- 著者
-
塚本 勝巳
西田 睦
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 基盤研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 1998
1.集団構造の解析:同一年度に台湾,中国(丹東),種子島,宮城に接岸したシラスウナギ各50個体,計200個体について,ミトコンドリアDNA調節領域(約600bP)の塩基配列を決定し,集団解析を行った結果,明瞭に分化した集団の存在は認められなかった。また,産卵親魚集団の遺伝的組成をより正確に反映している可能性のあるレプトケファルスを5回にわたる調査航海で採集し,これらについて同様の解析を行った結果,産卵時期の異なったレプトケファルス集団間に有意な遺伝的分化の徴候は得られなかった。また,核DNAレベルの詳細な比較を行うために,AFLP分析を宮城,神奈川,種子島で採集した計30個体のシラスについて行ったが,やはり明瞭な地理的分化は認められなかった。今後核DNAの遺伝的変異をさらに調べるための準備として,マイクロサテライトマーカーの単離も進めた。2.耳石解析:国内5地点で,シラス接岸時期の前・中・後期に採集したシラス計150尾について,耳石日周輪の解析を行った。ウナギの接岸日齢は約6ヶ月で,産卵期は4〜11月,産卵ピークは7月にあることがわかった。また,産卵期の早期に生またものは,遅生まれの群に比較して成長がよく,若齢でより低緯度の河口に,早期に接岸することが明らかになった。日本周辺の沿岸域と東シナ海で採集した下リウナギの耳石ストロンチウム濃度をEPMA分析で調べたところ,約75%が淡水に遡上しない個体で占められており,ウナギ資源の再生産に寄与するものの大部分は,河川に遡上しない個体が今えているものと推察された。3.結論:現在のところ東アジアのウナギ資源は巨大な単一集団と考えるのがよく,また河口域がウナギの重要な生息域であると再認識されたので,ウナギ資源の保全のためには,まず河口の汚染を改善すること,河口の親ウナギ漁業の制限,さらには東アジア4ヶ国全体でシラス漁業の国際管理を行うことが重要である。