著者
赤井 周司
出版者
静岡県立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

フッ素原子の持つ特異な性質を活用した医薬品開発,ならびに医療への応用研究が近年盛んに行われている。含フッ素化合物の合成のために,脂肪族化合物の水酸基からフルオロ基への変換法が多数開発されたが,芳香環上の水酸基からフルオロ基への置換は成功例が殆ど無い。本研究では,カテコール化合物の水酸基の一つを求核的にフルオロ基に変換する前例の無い方法の開発,天然カテコールへの応用,^<18>F含有放射活性化合物の迅速調製法の開発を目的とした。本年度は,研究実施計画に基づき次の成果を得た。1. H21年度に見出した方法論を,カテキンとエピガロカテキンに適用した。多数ある水酸基の環境の違いを利用した選択的保護法、並びに、好ましい保護基の種類を見出し、本法によって当該天然物のフッ素誘導体を効率的に調製できた。この成果は、今後、多様な官能基を有する様々な天然カテコールへ本法を適用する際の有益な知見となった。2. 非対称置換カテコールについて、可能な2種の位置異性体の選択的合成を試みた。電子供与性置換基のパラ位の水酸基がフルオロ基へ置換されること、並びに、ジオキサン中で最大22:1の選択性が生じることが分かった。しかし、マイナー生成物を優先的に得るための条件を見出すには至らなかった。引き続き検討を行う。3. 本学薬学部の生物系研究室の協力の下に合成した含フッ素誘導体の各種生物活性試験を行った。今のところ有用な活性は見られていないが、引き続き他の活性試験を依頼する。4. H21年度に見出した方法論は4工程からなる。現状、全工程を約3時間で完了することが出来るが、^<18>F含有放射活性化合物の調製のためには、更に迅速化を図る必要がある。
著者
栗田 和典
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

死刑囚が国王に提出した恩赦嘆願状の収集と検討をつうじて、おもに18世紀前半のロンドンにおける司法行政が、市裁判官の仲介をはさんで、国王および大臣・閣僚と都市参事会の双方によって担われたことを解明した。市参事会は、死刑囚の社会的な環境や治安維持に責任を負っており、都市ロンドンのおかれた状況(戦争の開始と終結や日用品の価格変動)が恩赦の成否を決定した市裁判官の判断に多大な影響を及ぼしたことをあきらかにした。
著者
六鹿 茂夫 廣瀬 陽子 黛 秋津 佐藤 真千子 小窪 千早 梅本 哲也 吉川 元 上垣 彰 大西 富士夫 西山 克典 小久保 康之 吉村 貴之 中島 崇文 末澤 恵美 服部 倫卓 木村 真
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

黒海地域の国際関係を歴史、経済、域内国際関係、域外国際関係の4次元から分析し、国際会議をボアジチ大学(イスタンブール)と静岡県立大学にて開催して学際的総合化に努めた。その結果、1.黒海としての地域性、2.地政学的重要性、3.黒海地域の特殊性と地域特有のイシュー(エネルギー、民主化、凍結された紛争)、4.黒海地域の構造とその変動、5.黒海地域と広域ヨーロッパおよび世界政治との相互連関性が明らかにされた。
著者
奥 直人 浅井 知浩 清水 広介
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

花粉症などのアレルギー疾患では脱感作療法などが行われているが、根本的治療法はない。本研究では、アレルギーの基となる免疫細胞の活性を恒久的に抑える根本的治療法を開発する。すなわち薬物送達システムを利用し、特定の薬物を運ぶキャリアーに抗原を結合することで、抗体産生細胞に特異的にキャリアーを認識させ、特定の細胞のみに薬物を送達し細胞の活性を抑える新たな治療戦略を確立する。
著者
三輪 匡男 菅谷 純子
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

