- 著者
-
近藤 博之
- 出版者
- 日本教育社会学会
- 雑誌
- 教育社会学研究 (ISSN:03873145)
- 巻号頁・発行日
- vol.104, pp.171-191, 2019-06-30 (Released:2021-04-01)
- 参考文献数
- 20
- 被引用文献数
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近年,格差是正や少子化対策の一環として教育の無償化が議論されている。これについては賛否両論があるものの,意見の分布に階層差はとくに見られないという。しかし,個人化された社会で人々の意識を扱うには単独の意見ではなく,諸々の意見が織り成す文脈に焦点を当てる必要がある。本稿では,ブルデューの社会空間アプローチを用いてこの問題に取り組んだ。具体的には,子どもの教育と高齢者の社会保障について個人と政府の責任を問うた質問(JGSS-2012)に注目し,それと他の諸々の意見との関連を多重対応分析により吟味した。 分析の結果,まず第1-2主成分で構築した政治的意識空間が経済的適応度と政治的参加志向によって特徴づけられることが示された。また,取り上げた意見の多くは第2象限から第4象限にかけて展開し,その並びが階層的様相をもつことが示された。社会的属性変数の布置からは,その並びが資本総量に一致することが確認された。他方,費用負担意識はそれに直交する第1象限と第3象限にかけて展開し,他の意識との関連は希薄であった。社会的属性の布置も,僅かに伝統的専門職と経営者・業主の間に対立的関係が見られるに過ぎなかった。さらに,意外なことに,学生や若者の位置が政府の責任増大を否定する領域に見出された。これらは,この問題が未だ議論として定着しておらず,単に現状を反映した回答がなされているに過ぎないことを示唆している。全体を通して,教育費負担意識の現状と社会意識分析に対する社会空間アプローチの有効性が示された。