動議や、組編成を効率化する議案が総会で出され、その賛否に関して紛糾するなど、生活面で〝合理化〟の傾向がうかがえる。こうしたなかで、集落存続と行事の活性化を志向するリーダーたちは、Iターン者、非農家をも巻き込んでの活性化を試みている。ただしそれは、Iターン者に多くを頼るという形ではない。この集落に、集落を盛り上げていこうとする力量があり、それがあるからこそIターン者を組み込んだ活性化の方向に動いているといえる。その際には集落の中間集団が担っている役割の意義を、その限定性とともに踏まえていくことが求められよう。
著者
秋葉 節夫
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.100, pp.39-60, 2017-09-14 (Released:2021-12-12)
参考文献数
21

本稿では、山形県酒田市北平田地区における農事組合法人「ファーム北平田」設立までの経緯を明らかにするとともに、同法人の事業内容を明らかにすることで、「集落営農」が東北地方における農業の担い手のあり方のひとつとしての重要性が高まってきていることを明らかにする。同法人の設立の契機には、「品目横断的経営所得安定対策」への対応があったのであるが、同時に、庄内地域においても、近年の米価下落や後継者不足などに対応するために、農業の担い手自らが「地域農業」について考えざるを得ないという状況にあったことが影響している。具体的には、認定農業者などの大中規模層が多く参加する場合の個別経営への配慮から「枝番管理方式」が採用され、他方では、「経営所得安定対策」の提示から実施までの期間が短かったために、体制を充分に整えるところまではいっていないが、いずれにせよ、事例で検討した「集落営農」の形態が必然的に選択されてきているのである。
著者
板倉 有紀
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.98, pp.115-135, 2016-05-30 (Released:2021-12-29)
参考文献数
21

リスクに関連した社会的行為を理解し考察するさいに、行為者の、例えば母親であるという社会的属性や、女性であるという社会的属性が、個々の事例においてどのように関連しているのかを問うことは、「リスクの社会学」にとっても一つの課題であると考えられる。本稿では、リスクに関連する行為と個人の問題に焦点を当てる。まず本特集のテーマでもある「ウルリッヒ・ベックの社会理論」におけるリスクと知識と個人の問題について考察する。次に個人の社会的属性と、リスクに関連した行為との結びつきという観点を検討するべく、「災害と女性」に関する経験的事例として「女性の視点」という言い方について検討する。まとめとして、リスクをめぐる社会的行為と個人の社会的属性の結びつきという視角に立つことが、リスク問題におけるどのような経験的事実に切り込む可能性があるのかをルーマンの議論もふまえつつ論じたい。
著者
鈴木 伸生
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.98, pp.137-166, 2016-05-30 (Released:2021-12-29)
参考文献数
56

健康に対する集団の社会関係資本の効果は、当該集団の「文脈効果」によって生じるのか、それとも「メンバー個人の社会関係資本」によるのか。この問いにこたえるために、本稿では、結束型集団としての大学クラブ・サークルを対象に、集団の構造的・認知的社会関係資本が成員の主観的健康に及ぼす影響について、個人レベルと集団レベルの双方から検討した。 二〇一二年二月~三月にかけて総合大学の学生を対象に実施した調査データを用いて、ロジスティック回帰分析を行った結果、第一に、結束型集団では、集団レベルの構造的社会関係資本のみが主観的健康を促進していた。第二に、結束型集団では、従来健康に対して影響をもつと想定されてきた認知的社会関係資本の文脈効果は、構造的社会関係資本の文脈効果によるものであった。 以上の知見は、先行研究で未検討だった集団の構造的社会関係資本が、主観的健康に対して主要な役割を果たす点を示唆している。ただし、その効果は、一つの結束型集団に所属する個人においてのみ、有効である可能性がある。
著者
苫米地 なつ帆
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.11-36, 2017-02-28 (Released:2021-12-18)
参考文献数
45

本研究の目的は、親から子どもへの資源分配に対する出生順位や性別の影響を検証することにある。これまで地位達成研究の文脈では、生得的要因である出生順位や性別によって格差が生じるメカニズムとして、家族内での親から子への不平等な資源分配を指摘するものが多かった。しかしながら、日本においては実証的研究の蓄積が少ない。そこで本研究では、経済的資源として教育投資を、関係的資源として相談の頻度をとりあげ、出生順位や性別によって金額や頻度の差がみられるかどうかを検証した。分析の結果、経済的資源の多寡についても相談の頻度についても、出生順位や性別による違いがみられた。加えて、教育投資の金額については出生順位の影響のあらわれ方が家族ごとに異なること、相談の頻度については性別の影響が家族ごとに異なることが示された。子どもが得ることのできる資源の量は、家族ごとの資源の総量による違いと、個人の生得的属性を反映した親の選択的な資源配分の双方によって規定されていると考えられる。とりわけ、出生順位の遅い子どもについては、家族が保有する資源を得にくい状況に置かれており、そのような状況は近年でも維持されていることが示唆される。
著者
松井 真一
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.37-55, 2017-02-28 (Released:2021-12-18)
参考文献数
19

