著者
川添 航 坂本 優紀 喜馬 佳也乃 佐藤 壮太 松井 圭介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018

1.はじめに<br>近年,アニメーションや映画,漫画などを資源とした観光現象であるコンテンツ・ツーリズムの隆盛が指摘されている.本研究は,コンテンツ・ツーリズムの成立による来訪者の変容に伴い,観光現象や観光地における施設や関連団体,行政などの各アクターにどのような変化が生じたかという点に着目する.研究対象地域とした茨城県大洗町は県中央部に位置しており,大洗サンビーチ海水浴場やアクアワールド茨城県大洗水族館などを有する県内でも有数の海浜観光地である(第1 図).また2012 年以降はアニメ「ガールズ&パンツァー」の舞台として商店街を中心に町内に多くのファンが訪れるなど,新たな観光現象が生じている地域でもある(石坂ほか 2016).本研究においては,大洗におけるコンテンツ・ツーリズムの成立が各アクターにどのように影響したかについて整理し,観光地域がどのように変化してきたか考察することを目的とする.<br><br>2.対象地域<br>調査対象地域である大洗町は,江戸時代より多くの人々が潮湯治に訪れる観光地であった.その観光地としての機能は明治期以降も存続しており,戦前期においてすでに海水浴場が開設されるなど, 豊かな自然環境を活かした海浜観光地として栄えてきた.戦後・高度経済成長期以降も当地域における観光業は,各観光施設の整備や常磐道,北関東道,鹿島臨海鉄道大洗鹿島線の開通などを通じ強化されていった.しかし,2011 年に発生した東日本大震災は当地にも大きな被害をもたらし,基幹産業である観光業や漁業,住民の生活にも深刻な影響を与えた.大洗町における観光収入は震災以前の4 割程度まで落ち込む事になり,商工会などを中心に地域住民による観光業の立て直しが模索されることになった.<br><br>3.大洗町における観光空間の変容<br>2012 年放映のアニメ「ガールズ&パンツァー」の舞台として地域が取り上げられたことにより,大洗町には多くのファンが観光者として訪れるようになった.当初は各アクターにおける対応はまちまちであったが,多くの訪問客が訪れるにつれて様々な方策がとられている.大洗町商工会は当初からキャラクターパネルの設置や町内でのスタンプラリーの実施など,積極的にコンテンツを地域の資源として取り入れれ,商店街などに多くのファンを来訪者として呼び込むことに成功した.また,海楽フェスタや大洗あんこう祭りなどそれまで町内で行われていたイベントにおいてもコンテンツが取り入れられるようになり,同様に多くの来訪者が訪れるようになった.これらコンテンツを取り入れたことにより,以前は観光地として認識され<br>ていなかった商店街や大洗鹿島線大洗駅などにも多くの観光者が訪問するようになった.宿泊業においても,アニメ放映以前までは家族連れや団体客が宿泊者の中心であったが,放映以降は1人客の割合が大きく増加するなどの変化が生じた.
著者
松井 圭介
出版者
Tokyo Geographical Society
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.123, no.4, pp.451-471, 2014
被引用文献数
4

