著者
内藤 隆文 川上 純一 佐藤 聖 石田 卓矢
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

がん悪液質を有する患者では、うつ、傾眠、せん妄などの中枢症状を生じる。これらの中枢症状にはがんの組織浸潤に伴い分泌されたサイトカインによる影響が関連することが推測されている。さらにはサイトカインの濃度上昇は、肝臓のチトクロムP450(CYP)の活性を低下させる。しかし、がん悪液質の病態時におけるオピオイドの薬物動態、中枢症状の発現および血中サイトカインとの関係は十分に明らかにされていない。本研究ではCYP3A4により代謝を受けるオピオイドのオキシコドンをモデル薬物として、がん患者における悪液質の進行度に基づきオキシコドンの薬物動態、中枢症状の発現およびサイトカインの血中動態について評価した。
著者
伊藤 泰介
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

円形脱毛症病変部の毛包周囲には著明なリンパ球浸潤が観察される。今回の実験を通して、その機序がTh1細胞、Tc1細胞の集合を誘引させるケモカインであるCXCL10が毛包周囲に強く発現し、また円形脱毛症ではそれに対する細胞走化性が亢進していることが明らかになった。急性期のみならず慢性期でもCD8陽性Tc1細胞が持続的に浸潤していた。この走化性を阻害することが治療につながると考えられるが、治療ガイドラインにて推奨されている抗ヒスタミン薬にその阻害効果がみられることがわかった。
著者
阪東 勇輝
出版者
浜松医科大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

神経細胞は多様なイオンチャネルを発現しており、それらが協調して活動依存的神経回路形成に寄与すると考えられる。申請者はこれまでに、静止膜電位制御に重要な漏洩K+チャネルが神経細胞移動を制御することを発見した(Bando et al., Cereb. Cortex, 2014)。漏洩Na+チャネル・NALCNも静止膜電位制御に重要で、ヒト神経疾患との関連も報告されているが、神経回路形成における役割は不明である。そこで、NALCNの機能阻害および亢進を行い、NALCNによる神経活動依存的神経回路形成機構を分子、形態、生理の視点から統合的に解明する。
著者
三辺 義雄 森 則夫 武井 教使 中村 和彦 豊田 隆雄
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

覚醒剤の乱用者数は世界中で増加している。覚醒剤の使用により、幻覚妄想状態、うつ状態、攻撃性の亢進など、様々な精神症状が惹起されることが知られている。さらに、これらの症状は覚醒剤の使用中止後もしばしば遷延することが報告されている。これまでの動物実験により、覚醒剤はセロトニン神経に対する傷害作用を有することがわかっている。そこで我々はポジトロン・エミッション・トモグラフィー(PET)を用いることにより、セロトニン・トランスポーター(5-HTT)密度を測定し、これらの変化と臨床的特徴との関連について検討した。なお、本研究は浜松医科大学倫理委員会で承認を得ており、研究の詳細を説明した後に文書による同意を得た者のみを対象とした。対象は覚醒剤使用者12名及び健常者12名である。精神症状評価には、攻撃性評価尺度、ハミルトンうつ病評価尺度、ハミルトン不安評価尺度、簡易精神症状評価尺度(BPRS)を用いた。トレーサは、5-HTTへの選択性の高い[^<11>C](+)McN5652を用いた。動脈血漿及び脳内から得られた時間放射能曲線を用いて[^<11>C](+)McN5652 distribution volumeイメージを作成し、これらのイメージをもとにvoxel-based SPM全脳解析を行った。覚醒剤使用者では、健常者と比較して、脳内の広範囲における5-HTT密度が有意に低下していた。また、眼窩前頭前野、側頭葉、前帯状回皮質における5-HTT密度の低下が攻撃性の増強と密接な関連があることが明らかとなった。これらの結果とこれまでの動物実験の結果とを勘案すると、覚醒剤使用者ではセロトニン神経が傷害されている可能性があることが示唆された。セロトニン神経は攻撃性や衝動性を抑制する働きを担っていると考えられている。覚醒剤使用者では、セロトニン神経が傷害された結果、セロトニン神経の機能障害が生じ、攻撃性が亢進するものと考えられる。現在この結果は論文受理された。さらにproton MRS studyでは、トルエン患者の基底核の膜代謝異常が、患者の精神症状の程度と相関していることを見出し、論文発表した。
著者
酒井 直人 竹原 康雄 山下 修平 馬場 聡 難波 宏樹
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

