著者
國方 弘子 茅原 路代 大森 和子 神宝 貴子 岡田 ゆみ
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.1_37-1_44, 2006-04-01 (Released:2016-03-31)
参考文献数
21

地域生活をしながら精神科デイケアまたは作業所に通所している統合失調症患者の生活への思いとその影響要因を明らかにすることを目的として,グラウンデッド・セオリー法による質的帰納的研究を行った。結果,《充実感がある》,《病気が安定している》,《自分をこれでいいと思える(自尊心)》,『折り合いをつける』,《自分を受けとめてくれる》,《居場所がある》,《心のよりどころがある》の7個のカテゴリーが抽出された。彼らは《充実感がある》生活を送っていることが見いだされ,『折り合いをつける』ことと《自分をこれでいいと思える(自尊心)》ことは,《充実感がある》生活に至るには必要であり,《病気が安定している》ことは《充実感がある》生活の基盤となっていた。本結果は,在宅生活をする統合失調症患者の生活の質を維持・向上するための看護支援のあり方に寄与できることが示唆された。
著者
國方 弘子 三野 善央
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.377-388, 2003 (Released:2014-12-10)
参考文献数
43
被引用文献数
2

近年,患者立脚型アウトカムの指標のひとつとして QOL が重視されている。本稿の目的は,QOL に関する研究を歴史的に概観することにより QOL の概念を明確にすること,ならびに統合失調症患者の QOL についての研究の到達点を明らかにし今後の課題を考えることとした。 保健医療におけるアウトカムを重視する流れの中で,QOL が注目されるようになり,1990年から QOL の研究が活発になった。QOL の定義は必ずしも一致しているわけではないが,QOL は患者自身による回答に基づくものであること,QOL は主観的である,QOL の指標は多因子的である,数値は時間と共に変化することの 4 つが QOL の重要な特性とされていた。 次に,統合失調症患者の QOL 理論モデルとして,Bigelow, Lehman, Skantze and Malm のモデルを紹介し,あわせて 7 つの QOL 測定尺度を紹介した。統合失調症患者の QOL の研究について,Medline と医学中央雑誌を利用し,過去10年間に報告された文献から広く文献を検索するために「QOL,精神科(psychiatric)」をキーワードとして検索を行い,そのうち地域で住む統合失調症患者を対象にした論文のみに絞り込み検討した。その結果,患者の QOL 得点は健常者やうつ病患者と比較して低いことが明らかにされた。QOL の関連要因には,個人の特徴,生活様式,陰性症状,精神症状,能力(家族関係適応,友人関係適応,他者との相互作用),ソーシャルサポート,自己評価,自己決定などがあった。QOL には心理的領域が大きく影響することから,今後,それらと QOL の関連を縦断研究により明らかにし,心理社会的介入方法の構築が課題であると考える。
著者
岩谷 美貴子 渡邉 久美 國方 弘子
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.4_87-4_93, 2008-09-01 (Released:2016-03-05)
参考文献数
45

本研究は,クリティカルケア領域の看護師が行う感情労働とストレス反応の関連,Sense of Coherence (SOC) とストレス反応の関連を明らかにすることを目的とし,組織的なメンタルヘルス対策に向けた基礎的資料となるものである。A大学病院のクリティカルケア領域の看護師70名を対象に,看護師の感情労働測定尺度(ELIN),日本語版SOCスケール,日本版一般健康調査(GHQ)を含む質問紙調査を行った。その結果,ELINとGHQ間には有意な関連はなかった。しかしながら,SOC低群のみにELINの下位概念である探索的理解とケアの表現が,GHQの要素のうつ傾向と有意な正の相関関係にあった。また,SOCスケールとGHQは有意な負の相関関係にあった。これらより,SOCはストレス認知,ストレス反応に関連し,精神的健康度の改善にSOCが寄与する可能性が示された。
著者
渡邉 久美 折山 早苗 國方 弘子 岡本 亜紀 茅原 路代 菅崎 仁美
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.2_85-2_92, 2009-06-01 (Released:2016-03-05)
参考文献数
15