高脂肪食摂食等による栄養状態や糖尿病等の病態時に薬物代謝能が変化し、薬物(代謝物)による酸化ストレスの原因となり薬物副作用が惹起されることを提唱してきた。高カロリー食摂餌で亢進する血清TGレベル、肝TGおよび総コレステロール含量、門脈血グルコースレベル、転写因子SREBP1cやFatty acid synthase mRNAレベルが酵素合成イヌリン摂取により抑制され、肝臓に運搬される糖レベルの低下が抗肥満効果に結びついたと推察された。さらに高脂肪・高糖質食摂餌ラット肝臓における核内CAR、PPARαの発現亢進がUGT1A1、UGT1A6の発現を誘導し、薬物動態に影響をおよぼすことを見いだした。
著者
松森 奈津子
出版者
静岡県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、16世紀スペインの後期サラマンカ学派(c. 1576-1600,メディナからバニェス)の思想を考察し、初期近代政治思想史におけるその地位と意義を検討するものである。中世スコラ学の刷新を試みた同学派の権力・国家論は、後に主流となる主権論とは別の観点から脱中世型権力理解を提示した点で注目されることを明らかにし、その成果を、著書や口頭報告の他、講義やメディア報道により、多様な読者、聴衆に向けて公にした。
著者
川島 博人
出版者
静岡県立大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本申請課題ではヘパラン硫酸の細胞外環境シグナル調節分子としての機能に着目し、その血管内皮細胞における機能解明を目的として研究を行った。具体的には、ヘパラン硫酸伸長酵素遺伝子(EXT1)がloxPサイトで挟まれたEXT1-floxマウスと、Creリコンビナーゼを血管内皮細胞特異的に発現するTie2-Creトランスジェニックマウスを掛け合わせ、血管内皮細胞特異的にヘパラン硫酸を欠損する変異マウスを作製し解析を行った。その結果、この変異マウスは胎生11.5日目以降に致死となることを見いだした。さらに、血管内皮細胞マーカーである抗CD31抗体を用いた胎児のwhole mount免疫染色および、および胎児組織の免疫染色により検討を行ったところ、血管内皮細胞特異的にヘパラン硫酸を欠損する胎児においては血管密度および血管枝分かれ数の顕著な減少が起こることが明らかとなった。また、一部の変異マウスにおいて、出血および浮腫をきたす傾向も認められた。血管新生および血管枝分かれ構造の形成にはヘパラン硫酸結合性を持つことの知られているVEGFやbFGFなどの血管増殖因子のシグナルが必須であることから、以上の結果は、胎児血管内皮細胞に発現するヘパラン硫酸がこれらの細胞外環境シグナル分子の機能調節分子として働く可能性を示唆している。また我々は、マウスの肺組織よりCD31に対する抗体を用いてMACS (magnetic activated cell sorter)により、効率よく血管内皮細胞を精製する方法を確立した。今後はこの方法を用いて変異マウスの胎児より血管内皮細胞を精製し、in vitroにおけるVEGF、bFGFなどの増殖因子に対する増殖反応および血管網形成アッセイにおいてに変化が認められるか否かを検討し、ヘパラン硫酸の細胞外環境シグナル調節分子としての機能をさらに解明したい。
著者
藤澤 由和 斉藤 和巳 大久保 誠也 小籔 明生 武藤 伸明 石田 祐
出版者
静岡県立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

本研究においては、ソーシャル・キャピタルの構造的側面を把握する新たな手法を検討すると同時に、その手法により構築されたデータの解析を実施し、さらにその結果を踏まえ、当該研究課題の今後の展開に関する検討を行った。具体的にはRespondent-Driven Samplingと呼ばれる手法を、当該集団におけるネットワーク把握に応用し、ソーシャル・キャピタルの構造的側面の把握を試みた。またデータ構築に際しては、いわゆるディバイスを用いてより効率的かつ効果的な対象把握とデータ構築に関する検討を試みた。
著者
小寺 栄子
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