The distribution and landscape of temples and shrines and their functions in the City of Edo are examined, and urban structures constructed based on mystical and religious aspects of spatial design are evaluated.<br> The five key findings of this study are:<br> 1. A city design modeled on <i>Heiankyou</i> (ancient Kyoto) was applied to the construction of the City of Edo, and was arranged according to four directions and their connections with gods. This model was meant to protect the City of Edo not only militarily, but also in magical and religious ways. In particular, large temples and <i>chinju-sha</i> shrines, which were strongly associated with the Tokugawa shogunate family, were placed to face northeast/southwest—directions regarded as being unlucky—as well as towards places of execution and the locations of red-light districts in areas bordering the city. This placement created an extraordinary atmosphere in the city. Tokugawa Ieyasu was awarded a posthumous <i>shingo</i> (literally, a Shinto deity) title, "Tosho Daigongen," and was enshrined angled towards the North Star (i.e. <i>Nikko</i>) to protect the City of Edo. The attempt to harness these magical factors to protect and safeguard the City of Edo is one of its characteristics.<br> 2. Temples and shrines were under the control of the Tokugawa shogunate during the Edo Period, and the <i>Honmatsu-seido</i> (government-enforced main-branch temple system) was established through the enactment of <i>jiinhatto</i> (laws for temples). In addition, members of the public were forcibly linked to temples and shrines through their status as <i>danka</i> (temple supporters) under the <i>Terauke seido</i> (a system that compelled the public to become Buddhists). Through this administration of religion, temples were integrated into a system for maintaining social order as a marginal role in the mechanism of the Tokugawa shogunate.<br> 3. The temple and shrine estates as a whole were almost the same size as the space allocated for the townspeople, and occupied a large proportion of the City of Edo in terms of land use. Shrines increased rapidly in number as the city's population increased. As a result, control measures were introduced to restrict the establishment of temples in the city's central area, where strong demand had led to a severe land shortage, and these temples were instead almost forcibly moved to the suburbs. This tendency became more evident in city planning after the Great Fire of Meireki in 1657; subsequently, new "towns of temples" were created in districts such as Asakusa, Shitata, and Mita.<br> 4. The rapid expansion of urban areas in the City of Edo led to religious facilities using their precincts as places to lease land and rent houses. As a result, new <i>monzen-machi</i> (temple towns) were created within the precincts of large temples, and some of these towns developed into entertainment districts, housing performing arts and drama facilities.<br>(View PDF for the rest of the abstract.)
著者
筒井 由起乃 松井 圭介 堤 純 吉田 道代 葉 倩瑋
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.117-129, 2015 (Released:2018-04-04)

近年,オーストラリアではアジア化が進んでいる。なかでも多いのが,中国,インド,ベトナムである。中国やインドからの移民が2000年代以降に急増したのに対し,ベトナムからの移民は1970年代後半からのインドシナ難民を中核としており,在豪年数の長さと難民としての性格を持つ点が特徴的である。ベトナム系は特にニューサウスウェールズ州とヴィクトリア州に多いが,クイーンズランド州,南オーストラリア州にも1万人以上が居住している。シドニー郊外のカブラマッタに代表されるような「ベトナム人街」も形成されている。このようなベトナム社会の形成過程とその実態を解明するのが本稿の目的である。本稿では,来豪時期によって社会経済的な背景が異なることに着目し,属性の違いが移民の職業選択や居住地選択といった意思決定や生活形態にどのような影響をおよぼしているのかについて,南オーストラリア州アデレードを対象として検討する。
著者
卯田 卓矢 益田 理広 金 錦 細谷 美紀 久保 倫子 松井 圭介
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.120, 2013 (Released:2013-09-04)

