著者
織田 涼 服部 雅史 八木 保樹
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1611, (Released:2017-08-19)
参考文献数
32

本研究は,意図されない情報の想起を介した検索容易性の逆説的効果が,処理資源を要するプロセスであるという仮説を検証した。二つの実験では,全参加者に他者の行動リストを呈示して記銘を求めた。行動リストには,後で行う判断の肯定事例と否定事例が含まれており,肯定事例だけを1個(容易)または4個(困難)想起することを求めた。実験1では,二重課題法を用いて想起課題中にかかる認知負荷を操作した。負荷が小さいと,肯定事例の想起が困難な時に想起内容に反する判断がなされ,意図しない否定事例の想起がこの効果を媒介することが示された。しかし負荷が大きいと,この媒介パタンが観察されなかった。実験2では,課題遂行への動機づけ(認知欲求)の強い参加者だけが,意図されない想起を介した検索容易性効果を示した。これらの結果は,困難さが促す事例想起の方略が努力を要する処理であることを示唆する。肯定事例の想起が困難であると,連合記憶内の事例が網羅的に走査され,この走査の過程で意図せず想起された情報に基づいて判断が形成されると考えられる。
著者
織田 涼 服部 雅史 八木 保樹
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.28-39, 2015 (Released:2015-12-22)
参考文献数
32
被引用文献数
1

本研究は,検索容易性の逆説的効果が,困難さの経験がシグナルとなって起こる想起方略の切り替えによるという仮説を検証した.期待条件の実験参加者に,対象他者に関するある性格特性の期待を与えた上で,全参加者に他者の行動リストを呈示して記銘を求めた.行動リストには,ターゲット特性の一致事例と不一致事例が含まれていた.期待条件では,それらの事例が結びついた連合的表象が形成されることが予測された.実験1の参加者は一致事例を1個(容易)または4個(困難)想起することを求められた.実験2の参加者は一致事例を2個想起し,見えやすい(容易)または見えにくい(困難)色のフォントを使用して想起した事例を入力した.期待条件において一致事例の想起が困難な時に想起内容に反する判断がなされ,この効果は不一致事例の付随的想起が媒介することが示された.この媒介パタンは,非期待条件で観察されなかった.これらの結果は,困難さが連合記憶内の事例の網羅的走査を促し,この走査の過程で自発的に想起された情報に基づいて判断が形成されることを示唆する.
著者
亀井 隆幸 八木 保樹
出版者
公益財団法人 パブリックヘルスリサーチセンター
雑誌
ストレス科学研究 (ISSN:13419986)
巻号頁・発行日
pp.2016004, (Released:2016-12-29)
参考文献数
15

Consistent with the concept of security priming, it was hypothesized that reminders of significant others providing sense of security would invite individuals to be tolerant of a romantic partner’s lies. Two experiments were conducted to test this hypothesis. Security priming was performed by asking participants to recall a real life experience suggesting their own significant others’ supportiveness. Dependent variables were the responses to hypothetical situations in which a romantic partner had lied and the deception had been discovered. Experiment 1 showed that security priming could reduce the degree of ungenerosity interference in forgiving a partner, after the deception had been discovered. Experiment 2 showed that this effect did not result from the mildness of threat stimuli attributed to the fact that hypothetical situations were written in third person. Taken together, these results suggested that the effect of security priming ease a self-threat produced by a romantic partner’s lies.
著者
松山 友美 笹ヶ迫 直一 小池 明広 松浦 理城 古賀 孝臣 川尻 真知 大八木 保政 岩城 徹 吉良 潤一
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.249-254, 2008 (Released:2008-04-25)
参考文献数
21
被引用文献数
15 14

症例は63歳の男性である.1998年右手脱力,翌年に左手脱力が出現し,徐々に進行した.2003年首下がり,2004年11月下肢脱力が出現した.臨床的には進行性の下位運動ニューロン症状が主体であった.2005年2月嚥下性肺炎で緊急入院した.入院9日後気管切開,同13日後心電図モニター上ST上昇,特徴的心エコー所見からたこつぼ型心筋症と診断した.循環管理をおこない一旦小康状態になるもふたたび血圧低下し,治療に反応せず入院37日後死亡した.剖検上心筋に梗塞巣はなく,心尖部・心基部のびまん性心筋変性と線維化をみとめたが死因は確定できなかった.神経病理学的には筋萎縮性側索硬化症(ALS)の所見であった.ALSでたこつぼ型心筋症を合併した例のはじめての剖検報告である.
著者
近藤 慶二 八木 保
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.112, 1994-02-01

浅野先生は昭和30年岡山大学医学部の卒業で,インターン修了後同第2内科(平木教授)に入局,33年からは米国スローン・ケタリング癌研究所に留学し約2年間腫瘍酵素学を学び教室に帰っている.もっぱらアイソザイムについて癌診断面の研究をし,また胃の血流や膵疾患とアミラーゼの関係などで後輩の指導にもあたっていた. 昭利42年岡山市民病院の内科部長,51年院長となり老朽化した病院を今のような立派な近代的な病院にした人でもある.
著者
河野 祐治 重藤 寛史 白石 祥理 大八木 保政 吉良 潤一
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.265-267, 2010 (Released:2010-05-06)
参考文献数
8
被引用文献数
2 2

