著者
伊藤 真利子 綾部 早穂 菊地 正
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.37-47, 2012

記銘項目が実験者によって割り当てられる場合よりも,実験参加者自身により選択される場合のほうが記憶保持は優れる(自己選択効果).本研究は,選択時における選択項目と非選択項目の両方を短期記憶に保持する過程が後の再生を促進するために必要十分であるのか,それとも短期記憶保持された選択肢間を比較する過程が必要であるかを検討した.実験1では,選択段階で選択項目のみを短期記憶に保持する強制選択条件,選択項目と非選択項目を保持する遅延選択条件,保持された選択肢間での比較を行う比較選択条件と自己選択条件を設けた.選択項目の再生率は前の2条件間では差がなかったが,後の2条件は前の2条件よりも有意に高かった.よって,選択時に短期記憶に保持された選択肢を互いに比較する過程が再生の促進に重要である可能性が示唆された.実験2では,意味的な基準での比較と非意味的な基準での比較による再生成績の違いが認められなかったことから,実験1の比較選択条件での再生の促進が意味処理のみで説明される可能性は低いと考えられた.
著者
伊藤 真理
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.66-71, 2012-02-01

音楽分野では,グレイリソースとしてエフェメラの収集や管理について検討されている。本稿では,音楽分野のエフェメラとして,楽譜の種類の1つであるsheet musicと,演奏会プログラムをとりあげた。また,録音資料については,流通と媒体の一過性に着目して検討した。デジタルアーカイブズの構築に伴って,エフェメラに関するメタデータの検討も重要となっている。楽譜に関しては,アメリカ音楽図書館協会によるガイドラインが策定されており,演奏会プログラムについては,国際音楽資料情報協会のワーキンググループによって検討が進められている。様々なグレイリソースへの効率的なアクセスについて,さらに検討が必要であろう。
著者
田中 康雄 内田 雅志 久蔵 孝幸 福間 麻紀 川俣 智路 伊藤 真理 美馬 正和 金井 優実子 松田 康子
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター = Research and Clinical Center for Child Development, Faculty of Education, Hokkaido University
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
no.4, pp.1-9, 2010

2009年に行ったわれわれの「発達障害のある方々への生涯発達支援の実践研究」について報告した。まず、発達障害は生活障害である。その視点に立つことで、われわれの実践研究を(1)養育者支援に関する研究、(2)保育・教育現場における支援研究、(3)特殊な生活環境における支援研究、(4)ADHDに関する調査研究と分類して、生活環境を中心に包括的な検討をした。われわれが向き合う「あなた」は、当初は養育者、次に当事者、さらにかれらを取り巻く関係者となる。同時に、われわれには、関係者といかに手を携えて総合的な支援策を構築するか、ということも求められる。最後に連携・ネットワーク作りからノットワーク作りへという移行を提案した。
著者
伊藤 真之
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

X線天文衛星「あすか」の位置検出型ガス蛍光比例計数管GISのデータを用いて、太陽X線の地球大気アルベドのスペクトルおよび長期変動を調べた。この結果、太陽活動の極小期から極大期をほぼカバーして、太陽X線とその地球大気アルベドのスペクトルが、0.5-5keVのエネルギー範囲で、いくつかの元素のK輝線を識別できる程度のエネルギー分解能で得られた。スペクトルは、(a)2温度成分の高温プラズマの熱放射、(b)これに対する中性ガスによる反射・吸収の補正、(c)付加的輝線成分から成るモデルで記述された。主として成分(a)が太陽コロナX線の太陽全面にわたる観測期間内の平均スペクトルに相当する。太陽X線に関する主な結果は次のようにまとめられる。1.得られた太陽X線スペクトルは、温度3×10^6K程度および(5-10)×10^6K程度の熱放射としてほぼ記述できる。高温成分は主とし太陽フレアで生成される高温プラズマの放射であり、低温成分は主としてフレア以外のコロナの放射であると考えられる。2. 2成分の温度には、太陽活動周期にともなう大きな変化はみられなかった。3. 2成分の強度は太陽活動周期と同期した変化を示した。変化の割合は高温成分の方が大きく、太陽活動極大期において高温成分の占める割合が大きくなる。付加的輝線(c)には、地球大気のOおよびAr以外に、Mg、SiなどのK輝線が含まれ、これらは(a)の熱放射から期待される輝線に対してエネルギーが低く、強度が大きい。一つの可能性として、太陽コロナにおける電離非平衡の効果が考えられる。なお、研究の構想段階ではASTRO-E衛星も視野に入れていたが、軌道投入失敗のためこれは実現しなかった。ほぼ同じ設計の衛星ASTRO-EIIの打ち上げが予定されており、X線カロリメータによる高分解能のデータを用いて、本研究の方法による展開が期待できる。
著者
山路 勝彦 棚橋 訓 柄木田 康之 成田 弘成 伊藤 真
出版者
関西学院大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