本稿の目的は、実親から成人子へ提供される育児支援(情緒的支援、実践的支援)が、きょうだい間でどのように分配されているのかについて明らかにすることである。二項ロジットマルチレベルモデルを用いた分析では、資源分配メカニズムの解明のために、きょうだいそれぞれの性別やきょうだい人数、出生順位といったきょうだいに関する情報を表した「きょうだい構造」の効果を検証した。分析の結果、情緒的支援、実践的支援の両方で、親からの育児支援は息子よりも娘に対して行われやすいことが明らかになった。きょうだい人数や出生順位と親からの育児支援には関連がみられなかった。この結果は、育児資源の分配がそれぞれの子どもに応じて投資されるという「選択的投資モデル」を支持するものである。親から子どもへの支援が一様に行われるわけではないことを踏まえれば、今後は親からの支援を得られにくい者に対して如何に代替となる支援体制を構築していくかが課題となる。
著者
星 敦士
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.57-84, 2017-02-28 (Released:2021-12-18)
参考文献数
17

二〇一三年に国立社会保障・人口問題研究所が実施した第五回全国家庭動向調査のデータを用いて、夫婦それぞれの両親に対する生活面でのサポートの多様性と、どちらの親をより中心的にサポートしているかという世代間関係における非対称性がどのような要因によって規定されているのかを検証した。分析の結果から、子から親へのサポートは親側のニーズ要因と居住距離要因、そして親から多様なサポートを受けたケースほど親に対して多様なサポートを提供するという世代間交換要因によって強く規定されていること、またその交換には子世代側の合理的な側面が含まれていることが明らかになった。今日の世代間支援関係においても規範的要素は部分的に残っていることが確認されたが、支援の対象が自身の親か夫の親か、父親か母親かなどによってその規定要因は異なっており、文脈依存的、かつ状況依存的な特徴がより強まっていることが示唆された。
著者
相澤 出
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.85-107, 2017-02-28 (Released:2021-12-18)
参考文献数
13
被引用文献数
1

医療者や医療資源の不足は特別養護老人ホーム(特養)の看取りの阻害要因になりうるが、そうした地域の特養でも、医師や看護師の確保に苦労しつつも、看取りまで手がけるところがある。本稿ではそうした事例である、宮城県登米市の二か所の特養を調査し、医療過疎地域の特養の看取りを可能にする条件を検討した。初めて看取りに取り組んだ事例からは、嘱託医の理解の重要性と、特養側が懐く看取りの不安の克服の過程が明らかとなった。看取りのケアを軌道に乗せた事例からは、それを可能にしたいくつかの条件が見えてきた。すなわち、特養の位置する地域の特性(在宅医療の担い手との連携、地縁血縁の相対的な強さ、地域内で得られた特養と診療所の連携への信頼、地域の文化など)が活かされていること、同時に、医療が支配的にならない地域連携や多職種連携がなされ、職種間での協力と補完が密になるなかで、チームケアが成熟したという点である。
著者
泉 啓
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.109-132, 2017-02-28 (Released:2021-12-18)
参考文献数
25

アルコール問題の医療化論によれば、かつて「悪徳」と見なされたアルコール問題は、一九三〇、四〇年代以降ジェリネックらの活躍により「コントロール喪失」の「病」として本格的な治療対象となったといわれる。もっとも従来の医療化論では、飲酒者本人に関する医療言説に比して、アルコホリックの家族を巡る医療言説は看過されがちであった。一九三〇年代以降の初期の家族病因論的言説(「パーソナリティ不全説」)を含む当時の精神分析学的なアルコホリズム論に注目し、この医療言説出現の意義について歴史的に考察する試みは不足していた。 本稿で論じるように、かつて一九世紀に禁酒運動家から「純粋無垢」と語られた女性は、二〇世紀に精神分析学の登場とともに不純な欲求主体と見なされるようになった。また男性アルコホリックの「コントロール喪失」状態は、精神分析家からは「女々しい」状態として解釈され、こうした男性の女性化が女性側の逸脱に起因すると意味づけられた。精神分析学的アルコホリズム論に着目することで、本稿は、アルコール問題の医療化が、飲酒者本人の免責化をもたらす一方、妻や母親など家族の有責化を伴う歴史的過程であったことを論じる。
著者
菅原 真枝 ニ・ヌンガー スアルティニ
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.97, pp.75-103, 2015-12-18 (Released:2022-01-14)
参考文献数
10

