著者
間宮 秀樹 堀本 進 高橋 恭彦 菊地 幸信 平山 勝徳 平野 昌保 秋本 覚 小林 利也 和田 光利 片山 正昭
雑誌
一般社団法人日本老年歯科医学会 第31回学術大会
巻号頁・発行日
2020-09-30

【目的】 心臓ペースメーカーや埋め込み式除細動器(以下、併せてPM)を使用中の患者が歯科治療を受ける機会は珍しくないが、歯科用電気エンジンや根管長測定器、超音波スケーラー、紫外線照射器等の歯科用電気器具は添付文書上、PM患者に対する使用が禁止されている。しかしこれらの使用は質の高い歯科治療を行う上で不可欠である。藤沢市歯科医師会南部要介護高齢者診療所では全患者に対してモニタリング下に治療を行っているが、今回、我々はPM患者に歯科用電気器具を使用した際の影響について検討した。【方法】 本報告は藤沢市歯科医師会倫理委員会の承認を受けた(承認番号2019-008)。2015年10月から2020年1月末までに藤沢市歯科医師会南部診療所で歯科治療を行った患者の中でPM使用患者を対象とし、患者背景、PMの種類、治療内容、電気器具の使用の有無とその際の偶発症の有無、局所麻酔薬使用時の偶発症の有無について、診療録および麻酔記録をもとにretrospectiveに検討した。【結果と考察】 当該期間中のPMを使用している患者は7名、107症例であった。基礎疾患はSick sinus syndromeが5人で最も多く、完全房室ブロックが1名、心房粗動が1名であった。PMの種類はDDDが4例で最も多く、埋め込み型除細動器使用者が1名であった。治療内容は義歯関連が37回で最も多く、歯周治療33回、齲蝕処置22回、根管治療21回、歯冠修復処置18回と続いた。電気エンジンの使用は25回、根管長測定は22回、紫外線照射器は17回、超音波スケーラーは14回使用され、いずれの場合にも患者の自覚症状および心電図の異常は認めなかった。また局所麻酔薬は15回使用されていたが異常はなかった。 歯科用電気器具は使用時に生体内に通電してPMの誤作動等を誘発する可能性があるが、使用される歯科用電気器具がPM装着部位から離れた場所で回路を形成する場合や、その電気量が微量である場合には、実際的な影響は少ないと考えられている。今回、使用にあたっては常に心電図をモニタしながら、必要最小頻度で使用したことから、患者の体調に悪影響は観察されなかった。しかし、添付文書が使用を禁止している現状では万一、事故が発生した際には歯科医師の責任が問われる可能性が高いため、今後もモニタをしながらの注意深い使用が必須と考えられる。
著者
小川 宗一郎 濱川 俊朗 成尾 浩明 辛島 謙 中村 禎志
雑誌
第46回日本集中治療医学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-02-04

【背景】破傷風の治療は,原疾患の治療に加え痙攣のコントロールや鎮静などの全身管理が重要である.鎮静においてベンゾジアゼピン系薬物や塩酸モルヒネの大量投与で,良好な全身管理が出来たとの報告がある.また,筋弛緩薬は廃用性萎縮や症状評価が難しいという理由で使用しづらい点がある.今回破傷風患者に,筋弛緩薬を使用せず,大量のミダゾラム(MDZ)と塩酸モルヒネ(MOR)を併用し,良好な鎮静管理ができたので報告する.【臨床経過】60歳代の男性.嚥下困難感と後頸部の違和感を主訴に当院を受診した.受診1か月前に右中指の外傷歴があり,受診2日前より上記症状が出現した.受診時開口障害と後頸部硬直を認め,外傷歴と症状から破傷風と診断した.予防接種歴もなかったため破傷風トキソイド,抗破傷風人免疫グロブリン製剤,メトロニダゾールを投与した.ICUに収容し気管挿管後に人工呼吸器管理を開始した.また創部をデブリードマンし,開放創とした.入室後にMDZ:2500mg/日による鎮静を行っていたが,次第に刺激による頻回の後弓反張が出現した.そのため5日目よりMOR150mg/日+MDZ720mg/日で鎮静を行った.また,全身管理期間も長期になることが予想され,入室6日目に気管切開を行った.その後は硬直や痙攣症状なく,呼吸状態も安定していた. 8日目よりMDZを500mg/日,12日目にはMORを100mg/日に減量した.13日目に人工呼吸器からウィーニングを開始し,MDZを240mg/日に減量した.15日目にMORを90mg/日へ減量した.21日目に両下肢の痙攣が出現し,併用でデクスメデトミジン 5.1ml/時を開始したが,徐脈が出現したため翌日に中止した. 24日目に人工呼吸器離脱し, 25日目にMDZを終了した.その後,離脱症候の観点からMORは徐々に漸減し, 29日目に終了し,33日目でICU退室となった.退室後は嚥下機能訓練を行い,入院後約3か月で退院となった.【結果】今回の症例ではアルコール多飲歴によるベンゾジアゼピン系薬物への抵抗性が形成されており,MDZの鎮静効果が低かったと考えた.筋弛緩薬は筋の廃用性萎縮や症状評価の観点から使用しなかった.またデクスメデトミジンは徐脈が出現したため使用しなかった.鎮静薬の量はジアゼパム3400mg/日,モルヒネ 235mg/日と大量投与で良好な治療効果が得られたとの報告がある.筋弛緩薬を使用せず,大量のMORの併用とMDZにより鎮静を行い良好な鎮静管理とスムーズなウィーニングが可能であった.
著者
倉 昂輝有吉 正則山田 大豪
雑誌
第56回日本作業療法学会
巻号頁・発行日
2022-08-29

