著者
中川 隆之
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.10, pp.1285-1292, 2019-10-20 (Released:2019-11-06)
参考文献数
52

難聴は, 世界保健機関の報告では人類の克服すべき健康上の課題の上位にランクされており, 近年, 認知症を加速する重要な因子としても注目され, 難聴, 特に感音難聴に対する社会的関心は高まっている. 現在, 感音難聴に対する薬物療法は, 極めて限られており, 新規治療法の開発に対する期待が高まっている. この流れは, 感音難聴に対する創薬研究にも認められ, アカデミア発のベンチャー企業の活発な活動や製薬業界の積極的な取り組みも始まっている. 本稿では, 急速に進展しつつある感音難聴治療薬開発の国内外の現況をまとめ, われわれが行っているインスリン様細胞増殖因子1を用いた急性感音難聴治療研究の進捗状況を概説する. また, 内耳再生医療開発の観点から, 世界的な感音難聴創薬研究, 特に臨床治験の現況について紹介し, 今後の内耳有毛細胞再生による感音難聴治療に向けた研究の展開について考察する.
著者
中川 隆之
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.210-216, 2017 (Released:2019-02-13)
参考文献数
19

近年、内耳保護、再生に関連する基礎的研究の進捗に伴い、感音難聴に対する創薬研究が注目されている。感音難聴は、頻度の高い身体障害として知られているが、感音難聴に対し、米国食品医薬品局が認める薬物は存在しない。突発性難聴は、感音難聴の中では頻度の低いものであるが、診断、治療に関する臨床研究の蓄積があり、新規治療薬の対象疾患としての条件は比較的整っている。本総説では、感音難聴治療開発の現況、インスリン様細胞増殖因子1局所投与による突発性難聴治療に関わる基礎的研究、臨床研究の概要について述べ、薬事承認に向けた今後の展開について展望する。
著者
中川 隆之 飯田 慶 喜多 知子 西村 幸司 大西 弘恵 山本 典生
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

哺乳類とは異なり、鳥類の聴覚器官である基底乳頭では、有毛細胞再生が自発的に誘導され、聴覚機能も再生される。鳥類とは異なり、哺乳類では有効性が期待できるレベルの聴覚機能再生は報告されていない。近年、鶏に関する遺伝子情報が充実し、網羅的遺伝子解析手法を用いて、これまで困難であった鳥類における有毛細胞再生に関連する遺伝子およびシグナルの詳細な分子生物学的解析が可能となった。鳥類における旺盛な有毛細胞再生機構を哺乳類における有毛細胞再生活性化に応用し、哺乳類蝸牛における有毛細胞再生効率を向上させ、新しい感音難聴治療薬開発につなげる。
著者
坂本 達則 菊地 正弘 中川 隆之 大森 孝一
出版者
特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.147-150, 2020 (Released:2020-11-28)
参考文献数
6

耳管や破裂孔の周辺構造の内視鏡下局所解剖を明らかにするために,骨標本の観察およびカデバダイセクションを行った。破裂孔は蝶形骨,側頭骨,後頭骨に囲まれた不整形の穴である。内視鏡下に上顎洞後壁を除去すると,翼口蓋窩で顎動脈の分枝を確認できる。蝶形骨前壁の骨膜を切開すると,翼突管,正円孔を確認できる。蝶形骨の翼状突起基部・内側・外側翼突板を削開すると耳管軟骨が露出される。耳管軟骨は耳管溝と破裂孔を充填する線維軟骨に強固に癒着している。内視鏡で手術操作を行うとき,翼突管および破裂孔よりも尾側での操作を維持することで内頸動脈・海綿静脈洞の露出・損傷を防ぐことが出来ると考えられた。
著者
中川 隆之
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.141, no.4, pp.184-187, 2013 (Released:2013-04-10)
参考文献数
19

感音難聴に代表される内耳障害は,主な身体障害のひとつであるが,多くは不可逆性であり,根本的治療法の開発が強く望まれている.本稿では,内耳蝸牛の感覚上皮に焦点を当て,障害進行段階に応じた治療法開発の取り組みについて紹介する.音響刺激を神経信号に変換する役割を担う蝸牛感覚上皮の有毛細胞が障害されているが,未だ細胞死に至っていない段階では,インスリン様成長因子1などの薬物局所投与の難聴治療への可能性が呈示され,臨床試験も行われている.有毛細胞が喪失しているが,感覚上皮を構成するもうひとつの細胞である支持細胞が温存されている段階では,ノッチ情報伝達系制御による支持細胞から有毛細胞への分化転換による有毛細胞再生による聴覚再生が研究されている.さらに,障害が進行し,再生のソースが蝸牛内に残されていない段階では,工学的な蝸牛感覚上皮再生ともいえる人工感覚上皮開発が行われている.今後の研究発展により,革新的難聴治療が臨床的に実現することが望まれる.
著者
伊藤 壽一 中川 隆之 田浦 晶子 山本 典生 坂本 達則 北尻 真一郎 平海 晴一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2011-04-01

根本的治療方法のない感音難聴に対して、その主要な責任部位である内耳蝸牛の発生メカニズムを解明し、内耳再生医療の確立を目指す本研究では以下の事を達成することができた。1.再生のための操作対象となる蝸牛内幹細胞群の同定、2.内耳発生に重要な役割を果たす新規遺伝子候補の同定、3.NotchシグナルやIGF1の内耳再生医療への応用、4.ヒトiPS細胞の有毛細胞への誘導プロトコールの改良。本研究で得られたこれらの成果を適切に組み合わせることにより、内耳再生医療のヒトへの応用に近づくことができると考えられる。
著者
中川 隆之
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.5, pp.357-361, 2013 (Released:2013-05-25)
参考文献数
6

内視鏡下経鼻頭蓋底手術では, 標的とする病変の拡がりに応じ, 鼻副鼻腔の処理を行い, 適切な術野を確保する. Mid-lineアプローチでは, 中鼻甲介を温存しても, 十分な術野を得ることができる. 内頚動脈隆起や視神経管周辺での手術操作が必要な場合, 経中鼻道的にも蝶形骨洞の操作が行えるよう, 篩骨洞開放が必要となる. 最後部篩骨洞のバリエーションであるOnodi cellに注意が必要である. 蝶形骨洞外側にアプローチする場合, 上顎洞後壁削除が必要となる. Vidian神経管と上顎神経管が有用な目印になる. また, 頭蓋底再建においては, 嗅上皮と蝶口蓋動脈鼻中隔枝の位置を考慮した有茎鼻中隔粘膜弁を作製する.
著者
伊藤 壽一 中川 隆之 平海 晴一 山本 典生 坂本 達則 小島 憲 田浦 晶子 北尻 真一郎
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究によって内耳発生に重要な因子が内耳再生医療に有用であることを発見した。細胞増殖制御因子p27Kip1を生後マウス蝸牛で抑制すると、増殖能がないとされていた生後哺乳類の蝸牛支持細胞が増殖した。HGFやEP4アゴニストが内耳障害の予防や治療に有用であることを発見し、そのメカニズムを解明した。Notchシグナルが、内耳内の細胞運命決定だけでなく感覚上皮前駆細胞の分化タイミングの制御や維持を担うことを発見した。