著者
山田 徹雄
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学紀要 (ISSN:03899543)
巻号頁・発行日
no.21, pp.p1-10, 1988-03

「経済的必然性」をもたない国有化とエンゲルスによって規定が与えられた「ビスマルク的国有」なる概念は, ドイツ資本主義或いは日本資本主義の研究に, 重要な視角を与えてきたが, 逆に, その概念への固執によって「ビスマルクによる鉄道の国有」を多面的かつ, 広く全ドイツ的にみる視野が失われてきた。本稿においては, 「ドイツ帝国」と「プロイセン邦」という複眼を持って, この問題にアプローチする。
著者
渡邉 徹
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 = Journal of Atomi University, Faculty of Management (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
no.29, pp.105-119, 2020-01

官民一体となった取組みや行き過ぎた円高の是正などが奏功し、長らく緩やかな増加基調にあったインバウンド(訪日外国人旅行)は、とりわけ平成最後の10年間に急増した。人口減少社会は将来的にますます進展すると予測されている中、少なくとも短期間に我が国経済や財政を取り巻く困難が低減するとは考えにくい。一方、海外に目を向けると、周辺国との間で政治的困難を抱えている。インバウンドは経済効果をもたらすだけでなく、国際相互理解も増進するとされており、インバウンド誘致は令和時代にますます重要性を増すと思われる。しかし、訪日外国人旅行者数の対前年比増加率をみると、平成27(2015)年の約47.1%をピークとして、近年は低下傾向にある。費目別訪日外国人旅行者一人あたり消費額の推移をみても、「爆買い」が新語・流行語大賞の年間大賞を受賞した平成27(2015)年をピークに買物代は減少傾向にあり、訪日外国人旅行消費全体として頭打ちとなっている。そこで、近年盛んに指摘されているのは、ショッピング等「モノ消費」を目的とする訪日旅行から、日本ならではの体験、すなわち「コト消費」を目的とする訪日旅行への転換の必要性 である。平成29(2017)年10月に観光庁が設置した検討会議は、翌年3月に訪日外国人旅行者によるコト消費を促進するための提言をとりまとめたが、これに関連し、①効果的な情報発信、②ソフト面の受入環境の整備、の重要性が指摘されうる。観光立国の実現に向け、観光立国推進基本法は国及び地方公共団体のほか、住民や観光事業者にも参画を求めている。訪日外国人旅行者にとり魅力的な観光地域を形成するため、住民、すなわち日本人一人一人には、「草の根外交官」であることを自覚し、各人に可能なことを実践することが求められているといえよう。
著者
山澤 成康
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 = JOURNAL OF ATOMI UNIVERSITY FACULTY OF MANAGEMENT (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
no.31, pp.1-18, 2021-02

本研究は、政府の景気局面判断がどのようなメカニズムでなされているのかを機械学習の手法を使って実証的に検討したものだ。被説明変数を、政府の景気基準日付に基づく景気局面(拡大期=0、後退期=1)、説明変数を景気動向指数(先行、一致、遅行)のすべての構成指標27系列(前期差)とした。サンプルを教師データと評価データの2つに分けて予測精度を調べるホールドアウトテストでは、手法の違いによりばらつきはあるが、おおむね良好な結果となった。次に外挿テストを行った。2012年3月の景気の「山」までを教師データとしてそこから先を予測するケースと2012年11月の景気の「谷」までを教師データとしてそこから先を予測するケースの 2種類を行い、局面判断ができるかを検討した。決定木を使うと概ね的中することがわかった。次に決定木を使って、景気局面判断に各指標がどのように使われているかについて調べた。2014年以前の景気局面判断は簡明で、DIとその差分の2つでほぼ判断ができていた。しかし、2014年の消費税率引き上げ以降は、局面判断の基準が変わっていることがわかった。2018年以降、公式の局面判断では景気後退のサインが出ていないが、従来の手法では景気後退のサインが頻繁に出ていることが確認できた。最後に、決定木の予測をランダムフォレスト、勾配ブースティングなどアンサンブル予測も行って、予測が改善するかどうかを検証した。結果は決定木を使った場合と同様だった。
著者
館田 晶子
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.87-107, 2005-03-15