現役の看護トップマネジャーへのインタビュー並びに病院管理者へのアンケート調査により、看護のトップマネジャーの役割と高業績特性として11のカテゴリー53の能力を抽出した。更に内外の文献資料を参考にしディクショナリーの内容に検討を加えて、5つのコンピテンシー領域、28の分野、217のコンピテンシー項目よりなる看護のトップマネジャーのコンピテンシーディクショナリーを作成し、これらの妥当性・有用性を確認するために、看護部長職にある看護管理者を対象に質問紙調査を行なった。その結果、「有益だが必要なし」、あるいは「必要でない」項目が明らかになり、これらは現在の看護部門のトップマネジャーの認識を表していると同時に、今後の取り組み課題であることも明らかになった。今後は、看護管理者より成るグループ・インタビューにより、各項目の表現や必要性のレベルを更に究明し、現実に看護管理者のコンピテンシー評価に用いることのできるモデルとする予定である。
著者
六鹿 茂夫 渡邊 啓貴 小久保 康之 廣瀬 陽子 佐藤 真千子
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、欧州近隣諸国政策(ENP)のイースタン・ディメンション、すなわち西部新独立国家(WNIS:ウクライナ、ベラルシ、モルドヴァ)および南コーカサス(グルジア、アルメニア、アゼルバイジャン)をめぐる政治過程について海外調査研究をした結果、以下の結論を得た。1.EUは、ENPの二国間関係に加え、黒海シナジーという多国間協力を展開し始めた。2.ENPのアクション・プランは南コーカサスにも適用されるに至った。3.EU=ロシア関係において貿易は増大したものの、深刻な問題が露呈した。エネルギー問題の解決は困難を極め、「4つの空間」ロードマップも、人権やマスメディアの自由および凍結された紛争をめぐる溝を埋められないでいる。4.凍結された紛争をめぐるOSCEとEUの関係は、前者が主要アクター、後者がそれを後方支援する関係にあり、OSCEの紛争解決における重要性が増している。5.とはいえ、凍結された紛争におけるロシアの影響は依然として重要であり、その役割は極めて大きい。(6)EUはモルドヴァのトランスニストリア紛争解決にも一層積極的となり、問題を残しつつもEUBAM(国境支援使節)氏遣で同地の闇経済摘発と民主化に貢献し始めた。(7)米国の対黒海地域政策としては、ポーランドの米系NGOへの支援を通したウクライナの民主化支援や、チェコおよびポーランドへのレーダー基地の設置計画が重要課題である。だがロシアはその代替案として、アゼルバイジャンのレーダー基地を提示している。これは米露関係が中欧と南コーカサスという二つの広範な地域に展開されている証左であり、広域ヨーロッパを見る際の重な分析視角を提示するものである。ENPを通してWNISや南コーカサス諸国の民主化と市場経済化が推進され、それに伴い黒海地域諸国全体の地政学的戦略的重要性が一層高まった結果、今や黒海地域の安全保障環境が劇的な変化を見せている。
著者
牧野 圭子
出版者
静岡県立大学
雑誌
経営と情報 : 静岡県立大学・経営情報学部/学報 (ISSN:09188215)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.117-133, 1995-12-20

本稿では、消費経験主義研究について検討を行った。まず、消費者行動研究全体における消費経験主義研究の位置づけが弱いことを述べた。次に、消費経験主義の主要概念として「快楽消費」と「消費の意味」の二つを取り上げ、それぞれの問題点を検討し、今後の方向性について提案を行った。「快楽消費」については、"快楽"の概念に注目し、1."効用"の概念との対比の非妥当性、2."属性"との関係の問題、3."快楽"以外の感情の研究の必要性、の3点に関する議論を展開した。一方、「消費の意味」については、1.消費の個人的意味と社会・文化的意味の区別の必要性、および2.社会・文化的意味の研究課題について論じた。最後に、実務サイドにおいても、消費経験主義と共通の関心があることを指摘し、今後は実務サイドの見解も消費経験主義研究に組み込んでいくべきであると論じた。
著者
永冨 聡 藤澤 由和
出版者
静岡県立大学
雑誌
経営と情報 : 静岡県立大学・経営情報学部/学報 (ISSN:09188215)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.1-13, 2009-03

2008年7月に閣議決定された国土交通省の国土形成計画において「新たな公」を基軸とする地域づくりが掲げられ、我が国では個々の地域における多くの住民参加と、豊かなソーシャル・キャピタルの形成が一層求められる方向性が、ひとつの地域政策の方策として考えられる。本論では、我が国におけるソーシャル・キャピタルの変化を踏まえ、近畿圏の地域的特性について、定量的かつ定性的な把握を試みることにより、当該エリアにおける住民参加のポテンシャルと、それを踏まえた政策的方向性を検証した。その結果、近畿圏では、定量的な把握から、テーマ型活動を介した橋渡し型(bridging)及び職場を介した結合型(bonding)の人間関係の強さに特徴があることが明らかとなった。さらに、定性的な把握を加味した検討から、近畿圏全体としてソーシャル・イノベーションを可能とする人材育成を重視した仕組みづくりの必要性が導かれた。
著者
剣持 久木
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

