- 著者
-
小林 慧
河西 哲子
- 出版者
- 日本認知心理学会
- 雑誌
- 認知心理学研究 (ISSN:13487264)
- 巻号頁・発行日
- vol.20, no.1, pp.1-7, 2022-08-31 (Released:2022-09-23)
- 参考文献数
- 23
複数の他者とコミュニケーションを行うとき,特定の表情を示す人の概数を把握することは,状況を理解するうえで重要である.顔表情の数の推定に関する先行研究では,中立顔に比ベて怒り顔の計数の正答率は低く,数が少なく見積もられた(Baker, Rodzon, & Jordan, 2013).しかし同じ顔画像を複数提示した場合の単純計数課題であり,複数の同一人物が同じ表情を示すため通常は起こらない状況であった.またネガティブな表情として怒りのみが調べられているが,表情によって異なる役割があるだろう.本研究は,損失や喪失を伝達し,他者の共感や向社会的行動を引き出す役割がある悲しみ表情に着目し,それが計数に及ぼす影響を検討した.刺激として人物の異なる四つの顔画像を500 ms提示し,中立顔と笑顔,または中立顔と悲しみ顔の組み合わせから,表情顔を計数する選択的計数課題を行った.結果,ターゲット数が2個以上のとき,笑顔より悲しみ顔に対する正答率は低く,数の過小評価が生じた.このことは,刺激が比較的短時間提示されるとき,悲しみ顔が計数を妨害することを示唆する.