著者
浜端 喬
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.78-84, 2021 (Released:2021-01-31)
参考文献数
9

2020年3月18日、ニカラグアで初めて新型コロナウイルス(Covid-19)の感染が確認された。それから8カ月が経過した11月18日時点のニカラグア保健省(MINSA)発表の累計感染者は、4583名、うち死者数159名である。オルテガ政権の感染防止に対するこれまでの消極的な対応や医療崩壊の現状をかんがみると、この数値は現状からかけ離れているとして国内外から批判されている。これまでオルテガ政権は、政府の対応を批判する国内の医師を公立病院から解雇するなど強権的な対応を行い、新型コロナウイルス関連情報を隠蔽していると批判されている。しかし、この8カ月のあいだにニカラグア国内の医師などの有志で構成された市民監視団体が独自の新型コロナウイルス感染疑い者数を発表し、さらに国際ハッカー集団「Anonymous」がMINSAの非公表情報をリークした。これまで明らかになってきた情報をもとに、ニカラグアにおける新型コロナウイルスの感染状況およびオルテガ政権の取組みを検証していく。
著者
福西 隆弘
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.85-99, 2021-06-29 (Released:2021-06-29)
参考文献数
12

筆者らは2019年よりアジスアベバで職業訓練校を修了した若者の追跡調査を実施しているが、2020年11月に追加調査を行い、新型コロナウイルスの感染拡大の前後における雇用と収入の変化を分析した。調査時点で、雇用率にはパンデミック前と比べて大きな変化はみられなかった。また、被雇用労働者の実質賃金は低下したが、変化は物価上昇率よりも小さく、平均的には名目賃金が維持されていた。非常事態宣言は企業が労働者を解雇することを禁止していたが、上記の結果は宣言が終了して2カ月後に観察されているので、雇用の維持は企業の自主的な判断と考えられる。個人自営業者(self-employment)において廃業は増えていないが、自営業から得た所得(実質額)の減少率は20%を超えており、とくに運輸業や製造業で減少が大きかった。また、女性の実質賃金は約17%減少し、もともと顕著であった収入格差が拡大している。平均的な労働者よりも学歴の高い訓練校卒業生の間では、雇用への影響が小さいことがうかがわれるが、彼らの中でも脆弱な労働者への影響が大きいことが示されている。
著者
佐藤 章
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.1-13, 2017-01-25 (Released:2020-03-12)
参考文献数
25

この十数年あまり西アフリカでは、イスラーム・マグレブのアル=カーイダ(Al-Qaida in the Islamic Maghreb: AQIM)をはじめとするイスラーム主義武装勢力の活発な活動が見られる。これらの組織の活動は、サハラ・サヘル地帯における治安・安全保障上の問題を提起するにとどまらない。そこでは、イスラーム主義武装勢力が、現代西アフリカの政治的・社会的変動に照らしていかなる意味を持つのかという問題も提起されているのである。そこで本稿は、こういった歴史的評価に関わる問題を掘り下げるための基礎的作業として、AQIMとその系列組織に焦点を合わせ、西アフリカへの進出の経緯、マリ北部への定着の様子、マリ北部紛争への関与、その後の動向を検討したい。その際、「グローバルなテロ組織」といった観点からの研究が陥りがちな視点の偏りを避けるため、これらのイスラーム主義武装勢力が社会とどのような関係を取り結んでいたかにとくに注目し、検討を行う。
著者
岩崎 えり奈
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.35-67, 2020-03-15 (Released:2020-04-01)
参考文献数
48

本稿では,チュニジア南部タタウィーン県の村において実施した家族計画実態調査の追跡調査を用いて,過去20年間における同地域の女性の出生行動をミクロな視点から分析した。その結果,同地域における出生率の低下と女性の出生行動に関して,晩婚化による晩産化と,家族計画・避妊手段の普及を直接的な要因として女性の出生数が低下したこと,娘世代が20代前半で結婚し,第1子を結婚後1年以内に産む点は母親世代と同じだが,第1子出産後に間隔をあけて子どもを産む傾向があること,理想子ども数を4人とする家族規模に関する価値観は20年の歳月がたっても変わらなかったことが明らかになった。以上の分析結果は,出生率の低下が一般に想定される近代的な家族観への変容によってもたらされたのではないことを示している。社会経済状況への女性と世帯の対応が「晩婚化」と「晩産化」,観念的には折衷の理想子ども数4人であり,間隔をあけて子どもを産む出生行動を導いていると考えられる。
著者
菊池 啓一
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.1-12, 2019 (Released:2019-07-31)
参考文献数
11

本稿はボルソナロ政権下における大統領・議会関係の特徴を検討したものである。2018年総選挙におけるボルソナロの当選や下院選・上院選での社会自由党の躍進、労働者党・ブラジル社会民主党・ブラジル民主運動の議席の減少は既存の政党政治に対する不信の産物であった。そのため、ボルソナロは比例代表制・多党制・大統領制という組み合わせによって生み出される連立政権に特徴づけられる「連合大統領制」を否定して議員連盟との協力による閣僚任命を行ったが、政党連合を基盤としない大統領・議会関係は不安定であり、議会が政権運営の障害となるケースも出てきている。2019年4月頃から政権側による他党との歩み寄りの模索がみられるが、「連合大統領制」への回帰による大統領・議会関係の安定化と政権の一層の支持率の低下というジレンマの中でボルソナロ大統領がどのような選択をしていくのかを、今後注視していく必要がある。
著者
土屋 一樹
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
中東レビュー (ISSN:21884595)
巻号頁・発行日
pp.Vol.7_J-Art02, (Released:2019-09-21)
参考文献数
26

