著者
氏家 享子
出版者
東北福祉大学
雑誌
東北福祉大学研究紀要 (ISSN:13405012)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.95-110, 2018

LD,ADHD,ASDなどのいわゆる発達障害児が,自分の特性について理解し,合理的配慮等の必要な支援を求められるようになること,自己の特性に対する対処方法を知ることは,重要な課題である。自分の特性について理解する上での大切なプロセスの一つに診断名告知を受ける機会があるが,診断名告知は極めて難しい問題であり,その実態も明らかにされていない。 そこで本稿では,本人への診断名告知について,発達障害児を対象とした報告だけではなく,発達障害以外の疾病・障害の告知に関する先行研究も含めて概観し,発達障害児本人への診断名告知にも共通して必要だと考えられる視点や実践を整理し,必要な支援のあり方について考察した。その結果,発達障害児本人への診断名告知については,その理想的なあり方と実態については大きな隔たりがあり,診断名告知が医師からなされるのが望ましいとされていても,実際には母親が十分な準備もないまま行っている場合が少なくないことがうかがわれた。また,診断名告知がいつの時期になされるのがいいのかは一概に言えないが,本人の診断名告知を受ける準備や周囲の準備が必要なこととその内容の整理ができた。更に,告知において伝えれられるべき内容,アフターフォローについても様々な報告における要素から段階的に整理しまとめ,発達障害児本人が自身のことをうまく知りうまく対処できるようにするための必要な支援について考察した。
著者
山口 奈緒美
出版者
東北福祉大学
雑誌
東北福祉大学研究紀要 = Bulletin of Tohoku Fukushi University (ISSN:13405012)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.97-107, 2015-03-20

寛容性とは,加害者に対する順社会的変化のことである。本研究では,寛容性は被害者個人の積極的努力によっても生じえると仮定し,対人葛藤における寛容促進に有効な個人的方略を見出すことを目的とした。大学生と一般成人に対して質問し調査を行い,対人葛藤に際して自らの寛容性を高めるために行うであろう方略として,(1)客観的視点から被害経験全体を見直す中立的視点獲得方略,(2)加害者の気持ちや心情を潜行する加害者視点獲得方略,(3)寛容性が被害者自身にもたらす利益について熟慮する寛容利益強調方略を取り上げた。参加者には,葛藤場面においてこれらの方略をどのくらい実際に行ったかと,寛容性,寛容動機について評定してもらった。分析の結果,加害者視点獲得方略と寛容利益強調方略は慣用性の動機を高め,寛容性を促した。こうした結果は,本研究で仮定したとおり,寛容喚起プロセスには加害者の振る舞いとは独立したプロセスがあることを示しており,被害者自身で寛容性を高めることによって,加害者要因に依存しなくても建設的な葛藤解決を導くことができる可能性を示唆している。The purpose of this study was to explore the effects of victims' cognitive efforts for forgiveness, presuming that forgiveness would be enhanced not only by an offender's appeasement behavior but also a victim's spontaneously efforts. University students and adults rated the 3types of cognitive efforts, which were (a) neutral perspective taking, (b) offender's perspective taking, and (c) considering their experience of injury. The results showed that the offender's perspective taking and the considering forgiveness benefits promoted the motives for forgiveness, and motives for forgiveness enhanced forgiveness. Consistently with the assumption, forgiveness could be promoted by victims' spontaneously cognitive efforts. Therefore, it is possible that victims can resolute the interpersonal conflict constructively independently from offenders' behavior.
著者
細井 計
出版者
東北福祉大学
雑誌
東北福祉大学研究紀要 (ISSN:13405012)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.39-58, 2007
著者
細井 計
出版者
東北福祉大学
雑誌
東北福祉大学研究紀要 (ISSN:13405012)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.19-37, 2010
著者
星山 幸男 佐々木 康明
出版者
東北福祉大学
雑誌
東北福祉大学研究紀要 = Bulletin of Tohoku Fukushi University (ISSN:13405012)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.201-216, 2013-03-22

社会教育施設における指定管理委託の問題は、すでに多くの検討がなされているが、東日本大震災の被害を受けたところでは、この制度の本質にかかわる新たな問題が浮かび上がっている。そこで、宮城県南三陸町の総合スポーツ施設ベイサイドアリーナの事例を分析し、社会教育の課題に迫った。 事例では、施設が指定管理体制に移行された経緯と委託業務内容、震災発生時の状況と対応、その後の経過とスタッフの対応、指定管理者である企業から派遣された職員が直面した現実、そこで浮き彫りになった問題点について具体的にみていった。そこから、自治体と企業の板挟みとなり、それでも不眠不休の対応を進めた職員の姿が明らかとなった。 指定管理委託された社会教育施設では、公的施設であるがゆえに、自治体と指定管理者との二つの指揮系統下におかれる職員の性格のあいまいさが問題であり、専門的職員としての捉え直しの必要性が課題であることが明確になった。さらに、施設の管理運営の連続性・継続性と行政・指定管理者間の連携の問題、職員の専門性確保と研修の問題が課題であることを明らかにした。
著者
福地 佳代子 濱田 淑子
出版者
東北福祉大学
雑誌
東北福祉大学芹沢[ケイ]介美術工芸館年報
巻号頁・発行日
vol.3, pp.67-84, 2011