脳神経外科手術において頭蓋内腫瘍の硬さは手術の難易度を左右する。核磁気共鳴エラストグラフィー(MRE)は非侵襲的に生体内に組織の弾性率、すなわち硬さを測定することができる画期的な方法である。我々は、MREを用いて代表的な4つの頭蓋内腫瘍:髄膜腫、下垂体腺腫、前庭神経鞘腫、グリオーマに対してMREを用いて術前に弾性率を評価し術中の硬さとの相関について研究を行った。その結果、術前のMREの弾性率と術中の腫瘍の硬さは相関した。MREは術前に硬い腫瘍を鑑別するのに有用と考えた。
著者
佐藤 弘明
出版者
浜松医科大学
雑誌
浜松医科大学紀要. 一般教育 (ISSN:09140174)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.35-55, 1998-03-30

This paper addresses the structure of traditional medical belief and knowledge with special reference to etiology among the Baka hunter-gatherers living in the tropical rainforest from northwestern Congo to southeastern Cameroon. A group of the Baka in northwestern Congo have 89 folk illness terms. The illnesses are classified into three groups according to the type of cause. The first group consists of 8 illnesses which develop exclusively due to some specific causes such as contacts with various pathogenic substances, violation or sorcery, the second group consists of 55 illnesses which develop due to some specific causes or spontaneously, and the third group consists of 26 illnesses which can develop only spontaneously. In the Baka folk etiology, the naturalistic notion that some natural entities are responsible for the occurrence of illnesses is more predominant than the personalistic notion that some agents, such as sorcerers, evil spirits, and ghosts, cause illnesses. Among various pathogenic substances, animals are major pathogens. Forest animals, whose bodily shapes or behavior look strange or unusual to human beings, seem to provide good materials to the Baka who wish to explain and understand what causes illnesses, an abnormal state in body and mind, without warning. The Baka people think that almost all of their folk illnesses can develop spontaneously too. Their search for pathogenic substances of their illnesses seems neither for the purpose of removing it nor cutting off contacts with it, but for the purpose of seeking specific remedies.
著者
瀬尾 尚宏 八木 宏明 八木 宏明
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

制御性T(regulatory T ; Treg)細胞は自己免疫、がん免疫、感染免疫、移植免疫、さらにはアレルギー免疫など、あらゆる免疫応答の調節に関与する。皮膚免疫領域においても、アトピー性皮膚炎や自己免疫性脱毛症や接触皮膚炎など、皮膚炎症を伴う薬疹の発症など皮膚免疫アンバランスに大きく関与することが解明されつつあり、皮膚疾患を含めた免疫性疾患の治療では、Treg細胞をどのように制御するかが今後の重大な鍵になると考えられている。Treg細胞はCD4^+CD25^(++)forkhead box(fox)p3^(++)のTリンパ球群であるが、現在知られている最も特異性の高いfoxp3は細胞内分子であるため、siRNAなどを用いてその分子の機能を制御することは可能だと考えられるが、現時点で広く受け入れられた方法とは考えにくく、それを標的としたTreg細胞活性の制御に関する臨床応用は難しい。Treg細胞表面分子としては、CD25の他にCTLA-4やGITRなどの発現の優位性が知られているが、そのほとんどが通常のT細胞の活性化マーカーでもあるため、Treg細胞を他のリンパ球集団から見分けることが可能な特異的マーカーとはなりえない。近年、EDG1やCXCR4といったGタンパク質共役型受容体(Gprotein-coupled receptor ; GPCR)がTreg細胞制御に関係すると予測できる報告がなされた。我々もこれまでの研究でTreg細胞には種々のGPCRが優位に発現している可能性を示唆できる結果を得ている。このように、Treg細胞制御には細胞表面上のGPCR発現パターンと細胞内シグナル、さらにはGPCR刺激による細胞動態を詳細に理解することが重要だと思われる。本研究では、各種GPCRのTreg細胞発現を検討し、Treg細胞優位と考えられる15分子を同定することができた。その15種GPCR分子中4分子は、特異的なポリクローン抗体を用いたTreg細胞染色で比較的強い発現を示す。さらに、それら抗体を用いたTreg細胞除去により、効果的に免疫抑制活性を取り除くことができる初期的実験にも成功した。このように、本研究においては、GPCR分子がTreg細胞の動態と制御において極めて重要だという世界で初めての見解を示すことができた。
著者
鈴木 勝昭 武井 教使 土屋 賢治 宮地 泰士 中村 和彦 岩田 泰秀 竹林 淳和 吉原 雄二郎 須田 史朗 尾内 康臣 辻井 正次
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、自閉症の病態において脳内コリン系の果たす役割を明らかにすることにある。自閉症者脳内のアセチルコリンエステラーゼ活性を陽電子断層法(PET)により計測したところ、顔認知に重要な紡錘状回において有意に低下していた。さらに、この低下は社会性の障害の重症度と逆相関していた。すなわち、紡錘状回におけるコリン系の障害が強いほど、社会性の障害が強いという相関関係が示唆された。この結果は、自閉症のコリン系の障害は発達の早期に既に起こっており、顔認知の障害がもたらされ、もって社会性の障害の基盤となっていることを示唆している。そこで、認知の障害を注視点分布によって検出し、早期診断に役立てるために、乳幼児でもストレスなく注視点を測定可能な機器の開発を産学連携で行い、現在も継続中である。
著者
Kelley David B.
出版者
浜松医科大学
雑誌
浜松医科大学紀要. 一般教育 (ISSN:09140174)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.29-44, 1991-03-31

