著者
崔 勝淏
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 = Journal of Atomi University, Faculty of Management (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
no.26, pp.41-63, 2018-07

今まで日本の労働社会は、これまで高費用と比較的解雇の難しい正社員を減らす一方、低賃金と解雇が容易な非正規職を拡大する方向で進展してきたと言えよう。そうすることで日本の労働市場全体が非正規に大きく依存するような形で進められてきており、今までの雇用のルールを大きく変更してきたと言えよう。しかし、近年、増加しすぎた非正規雇用の不安の高まりと労働市場の不安の拡大に、社会的懸念と反発が高まるにつれ、非正規の正規職化が議論されるようになってきた。 そこで、本論文の目的は、現在議論されている非正規の正規化の一形態であるとされる、「限定正社員」という新たな雇用形態を巡る諸側面を分析することによって、限定正社員化が果たして非正規職問題を解決するために有効な意昧を持つものなのかについて検討することにある。それは、近年の働き方改革の一環として、多様な働き方の議論の延長線上に提案されるものであり、多様な正社員化の議論の一種でもあると言える。 本論文で分析を行った結果、非正規職の問題を解決しようとする政府の意志が確認できる肯定的な側面はあるものの、現在、導人しつつある「限定正杜員」制度は、やはり多くの限界があり、様々な次元で再評価と再検証が必要であると結論付ける。そして日本の非正規問題の解決には、従来の日本の雇用システムにおける多様な側面の再検討とともに、何より賃金体系の抜本的な改革を伴った新たなニッポン型雇用システムの構築が必要であることを提案する。
著者
柏崎 洋美
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.89-105, 2007-03-15

企業年金は,わが国の年金制度の一部であり,国民年金制度(1階部分)・厚生年金制度など(2階部分)の上に存在する3階部分に対応する年金制度である。企業年金は労働者のための年金であって,引退後の所得保障を主たる役割の1つとするものである。ところが,この企業年金給付の減額を行なう企業が最近において急増し,退職労働者が会社を訴える事例が増加している。企業年金のうちの自社年金といわれるものは,年金給付のための資産を,企業の外部に分離して積み立てていない制度である。この自社年金については法令上の規制が存在しない。そのため,いかなる場合に自社年金を減額し得るのか,が問題になる。本稿では,既に判決の出されたものの中から代表的な事件の事実および判旨を考察し,判例における判断基準と判断要素を検討することにする。(1)幸福銀行事件では,退職金規定を含む就業規則には規定されていない規定額の3倍程度の年金を減額することについての判断がなされ,大阪地裁は,就業規則の不利益変更の法理を斟酌して減額を認容した。(2)松下電器産業(大津)事件では,減額時の経済情勢が年金規定における「経済情勢に大幅な変動があった場合」に該当するとされ,大津地裁は,減額の必要性および相当性があるとして,同様に減額を認容した。(3)港湾労働安定協会事件では,中央労使合意による減額の効力が争われ,神戸地裁は,退職労働者には現在の労働者と共通する利益がないとして,減額は認容しなかった。アメリカ合衆国にも企業年金制度は存在するが,連邦法であるERISA法による明文の規定があり減額は認められていない。そこで,わが国の判例において検討されている(1)就業規則不利益変更類似の法理,および,(2)制度的契約論の法理を検討した結果,様々な要件が斟酌できる点や,明確な理由付けがあることから(1)就業規則不利益変更類似の法理が妥当と考えられるが,これからの判例の積み重ねにより企業(自社)年金減額の法理が明確になると考えられる。
著者
川平 ひとし
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学紀要 (ISSN:03899543)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.1-23, 1990-03-20

藤沢の時宗総本山清浄光寺 (遊行寺) に蔵される標記の一本を紹介する。同本は著者冷泉為和の自筆になるものと目され、依拠すべき本文であることはもとより、為和の和歌活動、ことに時宗の人々との繋がりを伝える資料として貴重だと思われる。同本をめぐる書誌を吟味しながら、関連してもたらされる問題点-書名・構成・記載内容 (系譜意識、家の説の提示、和歌の会の場の意義など) の含みもつ問題、惣じて室町後期数多く作成され享受された和歌作法書類を捉えるための視点にかかわる問題-を検討し、論末に本文翻刻を付す。
著者
山本 貞雄
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-32, 2007-03-15

本稿は,この4月から茗荷谷キャンパスに設けられた大学院・マネジメント研究科の開設を記念して開催された春季公開講座において行った講演の内容に,加筆訂正を行ったものである.講演を行った4月から,約7ヶ月が経っているが,この間の大きな変化は,I小泉内閣退場後の安倍晋三内閣の誕生と小沢一郎民主党代表の出現と言った国内政治の大きな変化,II北朝鮮やイランの核保有,中国の外交攻勢の活発化,米中間選挙におけるブッシュ共和党政権の敗北等国際情勢の大きな変化に集約される.これらの大きな変化は,末尾の(補講)において,それぞれ一括して記述する.土光臨調は世紀末20年の経済財政行政の構造改革の路線を敷いた.しかし,21世紀の世界と日本は,21世紀型社会システムの下で,多くの多様な巨大な危機に包まれた時代となる.したがって,21世紀においては,我国は,以下のこれらの7つの巨大な危機的課題に賢明な対応を行い,これを乗り切って行く必要がある.(1)中国やインド等の発展途上国の急速な人口増と経済発展及び限界に近づいた世界の地球環境・エネルギー問題(2)外交・安全保障と総合的なチャイナリスクの問題(3)我国の少子化及び高齢化と社会保障及び人口減少経済の問題(4)我国の経済運営と一体的な財政構造改革の問題(5)地方分権型社会の構築の問題(6)活力ある市場経済等3つのバランスの取れた社会システムの実現の問題(7)自民党と民主党の2大政党の政権対立時代の政治の問題
著者
石田 信一
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学文学部紀要 (ISSN:13481444)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.1-18, 2010-09-15

旧ユーゴスラヴィア連邦から分離・独立したクロアチアの学校向け歴史教科書における近代史に関する記述の変化を、一九八〇年代末までの連邦時代、独立直後の一九九〇年代、新たな学習指導要領が導入された二〇〇六年以降の三期に分けて詳細に辿りつつ、その特徴と問題点を明らかにした。共産主義者同盟による一党独裁体制下にあった連邦時代においてさえ、クロアチアの歴史教科書は世界史(主にヨーロッパ史)、クロアチア史、その他のユーゴスラヴィア諸民族史の三層構造となっており、「国民史」的側面を持っていたが、必ずしもクロアチア史に関する記述の比率は高くなく、諸民族の融和を意図してユーゴスラヴィア主義(思想)や「民族体」への言及などの特別な配慮が見られた。しかし、連邦解体に伴う激しい「内戦」を経験した一九九〇年代の歴史教育・教科書は「国民史」一辺倒のものに変貌し、「狭隘な民族的歴史観」を押し付けるものとなった。それが近隣諸国間の不和を助長した面もある。最近では、近隣諸国との教科書対話などを通じて、かつてほど極端な記述は見られなくなり、「クロアチア国家(国民)教育基準」に基づく新たな学習指導要領の下で教科書の記述のあり方も多様化している。それでも、文化史・社会経済史に関する記述や「少数民族」に関する記述など、さらに改善すべき点も少なくない。クロアチアを含む旧ユーゴスラヴィア諸国において現在進行中の歴史教育・教科書の改善策は、同じように歴史教科書問題を抱える日本にとっても参考にすべき点があると思われる。