著者
今井 康之 黒羽子 孝太 渡辺 達夫
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

化学物質アレルギーにおいて、抗原の働きを強める作用(アジュバント作用)の重要性が注目されつつある。しかし、アジュバントの機構については不明な点が多い。マウスの接触性皮膚炎をモデルとして、様々なフタル酸エステルのアジュバント作用を比較し、知覚神経に発現する侵害刺激受容チャネルの刺激活性との相関を発見した。さらに、食品成分など抗原性の弱いハプテンの抗原性をフタル酸エステルが引き出すことを明らかにした。
著者
中谷内 一也
出版者
静岡県立大学
雑誌
経営と情報 : 静岡県立大学・経営情報学部/学報 (ISSN:09188215)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.31-37, 1999-12-25

This study examined the relationship between the lay judgment of carcinogenic risk threshold and attitude toward nuclear power plants. After the experimenter explained the concept of the threshold in dose-response relationship, one-hundred and thirty students gave their judgment of the threshold in the dose-response relationship of carcinogenic risk of exposure to radiation and their attitudes toward nuclear power plants. Then they watched a sensational TV program reporting on the danger of nuclear waste and its storage. After that they were given the same questions which they had answered previously. The results suggested that there was no relationship between judgment of threshold and attitude toward the nuclear power plants. Also the judgment had no relationship to the attitude change brought about by the TV program. Implications of these results for radiation risk management and communication are discussed.
著者
寺田 祐子
出版者
静岡県立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

メントール受容体TRPM8に対する新規のアンタゴニストとして、Voacanga africanaのvoacangineを見い出し、論文として発表した。Voacangineは初めての化学アゴニスト選択的TRPM8アンタゴニストであり、副作用のないTRPM8遮断薬のシード化合物になることが期待される。さらに構造-活性相関研究を行い、化学アゴニスト選択的TRPM8阻害に決定的に重要な構造を明らかにし、論文として発表した。本ワサビ・西洋ワサビ・カラシ類に含まれるisothiocyanete化合物20種を用いた構造-活性相関研究を行い、構造とTRPA1・TRPV1活性の関係について調べた。本研究により、本ワサビの緑の香り・カブ様の香り成分(ω-alkenyl isothiocyanetes・ω-methylthioalkyl isothiocyanetes)は、低辛味でありながら、allyl isothiocyaneteと同等のTRPA1・TRPV1活性を持つことが明らかとなった。TRPA1・TRPV1活性を持つ食品成分は、エネルギー代謝を高めるため、抗肥満効果がある。これまで報告されてきたTRPA1・TRPV1アゴニストは強辛味のものが多いが、低辛味のアゴニストは強辛味のものに比べて摂取し易いと考えられる。本研究結果は、低辛味のTRPA1・TRPV1アゴニストの開発に貢献することが期待される。本結果を論文にまとめて提出し、現在査読を受けている。また研究予定にはなかった、婦人科がん(卵巣・乳・子宮がん)患者の生存期間とTRPチャネルの発現量に関する解析及び、カプサイシン受容体TRPV1の発現量・TRPV1アゴニストが卵巣がんの増殖に与える影響の解析を、米国ミシガン州立大学にて行った。予定にはなかった米国での研究も実施でき、期待以上に研究を進展させることができた。
著者
鈴木 康夫 徐 桂雲 WEBSTER Robe ITZSTEIN Mar WARD Peter A XU Guiyun VON ITZSTEIN Mark WEBSTER Rob 宮本 大誠
出版者
静岡県立大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

