著者
伊賀 司
出版者
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
雑誌
アジア・アフリカ地域研究 (ISSN:13462466)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.73-102, 2017

This paper explores the politics of sexuality issues (sexuality politics) between the government and the LGBT movement in Malaysia since the 1980s. The Malaysian LGBT movement has faced repressive government policies and discrimination from society. However, some LGBT movements in the post-Mahathir era, such as Seksualiti Merdeka, Justice for Sisters, and Pelangi, have associated with the other NGOs and social movements and actively advocated the protection of LGBT people's human rights in public spaces. This paper explores when and how sexuality politics between the state and the LGBT movement appeared in Malaysia. Four incidents or moments were found to be important for the birth of sexuality politics in Malaysia: Islamization since the 1980s, the Asian Values discourse during the Mahathir administration, the HIV/AIDS epidemic, and the sodomy court case of Anwar Ibrahim. In the post-Mahathir era, the state has introduced new ways of repressing LGBT people, while the LGBT movements have also adopted new strategies.
著者
青山 薫 鈴木 賢 日下 渉 北村 由美 伊賀 司 石田 仁 小田 なら 林 貞和
出版者
神戸大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2023-06-30

性的マイノリティの存在を認め、すべての人の人権を擁護するために定着した「性の多様性」。だが、この概念は英語由来のジェンダー二元論を超えてはいない。二元論ではその存在が十分に説明できない人たちがアジアを始めさまざまな文化で確認されてきており、現在の概念系は、この人たちを承認し、人権としての「性の多様性」とその侵害を正確に把握することができないでいる。そこで本研究は、アジア9ケ国でいわゆる「非典型的な性」の歴史を調べ、現在生きている当事者に聞き取りをして、《性の多様性》とは何かを改めて明らかにする。そして、こちらの《多様性》に基づいて、現行のジェンダー概念を超える性の概念を構想する端緒をつける。
著者
日下 渉 初鹿野 直美 伊賀 司 小島 敬裕 宮脇 聡史 今村 真央 日向 伸介 北村 由美 新ヶ江 章友 青山 薫 小田 なら 田村 慶子 岡本 正明
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

世界各地の国家と市民社会は、性的マイノリティに対して「黙認」「抑圧」「矯正」「支援」など多様な対応をとってきた。なぜ国家と市民社会による性的マイノリティへの対応は、かくも多様なのか。一般に西洋では、民主主義と自由な市民社会が性的マイノリティの権利拡大に寄与するとされる。しかし東南アジアでは、性的マイノリティの権利要求は、民主主義体制のもとで何十年も放置されたり(フィリピン)、暴力的な弾圧されたり(インドネシア)、一党独裁制や軍政の下で進展を見せたり(ベトナム、タイ)、権威主義体制下で限定的に認められることもある(シンガポール)。このように、性的マイノリティの権利拡大の異なる程度は、政治体制の違いや市民社会の自由度からでは説明できない。本研究では、諸国家と市民社会による性的マイノリティへの異なる対応は、国民国家の正統性を支える「象徴」として、彼女/彼らがどのように利用されているかによって説明できるのではないかと仮説を立てて研究してきた。本年度は、6月にアジア政経学会において「アジアにおける性的マイノリティの政治:家族・宗教・国家」と題したパネルを開き、田村慶子が台湾とシンガポールについて、伊賀司がマレーシアについて、宮脇聡史がフィリピンについて、それぞれの事例を報告した。10月中旬には合宿を行い、2日間にわたってメンバー全員が報告を行い、共通の課題について徹底的に議論した。10月末には、マレーシアからPang Khee Teik氏 、インドネシアからAbdul Muiz氏を招いて、国際ワークショップを開催した。翌年2月にも、マレーシアからtan beng hui氏、フィリピンからJohn Andrew G. Evangelista氏、オーストラリアからPeter A. Jackson氏、タイからAnjana Suvarananda氏を招聘して、国際ワークショップを開催した。