訪問看護ステーションにおける家族員を含めた精神障害による対応困難事例の実態と,精神障害者との関わりにおける訪問看護師の支援ニーズを明らかにした。A県の訪問看護ステーション116施設を対象とし,48施設から有効回答を得た。対応困難事例の経験の有無を質問紙郵送法にて行い,さらに,協力の得られた6施設10名の訪問看護師から対応困難事例13事例の概略と支援ニーズについて面接を行った。調査時点での対応困難事例は,利用者では14施設(29.2%),家族員では12施設(25.0%)に報告があった。また,訪問看護師には【対象の捉えにくさによる不安】があり,【状況に応じた効果的対応方法を知ること】と【看護行為の保証者の要望】という支援ニーズがあった。具体的な対応法の検討や,訪問看護師の関わりを支持する場として,精神科専門職らによる相談窓口やネットワークの構築が一策であると考える。
著者
藤森 由子 國方 弘子 藤代 知美
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.114-120, 2016
被引用文献数
1

<p><b>目的:</b>地域で生活する精神障がい者が自分にとって調子のいい状態を獲得するプロセスを明らかにする.</p><p><b>方法:</b>地域活動支援センターに通所する精神障がい者12名に半構成的インタビューを行った.分析は修正版グラウンデッドセオリーアプローチを用いた.</p><p><b>結果:</b>地域で生活する精神障がい者は,「喪失と辛苦」から出発し,『試行錯誤』と『取捨選択』を繰り返す経験を自らの糧として『自分のよりどころ』とし,『自分での手当て』を行い『平坦な暮らし』をすることで自分にとって調子のいい状態を維持していた.このプロセスは,病気をコントロールし生活を主体的に送る力を取り戻す【主導権の再獲得】であった.</p><p><b>結論:</b>本プロセスを促進するために精神疾患に伴う認知機能障害を考慮した支援の必要性が示唆された.また,支援者によるつなぐという支援技術の詳細を明らかにする必要がある.</p>
著者
梅崎 みどり 富岡 美佳 國方 弘子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.39-48, 2013-06-10 (Released:2017-07-01)
参考文献数
15

本研究は,妊娠期および産後における産後うつ病発症予防のための看護介入の実態を明らかにすることを目的とした.方法は,一県内の産科を有する91施設に無記名自記式質問紙調査を行った.調査内容は,対象施設の概要,産後うつ病発症の把握の実態,妊娠期からの産後うつ病発症予防に関する取り組み,産褥期の産後うつ病発症予防に関する取り組みとした.結果,産後うつ病発症予防のための看護介入は積極的に行われているとはいえない施設の状況が明らかになった.しかし他方で産後うつ病予防のために妊娠中からの取り組みをしている施設の取り組み内容は積極的であり,産後うつ病発症予防のための退院指導を実施している施設の指導内容もきめ細かいものであった.つまり,産後うつ病発症予防のための看護介入は施設間格差があった.今後,産後うつ病発症予防のための看護介入を施設間に広く波及させる必要があるとともに,産後うつ病発症予防のための妊娠期および産後の支援システムの構築による介入が重要である.
著者
國方 弘子 本田 圭子
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.2_45-2_53, 2009-06-01 (Released:2016-03-05)
参考文献数
23

地域で住みながら病の体験を語っている精神障害者当事者グループの自己概念を構成する要素を明らかにし,看護援助を考察することを目的として,修正版Grounded theory approachを用いた質的帰納的研究を行った。結果,精神の病を体験しながら,精神保健について正しい認識を広める活動をしているメンバーの自己概念は,欲求を通して意識された自己であり,『階層からなる欲求をもつ自分』を獲得した《獲得したものをもつ自分》と,『階層からなる欲求をもつ自分』を獲得できない《環境の影響を非常に大きく受ける自分》により構成された。ケア提供者は,メンバーを歴史・時代から大きな影響を受ける社会的存在として捉え,苦しい叫びをそのまま受け止め,体験の中に意味を紡ぎ出すプロセスを支援し,地域とメンバーの橋渡しの役割を強化し,無条件に受け入れる対人関係を構築し,活動の場作りの支援を行う必要性が示唆された。
著者
國方 弘子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.4_36-4_45, 2010-12-21 (Released:2011-08-15)
参考文献数
12
被引用文献数
2 2