本稿は、フランスにおいて外国人に認められる憲法上の権利のひとつである「通常の家族生活を営む権利」について、家族の再結合を中心に検討を加えるものである。フランスの憲法院は、1993年に移民法を審査した判決の中で、外国人に認められるいくつかの権利を憲法上の権利であると認定した。その中のひとつである「通常の家族生活を営む権利」は、従来からコンセイユ・デタなどでその権利性は認められていたものの、憲法院判決によって初めて権利が「憲法化」されたものである。これは外国人の私的および家族的生活を尊重すべきことを内容とするものであり、それを具体化する制度のひとつとして、「家族の再結合」が出入国管理法制に定められている。「家族の再結合」による入国および滞在は、その要件が緩和されることになるが、ただし、重婚の家族の場合などフランスの公の秩序に合致しないような家族形態の場合には入国および滞在が制限されることも、憲法院判決により認められるところとなった。また、不法入国のもととなる偽装結婚を排除するために、婚姻後一定期間の滞在資格取得を制限するなど、婚姻に対しても若干の制約が課されている。このような憲法院および行政の態度に対しては、公の秩序の維持を根拠に外国人の個人的権利を制限することの正当性が問題とされている。移民の受入国への統合という観点から、入国・滞在法制において個人の私生活を尊重することは、大きな意味を持つであろう。
著者
香山 はるの
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学文学部紀要 (ISSN:13481444)
巻号頁・発行日
no.36, pp.35-42, 2003-03

この論文はAnthony Trollopeの後期の作品The American Senatorを'condition-of-England' novelとして読む試みである。アメリカからイギリス見聞にやってきたElias Gotobed(以下Senator)は,好奇心旺盛で見るもの聞くもの全てについて,愚直なまでに正直なコメントをし,しばしば周りの者を苛立たせる。その様子は読者の笑いを誘うが,小説中の彼の役割はそういった喜劇的なものにとどまらない。たとえばSenatorは,国教会や陸軍,選挙区等,イギリスの諸制度に潜む不平等や矛盾を指摘するが,実際彼の見方は間題の核心をつくものが多い。また,彼はイギリス社会の腐敗を階級の問題と結びつけ,貴族の金権支配や上流階級に蔓延るマテリアリズムなどを,痛烈に批判する。Trollopeは究極的には,Senatorの示唆するようなイギリスの社会構造の変革までは考えていないようだが,その内部にある(上に言及したような)様々な間題についてはしばしば,このキャラクターの声を借りて自分の見解を主張している。この小説が出版された当時はSenatorの辛辣なイギリス批判に反感を抱く批評家も多く,評判は概して芳しくなかった。しかし,この小説を今後のイギリスのあるべき姿を探った'condition-of-England' novelとして捉えると,Senatorこそがその要となる人物であることがわかる。Senatorは外国人訪問者という立場から,イギリスの「常識」を外から眺め,(イギリス人自身が気づかない,或いは認めたくない)その非合理性を暴いてみせる。小説の後半,Senatorの講演は中断され,彼は再び'New World'に戻るが,彼の残したメッセージは,ヒロインMary Mastersの幸せな結婚といったコンヴェンショナルなエンディングに完全にかき消されることなく,その余韻を残している。The American Senatorには,それまでアメリカをはじめ,様々な国を旅してきたTrollopeが体得した2つの視点-内なる母国と外から眺めたイギリス-が興味深く交錯し,深いアイロニーを生み出しているのである。
著者
川平 ひとし
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学紀要 (ISSN:03899543)
巻号頁・発行日
no.33, pp.43-57, 2000-03

