著者
佐藤 嘉倫
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.632-647, 2009-03-31
被引用文献数
5

現代日本の階層構造について語るとき,「流動化」と「固定化」という2つのキーワードが浮かび上がる.非正規労働者の増加などの流動化と特定階層における世代間移動の固定化がその典型例である.本稿では,相矛盾するように見える2つのキーワードを階層論の視点から統一的に理解・説明できることを示す.すなわち,階層構造の流動化といっても,すべての階層でそれが生じているわけではなく,特定の階層は依然として保護的な制度に守られているが,別の階層は高まる流動性に巻き込まれている.教育,若年層,転職,世代間移動,収入という5つの領域における,2005年社会階層と社会移動研究プロジェクトの研究成果を検討しながら,この仮説が全体として妥当することを示す.最後に,階層構造の安定性と流動化の共存が社会階層論に与える含意について考察する.
著者
冨田 正彦 広田 純一 隅田 裕明 佐藤 嘉倫 結城 史隆 八木 宏典
出版者
宇都宮大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1989

低水準ながら高度な生態学的平衡が長期に亙って維持されていた地域生態系が、開発行為によって急変革を余儀なくされている典型例として南アジアの天水田地域の最近の潅漑開発地の村落を選び、その(1)域生態系の構造、特にその自然構造、生産構造および生活構造の相互関係構造(2)潅漑開発に伴う地域生態系構造の変化と、随伴する系要素間の不整合の発現状況(3)前項の不整合の解消過程などを、導入潅漑開発の仕様・機能と併せて調査し、地域生態系に発現した不整合の潅漑開発機能との関係づけを目的として昭和62年に第1次調査を実施した研究の第2次調査である。第1次調査は主として試・資料収集、ヒアリング等により(1)、(2)を実施したが、(3)不整合の解消過程については現象のトレ-スに依る他ないので、観察集落を設定し、現地研究者の協力のもとに経過記録を続けて本年の第2回調査に至ったものである。調査は現地での学際討論を重視して全員が行動を共にし、平成元年8月1日〜9月20日に実施された。調査地域はインドのタミルナドゥ州アランタンギ地区(エガプルマル-村)とネパ-ルのテライ地方チトワン地区(モハナ村)である。タミルナドゥ州調査は昭和62年が本調査で今年は補足調査のため実調査日程は10日間で、Grand Anicut Canal(GAC)の第11支線水路系を選んで行政的なGAC管理と地域農民の水管理との補完関係とその結果としての用水供給実態を把握するとともに、その受益農村のサンプルとして同支線20番スル-ス受益地のエガプエウマル-集落(Egaperumalur Eri)を選んでGAC受益区域に入る以前の50年前にさかのぼって現在までの集落の経済、社会構造の変化を調べた。用水管理実態調査の方法はおもに各関係行政部局からの資料、記録デ-タの収集と、システム各部位の操作・管理責任者からの現地でのヒヤリングによった。エガプルマル-集落調査は集落に保管されている記録類の収集・解続が主で、集落の古老と現在の役員農民の協力のもとの実施した。なお、これらの全てにはコインバト-ル農科大学(Sivanappann教授他)の調査協力を受けた。テライ平野調査は昭和62年度は予備調査的段階に留まっていて、今回が実質的な本調査であったため30日間の実調査日をかけて約600haの受益水田面積を対象として5年前に完成しているPancha
著者
大浦 宏邦 海野 道郎 金井 雅之 藤山 英樹 数土 直紀 七條 達弘 佐藤 嘉倫 鬼塚 尚子 辻 竜平 林 直保子
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

秩序問題の中核には社会的ジレンマ問題が存在するが、社会的ジレンマの回避は一般に二人ジレンマの回避よりも困難である。本研究プロジェクトでは、Orbel & Dawes(1991)の選択的相互作用の考え方を拡張して、集団間の選択的な移動によって協力行動が利得のレベルで得になる可能性を検討した。まず、数理モデルとシュミレーションによる研究では、協力型のシェアが大きければ選択的移動が得になる可能性があることが明らかになった。次に所属集団が変更可能な社会的ジレンマ実験を行った結果、協力的な人は非協力者を逃れて移動する傾向があること、非協力的な人は協力者がいるうちは移動しないが、協力者がいなくなると移動することが明らかとなった。この結果は、特に協力的なプレーヤーが選択的な移動をする傾向を持つことを示している。実験室実験の結果を現実社会における集団変更行動と比較するために、職場における働き方と転職をテーマとした社会調査を実施した。その結果、協力傾向と転職行動、転職意向には相関関係が見られた。これは、実験結果の知見と整合的だが、因果関係が存在するかどうかについては確認できなかった。方法論については、基本的に進化ゲームやマルチエージェント分析は社会学的に有意義であると考えられる。ただし、今回主に検討したN人囚人のジレンマゲームは社会的ジレンマの定式化としては狭すぎるので、社会的ジレンマはN人チキンゲームなどを含めた広い意味の協力状況として定義した方がよいと考えられた。広義の協力状況一般における選択的移動の研究は今後の課題である。
著者
佐藤 嘉倫 近藤 博之 尾嶋 史章 斎藤 友里子 三隅 一百 石田 浩 三輪 哲 小林 大祐 中尾 啓子
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

地位達成過程の背後にある制度に着目することで、不平等を生み出すメカニズムのより深い理解をすることが可能になる。たとえば、貧困にいたるプロセスは男女で異なるが、それは労働市場と家族制度における男女の位置の違いを反映している。また、日韓の労働市場の制度の違いにより、出産後、日本の女性のほとんどが非正規雇用者になるが、韓国の女性は正規雇用、非正規雇用、自営の3つのセクターに入る、という違いが生じる。