This Paper attempts to place the development of the Chinese system of Twenty-Eight Lunar Mansions (二十八宿) in multi-cultural framework, within which, contributions from cultures outside of China may be recognized. It systematically compares the Chinese system with similar systems from Babylonia, Arabia, and India. The results of such a comparison not only suggest an early date for its development, but also a significant level of input from, most likely, a Middle Eastern source. Significantly, the data suggest an awareness, on the part of the ancient Chinese, of completely arbitrary groupings of stars (the twelve constellations of the Middle Eastern Zodiac), as well as their equally arbitrary symbolic associations. The paper also attempts to elucidate the graphic and organizational relationship between the Chinese system of lunar mansions and (1.) the twelve Earthly Branches (地支) and (2.) the ten Heavenly Stems (天干).
著者
安田 孝子 島田 三惠子 大見 サキエ 巽 あさみ 矢野 忠 笹岡 知子
出版者
浜松医科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

つわり妊婦に対するツボ刺激のつわり症状の改善への有効性を明らかにすることを目的として,県内の病院の妊婦外来で同意の得られた妊娠16週までの妊婦48名(68名配布,回答率77.4%)を対象として,つわり症状尺度,東洋医学健康状態,属性等で構成される質問紙調査を実施した。このうち,同意の得られた妊婦12人を対象として,ツボの指圧を1回10分間連続3日間,実施した。その結果,48名の対象者の属性の年齢は30.5±4.4歳,身長158.2±5.3cm,体重51.4±7.8kgであった。1.つわり症状尺度:北河のEmesis Indexを一部改変し,悪心,嘔吐,食欲不振,唾液分泌,口渇の症状の各項目の0点〜3点を点数化し,合計点が15〜11点は重症,10〜6点は中等度,5〜4点は軽症と分類した。各項目は,悪心2.1±0.9点,嘔吐1.2±1.2点,食欲不振1.6±1.1点,唾液分泌1.2±0.9,口渇1.0±0.9であり,悪心が最も多く,1日に5〜10回感じている状態である。合計点は7.1±3.5点であり,治療を要するほどではないが,中程度の不快な症状を抱えながら日常生活を送っていると考えられた。2.東洋医学的身体の状態:明治鍼灸大学式東洋医学健康調査票による妊婦の身体状態は4つのタイプに分類された。(1)胃虚型(胃腸症状が強い),(2)肝熱型(イライラや胸脇が苦しいなどが強い),(3)痰湿型((1)に不眠多夢などが加わった),(4)は(1)〜(3)以外の型であった。48人中(1)は19人(39.6%),(2)は18人(37.5%),(3)は5人(10.4%),(4)は6人(12.5%)であった。従って,つわりのある妊婦に共通して用いるツボは内関,中?であり,タイプによって,足三里,胃兪,太衝,百会,膈兪,豊隆,太白などを組み合わせることが適切であると考えられた。3.ツボ刺激の効果:ツボ刺激は,腹式呼吸と印堂,内関,全息律つぼ群の3ヶ所のツボの指圧を1回10分間,連続3日間実施した。12人の妊婦のうち,11人の有効データを分析した。つわり症状尺度のスコアは,ツボ刺激の実施前5.0±4.6点,実施3日後3.3±2.8点となり,有意(paird t-test,p<0.01)に低下した。従って,ツボ刺激がつわりのある妊婦の症状改善に効果があることが示唆された。
著者
千田 金吾
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

