著者
宮本 将太 高谷 悠大 奥野 善教 邑田 悟 篠塚 健 下戸 学 柚木 知之 趙 晃済 大鶴 繁 小池 薫
雑誌
第46回日本集中治療医学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-02-04

【背景】三環系抗うつ薬(TCA)は過量摂取時に強い毒性を有することが知られており、死に至ることもある。主な死因に痙攣や致死性心室性不整脈が挙げられる。今回、処方にTCAが含まれていなかったにも関わらず、痙攣と致死性心室性不整脈を発症し、不整脈の加療およびTCA中毒と判断するのに苦慮した一例を経験したため報告する。【臨床経過】双極性障害を既往に持つ39歳男性、身長163cm、体重63kg。これまで6回の薬物大量内服による救急搬送歴があった。来院2時間前に、薬物大量服用の意思を友人に電話で伝えていた。友人到着時は意識清明だったが、徐々に意識レベルが低下したため救急要請し、当院搬送となった。来院時はJCS300、血圧128/77mmHg、心拍数141/分・整、呼吸数32回/分、SpO2 90%(高濃度酸素マスク10L投与下)だった。来院直後、脈あり心室頻拍が出現したが1分以内に自然頓挫した。その後けいれん発作が出現したため、ジアゼパム、レベチラセタム、ビタミンB1を投与したが発作を繰り返し、気管挿管の上でプロポフォール持続投与開始したところ鎮痙した。しかしその後、脈なし心室頻拍も持続したため蘇生を行った。ショック遷延に対して複数の昇圧剤および炭酸水素ナトリウム投与を要した。心エコーおよび全身CTでは特記すべき器質的病変を認めなかった。尿中薬物定性検査ではベンゾジアゼピン、TCAが検出されていたが、判明していた内服薬にTCAは含まれていなかった。病歴と合わせて薬物中毒による痙攣および致死性不整脈が起こっていると考えられた。集中的な全身管理が必要と判断し、ICUに入室させた。入室時APACHE2スコアは32点、SOFAスコアは17点だった。ICU入室後は昇圧剤投与下でも血圧80mmHg前後で推移していたが、第2病日に脈なし心室頻拍出現、CPR開始した。除細動2回施行し、アドレナリン投与含む蘇生を行ったが、自己心拍は再開しなかった。来院されたご家族に状況説明したところ、V-A ECMO導入は希望されず、死亡確認を行った。後日、血液検査結果では、アミトリプチリンが2034ng/mLと致死量を超える血中濃度を示していた。以上よりTCA中毒により痙攣および致死性不整脈が生じたと考えられた。【結論】TCA処方歴のないTCA中毒を経験した。急性薬物中毒が疑われる症例では、処方歴よりも顕現している症状から原因薬物を検索すべきである。
著者
近藤吉将 渡邊亮司 美馬敦 服部滋 加藤源太郎
雑誌
第55回日本脈管学会総会
巻号頁・発行日
2014-10-17

【はじめに】急性動脈閉塞症は,末梢動脈が塞栓子によって突然閉塞されるために阻血症状を呈する疾患である。上肢動脈の急性動脈閉塞は下肢と比べると頻度は低く,指切断や致命的となる症例は少ないといわれる。今回我々は当院で経験した上肢急性動脈閉塞症5例について検討を行ったので報告する。【対象および方法】対象は2012年9月から2014年6月までに当院で治療を行った上肢急性動脈閉塞症5例(男性4名,女性1名,年齢41歳~97歳,平均年齢76.6歳)とした。方法は,症状,原因,閉塞部位,治療開始までに要した時間,治療法,閉塞部位を同定したmodalityについて検討した。【結果】症状は冷感4例,知覚異常4例,蒼白3例,動脈拍動の消失2例,チアノーゼ1例,運動神経麻痺1例であった。塞栓症5例で原因疾患として心房細動2例(左房内血栓1例),OMI後心尖部壁在血栓1例,左鎖骨下動脈壁在血栓1例,原因不明1例であった。閉塞部位は左上腕動脈2例,右上腕動脈1例,左橈骨動脈および尺骨動脈1例,右尺骨動脈1例であった。治療開始までの時間は1から33時間で,平均15時間であった。治療法は血栓除去術3例,血栓溶解療法2例で,1例手掌以下の切断を要した。閉塞部位を同定したmodalityは超音波検査5例であった。【考察】文献的に塞栓は心房細動由来のものが多いとの報告であるが,われわれの症例で基礎に心房細動を合併した症例は5例中2例(40%)であった。心房細動以外の塞栓源の評価に血管エコーが有用であると思われた。【結語】上肢急性動脈閉塞症の評価に超音波検査が有用であった。