著者
高良 美樹 金城 亮 Takara Miki Kinjo Akira
出版者
琉球大学法文学部
雑誌
人間科学 (ISSN:13434896)
巻号頁・発行日
no.8, pp.39-57, 2001-09

本研究では、職業レディネスおよび進路選択に対する自己効力感を指標として、インターンシップ(職場実習)の前後における大学生の就業意識の変化に焦点をあてた検討をおこなった。沖縄県内の3大学に通う文系の3年次学生398名(男子217名、女子181名)を対象に調査を実施した。職業レディネス21項目および進路選択に対する自己効力感30項目の各合計得点を従属変数として、インターンシップのタイプ(実務型・専門教育型・実習なし)×調査時期(実習前・後)の2要因混合計画による分散分析をおこなった結果、両得点ともに有意な効果は認められなかった。一方、インターンシップ経験に対する全般的満足度が高い群では、低い群に比べて事後調査における両得点が有意に高くなっており、インターンシップ・プログラムへの関与や満足が、職業レディネスや進路選択に対する自己効力感に促進的な影響を与えていることが示唆された。
著者
平良 柾史 平良 柾史
出版者
琉球大学法文学部
雑誌
琉球大学語学文学論集 (ISSN:03877957)
巻号頁・発行日
no.36, pp.p33-51, 1991-12

1925年に出版された Cather のThe Professor's Houseは、科学の隆盛に裏打ちされた物質主義が人間の生き方に強いインパクトを与えた20世紀初期の社会を如実に反映した作品となっている。物質主義に抵抗しながらもその潮流に流され疎外されていく St. Peter 教授。物質主義にどっぷりとつかり互いに憎しみ、敵意さえ抱く St. Peter の家族や大学の同僚たち。The Professor's House は、物質主義に毒された人々が互いに真のコミュニケーションをもちえず疎外されていく悲劇的状況を描いた作品といえよう。しかしながらこの作品では、物質主義という外的要因に加えて、内的要因、すなわち人間の内面に潜む罪を犯しがちな人間のもって生まれた弱さ(human flaw)が作品の登場人物たちの行動や生き方を規定し、外的要因以上に、内部から登場人物たちをコミュニケーションの欠如した疎外状況に落し込んでいるかと思われる。この小論では、人間の内面に潜む弱さ(human flaw)を七つの大罪-the sins of pride, envy, avarice, gluttony, wrath, sloth, lust-に起因するファクターとしての軌軸でとらえ、それぞれの大罪がどのような形で登場人物たちの行動に現れているのかを分析してみた。
著者
稲村 務 Inamura Tsutomu
出版者
琉球大学法文学部
雑誌
人間科学 : 琉球大学法文学部人間科学科紀要 = Human sciences : bulletin of the Faculty of Law and Letters, University of the Ryukyus, Department of Human Sciences (ISSN:13434896)
巻号頁・発行日
no.36, pp.105-144, 2017-03

Kunio Yanagita considered "les traditions popularies" as his main research interest. At the global intellectual framework,including the ABS (Access to Genetic Resources and Benefit Sharing), there has been increasing pressure to separate the concept of folklore and traditional knowledge. Nihon minzokugaku is not a folklore studies of Jap an. It is necessary to repositioning it as a science of traditional knowledge.
著者
西本 裕輝 Nishimoto Hiroki
出版者
琉球大学法文学部
雑誌
人間科学 (ISSN:13434896)
巻号頁・発行日
no.2, pp.61-76, 1998-09

本研究は、家庭環境と進路選択の関連を検討することを通して、学校の持つ再生産機能を浮き彫りにすることを目的とする。沖縄の高校生を対象とした計4回にわたる調査で得られたデータを分析した結果、主に次のことが明らかになった。(1)家庭環境と進路選択は大きく関連しており、格差が存在する。(2)その格差は学校により平準化されるどころか、より広げられている上の(1)は重回帰分析の結果、家庭環境から進路選択への直接効果が見出されたことによる。また(2)は、パス解析で家庭環境から進路選択への直接効果「家庭環境→進路選択」と、家庭環境から学校を媒体として進路選択に影響を与える間接効果「家庭環境→学校→進路選択」の双方が見出されたことによる。いずれにせよ、こうした結果が見出されるのは明らかに「学校による教育の平等化」の失敗であり、近年他県、あるいは欧米において指摘されてきている問題である。さらに沖縄の場合は経済的格差とあいまって、状況はより深刻と言える。
著者
津波 高志 Tsuha Takashi
出版者
琉球大学法文学部
雑誌
人間科学 (ISSN:13434896)
巻号頁・発行日
no.23, pp.3-34, 2009-03
被引用文献数
1