1930年代のフランスについては、ファシズムの浸透度をめぐる論争がある。その際の焦点は、退役軍人フランソワ・ド・ラロック中佐の政治的位置付けである。本研究は、ラロックをめぐる実像と集合的記憶の乖離に注目した。ラロックは、1934年2月6日の反議会騒擾事件の際に最大の動員力を誇ったため、その秩序正しい行動にも関わらず、ファシズムの脅威の象徴的存在となった。「人民戦線の父」と呼ばれるゆえんである。一方、反人民戦線派にとっても、ラロックは逆の意味で「人民戦線の父」であった。2月6日以降の人民戦線結成の流れに対抗した、保守派大同団結の呼びかけにことごとくラロックは応じなかった。ラロックは、極右という左翼によるレッテルとは裏腹に、中道志向だったのである。とりわけ、1937年春の、ジャック・ドリオ提唱の自由戦線結成を拒絶したことで、保守派全体にとってラロックは「裏切り者」になった。かくして、左翼からのファシズム批判に加えて、ラロックには保守派からの、誹謗中腸の集中砲火が浴びせられことになる。それでもラロックは、大衆的な支持を飛躍的に伸ばし、その党勢は、仮に(戦争によって実現しなかった)1940年に総選挙が実施されていれば、第一党を獲得する可能性があった。ドイツ占領下のヴィシー体制のもとでラロックは、ペタン元帥を支持するもレジスタンスに関与するというスタンスをとる。結局ゲシュタポに捕らえられるが、解放後もフランス当局によって拘留が継続される。2年以上の獄中生活がたたってラロックは、レジスタンスの実績も認定されず、ファシストの汚名を背負ったまま病死する。本研究は、ラロックのファシズムイメージの形成過程に注目すると同時に、彼の死後に根強く残る集合的記憶としてのラロック像の推移にも光をあてた.とりわけ、「反論権」行使という形で、名誉回復に長年奔走するラロックの遺族の戦後の戦いに注目した.
著者
合田 敏尚 望月 和樹
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

マウスの給餌を明期に制限すると、空腸における時計遺伝子Per2および糖輸送担体Sglt1の遺伝子の発現量は、給餌開始前後に最大となるように位相がシフトすることが明らかになった。これらの遺伝子上への核内因子BMAL1およびアセチル化ヒストンの結合は、遺伝子発現の日内リズムと対応して量的に変動していた。この結果は、小腸における糖輸送担体の発現は、食事のリズムに依存して、時計遺伝子の発信機構を介して制御を受けていることを示唆する。
著者
木林 美由紀
出版者
静岡県立大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

食育支援を目指して、咀嚼力と食行動および運動能力との関連について検討した.小学6年生171名を対象に、直接的咀嚼力(チューインガム法)と自記式質問紙調査票から得られた食行動および新体力テストから得られた運動能力との関連性について検討した.その結果、咀嚼力の高い者は、食への期待感および野菜の摂取頻度が有意に高く、運動能力を構成する握力平均、上体起こし、長座体前屈、反復横とびおよびボール投げの基本的な体力要素との関連性が示され、咀嚼力と食行動および運動能力との関連性が示唆された.
著者
豊岡 利正
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

指定薬物の構造は、フェネチルアミン系、トリプタミン系、ピペラジン系に大別される。初めに比較的安価な装置を用いた指定薬物の一斉分析法の開発を目的として、酸化還元反応を利用した電気化学検出法を開発した。次に、蛍光標識試薬で誘導体化後、HPLCで分離し、質量分析計で検出した。本法は、蛍光標識しているため選択性が向上し、また、質量分析計で検出しているため、高感度で定量できるうえ、微量の未知化合物の定性分析を行うことができ優れた分析法となった。これらの分析法を用いて、市場に出回っていた各種形態の試料を分析し、薬物を特定しその含有量を測定することができた。さらに、フェネチルアミン系乱用薬物を中心とする違法ドラッグ成分のキラル誘導体化法を利用した光学異性体分離法および迅速かつ簡便な一斉分析法の開発を実施した。12種類のフェネチルアミン系違法ドラッグ成分の光学異性体が良好に分離された。本法により、過去に流通していた製品中の分析に適用したところ、フェネチルアミン系乱用薬物成分の各エナンチオマー成分を完全に分離定量できた。