北陸地方は「真宗王国」とも称されるように浄土真宗(以下,真宗)の篤信地帯として知られている.真宗は「講」を基盤とした集団活動を通して教線を拡大させたといわれるが,北陸においても小地域単位での講の組織化が信仰を拡大,あるいは持続させていく上で大きな役割を果たした. 他方で,講のような信仰集団は,精神的な結びつきを生むだけでなく,村落の社会構造を反映し,村落社会の秩序や成員相互の紐帯を維持・強化する機能も有している.真宗の講組織においても,庚申講や山の神講などの信仰的講と同様に,村落社会と構造的に結びつていることが指摘されてきた.宇治(1996)は,村落の社会構造が寺御講や村御講の基盤となり,かつ講組織の維持にも深く関係すると述べている.また,宇治は村落構造を分析する視点として,集落内の階層性や血縁関係,社会組織などに着目している. そこで,本研究ではこの視点を踏まえ,富山県下新川郡入善町の道市地区を事例に,当地区の血縁・同族関係,社会組織との関係性から,講組織の構造とその持続性について明らかにすることを目的とする. 入善町道市地区は市街地の入膳地区から1kmほど西に位置し,人口は241人である(2012年9月現在).住民によると,ここ50年の間に当地区へ転入したのは2世帯のみであり,新住民が僅少であることが地区の特徴の一つといえる. 道市地区の社会組織は班,及び地区を単位とする組織から構成される.班は同族関係を基盤に形成され,冠婚葬祭などの諸行事において顕著に結びつく.一方,地区の組織は自治会と各種団体が存在し,住民は年齢ごとに地区の様々な行事の運営,維持に携わる.こういった活動は地区の伝統や文化を継承することの重要性を自然と吸収し,道市住民としての自覚を養うことに寄与している. 次に真宗の講組織について見ると,当地区では住民のほとんどが大谷派,及び本願寺派の門徒である.講組織は寺御講,村御講,報恩講が存在し,地区内の門徒はいずれの講にも積極的に参加している.その中で,村御講は毎月大谷派と本願寺派の門徒が合同で営み,講の当番は各戸の戸主が担当し,当番と同じ班の戸主の参加が慣例となっている.ここからは,班と深く結びつく形で村御講が営まれていることがわかる. 以上を踏まえ,講組織(村御講)の構造とその持続性について検討すると,村御講は班との構造的な関係性,班及び地区の社会組織の活動を通した住民意識,また真宗門徒が多数を占め,かつ新住民の僅少といった道市地区の地域性が重層的に結びつく中で,現在に至るまで維持されていることが確認できる. 当地区を含む北陸地方では真宗の篤信地帯という特性から,講組織の維持に対して信仰や宗教的側面に関心が向けられることが少なくなかったが,こういった地域の社会構造との関係についても注視する必要があると考えられる.
著者
川添 航 坂本 優紀 喜馬 佳也乃 佐藤 壮太 渡辺 隼矢 松井 圭介
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.47-62, 2018

本研究は茨城県大洗町におけるコンテンツ・ツーリズムの展開に注目し,ツーリズム形態の転換に伴う観光空間への影響,及びその変容の解明を目的とした。大洗町は観光施設を数多く有する県内でも有数の海浜観光地であり,2012年以降はアニメ「ガールズ&パンツァー」の舞台として新たな観光現象が生じている地域である。大洗町においては,当初は店舗・組織におけるアニメファンへの対応はまちまちであったが,多くの訪問客が訪れるにつれて,商工会の主導により積極的にコンテンツを地域の資源として取り入れ,多くのアニメファンを来訪者として呼び込むことに成功した。宿泊業においては,アニメ放映以前までは夏季の家族連れや団体客が宿泊者の中心であったが,放映以降は夏季以外の1人客の割合が大きく増加するなど変化が生じた。コンテンツ・ツーリズムの導入によるホスト・ゲスト間の関係性の変化は新たな観光者を呼ぶ契機となったことが明らかとなった。
著者
堤 純 吉田 道代 葉 倩瑋 筒井 由起乃 松井 圭介
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.81-89, 2015 (Released:2018-04-04)
被引用文献数
1

本稿は,多文化社会の特徴をもつオーストラリアを対象に,移民の増加プロセスおよび社会経済的な特徴を把握することを試みたものである。1970年代に白豪主義が撤廃されたことは,オーストラリアが多文化社会へと舵を切る大きな契機となった。シドニーを対象に移民の増加をみると,仕事では英語を使うものの,家庭では英語以外の言語を使う人口の増加が著しい。シドニー大都市圏では,増加の著しいアラビア語人口やヴェトナム語人口などは,ポートジャクソン湾の南側の低所得者の多い地域に集中する傾向にある。一方,標準中国語や広東語を話す人口は,大多数は低所得者の多い地域に集中するものの,同湾の北側に位置する高所得者の多い地区にも相当数が進出していることがわかる。国勢調査のカスタマイズデータを分析した結果,中国系やインド系の移民は,シドニーに多く住む他のエスニックグループに比べて,学歴や所得の面で高い傾向が確認できた。
著者
吉田 道代 葉 倩瑋 筒井 由起乃 松井 圭介 堤 純
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.91-102, 2015 (Released:2018-04-04)