近代病理学の基礎を築いたウィルヒョウ(Virchow)は、すべての病気は細胞の異常に起因する、という「細胞病理学」を確立した。細胞が生命を維持し、複製していくためには、核酸とタンパク質は必須であることは言うまでもない。本研究では、遺伝子の支配を直接受けない第3の生命鎖である糖鎖に焦点を当て、その機能を病気との関連において分子レベルで明らかにすることを目標とし、「糖鎖病理学」ともいえる領域に踏み込む研究を行うことを心がけた。この背景として、著者は、細胞表面の糖脂質、糖タンパク質糖鎖の構造と機能に関する研究を続けてきた.この過程で多細胞生物を構築する細胞はさまざまな接着の形を通して生物個体全体のシステムを維持しており、この乱れが疾患として認識されること、細胞の接着の多くが糖鎖を介して行われることを明らかにして来た.すなわち、糖鎖を介する細胞-細胞間、細胞-バクテリア間、細胞-ウイルス間の接着および認識が病態と深く関わることに注目していた。本研究では、初年度は、主に脈管系の糖鎖を介する接着分子(セレクチン群)の病態への関わりを中心とした研究を行い、次年度はこれに加えて、ウイルス(特にインフルエンザウイルス)の感染における糖鎖認識接着分子の分子生物学的研究を加えた。脈管系細胞には、サイトカインなどの刺激により発現される新しい糖鎖認識レセプタータンパク質群(セレクチンファミリー;E-セレクチン、L-セレクチン、P-セレクチン)があり、これらは、リンパ球のホ-ミング、好中球やリンパ球の血管内皮細胞への接着と炎症組織への遊走、血小板同士の凝集や、原発癌細胞の転移、浸潤などに深く関わることが我々の研究を含め明らかにされつつある.我々は、本研究において、L-セレクチンやP-セレクチンの新しい糖鎖性リガンドとして硫酸化糖鎖を見出し、さらに、腎炎や肺炎の発症や癌細胞の転移には標的細胞膜の硫酸化糖鎖へのL-およびP-セレクチンを介したリンパ球や血小板の接着が深く関わることを明らかにした。セレクチンファミリーは新しいレクチン様接着分子であり、白血球のローリングによる血管内皮細胞への接着開始において免疫学上極めて重要な役割を担うと同時に、続いて起こるスーパーオキシドやプロテアーゼ産生による組織細胞の損傷などさまざまな病態発現とも深く関わるタンパク質である。本研究では、硫酸化糖脂質であるスルファチドが、L-およびP-セレクチンと特異的に結合する糖鎖リガンドであること、L-およびP-セレクチン依存性の肺炎、腎炎さらに肝炎などを強力に阻止できることなどを見出した。また、スルファチドは、Bリンパ球上に存在しTリンパ球には存在しないこと、Bリンパ球の分化、増殖および抗体産生に深く関わることなど、免疫学上重要な現象を明らかにすることができた。さらに、スルファチドは、TNF-αの産生を抑制し、エンドトキシンショックの予防に極めて有効であることを見出すことができた。一方、インフルエンザウイルスはウイルス膜に宿主細胞表面の糖鎖性受容体への結合に必須なヘマグルチニン、および受容体を破壊する酵素(ノイラミニダーゼ)を有している。インフルエンザA型ウイルスは、ヒトのみならずブタ、トリ、ウマなど多くの動物にも感染し、世界的大流行を起こす。この原因は、ウイルスヘマグルチニンおよびノイラミニダーゼの変異に起因する。本研究においては、ヒトおよび動物インフルエンザウイルスが認識する糖鎖性受容体の構造を明らかにし、次いで、どのようにして宿主の壁を超えるのかという宿主変異機構の一端を分子生物学的に解明できた。すなわち、インフルエンザウイルスヘマグルチニンの変異は、主として抗体による圧力の他に、受容体認識特異性、すなわちシアル酸分子種[N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)]認識特異性とシアル酸の結合様式(Neu5Aα2-3Galβ1-,Neu5Acα2-6Galβ1-)に対する認識特異性によるウイルスの選択が重要な因子であることを見出した。さらに、このシアル酸結合様式の認識特異性の発現にはLeu226のアミノ酸が極めて重要な役割をしていることも解った。以上の成果は、研究分担者である、Peter A.Ward教授(ミシガン大学・医学部・病理)、Robert G.Webster博士(St.Jude Children's Res.Hospial,Memphis・ウイルス学、分子生物学部門)、Mark von Itzstein教授(Monash University,Victorian College of Pharmacy)、徐 桂雲博士(中国科学院、化学研究所)との共同研究により成された。心より謝意を表するものである。
著者
浅井 章良 小郷 尚久 村岡 大輔
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

抗PD-1抗体など免疫チェックポイント阻害薬の腫瘍微小環境における作用を妨げる要因のひとつとして、トリプトファン代謝酵素IDOとTDOを中心とするキヌレニン経路による免疫寛容が注目されている。研究代表者らは、これまでに独自の細胞系アッセイ系によって複数の阻害化合物を発見してきた。本研究ではIDOとTDOを標的とした創薬基盤の構築を目的として、IDO1/TDO二重阻害作用を有するS-ベンジルチオウレア誘導体の活性向上を達成し、作用機序解析に基づくドッキングモデルを構築し化合物デザインに活用した。IDO1/TDO二重阻害化合物の機能と有用性を検証するためのアッセイ系など創薬基盤技術を確立した。
著者
玉野 春南
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

