著者
氏田 壮一郎 玉田 俊平太
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究 技術 計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3_4, pp.292-302, 2014-02-26 (Released:2017-10-21)

製品開発において価値形成は,重要な経営課題である。価値形成には,顧客ニーズに合致した便益を製品の中に同化するプロセスが必要であり,市場の顧客ニーズを認識する過程が重要となる。本研究では,価値形成を実現する手法を探るため,「もみ味」という感覚的で曖昧な便益を実現するマッサージチェアの開発プロセスを分析した。事例分析の結果,「共創同期プロセス」と「仮想顧客同期プロセス」の二つの開発モデルに分類することができた。前者は,試用者などの共創相手とともに開発を行うことで正確な顧客ニーズの把握を目指すプロセスである。後者は市場に精通したマネージャーが仮想顧客となり,そのイメージに基づき価値形成を実施するプロセスである。この両プロセスの違いは顧客ニーズを収集する対象にあり,共創同期プロセスは共創相手に仮想顧客同期プロセスはマネージャーにその収集対象を設定している点である。市場における顧客ニーズとの乖離のリスクを回避する場合は共創同期プロセスが有利であり,革新的な製品開発や短期間に低コストで開発したい場合,仮想顧客同期プロセスが効率的である。
著者
山口 栄一 藤田 裕二
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
年次大会講演要旨集 29 (ISSN:24327131)
巻号頁・発行日
pp.659-662, 2014-10-18 (Released:2018-01-30)

日本および米国それぞれのSBIR制度(Small Business Innovation Research Policy、中小企業技術革新制度)の趣意の相違を明らかにするために、被採択者の出自を調べた。日本については、1998年から2010年にかけて採択された企業の責任者の全数調査(3559名)。また、米国については、2011年に採択された企業の責任者(Principal investigator)の全数調査(1034名)である。その結果、以下のことが分かった。まず、日本では1998年SBIR政策施行以来、代表者の7.7%しか博士ではなかった。即ち大学で生まれた最先進の科学をイノベーションに転換する意識がなかった。いっぽう米国では、1982年のSBIR施行以来、代表者の74%が博士だった。即ちSBIR政策を通じて大学で生まれた最先進の知識を体系的にイノベーションに転換する意識があった。米国では代表者の出自は、化学、物理学など、理学系がもっとも多く、国家はSBIRを通じて政策的に基礎研究を産業に転換することをめざしてきたことが分かった。
著者
関根 重幸
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
年次学術大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.961-964, 2006-10-21

本研究では「規制・規格に関する社会システムについて、それらを活用する立場に立った構造化を検討し、可能であれば整理体系化する。」ことを試みた。より具体的に「規制を定める法律や政令等とその中で引用される規格等は、体系的に整理可能であり、よって、製品やサービスの普及に戦略的に利用できるはずである」との仮説のもとに調査を行った。例えば、「規制」とは最低限の性能基準を設けるものであるから、規制値をかろうじて超えるような製品(技術)の場合には、規制をクリアすることが必須であり、また、規制が有ること自体が普及を促進する。一方、高性能・高付加価値製品の利用者にインセンティブを与えるような社会システムもある。自動車保険のエアバック割引やハイブリットカー補助金などのように、製品としての基本的な性能・安全基準等はクリアした上で、さらなる付加価値に対してインセンティブを付与するシステムである。結論として、製品等の普及を促進する上で規格を活用する社会システムを、「規制」、法律等による「努力義務」、「標準のお墨付き効果」および「高性能インセンティブ」の4類型に分類した。それらのシステムによる基準レベル(規制値等)と技術で実現可能なレベルとの差の大きさによって、普及に影響を及ぼす社会システムが異なることが予測される。いずれの社会システムにおいても、基準レベルの測定法などで、しばしばJIS等の規格を参照している。したがって、いつ頃どの様な規格が成立するか(させるか)を戦略的に活用するビジネスモデルのデザインが可能であろう。
著者
キム ヨンロック 田中 優貴
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究 技術 計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.353-366, 2019-12-27 (Released:2020-01-29)
参考文献数
13

As an infrastructure layer technology, Blockchain technology could have an impact on a broad range of industries, and we discussed the implication to the human resource industry in this paper. We already see a few cases where Blockchain technology is used for issuing and verifying academic certificates outside of Japan. Active research has been undergoing on decentralized ID and private data management, and there is a possibility as a core technology for trust sharing and management platforms. Despite various challenges the technology faces today, we might see a certain level of disruption in the human resource industry in the near future and would need to continue to watch the evolution of the technology.
著者
十亀 英司
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
年次学術大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2, pp.82-85, 1987-10-16
著者
板谷 和彦
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究 技術 計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.224-229, 2018-09-22 (Released:2020-01-31)
参考文献数
18

In this paper, "chances," encountered in the course of trial & error, and "serendipity," the handling for the chances, are discussed and their related empirical research is reviewed. What is important in the course of trial & error is obtaining unexpected results, in other symbolic words, the encounter of "chances." This academic consideration presents the interpretation that the chance in trial & error is a kind of fluctuation phenomenon caused by some unstable state in the course of random probability. "Serendipity" is, on the other hand, cognitive actions anchoring the chances to some value or benefit. Here, the relations among serendipity, trial & error, and chances are graphically demonstrated. Serendipity should be took advantage of not only in the conventional fields of science and technology, but also in social or organizational context. It has an aspect leading to anti-paradigm choice. The empirical research presents that the important factors to serendipity generation, effective promotion factors and paths differ depending on the type of serendipity.
著者
上山 隆大
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究 技術 計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.202-203, 2021-09-30 (Released:2021-10-21)