特発性間質性肺炎(IIP)とEpstein-Barr virus(EBV)との関連を検討し,以下の知見を得た。病理組織学的に確診されたIIP29例と,肺線維症を有する全身性進行性強皮症(SSc-IP)の5例を対象とし,生検時に得られた肺組織を検討材料として以下の項目を検索した.対照としては,15例の正常部分肺を用いた。1)PCR法による肺組織中のEBV genome DNAの検出:肺組織より抽出したDNAを用い,two-step PCR法を用い,標的遺伝子の存在の有無を検討した。2)肺組織におけるEBV latent membrane protein 1(LMPl)に対する免疫染色:抗LMP1モノクローナル抗体を一次抗体とし,SAB法にて免疫染色を施行した。さらに,IPF症例のLMP1染色陽性例と陰性例について,その臨床像を比較検討した。その結果,1)two-step PCRでのEBV genome DNAの検出頻度はIIP24/25例(96%),SSc-IP5/5例(100%),対照10/14例(71%)であり,IIPにおける検出頻度は対照に比し,有意に高率であった(p<0.05)。2)IIP29例中9例の肺胞II型上皮に,LMPlに対する免疫染色が陽性であった。一方,SSc-IP症例と対照例は全例陰性であった。経過観察が可能であったIIP20例において,PaO_2値が15torr以上低下した症例を"進行例"として予後調査を行った結果,LMPl陽性7例中5例(71%)が"進行例"であったのに対し,LMPl陰性例の"進行例"は13例中1例(8%)のみであり,有意差が認められた(p<0.01)。これらの結果は,IPFにおけるEBVの病態的関与を示すものと思われた。
著者
武内 智康
出版者
浜松医科大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2015-08-28

レビー小体型認知症では、その病因物質であるαシヌクレインなどによりミクログリアが活性化し神経変性に関与することが、病理・生物学的に確認されている。今回、最近開発した特異性の高い活性化ミクログリアのトレーサーである[11C]DPA713を用いて、レビー小体型認知症患者の脳内のミクログリア活性変化を描出し、精神症状発現との相関を検討した。レビー小体型認知症患者において、[11C]DPA713 BPNDは特に後頭葉で上昇していた。NPIを用いた幻視の重症度と[11C]DPA713 BPNDの相関関係は、後頭葉や頭頂・側頭葉で認めた。ミクログリア活性化は、幻視などの精神症状と関連があると考えられた。
著者
森下 直貴
出版者
浜松医科大学
雑誌
浜松医科大学紀要 (ISSN:09140174)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.1-21, 2017-03-30

In Japanese history of philosophy, Amane Nishi is regarded not as a genuine philosopher but as an enlightenment-thinker, whereas he is unanimously praised as “the father of Japanese philosophy.” The reason is that he was the positivist as well as the utilitarian. However, he expressed the faith in “Ten (i.e. Heaven),” Japanese metaphysical or divine entity. The concept of “Ten” is inherited from Kogaku school of Confucianism in Tokugawa era, and derived from Kukai’s esoteric Buddhism in ancient era. Therefore, Nishi’s philosophy remains vague yet, as long as the relation between positivism and “Ten” within his thought is not elucidated. This paper condenses Nishi’s philosophy into three theses, aiming to comprehend it completely. The first is〈 Relation i.g. “Ri (Reason)”〉 thesis. Nishi raised it against Shushigaku school of Confucianism. Compering this thesis with thoughts of Shushigaku, Kogaku, or Conte and J.S.Mill, Nishi’s philosophy is characterized as the perspective of distinguishing and relating every thing in the actual world. The second is〈Knowledge / Faith〉 thesis, his fundamental view on religion. Interpreting implications of this thesis, the structure of relationships among science, metaphysics, religion and morality is lighted up. Their co-related structure of every thing, which is mediated by “Ri” and suspended by “Ten,” is the Nishi’s very system of philosophy. The third is〈 Feeling = Brain〉 thesis. This is the basis of bringing〈 distinction-connection〉 into the world. Here is followed how this thesis makes sciences unified, building a bridge between physiology and psychology. And also how it makes utilitarian ethics systematic, integrating personal, inter-personal and societal levels. The core of Nishi’s philosophy exists in his perspective of〈 distinction-connection〉. This is one of the pictures of the “philosophical thinking.” From this perspective, he tried to divide and integrate all actual beings, including human activities, for example, science and philosophy, metaphysics and religion, physics and psychology, physiology and psychology, simple and complex feeling, religion and morality, morality and law, and so on. His “system of philosophy” embodies itself in such inclusiveness. And in Japanese metaphysical tradition, the actual world substantially means “Ten and Chi (i.e. Heaven and Earth)”. Therefore, his philosophy also includes the first attempt of “Japanese metaphysics.”
著者
佐藤 玲子
出版者
浜松医科大学
巻号頁・発行日
1993-01-08