本研究の目的は,精神に病をもつ人の自尊心回復に向けた看護支援プログラムの開発をめざして,自尊心が低下した時に,浮かぶ考えやとる行動,気分の経験世界がどのように繋がっているかを記述することである.方法は,34名の地域で住む当事者を対象に,修正版Grounded theory approachを用いて分析した.結果,自尊心が低下する状況が生じた時,《否定的な自己像》が活性化し,それにより,否定的な《バランスを失った思考》が次々に引き出され,それらの思考が頭の中をグルグル回り,《追い詰められた不快な気分》,《不快な身体現象》,自己内外に対し《攻撃または守りとしての行動》が生じ,彼らはその悪循環に巻き込まれていた.悪循環は自己に対する強いこだわりの思いから生じると解釈できた.悪循環から脱出する看護支援として,《否定的な自己像》を認識する,スキーマの修正,リラクゼーション活動,肯定的自己評価を意識化できる,などの必要性が示唆された.
著者
江口 実希 國方 弘子
出版者
ヒューマンケア研究学会
雑誌
ヒューマンケア研究学会誌 = Journal of Japanese Society of Human Caring Research (ISSN:21872813)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.17-26, 2015-03-31

本研究の目的は、看護師のnegative な気分に影響を与える認知プロセスを明らかにすることである。看護師を対象に自記式質問紙調査を行い、回答に欠損値がない381 名のデータを分析に用いた。認知モデルとして「看護師のスキーマ、推論の誤り、自動思考、negative な気分の因果モデル」を措定し、共分散構造分析を行った。分析の結果、モデルのデータへの適合度は良好であり(CFI:0.958、RMSEA:0.041)、スキーマから推論の誤りに向うパス係数は0.542、推論の誤りから否定的自動思考は0.533、推論の誤りから肯定的自動思考は-0.217、否定的自動思考からnegative な気分へは0.738、肯定的自動思考からnegativeな気分へは-0.155 であった。以上よりnegative な気分は、スキーマ、推論の誤り、自動思考のプロセスを経て形成されることが示唆された。
著者
藤森 由子 多田羅 光美 沖野 一成 松下 和子 永峯 由美 國方 弘子
出版者
徳島文理大学
雑誌
徳島文理大学研究紀要 (ISSN:02869829)
巻号頁・発行日
vol.86, pp.87-92, 2013-09

Tokushima and Kagawa prefectures are in a similar situation in that they can be called backward prefectures in regards to the mental health field. The mental health professionals of both prefectures have been working as a study group aiming at "the community improvement in which all people can live together." As a part of the activities of the study group, we obtained an opportunity of an observation-cum-study of the House of Urakawa Beteru in November, 2012. We perceived the following two necessary recognitions through the observation-cum- study. One is the existence of potential paternalism of thoughts of the supporters themselves. Another, is that the mental health professionals and peers as supporters need to promote and draw strength from the people with mental illness.
著者
國方 弘子 豊田 志保 矢嶋 裕樹 沼本 健二 中嶋 和夫
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.30-37, 2006
参考文献数
17

本研究は,地域で生活する統合失調症患者を対象とし,精神症状が自尊感情を規定するのか,それとも自尊感情が精神症状を規定するのか,それら因果関係モデルのデータへの適合性を明らかにすることを目的とした。分析対象は,横断的研究には109名,縦断的研究には61名のデータを用いた。精神症状の測定には,信頼性と妥当性が支持された9項目版BPRSを用いた。横断的研究の結果,反応が低下した症状である「鈍麻・減退因子」が,自尊感情と有意な負の関連があった。縦断的研究の結果,1年後の追跡調査時点において9項目版で測定した精神症状は自尊感情に有意な負の効果を示し,時間的先行性を検証できたことから,精神症状が自尊感情に影響を及ぼすといった因果関係が示された。以上より,統合失調症患者の鈍麻・減退に伴う感情をサポートすることは,彼らの自尊感情を回復させることに繋がると示唆された。