症例は30歳男性である.嚥下障害,複視,ふらつきにて発症し,吃逆も出現.軽度意識混濁,左側優位の眼瞼下垂,左注視方向性眼振,両側眼輪筋と口輪筋の軽度脱力,体幹失調をみとめた.嚥下反射は著明に亢進し,嚥下困難を呈していた.脳波は間欠性に全般性に高振幅徐波が出現し,脳幹脳炎と考えられた.しかし血算,血液生化学,髄液検査,頭部MRIに異常をみとめなかった.副腎皮質ステロイド剤は吃逆,複視,眼瞼下垂を改善したが,その他の症状に無効.免疫グロブリン療法も無効であった.その後,抗ボレリア抗体陽性が判明し,抗生剤投与にてすみやかに改善した.通常の免疫療法への反応に乏しい脳幹脳炎ではボレリア感染も考慮すべきである.
著者
織田 涼 服部 雅史 八木 保樹
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.67-77, 2018 (Released:2018-03-03)
参考文献数
32

本研究は,意図されない情報の想起を介した検索容易性の逆説的効果が,処理資源を要するプロセスであるという仮説を検証した。二つの実験では,全参加者に他者の行動リストを呈示して記銘を求めた。行動リストには,後で行う判断の肯定事例と否定事例が含まれており,肯定事例だけを1個(容易)または4個(困難)想起することを求めた。実験1では,二重課題法を用いて想起課題中にかかる認知負荷を操作した。負荷が小さいと,肯定事例の想起が困難な時に想起内容に反する判断がなされ,意図しない否定事例の想起がこの効果を媒介することが示された。しかし負荷が大きいと,この媒介パタンが観察されなかった。実験2では,課題遂行への動機づけ(認知欲求)の強い参加者だけが,意図されない想起を介した検索容易性効果を示した。これらの結果は,困難さが促す事例想起の方略が努力を要する処理であることを示唆する。肯定事例の想起が困難であると,連合記憶内の事例が網羅的に走査され,この走査の過程で意図せず想起された情報に基づいて判断が形成されると考えられる。
著者
上田 麻紀 立石 貴久 重藤 寛史 山崎 亮 大八木 保政 吉良 潤一
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.7, pp.461-466, 2010 (Released:2010-07-29)
参考文献数
16
被引用文献数
3 12 4

症例は31歳女性である.クローン病に対してインフリキシマブ投与開始11カ月後に無菌性髄膜炎を発症し一時軽快したが,その後に体幹失調や球麻痺が出現した.髄液検査では単核球優位の細胞数増多,ミエリン塩基性蛋白とIgG indexが上昇しており血清のEpstein-Barrウイルス(EBV)抗体は既感染パターンを示し,髄液・血液PCRにてEBV-DNAを検出した.MRIにて脳幹,大脳皮質下白質,頸髄に散在性にT2高信号病変をみとめ急性散在性脳脊髄炎(ADEM)と診断した.各種免疫治療に抵抗性であったが,ステロイドパルス療法を反復し症状は改善した.抗TNF-α抗体製剤の副作用による脱髄が報告されているが,本症例は抗TNF-α抗体製剤投与中のEBV再活性化によって惹起されたADEMと考えられた.
著者
山口 勧 森尾 博昭 八木 保樹
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

自尊心の国際比較では、一部において、日本人およびアジア人の自尊心は低く、アジアにおいては自尊心は重要でないことが主張されていた。これに対して、本研究成果は、日本人にとっても自尊心は欧米と同じような意味をもっていて重要であることを示した。さらに、自尊心の表明の際に控えめに表明することが日本では適応的であることが示された。
著者
八木 保樹 平林 郁子
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.79, no.3, pp.232-240, 2008 (Released:2011-06-25)
参考文献数
32
被引用文献数
2 1

A field experiment was conducted to examine the effects of food and the “door-in-the-face technique” on compliance with a request that one participate in a psychological experiment. It was predicted that positive affect was induced in participants who did eat, while those who did not eat were deemed to have neutral affect. Participants then received a rejection-then-moderation procedure (i.e., the door-in-the-face technique) or not, in that half of the participants were induced to refuse a large initial request and then asked a small request, while the other half were asked only a small request. Participants who experienced either a positive event (eating) or a negative event (normative pressure for reciprocation of concession) were more likely to agree to participate in an experiment than did neutral affect controls, likely because of mood maintenance or mood repair. However, people who were subjected to both events helped no more than did controls. This latter result suggests that positive affect may function as a resource that provides a psychological buffer against negative affect. Participants who complied in the no-food/no-technique and food/technique conditions rationalized their own behavior (i. e., engaged in dissonance reduction). The theoretical implications of our findings are discussed, with respect to the manipulation and measurement of affect.