鎌倉末期を目処として成立したと考えられる歌論書 (あるいは歌学書) である『和歌淵底秘抄』(「和歌淵底抄」とも) の、奥書中に見える「定家卿懐中書相傳次第」という語句、ことに「定家卿懐中書」という名辞に着目する。当該の書は藤原定家その人の著作とは認められない。しかし、右の名辞が伝えているのは、同書は定家に関わる書に他ならないことを示唆しさらに当の書を授受・継承してきたという事実を証示しようとする主体の意志の現れである。本稿では、この名辞に含まれている意味と意義を解きほぐすことによって、テキストを制作し、さらに制作された当のテキストを受容し取り扱う中世の人々の<テキスト意識>や、定家に仮託されたテキストの生成と展開の問題との結びつきを検討する。そこから仮託書類のテキストに働く力としての<テキスト幻想>を抽出して、その再措定と命題化を試みる。定家仮託書を追究するための一観点を設定してみたい。
著者
山口 豊一 松嵜 くみ子 上村 佳代
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学心理学部紀要 (ISSN:24348295)
巻号頁・発行日
no.3, pp.43-53, 2021-03

本研究では,女子大学生における援助要請行動とQOL の関連を検討し,明らかにすることを目的とした。援助要請行動尺度を作成し,因子分析を行った結果,1因子5項目の尺度が作成された。女子大学生139名を対象に,QOL,居場所感,援助要請行動について質問紙調査を行い,測定した。学年差はみられなかったため,学年ごとにデータを分けず相関分析を行った。その結果,QOL,居場所感,援助要請行動の間に十分な相関がみられたため,パス解析を行った。その結果,「援助要請行動」は,「本来感」,「自己有用感」の2つを介して,「精神的健康」「自分」「家族」に影響を与えていた。また,「援助要請行動」は,「自己有用感」を介して,「身体的健康」,「友達」,「学校」に影響を与えていた。以上のように,援助要請行動は居場所感を介してQOL に影響を与えることが明らかとなった。
著者
小川 功
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 = JOURNAL OF ATOMI UNIVERSITY FACULTY OF MANAGEMENT (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
no.10, pp.1-18, 2010-10

京都の洛西地区の地主・名望家グループの風間八左衛門,小林吉明らは町村長・議員等として地域の行政・政治に関わる一方,明治30 年代から40 年代にかけて地元の嵯峨・嵐山の地域振興,観光振興を目論み,名勝旧跡の保存・紹介,嵐山焼など名産品の開発を行う傍ら,1、温泉会社,2、遊園会社,3、水力電気,4、銀行等を共同で発起した。本稿ではこのうち嵐山温泉,嵯峨遊園両社を取り上げたが,彼らは外人観光客を対象とした名所案内,環境整備等にも努力し,外人誘致にも貢献した。1、嵐山温泉は無色透明の炭酸冷泉であったが,渡月橋畔から船で嵐峡の清流を遡る風景絶佳の地にある老舗旅館として内外の観光客に愛好された。また2、嵯峨遊園は葛野郡による嵐山公園設置の経費を使用料として調達する意味から,公園内に遊覧客向の建物を数軒新築し飲食・遊興業者に賃貸するという官設公園内の民営代行から出発した。設立に当って同社が「営利を専らとせず,成る可く公衆の利便に資する」旨を謳ったように,京都市内の投資家集団が買収した嵐山三軒家や,嵐山に広大な別荘を建築しようとした内外の資産家等の行動に比し,小林らの行動は地元の振興を第一義とするものであったと評価できよう。しかし3、清滝川水力電気が創立早々に川崎・松方系統の嵐山電車軌道への身売りを余儀なくされたように,巨額の資金を固定化させがちな風間・小林派の関係企業は概して苦難の道を歩み,昭和2 年の金融恐慌で彼らが共同出資した旗艦・4、嵯峨銀行が破綻すると,嵐山焼の廃絶に象徴されるように,上記の両社を除き多くの関係企業の衰退を招いた。その後も彼らの意志を継承する子孫等により,嵐山焼の再興が幾度も企画されたり,近年でも嵐山に本格的な温泉を掘削・導入するなど地元資本による観光振興策が試みられる一方,残念ながら長い歴史を有する老舗旅館・嵐峡館が休業を余儀なくされ,大手観光資本により買収・改名されるなどの変化が見られる。大幅改装後の同館が期待通り内外貴賓の接待所の機能を果すならば創設者の意にも沿う展開であろう。