Although Egypt’s social security system became obsolete in the 1990s, it was the Sisi administration that launched the major reform. The social security system was restructured along with the implementation of the bold macro-economic reform. As a result, the new social security plan can cover a much bigger population than what the old system could, despite a chronic fiscal deficit. The purpose of this paper is to examine the state of the social security reform in Egypt since 2014 and discuss its sustainability. The paper reviews the developments of the new cash transfer programs as well as the rebuilding of the social insurance system. While the new social security scheme is well-designed and is highly reputed, administrative capabilities will be a major challenge.
著者
二宮 康史
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.13-23, 2019 (Released:2019-07-31)
参考文献数
11

ボルソナロ政権は経済自由主義を掲げ、市場の役割を重視したいわゆる「小さな政府」への政策転換を表明し、2019年1月に誕生した。ブラジルでは2003年~16年半ばまでの約14年間、政府の役割を重視し「大きな政府」を志向した労働者党(PT)政権が続き、その後、大統領の弾劾により副大統領から昇格したテメル政権へと引き継がれた。大きく政策転換したかの印象を受けるボルソナロ政権だが、選挙戦の公約や発足後4カ月間の経済政策の中身を検証すると、その多くはテメル前政権を踏襲していることがわかる。どこまで市場の役割に委ね、政府の役割を減ずるかは、90年代の自由化でも試みられた歴史的テーマでもあり、ボルソナロ政権が今後どこまでその問題に切り込めるか注目される。
著者
厳 善平 薛 進軍
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.2-36, 2019-03-15 (Released:2019-03-27)
参考文献数
70

はじめにⅠ人口センサスにみる高等教育の発展状況Ⅱ成人教育の制度と実績Ⅲ成人教育の特徴と規定要因――CGSSに基づいてⅣ成人高等教育の評価――収入関数の推計結果に基づいておわりに
著者
近藤 高史
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.2-31, 2023-12-15 (Released:2023-12-27)
参考文献数
47

パキスタンの水資源確保のためにインダス川に建設が計画されているのがカーラーバーグ・ダムである。小論の目的は同ダムが1960年代に着工が予定されていたにもかかわらず,いまだ計画段階のままとどまっている背景を明らかにすることにある。小論では同ダム建設計画の展開と建設反対派の動向を概観した後,現計画を形作った2000年代のムシャッラフ政権の取り組みと建設反対派への対応,政党の同計画への姿勢,計画をめぐるパキスタン国内の言説も検討した。そのなかで,計画停滞の背景にスィンド・パンジャーブ両州間の水配分争いを中心とした連邦・州,州間の不信感と相互の信頼醸成努力の欠如があり,これらの克服は容易でない点を指摘した。また,政治への介入を繰り返してきたパキスタン軍は水利計画にも利害関係を有しているために同ダム計画を後押ししてきたが,近年同ダム以外の水利計画の選択肢が増えたために優先順位が下がったことも背景として指摘した。
著者
近田 亮平
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.73-85, 2022 (Released:2022-01-31)
参考文献数
14

社会的マイノリティのなかでもLGBTと総称される性的マイノリティに関しては、社会において差別や偏見がより強く脆弱な存在でもあり、国や地域により状況は異なるが、権利の保障は遅れるとともに現在でも不十分である。ブラジルでは1985年の民政移管後、民主主義の定着とともに、社会的マイノリティを擁護する左派の政策や政治勢力が支持されたことにより、多様性を尊重する方向で社会が変化した。本稿はこのようなブラジルにおいて、性的マイノリティの権利を保障すべくどのような制度が整備され、どのようなアクターが行為し、それらがどのように相互作用してきたかを明らかにしようとするものである。先行研究とブラジル地理統計院のデータ、および、筆者が現地で行ったインタビュー調査をもとに、日本よりも先進的なブラジルの性的マイノリティの権利保障の変遷や課題について論じる。そして、多文化主義が民主化後の新憲法で唱導されたブラジルで、セクシャリティをめぐり多様性と排他性が衝突し合っている現状を指摘する。
著者
菊池 啓一
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.14-25, 2023 (Released:2023-07-31)
参考文献数
13

本稿では、「連合大統領制」を否定して政権の座についたボルソナロ大統領とブラジル国会との関係について検討した。当初ボルソナロ大統領は自身の政策選好に近い議員連盟との協力を重視していたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の中で政治的に孤立した。2020年前半に彼に対する弾劾告発が急増したため、セントロンと呼ばれる中道右派・右派政党グループへの接近が顕著となり、弾劾回避や再選に向けた政策実施などに大きな影響を与えた。ボルソナロとセントロンの関係はポスト分配や報告官修正による予算分配を通じて維持されたが、ボルソナロ政権下における大統領・議会関係は概して安定的なものではなく、立法能力の向上にはつながらなかった。