浜松医科大学学位論文 医博論第134号(平成05年01月08日)
著者
南方 かよ子
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

銅の高感度で簡便な定量法を開発し発表した(Clin Chem,2001,Jpn J Forensic Toxicol,2001)。5μlの血漿、1.5mlの水道水で定量が可能である。この方法を用いて餌中にパラコート250ppmを投与して中毒をおこしたラットの組織中の銅を定量した。その他の金属は当補助金で入手した島津AA-6200原子吸光光度計にて定量した。中毒ラットでは、銅は肺、肝、血漿で2倍に、腎では半分に変動していた。鉄は肝、脾で2倍、血漿では半分に変動していた。マグネシウムは腎で2倍となり、肝ではマグネシウムと亜鉛が有意に上昇していた(J Toxicol Environ Health,2002)。マグネシウム半減食中にパラコート125ppmを投与したラットの上記金属レベルはパラコート中毒の場合と同様であった(Jpn J Legal Med,2001)。しかしながら、カルシウムは腎で10倍となっていた(法医学会総会,2002発表予定)。マグネシウム半減食のみでこのような高濃度のカルシウムの蓄積をおこすには通常35日以上を要する。マグネシウム半減食中に125ppmのパラコートを投与したラットではパラコート中毒とマグネシウム欠乏がともに促進されていた。カルシウムとマグネシウムの比を保つために全ミネラルを半減しパラコート125ppm投与ラットではカルシウムは腎で20倍となっていた(ISALM,2002発表予定)。
著者
外山 美奈
出版者
浜松医科大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2012

研究目的:生命科学の教育現場において、生物材料を扱う能力が低下し生命現象そのものを理解できないことが問題になっている。我々の教育現場でも同様の状況であり、現状打破を目指し学生に生物に触れる機会を増やしたところ大きな改善を得た。また地域貢献事業を通して、初等中等の生徒に生物に触れる機会を与えると、青少年期教育より効果が絶大であることを体験した。そこで大学と地域中学との連携を確立し、「ニホンミツバチ」を材料として生物に触れる機会を与え科学への興味を増大させる教材開発を目的とした。研究方法:プレゼンテーションソフトによる、ニホンミツバチの紹介、飼育法および実験法のテキストを作成し、近隣中学校科学部の生徒達を対象に講義と実習を行い、個体の行動と社会性を学ばせた。その後、生徒達に実習で学んだこと、考察、感想についてまとめさせた。このフィードバック結果を基に、本教育法をより効果的に行うための方法を検討し、本年度作成した教育材料を改善した。研究成果:講義を聴講した段階ではハチは恐ろしいと思っていた生徒達が多かったが、実際に近くで観察させると、「ニホンミツバチ」はおとなしくて可愛いと感じるようになった。また天敵であるスズメバチを集団で熱殺することや、働き蜂の寿命は約30日であり日齢で仕事の役割が変わることを伝えることで、命の大切さを学んだ。生徒達の自然や生命への認識が変化したと思われる。比較的扱い安い「ニホンミツバチ」は理科的思考力を養う理科教育に適していることを実感した。ただ、中高生は学業や部活動で忙しく、なかなか時間が取れないという問題がある。理科的思考力向上という目的を達成するためには、継続的な観察実施も重要である。今後は、ウェブカメラを巣箱内外に設置し情報を自動記録し、離れた場所や後からでも観察ができる装置を構築し、生物に触れる現場教育と併用することでより効率的な教育法を確立したい。