本論文では、奄美・沖縄において火葬の導入に伴って葬祭業者が関与し、葬送儀礼の外部化が起きたとする説を奄美で検証するために1村落の事例を記述した。また、近代初頭あたりまで遡って見れば、奄美における葬送儀礼の外部化は2度あったことを明らかにした。その2度の外部化を1村落の事例に読み取りつつ、琉球弧の文化の研究において、こと奄美に関しては薩摩・鹿児島の影響を十分に考慮する必要があり、葬送儀礼の外部化もその例外ではないことを指摘した。
著者
與那原 建 Yonahara Tatsuru
出版者
琉球大学法文学部
雑誌
琉球大学経済研究 = Ryukyu University economic review (ISSN:0557580X)
巻号頁・発行日
no.94, pp.51-60, 2017-09

企業の競争優位の持続可能性についての捉え方は2つある。ひとつは、企業組織には慣性があるため、大きな環境変化には対応できず、そうした変化にうまく適応できたところに取って代わられてしまうという見方に立つ。もうひとつの立場では、環境変化の中でも新たな組織能力を創出する能力(ダイナミック能力)を備えておれば、企業は競争優位を持続させることができるととらえ、そのような能力こそが企業の持続的競争優位の源泉になるとみなしている。後者は「ダイナミック能力論」とよばれる分析視角であるが、それは新たに「両利き」というコンセプトを導入することで、競争優位の持続可能性の議論を進化させている。そうした観点で企業の持続的競争優位を論じている代表的研究者にオライリー&タッシュマンがいる。本稿では、かれらのダイナミック能力論と両利きの実現可能性についての諸命題を検討していくが、こうした議論は企業の持続的競争優位の源泉の解明を進めていく上で有望な方向のひとつと考えられる。
著者
宮城 徹 Miyagi Toru
出版者
琉球大学法文学部
雑誌
人間科学 = Human Science (ISSN:13434896)
巻号頁・発行日
no.37, pp.71-101, 2017-09

10世紀後期の修道院復興期において、イングランド東部のイースト・アングリア周辺には多数の修道院が復興・創設された。本稿では、その中からソーニー修道院を考察の対象に取り上げ、創設以後11世紀後期に至るまでの所領形成のための土地集積のプロセスを検証すると共に、そのような歴史的経験を踏まえて11世紀後期の史料に現われる修道院の所領景観について歴史地理学的見地より考察を行なった。結果として、当該期の史料に現われるその所領景観の性格が、修道院の歴史的経験に根差して形成されていることを明らかにした。
著者
川平 成雄 Kabira Nario
出版者
琉球大学法文学部
雑誌
琉球大学経済研究 (ISSN:0557580X)
巻号頁・発行日
no.75, pp.107-128, 2008-03

1945年4月1日、米軍は、沖縄本島中部西海岸に上陸する。米軍の沖縄本島上陸は、沖縄戦の本格的な開始を意味し、同時に米軍政府による沖縄の占領統治の開始をも意味した。沖縄の住民すべてを巻き込んだ沖縄戦は、戦史上、類を見ない、極限の中の極限における戦争であった。壕に避難している赤ちゃんが母親のお乳が出ないのでよく泣く、泣き声が漏れて米軍に知られるのを恐れた他の人達から「口を塞いで死なしなさい。みんなのためだ」といわれ、また日本兵が「注射して上げようね、おとなしくなる注射だ」といって殺す。人が人としての感情を失うのが極限である。 米軍は上陸と同時に、強制による住民の収容、強制による住民の労働力を確保して、日本軍が"作戦的に"放置した飛行場の整備、新たな基地建設を推し進め、この対価として食糧・衣類をはじめとする生活物資の無償配給を続ける。「軍作業」・無償配給は、沖縄の住民にとって生命の綱であった。 このような状況の中、米軍政府は、沖縄における占領と統治、沖縄住民による"ある程度の自治"を認める。その端緒が45年8月15日の「仮沖縄人諮詢会」の設置であった。米軍政府は、「沖縄に対する軍政府の方針」を立てるが、その主要内容はつぎのとおりである。「沖縄の住民が漸次生活の向上と自己の問題に対する自由の回復を期待し得る安定した制度の設立は諸君が新に委任された任務を能く遂行することに係っている。米軍政府は引続き指導と物質的援助を与える。然し責任と管理は漸次沖縄の住民に移譲されなければならない」。そして8月20日に沖縄諮詢会が設置される。その24日後の9月13日には、米軍政府と沖縄諮詢会は組織的な地方行政を創設する必要から「地方行政緊急措置要綱」を公布、この第5条でうたわれたのが「年令二十五才以上ノ住民ハ選挙権及被選挙権ヲ有ス」という文言である。これにより沖縄の女性に参政権が与えられたのである。9月20日の住民収容12地区における市議会議員選挙、9月25日の市長選挙において、沖縄の女性は、日本政治史上、はじめて、参政権を行使したのであった。