【はじめに】近年,わが国の発達障害児の支援において,家族支援が重要視されている.このような背景から作業療法(以下,OT)においても家族中心のケアに基づき保護者への支援が実践されている.OTで実践される家族支援の1つにホームプログラム(以下,HP)があり,発達障害領域の作業療法介入に関するシステマティックレビューにおいて,そのエビデンスが示されている(Novak I,2019).しかし,わが国のHPの研究は症例報告が主であり,HPを経験した当事者の視点を報告したものはない.さらに,母親らを対象としたこれまでの研究は,子育てに対する葛藤や困難さに焦点が当てられてきた.そのため家庭内という外部からみえにくい環境の中で母親らが子育てをどのように展開しているのかは不明な点も多く,それらの要因と関連する専門家のサポートも明らかにされていないのが現状である.【目的】本研究の目的は,発達障害児を養育する母親のHPを通じた子育てにおける思いや経験,行動にかかわる諸要因を当事者の視点から明らかにすることである.【方法】研究参加者は,個別の外来OTと並行して目標に基づくHPを実施した母親とした.外来OTは隔週の頻度で1回あたり40分間,全12回,約6ヶ月間,HPは外来OT3回目から10回目まで行った.HPは先行研究で提唱されている5フェーズを参考に実施した(Novak I,2006).データ収集は,母親らを対象に半構造化面接によるインタビューを実施し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した.サンプリング方法は便宜的サンプリングから理論的サンプリングに移行した.本研究は兵庫医療大学倫理審査委員会の承認(第19028号)を得て実施した.また,研究参加者には書面による同意を得ており,COI関係にある企業等はない.【結果】10人目のデータ分析において新たな概念が生成されなかったため,サンプリングを終了した.分析によって25個の概念,9個のサブカテゴリー,4個のカテゴリーを生成した.以下,概念を〈〉,サブカテゴリーを《》,カテゴリーを【】として示す.発達障害児を養育する母親らは,身体的負担の増加や心理的苦痛,強いストレス,社会的孤立を抱えて子育てを行なっていることが明らかにされた.このような子育て環境に対応するための重要な要因として《否定的感情との折り合い》,《忙殺される日々との折り合い》,《社会的通念との折り合い》の3つのサブカテゴリーから成るコアカテゴリーを生成した.これは母親自身が見つけた問題解消法であり《子育て視点の拡大》の変化<をもたらす働きがあると見出された.この変化は〈わが子と見つけた目標〉と〈できることからスタート〉する《実現可能な一歩》という具体的な支援手段を母親らにもたらし,友人や夫,祖父母などに対して,どのような子育ての支援を求めるかの判断を明確にしていた.【考察】《否定的感情との折り合い》,《忙殺される日々との折り合い》,《社会的通念との折り合い》という問題解消法は,【複雑な子育て環境に対する適応】を促す上で核となる概念であり,子育てにおける視点の拡大に発展する.この視点の拡大が現状に則した目標と活動に対する方略を子どもと見つけることにつながると考える.さらに母親らは友人や祖父母,夫との子育てにおける相互的な関わりのなかで,周囲の人々の役割特性を捉え,臨機応変に依頼するという方略を見つけていたと考える.OTにおける家庭への支援は,母親の子育ての状況や周囲との相互作用を評価し,個々の家庭の営みにかかわる文脈に適した子育て方略を母親自身によって見出せるようにサポートすることが重要である.