著者
伊藤 真人
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.119, no.2, pp.94-98, 2016-02-20 (Released:2016-03-10)
参考文献数
4

2015年1月に日本耳科学会, 日本小児耳鼻咽喉科学会によって「小児滲出性中耳炎診療ガイドライン2015年版」が発刊された. これは本邦の小児滲出性中耳炎ガイドラインの初版であり, 欧米とは医療環境が異なる本邦の現状をふまえて, その実情に即した臨床管理の指針を示している. 本邦のガイドラインは欧米のガイドラインとは次のような点で異なっている. 欧米のガイドラインでは, プライマリケアを担当する家庭医や小児科医に対して, 「いつ, どの時点で鼓膜換気チューブ留置手術のために耳鼻咽喉科専門医へ紹介するか」が主要な論点である. 一方で本邦のガイドラインでは, 中耳貯留液や鼓膜の病的変化などの滲出性中耳炎そのものへの対応だけではなく, その遷延化因子ともなり得る周辺器官の病変に対する治療を積極的に行うことを推奨している. 欧米のガイドラインでは初期の3カ月間は Watchful waiting が勧められており, 治療は行わずに経過観察のみである. 一方で本邦のガイドラインでは, 鼻副鼻腔炎や急性中耳炎, アレルギー性鼻炎などの周辺器官の病変を合併する症例に対しては, それぞれの病変に対する保存治療を行うことを推奨するという大きなコンセプトの違いがある. むしろこの初期の期間こそ, 小児滲出性中耳炎の病因となっている周辺の炎症性病変に対する特別な配慮が必要であり, 適切な薬物療法を含む保存的加療が求められる. これらによっても3カ月以上改善しない両側の小児滲出性中耳炎症例では, 中等度以上の聴力障害 (40dB 以上) を示す場合は両側の鼓膜換気チューブ留置術を行うべきであり, 難聴の程度が25~39dB であっても治療の選択肢として検討することが勧められる. また鼓膜のアテレクタシスや癒着などの病的変化が出現した場合にも, チューブ留置が推奨される.
著者
伊藤 真人
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.2, pp.123-126, 2020-02-20 (Released:2020-03-07)
参考文献数
8

小児滲出性中耳炎の診断目的は, ① 原因となる急性中耳炎との関連の中で患児のおかれた病状を推定するとともに, ② 難聴の程度とその及ぼす影響を判定すること, さらに ③ 周辺器官の感染・炎症の状態を評価して, 治療を計画することである. 小児滲出性中耳炎の約50%は急性中耳炎を契機に生じるか, 以前からあったものが発見される. 現在では小児滲出性中耳炎の病態は, 急性中耳炎と同様に感染であると考えられており, 発症後3週間以上遷延するものが亜急性, 3カ月以上遷延するものが慢性滲出性中耳炎である.「小児急性中耳炎診療ガイドライン2015年版」がカバーする範囲は, 亜急性期以後の滲出性中耳炎であり, 急性症状発現から3週間以内は急性中耳炎としての対応が求められる. 小児滲出性中耳炎と急性中耳炎は, 鼓膜所見だけでは鑑別が難しいこともあり, 耳痛や発熱などの急性症状出現後48時間以内に受診した場合は急性中耳炎と診断される. 家庭医が初療を担当することが多い諸外国においては, 急性中耳炎と滲出性中耳炎をどのように鑑別診断するかが, 昨今大きなテーマとなっており, 新しい診断機器の開発が進められている. 小児急性中耳炎と小児滲出性中耳炎とは相互に移行する関係にあり, その境界を厳密に分けることが難しいばかりではなく, 鼓膜チューブ留置術などの治療選択においても, どちらか片方の疾患だけを念頭において治療を決定できるものではない. したがって,「慢性中耳炎以外の小児中耳炎」として, 急性中耳炎と滲出性中耳炎という, 移行する疾患群の全体像を俯瞰した対応が求められる. 小児中耳炎の診療に際して, 病院・診療所を問わずわれわれすべての耳鼻咽喉科専門医に求められることは, 正確な鼓膜所見の評価とおおよその聴力域値を推定することであり, 患児の中耳炎が上記どちらの病態と考えられるのかを明確に保護者に伝えるとともに, 必要な症例を選別して精密聴力検査や手術管理が可能な施設に紹介することである.
著者
上村 佐恵子 島田 茉莉 伊藤 真人 西野 宏
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.45-51, 2016 (Released:2016-08-01)
参考文献数
16