経済連携協定にもとづく外国人看護師・介護福祉士候補者の受け入れが開始され、我が国においてはこれまでに七五四名のインドネシア人介護福祉士候補者を受け入れている。本研究は、そのなかから宮城県の社会福祉法人Xで働く六名の候補者に対する聞き取り調査を実施した。先行研究は「キャリア形成」や「家族に対する経済的支援」という要因に着目しながら候補者の来日動機の分析をおこない、とりわけ「経済的動機」が定住化傾向を強めると指摘している。だが本研究の立場からすれば、候補者たちが日本で働く理由は、たんなるキャリア形成や家族に対する経済的支援という概念では説明できない。日本で働いた経験を帰国後の就業のキャリアアップに直接的に結びつけようとしている候補者はみられず、また、経済的支援といってもそれは母国に残された家族が生活困窮から脱するためのものではないことが明らかになった。候補者たちが来日するにあたってはいくつかの条件が重なっており、母国にはない介護という仕事に携わることでその介護技術をあらためて母国での家族介護に生かそうとする意識を高めている。また、日本語能力を獲得できたことが積極的に評価されている点にも注目する必要がある。こうしたキャリア形成や経済的理由にはおさまりきらない多様な側面にもとづいて候補者たちが日本で働く理由を検討していく作業が求められる。
著者
三須田 善暢
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.97, pp.105-131, 2015-12-18 (Released:2022-01-14)
参考文献数
7

新規農業参入者の定着過程において障壁とみなされてきた村落は、村落内集団への溶け込み如何によって資源ともなりうるとの指摘がされてきた。しかし、新規参入者が村落に入り込むにつれ、これまで後見人的な存在であった重要人物(村落運営の中心的担い手)らとの関係性に多くの変化が生じ、彼らから「問題」視されるようにもなっている。本稿はその過程を詳細に追うなかから、その「問題」があらわれてきた理由を考え、そこに示唆される現代村落の特性を把握しようとした。 その結果次のことが明らかになった。参入者の経営規模が拡大し相当程度の信頼を獲得すると、ほかの住民と同等に見られるようになる。この段階で村落「規範」への同調がより強く期待されるようになるが、しかし、参入者は以前の役割期待を持って行動していたため、これまであれば問われなかった行動も「問題」視されるように変化していたのである。この村落「規範」とは、一戸前としての村入りを選択した成員に対して要求される、村人相互のつきあい方および村内諸役割の引き受け方・こなし方に関わる当為則とまとめられよう。 また、このように生活面での重要性が多く関わっていることに、現在の村落の特性の一端があらわれていると思われる。
著者
正村 俊之
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.98, pp.9-42, 2016-05-30 (Released:2021-12-29)
参考文献数
29

本稿では、ポスト・パーソンズ時代に活躍したヨーロッパの社会学者のなかでU・ベックとN・ルーマンを取り上げ、「リスク・機能分化・個人化」に関して二人の理論を比較しながら、その理論的意義と残された課題について検討する。個人化に関しては、現代社会において個人が社会的再生産の単位になったとするベックの個人化論と、社会と個人の相互自律性を説くルーマンのシステム論が親和的であるという一般的な解釈を批判的に吟味し、客観的次元における個人化の進行が主観的次元における「アイデンティティの流動化と集合化」をもたらしている可能性を指摘した。次いで、ベックとルーマンのリスク論のなかで明示的に語られてこなかった論点として、リスク管理を中核に据えようとするガバナンス改革が現代社会のなかで進行していることを説明した。最後に、ベックのサブ政治論とルーマンの分化論に言及しながら、現代社会で進行している変化や改革が機能分化の変容を引き起こしていることを示した。
著者
鈴木 宗徳
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.98, pp.43-60, 2016-05-30 (Released:2021-12-29)
参考文献数
22