本稿では,人口規模が縮小し,居住地が分散しつつあるシドニーのイタリア系コミュニティが,移民集団としての民族文化を表象する場所を1世の集住地ライカートに求め,コミュニティの拠点を再構築しようとする試みに注目した。ライカートは,1950年代にイタリア系移民1世の居住・商業活動の中心であったが,1970年代以降イタリア系住民の数が減少し,そのビジネスも縮小していった。この状況下で,1999年に同地区にイタリアの景観・文化をイメージした商業・居住・文化活動の複合施設,イタリアン・フォーラムが建設された。しかしこの施設は2000年代末には商業的に行き詰まり,イタリア系コミュニティの歴史や民族文化を表象するアイデンティティの場所としても機能しなかった。それでも現在,イタリア系住民の互助組織がこの施設内のイタリアン・フォーラム文化センターを利用し,イタリア系コミュニティの拠り所となる場所づくりをめざしていることが明らかとなった。
著者
松井 圭介
出版者
筑波大学
雑誌
筑波フォーラム (ISSN:03851850)
巻号頁・発行日
no.75, pp.111-114, 2007-03
著者
佐藤 壮太 渡辺 隼矢 坂本 優紀 川添 航 喜馬 佳也乃 松井 圭介
雑誌
筑波大学人文地理学研究 = Tsukuba studies in human geography
巻号頁・発行日
vol.38, pp.13-43, 2018-04

本研究にあたり,2016~17年度科学研究費(挑戦的萌芽研究)「聖地共創時代におけるオタクの癒し空間に関する応用地理学的研究」(研究代表者:松井圭介)の一部を利用した.
著者
喜馬 佳也乃 佐藤 壮太 渡辺 隼矢 川添 航 坂本 優紀 卯田 卓矢 石坂 愛 羽田 司 松井 圭介
雑誌
筑波大学人文地理学研究 = Tsukuba studies in human geography
巻号頁・発行日
vol.38, pp.45-58, 2018-04

本研究には平成28年度科学研究費補助金(挑戦的萌芽研究:課題番号16K13297)の一部を利用した.
著者
卯田 卓矢 矢ケ﨑 太洋 石坂 愛 上野 李佳子 松井 圭介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.282-298, 2016-09-30 (Released:2016-10-11)
参考文献数
40

本稿は茨城県常総市のきぬの里を事例に,郊外ニュータウン居住者における初詣行動について検討した.その結果,きぬの里の居住者の多くは地元外の有名な社寺を初詣対象としているものの,具体的な行動をみると,以前の初詣対象を踏襲する者が一定数存在し,そこでは前住地との近接性や明確な祈願内容,また実家とのつながりから初詣対象を選択しているなど,居住者個々において多様な行動がみられた.とくに,ニュータウンでは様々な地域からの転入者が多く居住しているという性格上,行動の多様性は顕著であると考えられる.したがって,人口移動が進行した戦後の初詣行動を解明するためには,先行研究で論点とされた氏神との関係の変化や有名社寺への初詣の集中化だけでなく,本稿で明らかにしたような多様な行動パターンについても関心を向ける必要がある.
著者
松井 圭介
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では,茨城県大洗町を事例にコンテンツ・ツーリズムの影響に注目し,ツーリズム形態の転換に伴う観光空間への影響,及びその変容の解明を試みた。大洗町は観光施設を数多く有する県内でも有数の海浜観光地であり,2012年以降はアニメ「ガールズ&パンツァー」の舞台として新たな観光現象が生じている。大洗町においては,当初は店舗・組織におけるアニメファンへの対応は個別的であったが,来訪者が増加するに連れて,商工会の主導により積極的にコンテンツを地域の資源として取り入れ,多くのアニメファンを取り込み,聖地が共創されていったことが明らかにされた。