The institution of the university, which had begun as a self-governing organization of students in Bologna in the 12th century, has undergone many transformations over the years, which is the fate of the university system. In the nineteenth century, as the utility of knowledge and the value of technology created by academia became enormous, a new structure was born in which the state mainly supported university research. On the other hand, as Max Weber observed about American academia, in the early 20th century, there was a growing expectation for universities to have financial autonomy and agile management of research. In Japan as well, there were already growing voices among professors of imperial universities in the Meiji era that the autonomy of universities should be considered from the standpoint of financial independence. It is now worth considering the historical lessons of this.
著者
金間 大介
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究 技術 計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1_2, pp.62-72, 2012-09-20 (Released:2017-10-21)
参考文献数
23

若手研究者は国や組織の競争力を高める重要な資源であるため,今後の科学技術政策やイノベーション戦略を立案する上で,彼らの意欲を高めるような方策を検討することには大きな意味がある。そこで本研究では,直接若手研究者に対しインタビューを行い,研究を行う動機や,やる気を低下させる要因,その対処法などについて調査した。その結果,若手研究者には,彼らの持つモチベーション特性の違いから,課題解決型と課題発見型の2つのタイプが存在することが分かった。課題解決型の若手研究者は,自己の能力や技能を用いて課題解決に挑むことに研究の面白さを感じる一方で,対応不可能と思われる課題や暖昧な課題を与えられた時に意欲の低下が見られた。このような時彼らは,暖昧な作業の中から挑戦すべきテーマを見つけ出すなどして自らのモチベーションを保つよう対処していた。課題発見型の若手研究者は,自身が関与する研究分野を既知の領域と未知の領域に別けて考え,自らが先頭に立って未知の領域を開拓することを研究意欲の源泉としていた。また彼らは,外部からの強いコントロールを感じた時に意欲の低下を示した。このような時彼らは,何らかの外的な報酬に行動の原因を帰属させることでモチベーションを取り戻そうとしていた。
著者
姜 娟 原山 優子
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究 技術 計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.63-77, 2005
参考文献数
72
被引用文献数
4

1980年代以降に顕著となる, 科学技術政策と地域政策との意識的な接合-それを「地域科学技術政策」と呼ぶことにする-への取り組みは, 社会における科学・技術の位置や性格の変化とグローバル化という二つの大きな歴史的変化を背景とした科学技術政策と地域政策の双方における一つの転換を印している。その転換において, 新たな政策の目標や手段は, 時代変化の性格とそれが課す挑戦についての一定の理論的理解に基づくと同時に, 政策の形成や実施の制度的条件によっても規定されるが, さらに, 政策転換も一直線ではなく, 学習によって段階を経るという点で歴史的経路依存性をもっている。本稿においては, 「地域科学技術政策」は当初の「サイエンス・パーク・パラダイム」から, 90年代に入って, 「ラーニング・リジョン・パラダイム」へ進化してきたと捉えているが, 日本におけるその進化過程を欧米におけるそれとの対比で検討する。
著者
高山 誠
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究 技術 計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1_2, pp.58-61, 2004-09-20 (Released:2017-12-29)
参考文献数
3

The current mode of competition in the Japanese industry is competition for the top tier. This is essentially competition for the highest asset value of the business but not for long-term excellence. The author reviews the history of this type of competition, discusses problems inherent to it, including possible moral hazard, and points out that it does not favor planning for the uncertain future for which the traditional Japanese management was prepared with accumulated internal resources. This situation requires that the Science and Technology Basic Plan incorporate careful strategies for commercialization of its outcomes. The key for long-term survival strategy is quest for uniqueness.
著者
鈴木 潤 姜 娟
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究 技術 計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.195-208, 2012
参考文献数
15

近年,「グリーン・イノベーション」に対する重視と重点投資は,世界的な潮流となっている。しかし真に有効な関連政策や企業戦略などを検討するためには,従来言われてきた「日本の環境技術は世界一である」という通説を盲目的に引用することは慎むべきであり,今一度冷静に各種の環境関連の「コア技術」とそれらをサポートする「近隣技術」を俯瞰し,日本企業の技術競争力の国際的位置づけをエビデンスに基づいて明らかにすることが必要であると考えられる。本論文では,PATSTATを用い,IPCコードの「共起」に基づいて,より科学的かつ合理的な環境技術の定義法を提示するとともに,各技術分野の「近隣技術」を同定し,分析の視野に加えた。さらに,企業が自国の国内に多くの特許を出願するという"home country bias"を考慮したうえで,新たに定義された個々の技術領域の「コア技術」及び「近隣技術」における各国の国際特許出願数を集計し,国単位のマクロレベルで,各技術分野における日本の国際競争力の実像の把握を試みた。これらの分析の結果,環境技術のほとんどの分野において世界で最も高い技術競争力を有するのはほぼ例外なく米国とドイツであり,日本はいくつかの分野でトップではあるものの,圧倒的とは言えないという事実が明らかになった。さらに,特定の分野ではアジアの新興国による追い上げを受けている。少なくとも現時点で日本が「世界一の環境大国」であるとするのは幻想であるかもしれない。