4 歳 8 カ月女児。夜間の息苦しさで頻回に覚醒するため,睡眠時無呼吸症候群の疑いで受診した。後鼻孔を閉塞する咽頭扁桃肥大,アレルギー性鼻炎の所見に合致する鼻粘膜所見がみられたが,気道閉塞をきたすような口蓋扁桃肥大はなかった。肥満と低身長を認め,易疲労感の訴えがあったため,小児科で精査を依頼した。低身長に対する検査の結果,橋本病と診断され,甲状腺ホルモン補充療法が開始された。治療 2 週間で夜間覚醒の消失を認め,治療 3 カ月で甲状腺ホルモン値は正常化,鼻閉の消失といびきの改善を認めた。簡易終夜睡眠検査上は,初回の無呼吸低呼吸指数(AHI:回/時)53.8,治療 5 カ月後21.9,治療10カ月後26.4,最終的に治療16カ月後に AHI 8.5まで改善した。睡眠時無呼吸症候群と甲状腺機能低下症の症状は類似点が多く,低身長や易疲労感などの甲状腺機能低下症の臨床症状にも留意することが必要である。
著者
伊藤 真 濟川 貴 杉原 歩 堀江 遥 井内 志穂 粟木 陽子 岡田 みなみ 勝部 遥子 山本 千尋
出版者
広島大学大学院教育学研究科音楽文化教育学講座
雑誌
音楽文化教育学研究紀要 (ISSN:13470205)
巻号頁・発行日
no.24, pp.11-20, 2012

The purpose of this study is to develop music classes using Etenraku, which is one of the oldest existing music in Japan called Gagaku (traditional Japanese court music), as a material in elementary and junior high school. The main points of view on developing music classes are as follows: (1) to pursue the musical substance, (2) to center a proactive and action-oriented learning of students, and (3) to promote and enhance language activity.The music class in elementary school has two goals. One is that students develop an understanding for a mechanism of producing sounds with double reed through the activity to make hand-made musical instrument. The other is that students understand the role of hichiriki (a kind of flute) in Gagaku ensemble, discovering sound aspects of hichiriki, and expressing the sound aspects with their own words.The music class in junior high school has two goals. One is that students understand the musical style of Gagaku through creating rhythm patterns of percussion section for the melody of Etenraku. When creating, students write musical note using composition software. The other is that students engage in entire learning process with language activity, for example, talking together about what they want to express in their work, describing their intention put into their work, or expressing what they feel when they listen other's work.
著者
伊藤 真実子
出版者
公益財団法人 史学会
雑誌
史学雑誌 (ISSN:00182478)
巻号頁・発行日
vol.117, no.11, pp.1981-1989, 2008

博覧会に関する研究は歴史学のみならず多方面から進められ、業績は厚みを増している。このことから現時点における博覧会研究の動向を整理し、その意義をふりかえってみることには意味があろう。博覧会研究は、一九、二〇世紀に各国で開催された万国博覧会を対象としたものがその中心となっている。とりわけ開催国となったアメリカ、イギリス、フランスで一九八〇年代から、日本国内では一九八〇年代後半から研究が盛んになってきている。欧米における研究は開催国の視点からのそれを中心としている。日本での研究は、日本における初めての万博開催が一九七〇年であったことから、そこにいたるまでの時期における万博参加の経過ならびに、そこで得られた参加経験から導かれた内国勧業博覧会の開催にかかわる問題群を中心にすえて進展してきた。本稿では、まず欧米における万国博覧会研究の動向をおさえ、次いで国内における博覧会研究の動向について考察を加えてみたい。
著者
伊藤 真利子 大西 立顕
出版者
公益社団法人 日本化学会・情報化学部会
雑誌
ケモインフォマティクス討論会予稿集 第42回ケモインフォマティクス討論会 東京
巻号頁・発行日
pp.1P10, 2019 (Released:2019-10-22)
参考文献数
7

化合物空間をネットワークにより表現することで空間の特徴を捉えようとする試みが先行研究でされている.このネットワークでは頂点が化合物を表し,二つの化合物の類似度がある閾値よりも高ければ頂点間にリンクが張られる.しかし,ネットワーク構造は閾値の設定に大きく依存する.そこで本研究では,二頂点間のリンクの重みを化合物の類似度とした重み付きネットワークを考える.生物活性低分子データベースのChEMBLから各ターゲットに対する化合物のデータを取得し,それらの重み付きネットワークの構造を解析した.その結果,極めて強く他の頂点とつながるような頂点は見当たらなかった.またネットワーク全体のコミュニティ構造は弱かった.しかし部分的に,互いに強くつながり合い,全体とは異なる生物活性分布をもつ化合物の集合が見られた.また特に強い(もしくは特に弱い)生物活性値をもつ化合物同士は強くつながり合っていることもわかった.
著者
伊藤 真二 山口 仁志 小林 剛 長谷川 良佑
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.45, no.6, pp.529-536, 1996-06-05
参考文献数
12
被引用文献数
14 10

