著者
松村 圭一郎
出版者
Japan Association for African Studies
雑誌
アフリカ研究 (ISSN:00654140)
巻号頁・発行日
vol.2007, no.70, pp.63-76, 2007-03-31 (Released:2010-04-30)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

本稿は, アフリカの農村社会が直面する現代的状況をふまえ, 本質主義的なモラル・エコノミー概念を超えて, 複雑化する農民の経済行動を理解するための動態的視点を提起することを目的とする。とくに, 非市場経済の領域で論じられることの多かったモラル・エコノミー的な経済行動が, 商品作物栽培が拡大してきた農村社会のなかで, どのような位置を占めているのかに焦点をあてる。それによって, モラル・エコノミーか, マーケット・エコノミーか, という二者択一的な図式を相対化し, より動態的なモラル・エコノミー論の可能性を示す。エチオピアの農村社会の事例からは, 人びとが「モノ」・「人」・「場」とそれらの関係で構成されるコンテクストに応じて, 作物などの富の売却や分配を行っていることがわかってきた。人びとは「商品作物」と「自給作物」という属性に応じて経済行動を選択しているわけではなく, むしろ相互行為のなかで, それぞれの作物やそれをめぐる社会関係を「分配すべき富/関係」と「独占される富/関係」として位置づけあっている。市場経済が浸透した農村社会において, モラル・エコノミーは強力な原則として社会を覆っているわけでも, まったく別のものに置き換わってしまったわけでもない。それは, 市場での商品交換とは明確に区別されるひとつの行為形式として存在し, 人びとの相互行為のなかで顕在化したり, 交渉されたりしているのである。
著者
植木 敏晴 松村 圭一郎 丸尾 達 畑山 勝子 土居 雅宗 永山 林太郎 伊原 諒 野間 栄次郎 光安 智子 松井 敏幸
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.116-122, 2015-02-25 (Released:2015-03-24)
参考文献数
18
被引用文献数
2

自己免疫性膵炎(autoimmune pancreatitis:AIP)の国際分類における2型(type 2)の頻度は,北アメリカ(14%)やヨーロッパ(13%)に比し,アジア(4%)では低値である.本邦における炎症性腸疾患に合併するtype 2 AIPは,国際調査によるtype 2 AIPと異なり,黄疸がなく,腹痛の頻度が高かった.膵頭部腫大例は約半数で,下部胆管狭窄例は10%程度であった.膵管狭細化は多くが全膵管の2/3以上の長さで,膵石の合併はなかった.炎症性腸疾患以外の膵外病変の頻度は低かった.ステロイド投与例は約半数で,約1/3が保存的に経過観察されていた.切除例は少なかった.本邦のtype 2 AIPは,膵のコア生検による十分な膵組織と,臨床医と病理医との緊密な連携によりさらに解明されるであろう.
著者
森田 敦郎 木村 周平 中川 理 大村 敬一 松村 圭一郎 石井 美保
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本プロジェクトは、地球環境の持続的な管理に向けての試みに焦点を当てて、インフラストラクチャーと自然環境の複雑な関係を解き明かすことを目的としている。本研究が取り上げる事例は、インド、カンボジア、日本(東北地方)などの多様な地域におよぶ。これらの事例を通して、本プロジェクトは、物理的なインフラストラクチャー(堤防、コンビナートなど)と情報インフラストラクチャー(データベース、シミュレーションモデルなど)が、いかに現地の自然環境および社会関係と相互作用するのかを明らかにした。その成果は英文論文集、国際ジャーナルの3つの特集号およびおよび多数の個別論文、学会発表として発表された。
著者
松村 圭一郎
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.141-164, 2007

本稿は、エチオピア西南部の多様な民族が居住する農村社会を対象に、土地から生み出される作物などの富がどのような手続きをへて、誰の手に渡っていくのか、富の所有と分配という問いを考察する。とくに「分け与えること」と「与えずに自分のものにすること」をめぐる人びとの相互行為から、所有や分配を支えている力学を浮き彫りにしたい。IIでは、農作物の分配行動に注目する。作物が収穫されたとき、雨季で食糧が不足するとき、持つ者は持たざる者から乞われたり、自発的に与えたりしている。じっさいに農民たちが誰にどのようなものを与えているか、具体的事例を分析することで、身近な親族から見知らぬ物乞いまで、さまざまな相手に対して富が分配されている実態を明らかにする。IIIでは、与える相手ごとの分配行動の差異に注目する。相手との社会関係が違うことで、分け与える背景にどのような違いがでるのか。「親族」と「よそ者」という対照的な相手に対する分配の事例から、それぞれに異なる動機が分配を促すきっかけとなっている可能性を示す。IVでは、人びとの分配をめぐる意識や葛藤について分析する。分配を定める宗教的な規律がある一方で、人びとは与えすぎると自分が困るというジレンマを抱えている。貧しい者が分配を受けるために行う働きかけのあり方と、与え手が分配を回避する事例から、与え手と受け手との相互行為において「分け与えること」と「与えずに自分のものにすること」が交渉されている点を指摘する。そして、Vで互酬性の議論を再検討しながら、「分け与える」という行為を支える相互的な「働きかけ」の重要性を提起する。
著者
宮脇 幸生 石原 美奈子 佐川 徹 田川 玄 藤本 武 眞城 百華 増田 研 松田 凡 松村 圭一郎
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究によって明らかになったことは、エチオピアでは(1)開発の主体が政府から、政府だけでなく、国内外の企業家、国際機関およびそれと連携したNGOと、複数化しているということ、(2)一部でNGOと政府の間に密接な政治的関係が観察されたこと、(3)開発プロジェクトが実践された地域では、一部の地域住民の開発への参画と包摂、地域や世代による地域集団の分裂と対立、そして民族集団間の紛争に至るまで、それぞれの地域の社会的条件に応じて多様な形で地域社会の再編が進行しているということである。