緑茶成分のテアニン摂取は、海馬歯状回の長期記憶と関係する神経新生を促進し、記憶の細胞レベルの分子基盤とされる長期増強(LTP)を増大させることを見出した。テアニン摂取による海馬依存性の記憶向上にはnon-NMDA受容体依存性のLTPの関与があり、海馬依存性長期記憶にはLTPの維持を基盤とすることが示された。一方で、記憶の獲得のみならず獲得した記憶の保持にも海馬神経細胞において細胞内Zn2+シグナリングが必要であることを明らかにした。さらに、細胞外Ca2+ではなく、細胞外Zn2+が過剰に流入すると、記憶獲得の障害だけでなく、保持されていた記憶もLTPの維持障害を介して消失することを明らかにした。
著者
吉田 卓矢
出版者
静岡県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

低たんぱく食は慢性腎臓病(CKD)患者における食事療法であるが、CKD患者の筋萎縮に関与していることが考えられる。そこで、本研究では、筋蛋白の合成を促進することが知られている分岐鎖アミノ酸の摂取や運動がCKDの腎機能や筋蛋白合成に与える影響をCKDモデルラットを用いて基礎的に検討した。その結果、CKDでは運動による筋蛋白合成の活性化が低下していることが明らかとなった。また、運動とともに分岐鎖アミノ酸を少量摂取することで、CKDモデルラットにおいて腎機能を低下させずに運動による筋蛋白合成を促進することが明らかとなった。
著者
松森 奈津子
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究は、16世紀スペインにおける後期サラマンカ学派が政治的諸問題を論じる際の基盤にしていた、神の恩寵と人間の自由意志の関係をめぐる諸議論を検討したものである。このことにより、イエズス会士を中心とする彼らが、社会契約説に代表される同時代の主流理論とは別の形で、初期近代政治思想の一潮流を形成したことを明らかにした。それは、初期近代が内包していた脱中世型政治体探求の豊かなヴァリエーションの一端として、注目される。
著者
紅林 佑希
出版者
静岡県立大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究では研究代表者らが独自に開発した蛍光プローブを用いることで、薬剤耐性インフルエンザウイルスを迅速かつ簡便に検出する方法の開発を目指した。研究代表者らはこれまでにシアリダーゼの蛍光イメージングプローブBTP3-Neu5Acを開発し、インフルエンザウイルスのシアリダーゼ活性を蛍光イメージングすることでウイルスの簡易蛍光検出する技術や、抗インフルエンザ薬であるシアリダーゼ阻害剤に対し薬剤耐性を示すウイルスを選択的に蛍光イメージングする技術を開発してきた。本研究では薬剤耐性インフルエンザウイルスの臨床診断や衛生検査で利用可能な迅速かつ高感度な検出法の確立を目指し、蛍光プローブや蛍光イメージング技術の改良を行った。蛍光プローブによるウイルス検出の反応条件の最適化を行い、スピンカラムを利用したウイルス簡易濃縮法を開発したことで、ウイルス検出反応の感度向上を達成した。検出感度は市販のインフルエンザ検出キットと同等の感度を達成した。開発した高感度検出条件によって臨床ウイルス株を用いて薬剤耐性ウイルスの検出・判定が可能であることを確認した。改良型蛍光プローブの開発を行い、蛍光イメージングの精度と感度を向上させた改良型プローブの作製に成功した。BTP3-Neu5Acは蛍光イメージングの際に、蛍光体が反応後にやや拡散していくことが分かっていたが、改良型プローブでは蛍光顕微鏡による観察においてもほぼ拡散が起こらなくなるレベルで蛍光体の拡散を抑えることに成功し、極めて高精度な蛍光イメージングが可能となった。蛍光体の構造を改良したことで蛍光体の蛍光強度の増大を達成することができ、蛍光プローブの高感度化に成功した。本検出技術は高感度かつ簡便に薬剤耐性インフルエンザウイルスを検出できることから、今後の衛生検査や臨床診断、基礎研究を含む幅広い分野で利用される技術となることが期待される。
著者
室谷 哲
出版者
静岡県立大学
雑誌
ことばと文化 (ISSN:13451685)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.75-87, 2007