本研究は、平成7年度に引き続き、野外調査の方法によって、オーストロネシア諸族の産育慣行と生命観、そし性差の比較を目的とした研究である。人が産まれ・育つ過程を研究するにあたっては、それぞれの社会が認知する社会的・文化的意味を理解しなければならない。そして、その過程に男女がともに深く関わる以上、性差の文化的意味付けを考える必要がある。平成7、8年度と、二回にわたる野外調査は、ポリネシア(タヒチ、トンガ、ラロトンガ、西サモア)、メラネシア(パプアニューギニアのナカナイ族、およびマヌス島民)、ミクロネシア(ヤップ島民、パラオ島民)、インドネシア(スラベシのブギス族)で実施された。このような広域にわたるオセアニア地域での比較研究は、広い知見を与えてくれた。例えば、インドネシアおよびポリネシアの双方にわたって類似した性差慣行、つまり「第三の性」、もしくは「トランス・ジェンダー」の存在が指摘される。身体的には男でありながら、家事仕事など女の役割を受け持ち、女としての自認を持つ、この「第三の性」の比較研究は、性差の多様な現象形態を浮き彫りにするのに、よく貢献する。男・女という分類は身体的形質だけに基づいているのではなく、社会的・文化的に規定された分類でもある。とすれば、性差の現れ方は多様である。社会構造、文化的背景を考慮しながらの、両地域での比較研究は有益である。他方、この「第三の性」は男らしさ、女らしさのイメージについて、ポリネシア的な特徴を教えてくれる。この「らしさ」は、幼少年期の育児方法と深く関係していて、子ども達のしつけ、遊びなどの参与観察を通してその調査は実施された。例えばトンガでは、男は農耕、女は家事というように、はっきりとした性差の役割分担が見られる一方で、この二極分化に反するように、異性の役割を受け持つ存在があり、これが「第三の性」を生み出していると結論できる。そして、その異性の仕事を受け持つ男の子は、幼少年期から母親との愛着関係が濃密であった。ミクロネシアでも、性と生殖、産育慣行の調査は続行されるとともに、これらの慣行を支える社会・文化的環境を視野にいれ、その変化を探求できた。例えば、結婚儀礼についての詳述な資料を得たほかに、第一子出産に伴う儀礼的交換の実態を把握でき、そして日本時代から現代に至る変化の様相も浮き彫りにされた。パラオ島では、大首長の即位式で、首長は男と女の双方の装束を身にまとい、両性具有の姿態で登場する場面がある。この儀礼的文脈での性差の研究も、大きな収穫であった。この両性具有の研究もまた、今後の性差研究に新しい展望を切り開くであろう。メラネシアでは、昨年度に引き続きマヌス島民の調査を行い、出産をめぐる諸儀礼、禁忌などの宗教的観念を広い観点から調査した。とりわけ神話・歌謡・詩の資料収集に努め、性と生殖に関する豊富な資料(イディオム)を採集したことは大きな収穫であった。本研究の意義は、オセアニア地域での性差観念の比較研究と並んで、出産をめぐる諸儀礼、禁忌などの宗教的観念を広い観点から調査したことにある。その一例として、月経や出産時の血の穢れなどの禁忌の事例を探求した。とりわけメラネシアで得られたこの種の知見は、今後の日本の事例をも含めて、比較研究の題材となりうる。オセアニア地域ではまた、植物の成長過程が様々な社会関係と比喩的に語られる場合が多い。例えば、人間の成長過程や親族(親子)関係などは、播種(挿し木)から成長し、やがて実を結ぶまでの植物の成長過程と対比して語られる場合が多い。本研究は、こうした象徴的分析法を通して本題に取り組んだことでも独創的であった。
著者
伊藤 真理
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.56, no.7, pp.312-316, 2006-07-01

情報が多様な形態や媒体で分散して流通するようになり,情報への効率的なアクセスおよび入手のために,標準化に則った書誌情報(メタデータ)の提供がさらに必要とされている。また,利用者の情報の利用方法の変化への対応も求められている。より適切なメタデータ作成のために,目録の概念レベルのモデリングの検討が必要となった。本稿では,主要な目録概念モデルであるIFLAのFRBR, FRBRに基づいて検討された目録原則やオンライン目録のあり方,および書誌記述フォーマットや情報資源識別子について概観し,それらの利用について考察する。