昭和35(1960)年6月22日〜12月12日にかけて朝日新聞に連載された佐藤春夫の小説「極楽から来た」で、芹沢[ケイ]介は挿絵を型絵染の技法で表現するという初の試みに挑戦した。新聞連載「極楽から来た」は好評を博し、翌年2月に単行本が刊行、7月には挿絵のみを独立させた芹沢[ケイ]介作「極楽から来た挿絵集」が頒布されたが、その都度一部の挿絵には改変が加えられた。「極楽から来た」の制作において、芹沢と佐藤との間をとりもった明石・無量光寺の住職小川龍彦師は、連載の開始前から終了後まで、約130通の書簡を芹沢に送っており、その中には佐藤春夫の意向を受けた改変依頼をはじめ、図様の誤りや出版社による掲載順の間違いなど、重要な指摘がある。小川師書簡の精査を通して、「極楽から来た」制作のいきさつと、芹沢の試行の跡をたどる。
著者
吉田 綾乃
出版者
東北福祉大学
雑誌
東北福祉大学研究紀要 (ISSN:13405012)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.105-116, 2014

本研究では,自己卑下呈示が受け手の自己評価に及ぼす影響について検討した。自己呈示者と受け手の関係性(友人・知り合い)と,自己呈示の信憑性(高・低),自己呈示規範内在化傾向(高・低)の効果を検討した。133 名の女子学生を対象に質問紙調査を実施した。分析の結果,(1)知人による信憑性が低い自己卑下呈示は,受け手に自己批判傾向を生じさせる,(2)友人による信憑性の高い自己卑下呈示は,受け手に自己向上傾向を生じさせる,(3)自己卑下呈示規範内在化高群において,他者の自己卑下呈示は常に自己批判傾向の生起と結びついているが,自己卑下呈示規範内在化低群では,対人関係および信憑性が自己批判傾向の生起を左右することが示された。考察では,自己卑下呈示によって受け手に自己批判が生じることが文化的な自己呈示規範の形成に寄与している可能性について論じた。This study examined the influence of self-effacing presentation on perceivers' self-evaluation.We explored associations between interpersonal relationships( friends vs. acquaintances), the authenticityof self-presentation( high vs. low), and the internalization of self-presentational norms( high vs.low). One hundred thirty-three female Japanese university students completed a questionnaire.Results suggested that( 1) perceivers displayed self-criticism when exposed to an acquaintance's lowauthenticityself-effacing presentation, (2) perceivers displayed intentions towards self-improvementwhen exposed to a friend's high-authenticity self-effacing presentation,( 3) and individuals high in internalizationof self-effacing presentational norms always experience self-criticism as a result of exposureto others' self-effacing presentation. Conversely, the presence of self-criticism in individualslow in internalization of self-effacing presentational norms was influenced by interpersonal relationshipsand the authenticity of self-presentation. The paper concludes by discussing the possibility thatperceivers' engagement in self-criticism as a result of exposure to self-effacing presentation in otherscontributes to the formation of cultural self-presentational norms.
著者
田中 治和
出版者
東北福祉大学
雑誌
東北福祉大学研究紀要 (ISSN:13405012)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.21-40, 2013

本稿は、社会福祉実践及び研究の対象論についての根源的・批判的考察である。すでに、拙稿「社会福祉学対象論の基本問題」(『東北福祉大学研究紀要』第28巻、所収)で、従前の対象論が、実務的な法制度や行政区分を追認していることを指摘した。今般、社会福祉の対象が、〈不条理〉〈悲惨〉〈少数派〉を共通性として出現していることに着目し、以下の諸点を,忠実に文献・資料を用いて考察した。(1)近年対象論で、灯、その使用の原点から検証・吟味した。(2)宮地尚子の灯、大震災の被災者に関わる方法と課題について紹介した。これは対象論研究にも十分援用できる。(3)旧約聖書のヨブ記を題材に、不条理な悲惨(わざわい)に遭遇したヨブが、沈黙から本音を語ること─それは彼の再生への第一歩─を可能にした理由を考察した。(4)人類の悲惨(わざわい)は、必ず概ね少数派として残るが、その意味を問うことが、対象論には肝要であろう。(5)小児科医が難病の子どもたちをどのように捉え、いかに関わったか、その矛盾する姿を考察した。あわせて、慙愧(恥じ入ること)の重要性を確認し、この欠如が、社会福祉の歴史的、また実践的な誤りを招来させたことを、具体的例示でもって指摘した。The purpose of this study is to criticize what objects social welfare should pay attention to and study. The following points have cleared.1. In these days, the word "users" doesn't correspond to the reality.2. The "Kanjyoto-model" presented by Naoko Miyaji is useful for understanding trauma by the earthquake and so on. We can apply this model to social welfare precisely.3. Job in the book of Job talks himself in spite of his absurd tragedies. This is because his three friends was him seven day and night.4. There are a lot of tragedies in the world. But we should pay attention to them and understand what significance tragedies imply. 5. We should accept the tragedies of others. To do this, we need the points of view gained from religion.6. If we engage in social welfare, it is necessary for us to feel great shame at ourselves.
著者
弥久保 宏
出版者
東北福祉大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