グロー放電質量分析法(GD-MS)により,ニッケル基耐熱合金中の合金元素(Al, Si, Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Cu, Y, Nb, Mo, Ta及びW)並びに微量元素(B, C, Mg, P, S, Zn, Ga, As, Zr,Cd, Sn, Sb, Te, Pb及びBi)の定量法を検討した.スペクトル干渉などについて詳細に調べた結果, Se, Agを除いてその影響がないことを確認した.JAERI CRM, NIST SRM, Bs CRMs, BCS CRMs及び自家製Ni合金標準試料の16種を測定し,表示値とGD-MS測定値から得られた相対感度係数(RSF)を評価した.RSF値による補正を行ったGD-MS定量値の正確さ(σ<SUB>d</SUB>)をファンダメンタル・パラメータ法-蛍光X線分析法(FP-XRF)による値と比較した結果, Cr, Feではやや劣るものの,そのほかの合金元素はFP-XRFによる定量値の正確さとほぼ同等であった.繰り返し分析精度は, P, Sを除いて相対標準偏差(RSD)で2.5%以内と良好な値であった.実用ODS合金MA 6000の合金成分の定量値は,FP-XRF定量値とよく一致した.又,有害微量不純物元素などの定量結果は,黒鉛炉原子吸光法による値あるいは化学分析値と一致し,本法がNi基耐熱合金の合金成分から微量成分元素定量に適用できることを確認した.
著者
蓑内 豊 吉田 聡美 伊藤 真之助
出版者
北星学園大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は、Lyndon(1989)が提唱するold way/new way(新旧対照法)を、スポーツ選手のスキルの修正に活用しようとするものである。まず、6段階のスポーツスキル修正プログラムを考案した。複数の種目・選手に実施し、プログラムの有効性について検証を行った。その結果、スポーツスキルの修正に新旧対照法を用いることは、スキル修正学習を促進させることが示唆された。また、スポーツスキルの分析やパフォーマンス評価を行うために、パフォーマンス・プロファイリングテストを作成した。これは、フォームや感覚、連携など評価しづらいスポーツパフォーマンスについて、数値化し評価する手法のことである。
著者
伊藤 真琴 三重野 はるひ 藤沼 誉英 大倉 典子 渡辺 洋子
出版者
Japan Society of Kansei Engineering
雑誌
日本感性工学会論文誌 (ISSN:18840833)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.161-170, 2010 (Released:2016-11-30)
参考文献数
16
被引用文献数
1

The main purpose of this paper is a proposal for restoration support system of historical buildings using virtual environments. Trend has developed to restore historical Japanese buildings such as theaters as symbols of town renovation. However, the restoration of such buildings commonly encounters many difficulties such as a lack of documents, and different construction materials and structures between the old era and the present. Virtual images of a restored building should be a great help in evaluating and discussing various restoration plans. We have constructed a restoration support system for historical buildings, using virtual environments to help the design plan for indoor restoration. CAD data based on actual measurements of an old theater, Tsurukawaza in Kawagoe, were employed to construct the 3D model for the system, which ensures reproduction of the interior details of the theater. The experimental results show the effectiveness of the support system.
著者
伊藤 真人 正木 智幸
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.60, no.9, pp.567-592, 1987-09
被引用文献数
6

北アルプスにおける最終氷期前半以前の氷河前進期の年代と氷河の分布範囲については不明な点が多く,具体的な報告も少ない.そこで,古い氷河地形が残存している可能性のある鹿島川大冷沢流域を調査地域とし,トレンチ調査を含む現地調査を行なったところ,以下の事実が判明した. 1) 大冷沢上流域,北股谷の谷頭部には布引沢カールが,その下流側にはU字谷が,さらに西股出合から大谷原にかけても氷食谷が発達する.また,上流側より布引沢モレーン,北股モレーン,大谷原モレーンが認められ,氷河最大拡張期の氷河の末端は,標高約1,200m付近にまで達していたと考えられる. 2) 上記の氷食谷の形態やモレーンの位置,さらにアウトウォッシュ段丘(鹿島川第2段丘~第4段丘)の分布から,少なくとも3回の氷河前進期,すなわち古いほうから,大谷原期,北股期,布引沢期の存在が指摘できた.またターミナルモレーンこそ発見できなかったものの,大谷原期と北股期との間には,氷河前進期と考えられる西股期が存在する可能性がある.なお,これらの氷河地形の分布から復元される各氷河前進期の氷河は,氷河最大拡張期の大谷原期以降,徐々に上流側に縮小したかたちで分布していたことが推定される. 3) 大谷原モレーンのトレンチ調査や下流側の段丘の形成時期から,西股期を含め上記4回の氷河前進期の年代について検討した結果,大谷原期は少なくとも10万y. B. P. より以前,西股期は6万y. B. P.より少し前,北股期は2万y. B. P. 前後,布引沢期は北股期以降とそれぞれ考えられる.したがって大谷原期は,ヴュルム氷期(最終氷期)よりむしろリス氷期に対比されるであろう.
著者
伊藤 真人 長山 郁生 岡部 陽喜 古川 仭
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.527-531, 1991-10-15 (Released:2011-08-10)
参考文献数
17