「もしグローバル化がアメリカ型市場経済の普及に利用されるなら、導入を望む国は多くないだろう。特に途上国の人々は、大きな抗議の声をあげるにちがいない。グローバル化の美名のもとで、自分たちに押しつけられた市場経済のバージョンは、アメリカ国内のバージョンと比べても、極端に産業界の利益を反映しやすくなっている、と。」(ジョセフ・E・スティグリッツ『世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す』徳間書店、2006年、44頁)
著者
津富 宏
出版者
静岡県立大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

割れ窓理論によると、町のわすかな「秩序の乱れ(例えは、落書きや放置された建物なと)」が地域住民の不安・無力感を喚起し、地域に対する働きかけが減少することで、より重大な犯罪を引き起こすとされる。本研究は、静岡県のある2地域において、割れ窓理論に基づく介入(清掃およびパトロール活動)を各地域4ヶ月弱ずつ時期をずらして実施し、その効果を比較した日本で初めての分析である。研究最終年度の本年度は、これまでの研究で得たデータの分析を行った。主な分析内容と結果は以下の通りである。1.各地域への介入の効果をオッズ比により検討した。分析結果から、(1)全刑法犯に対しては介入の効果は無いかあるいは逆効果がありえる、(2)屋内刑法犯に対しては介入の効果がありえる、(3)屋外刑法犯に対しては介入の効果が無いかあるいは逆効果がありえることが明らかになった。ただし、この分析は、統計的有意性検定ではない。2.次に、犯罪件数の増減が、介入の有無によるものかどうかとの有意性検定を行うため、ログリニア分析を行った。複数のモデルを分析したが、いずれの分析においても、地域のもともとの犯罪発生水準あるいは時期的な変動による有意な影響しか認められず、介入の有無による有意差は認められなかった。現段階での分析結果から、割れ窓理論に基づく介入(ゴミ拾いや落書き消しなど)は犯罪を有意に減少させるには至らないという知見が得られた。つまり、直接的な犯罪抑止効果は無かった。今後は、間接的な効果に焦点を当ててさらに分析を進めることが課題となる。
著者
伊吹 裕子
出版者
静岡県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

多環芳香族炭化水素(benzo[a]pyrene(BaP))と紫外線(UVA)の免疫機能への複合的影響を検討するにあたり、まず培養細胞(ヒト正常皮膚細胞、ヒト白血病細胞)さらに、DNA修復に関与する分子Ku80の欠損株(CHO-K1,xrs-5)を用いてin vitroにおけるその影響を検討した。BaP、UVA単独では影響が認められないが、それら2つを複合作用させると非常に強い毒性が認められた。xrs-5細胞ではCHO細胞に比べ有意な毒性の亢進が認められたことから、BaP, UVAの複合作用によりDNA二本鎖切断がおこっていることが示された。また、発がんの代表的な指標とされる酸化DNA、8-oxo-dGの産生が有意に上昇していた。これらの結果は、BaPとUVAの複合的影響による細胞毒性上昇から免疫能低下の可能性を示唆するばかりでなく、DNA損傷からの皮膚発がんの誘発を示唆するものであった。そこで、マウスを用いたin vivo実験を行った。マウス背中皮膚にBaPを塗布後、さらにUVAを照射し、その後の免疫能の変化をDNFBを抗原とする遅延型過敏症contact hypersensitivity (CHS)の誘導能を指標に検討した。BaP、UVA単独ではCHSの誘導能は変化無かったが、複合処理では明らかなCHSの低下を示した。その低下は、照射側および照射側とは逆の腹側にDNFBを塗布した場合両方とも引き起こされた。さらに、DNFBを接触させる時間をBaP, UVA処理後1,3,5日間と変化させると、1日後よりも3,5日後の方が強いCHS誘導の低下を示した。しかしながら、BaPとUVAの処理回数を複数回に増やしても、CHSの誘導能の低下の度合いは変化しなかった。以上の結果は、BaPはUVAと複合的に働くことにより強い免疫低下を誘導すること、その低下は局所にとどまらず、全身性の低下をも引きおこすことが判明した。また、影響は少なくとも照射後5日間は継続することが示された。