(1)選挙キャンペーン世論調査における政党支持の動向や主要政党のマニフェストを比較して、キャンペーンの選挙結果に及ぼした影響を探ってみた。保守党と労働党の二大政党間におけるマニフェストの大きな相違は見られなかった。世論調査ではサッチャー保守党長期政権に対する国民の不満や変化を求める世論を反映して、労働党優勢であった。これに危機感を抱いたメジャー首相率いる保守党は選挙戦中盤からなりふり構わない労働党に対する中傷やスキャンダルキャンペーンを展開した。特に、労働党はテレビでの党の広告番組でいわゆるヤラセ番組を放映するなど、大失態を演じ、取り返しのつかないダメ-ジをこうむってしまった(2)選挙結果とその分析選挙結果の地域的特性、社会的属性、社会的・経済的地位、労働組合員と住居形態と投票行動において、従来とは異なった現象が今回の選挙では明らかになった。特に、労働組合員と住居形態との関係では、サッチャー政権時代に行なわれた公営住宅政策によって公営住宅の払下げを受けた労働者階級の労働党支持から保守党支持へのスウイングは労働党の政権奪回戦略の根本的な見直しを迫るものとなりそうである。
著者
関川 伸哉 勝平 純司
出版者
東北福祉大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

疑似体験用具の使用は,高齢者の移動動作上の不自由さを理解する上で有効な手段であるといえる.しかし,現状の疑似体験用具は補装具などを用い,関節可動域の運動制限を与えることを主体とした静的な構造になっており,高齢者の動作が正しく疑似できているとは言い難い.そこで,従来の受動的な運動制限主体の静的構造を超えた,新たな能動的要素を付加した疑似体験用具の開発を行うことを目的とする.本研究では,高齢に伴う身体アライメントの変化に着目し,疑似体験用具装着者が高齢者の運動を実態に即した形で体験でき,かつ装着の再現性・容易性を実現した用具の開発を目指すものとする.
著者
白井 秀明 宇野 忍 荒井 龍弥 工藤 与志文 佐藤 淳
出版者
東北福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

1.平成16年度(1)物質の基礎概念についての横断的調査:対象は小学校4〜6年生。学年末に物質の基礎概念(重さの保存や加法性など)理解度調査を行った。その結果、6年においても重さ未保存者がおり、さらに体積と重さを混同するというある種の誤概念所持が推測される誤答者も少なからずいた。(2)単元間の相互関連づけを目指す教授プランの開発とその実施及び評価:5年理科の「もののとけ方」単元を対象に単元終了時に、4年単元で既習の実験を再現し体積や重さについて増減同の確認する学習活動を追加した。その結果、物質の基礎概念と単元目標のいずれの理解についても一定の効果しか見られなかった。2.平成17年度(平成16年度(2)と同じ学習者)(1>単元間の相互関連づけを目指す教授プランの開発とその実施及び評価その1:6年「ものの燃えかたと空気」単元終了時に、乾留や燃焼などの化学変化の前後で重さと体積の増減同の確認作業をさせる学習活動を追加。その結果、単元目標のうち「二酸化炭素が火を消す働きがある」と誤答した学習者が授業後にも依然半数いた。さらに物質の基礎概念についても十分理解を促進できなかった。(2)単元間の相互関連づけを目指す教授プランの開発とその実施及び評価その2:6年「水溶液の性質とはたらき」単元内で、物質の仲間分けの手がかりとなる化学現象(水への溶解、燃焼など)や酸性水溶液に対する金属などの溶解現の前後で、物質の重さの変化を判断させた。体積は測定する機会を増やすにとどめた。結果、単元目標のうち水に溶けるか否かと火で燃えるか否かの関係は理解が促進されたが、物質の分類については不十分であった。物質の基礎概念については、体積と重さの混同など依然として十分に理解を深めることができなかった。しかし、これら3つの授業を受けた学習者は、横断的調査の6年生よりも物質の基礎概念についての理解は深まっていた。
著者
濱田 淑子 本田 秋子
出版者
東北福祉大学
雑誌
東北福祉大学芹沢[ケイ]介美術工芸館年報
巻号頁・発行日
vol.4, pp.[59]-[59], 2012

人間の形をしたジャイナ教の宇宙像をローカ・プルシャと呼ぶ。考えうる限りの全世界と全時間を含み、世界の霊魂は上方世界、中央世界、下方世界の三界に住み分け、輪廻していると考える。最上位にあるのが完成者で上方世界は天上界である。下方には地獄界がある。中央には人間が住む円盤状の地上界がある。取り上げた資料はインド・ラジャスタン州かグジャラート付近で、17 世紀に制作されたものと考えられ、木綿地に顔料で描かれた掛け絵である。しかも、他に比べて大きく絵画的であり、サンスクリット語の詳細な説明書きが付されていて、きわめて貴重で、興味深い資料といえる。