近年Bell麻痺に対してはStennert法が普及し, Hunt症候群には抗ウイルス剤 (アシクロビル) とStennert法の併用療法が試みられ, 良好な治療成績が得られている。我々は臨床的にBel1麻痺と診断される症例 (Huntの一部を含む) に対してもHunt症候群と同様にアシクロビルとStennert法とを併用しているので報告した。本治療の目的は臨床的Bell麻痺の中に含まれるHunt不全型の治療と, 病初期に帯状疱疹を認めないHunt典型例の重症化の予防, VZV以外のウイルスが関与するBell麻痺症例の治療が目的である。結果は25例中治療開始が遅れた1例を除き他は全例完治した。
著者
伊藤 真
出版者
日本印度学仏教学会
雑誌
印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.1296-1302, 2016

六世紀末頃の中国撰述と思われる『占察経』二巻は,今日では『地蔵十輪経』,『地蔵菩薩本願経』と共に代表的な地蔵経典とされている.従来この経典は,上巻で説く木輪相というサイコロ状のものを使った占い法と,それに続く懺悔滅罪の方法を主眼とする,地蔵信仰を利用した「いかがわしい」経典と目されてきた.しかし近年のいくつかの先行研究ではこの経典の構造や意図を見直す動きが見られ,本論考ではこの経典における地蔵菩薩の役割を改めて検討し,この経典全体のねらいを再考した.本経の上巻が説く木輪相による占いと懺悔の方法は,下巻が説く瞑想を行うための前提となっており,無相智を得て,一実境界に依止した堅固なる信解を確立するのが,五濁悪世において大乗を志向する者の目的とされている.末法の世の善根微少なる衆生には困難な道である.しかし地蔵菩薩はそのような遠大な修道論を説く一方で,修行者の疑念と怯弱なる心を癒すべく,自らの名号の誦念を何度も勧める.憂悩を取り除いて修行の道へ進むようにと,上下二巻,この経典全編を通じて要所要所で修行者を叱咤激励するのである.この経典は占察法,懺法,そして瞑想法と,それによって信解堅固に一実境界に安住するための一貫した修行道を説きつつ,その道に邁進できるようにと常に地蔵菩薩が救いの手を伸べる構造になっている.地蔵は『十輪経』以来,瞑想と,衆生済度の遠大な誓願と行とに深く結びついた菩薩である.六世紀末に中国で成った『占察経』という偽経は,木輪相といった一見突拍子もない占いを堂々と説く特異な経典であることは確かだが,全体として見れば,当時の人々が末法と見た時代にふさわしい,地蔵信仰に基づく救済論を説いていると言うこともできるだろう.
著者
渡邊 法男 細川 佐智子 山田 卓也 吉田 知佳子 鈴木 瑛子 安部 成人 伊藤 真也 丹羽 伊紀詠 山村 恵子
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.27-32, 2017-03-20 (Released:2017-03-25)
参考文献数
11

目的:フェンタニル舌下錠(Fentanyl Sublingual Tablets:FST)の有用性および安全性について調査を行い,FSTの適正使用に向けた問題点について検討した.方法:薬学的管理を行ったがん性疼痛入院患者のうち,突出痛に対してFSTを使用した18名を対象に,FST使用前後の疼痛スコアおよび副作用(嘔気・嘔吐,傾眠)の変化について調査した.結果:FST使用前後の疼痛スコアは,投与直前6.4±2.4と比較して,投与30分後3.4±2.8と有意な改善が認められた(p<0.01).傾眠は,投与直前と比較して,投与30分後および2時間後に有意な発現の増加が認められた(p<0.05).嘔気・嘔吐は,有意な変化を認めなかった.FST使用患者9名に口腔乾燥が出現し,口腔乾燥出現時には,疼痛スコアおよび副作用に有意な変化を認めなかった.結論:FSTの適応を判断する上で口腔状態の観察は必須で,十分な口腔ケアを行った上でFSTを使用すべきである.また,傾眠の副作用が高頻度に出現する可能性が示唆された.