『危険社会』が出版されて三〇年が経ったいまもなお、ベックが論じた個人化は、雇用と貧困における「自己責任」の問題を分析するツールとして利用する価値をもつ。たとえば、イギリス・ブレア政権がワークフェア政策を導入する際、ブレーンであったアンソニー・ギデンズは〝福祉依存〟の予防が必要であると主張していたが、こうした言説はいま、保守政権による過酷なサンクション政策を正当化し、多くの犠牲者を生み出している。ベックはむしろ、失業において個人的な責任が強調され、それが心理的な方法で解決されるようになることを批判していたのである。福祉受給者が福祉に依存し怠けているという非難については、ワークフェア政策がはじめに導入されたアメリカで、ナンシー・フレイザーが依存を心理学的問題に縮減するものであるとして批判している。これらの問題は、現在、ポストフォーディズム時代における自己啓発やフレキシビリティの必要性を説く言説が注目されるようになって、別のかたちで論じられるようになっている。なかでも、中産層の没落への不安と「同調」反応について論ずるコーネリア・コペチュは、ベックに依拠しながらも彼とは逆に「階級社会への回帰」を主張しているが、むしろベックの個人化論が労働者階級はいまだ個人化されつづけていると指摘したことにこそ、意義があると言える。
著者
川端 健嗣
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.98, pp.61-89, 2016-05-30 (Released:2021-12-29)
参考文献数
51

本稿はウルリッヒ・ベックの社会理論の成立背景を明らかにすることを目的とする。 一九八六年にチェルノブイリの原子力発電所の事故があり、同年にベックはリスク社会論を発表した。以降、ベックの研究は学問内在的脈絡ではなく社会変化に応じる「時代診断」として脚光を集めた。 しかしベック自身が主張する通り「時代診断」には学問内在的な「理論的営為」の支えが必要である。そうでなくては「マスメディアの後追い」に陥り論理体系的な発展や継承が見込めない。 ベックの理論を構成する包括的命題は「再帰的近代化」である。「再帰的近代化」はスコット・ラッシュとアンソニー・ギデンズとの共有命題である。ベックは両論者との立論の違いを「非知」の働きから説明している。では「非知」論はいかなる研究系譜に位置付くのか。 二〇〇一年にペーター・ヴェーリングは「非知」の研究が社会学史に「不在」であったと指摘する。しかし一九七〇年代のベックのドイツ実証主義論争の研究には「非知」の前身となる問題設定を見出しうる。 実証主義論争は認識の限界と基礎付けを主題としていた。ベックは認識の限界や統制のきかない知識が、研究成果の「使用」される場面で「生み出されている」と指摘した。「非知」を知の欠落である「無知」や途上の「未知」ではなく、知の産出や運用自体がもたらす分からないこととして積極的に措定する視座は、実証主義論争の問いから出発していると再定位できる。
著者
濱本 真一
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.96, pp.115-137, 2015-07-10 (Released:2022-01-21)
参考文献数
21

本稿の目的は、中学校段階も含めた日本の教育達成過程における階層間格差を抽出することである。これまでの教育達成に関する研究では、学校段階以降における質的差異、すなわちどのようなタイプの学校に進学するかに階層間格差が存在し、さらにのちの教育段階に影響を与えることが知られてきた。義務教育段階である中学校においても、都市圏を中心に国私立中学校のシェアが増加傾向にあり、教育機会の質的な差異が拡大している。本稿では、国私立中学校への進学に対して出身階層の影響力が存在するのか、そして階層による規定力は後の学校段階(高校、高等教育)と比較してどの程度の大きさなのかを測ることを目的とする。 分析の結果、(1)国私立中学校進学に対して出身階層の影響力が存在すること、(2)その効果の大きさは高校以上の段階と比べて暮らし向きに関して大きく、父学歴、父職では大きくないことが明らかとなった。中学校段階にも明確な階層分化機能が存在していること、国私立中学校の進学に関しては家庭の経済的な背景が重要な決定要因となることが示された。中学校段階においては、近年公立学校においても選抜を課すタイプの中高一貫校が増加しており、中学校段階での階層分化機能がより大きくなる可能性が示唆される。
著者
鈴木 伸生
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.96, pp.193-220, 2015-07-10 (Released:2022-01-21)
参考文献数
43

本稿では、日本の新規大卒就職において、OBへのアクセスとその効果に格差が存在するのかどうかを検証した。一九八八-二〇〇六年に初職についた大卒者を対象に、代表性のあるJLPSデータを用いて分析を行った。 まず、OBへのアクセスについて検討した。その結果、高ランク大学の社会科学系への所属、サークル・部活動への熱心な参加によって、OBへのアクセスが促された。 次に、大企業・官公庁への入職に対するOB利用の効果を検討した。その結果、OB利用の主効果が見られる一方で、大学ランクとOB利用の交互作用効果は確認されなかった。 このように、OBへのアクセスには、高ランク大学の社会科学系か否かによって大きな格差が存在する一方で、OB利用の効果には、そのような格差は見られなかった。さらに、本稿の知見は、サークル・部活を経由するネットワーキングが、OBへのアクセス機会を増やす可能性を示唆している。