著者
木戸 聡史 田中 敏明 中島 康博 宮坂 智哉 鈴木 陽介 須永 康代 丸岡 弘 髙柳 清美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.DcOF1084, 2011

【目的】<BR> 呼吸筋に負荷をかけるトレーニング方法はスポーツやリハビリテーションの場面で多く実施されている。しかし呼吸筋のトレーニングが運動耐容能を改善する効果について一致した見解はない。このため, 本研究では運動耐容能の改善を目的として, 持久力運動に呼吸負荷を組み合わせた新たなトレーニング方法を開発し, その効果を運動生理学的に検証した。<BR>【方法】<BR> 本研究のトレーニングで, 呼吸負荷にはReBNA(パテントワークス社製)を使用した。ReBNAはマスク形状で鼻は吸気のみ, 口は呼気のみ可能にバルブが配置され, バルブを通して換気することで呼吸抵抗が生じる。トレーニングは1クール2週間とし, 3クールで合計6週間の期間で, 各クールで各被験者に目標心拍数を設定した(1クール:75%心拍予備(HRR), 2クール:80%HRR, 3クール:85%HRR)。対象者はマスクを装着した状態で目標心拍数を維持する負荷量で30分間の自転車エルゴメータ運動を1週間に3回実施し, これをMASK群とした。CONT群はReBNAを装着しない状態でMASK群と同様のトレーニングを実施した。すべての実験に参加した対象者9名はCONT群4名(男/女:1/3, 21.0±2.1歳)とMASK群5名(男/女:2/3, 20.0±1.1歳)であり, トレーニング毎に終了直前の負荷量を記録した。3クールでは呼吸困難と下肢の疲労感をアンケートで調査した。対象者は6週間のトレーニング期間の前(BL)とトレーニング終了後(6W)で身体測定と運動負荷試験を実施した。自転車エルゴメータ(COMBI社製232C xL)を用いた運動負荷試験は、酸素摂取量の増加がみられなくなるか, 疲労困憊で運動継続が不可能に達するまでランプ負荷を加えた。また, ACSMのガイドラインに従い中止基準を設けた。呼吸代謝諸量の測定には日本光電製のVmaxを用いた。各群内のBLと6Wの比較はPaired t-test, BLおよび6Wの群間比較はStudent t-testを使用した。<BR>【説明と同意】<BR> 対象者に対して, ヘルシンキ宣言に基づき研究の趣旨と内容について口頭および書面で説明し同意を得た後に研究を開始した。なお本実験は, 所属施設の倫理委員会の承認を受けて行った。<BR>【結果】<BR> トレーニングの実施率は100%だった。1-3クールでの負荷量平均値はCONT群120.9±3.1 watt, MASK群117.7±3.6 wattだった。3クールでの疲労感アンケートで, CONT群では, 足が呼吸に比べて疲労感が高い被験者が3名, 呼吸と足の疲労度が同程度の被験者が1名だった。MASK群では, 足が呼吸に比べて疲労感が高い被験者が3名,呼吸が足に比べて疲労度が高い被験者が2名だった。運動負荷試験の最高負荷量(watt<SUB>peak</SUB>)はMASK群ではBLで199.0±31.7 watt, 6Wで221.8±30.8 wattであり, BLと比較して6Wで有意に高値を示した(p<.05)。V(dot)O<SUB>2peak</SUB>はCONT群ではBLで33.4±2.0 ml/min/kg, 6Wで37.3±2.6 ml/min/kgであり, BLと比較して6Wで有意に高値を示した(p<.05)。MASK群ではBLで35.6±3.0 ml/min/kg, 6Wで42.2±3.1 ml/min/kgであり, BLと比較して6Wで有意に高値を示した(p<.05)。換気性作業閾値(VT)はMASK群ではBLで20.1±1.5 ml/min/kg, 6Wで27.3±1.2 ml/min/kgであり, BLと比較して6Wで有意に高値を示した(p<.01)。6WではCONT群で20.6±1.6 ml/min/kg, MASK群で27.3±1.2 ml/min/kgであり, CONT群と比較してMASK群で有意に高値を示した(p<.05)。<BR>【考察】<BR> watt<SUB>peak</SUB> とVTはMASK群のみ6Wで有意に増大した。Tanakaらの報告(1986)にあるようにVTと心肺持久力の相関は高く, 本結果はマスク使用により最大パフォーマンスだけでなく心肺持久力の向上に効果が大きい事を示した。今回は両群で同一HRRでのトレーニングであるので, 各対象者の負荷量の相対値は同程度である。そのため, マスク装着によって骨格筋への負荷配分が変化した事が, 呼吸筋を含む骨格筋の動員に影響を及ぼし, 心肺持久力の向上に寄与したと考えられる。また, 疲労感アンケートの結果では呼吸が足に比べて疲れたと回答した対象者は, CONT群では0名だったが, MASK群では2名となった。この結果はマスク装着による負荷配分の変化を支持し, MASK群では下肢筋から呼吸筋へ活動量がシフトしたことを示唆した。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 今回実施したトレーニング方法は, 今後健常者だけでなく, 低体力者や呼吸器疾患患者の運動療法に応用できる可能性がある。本研究結果は, 運動生理学的に新たな知見であることに加えて, 運動療法を発展させるための重要な基礎データである。
著者
杉原 俊一 田中 敏明 宮坂 智哉 前田 佑輔 泉 隆 伊福 部達
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, 2008-04-20

【はじめに】半側空間無視(USN)の空間認知には複数の座標系の関与が考えられ,我々はHMD(Head Mounted Display)による視覚呈示方法を用い,身体を中心に対象物の方向を位置づける身体中心座標と身体以外の対象物,または参照枠を中心に位置づける物体中心座標を人工的に作り,机上検査と動作分析より空間認知の障害として捉えたUSN障害像について検討を進めている.先行研究ではHMDを用いて座標系の違いにおける無視状況の変動を報告した.本研究は異なる座標条件でのより詳細な検討を試みるため,HMDの評価に加え,眼球運動および頭部・体幹運動の同期計測を含めた新しい検査システムを開発した.そこで本システムを用いた症例検討として左USNに対する評価・治療へのHMD応用について報告する.<BR>【症例紹介】被験者は研究内容を理解し同意を得られ,右脳梗塞後遺症により左USNを有する62歳男性である.石合らによる日常生活動作・訓練場面におけるUSN評価では10項目中7全項目で無視症状を認めた.<BR>【方法】机上検査には行動性無視検査(BIT日本語版)の線分抹消試験を用いた.被験者は椅座位を基本測定肢位とし,1)通常の机上検査,2)上方に固定した小型CCDカメラで机上の検査用紙のみを撮影しHMDの眼鏡状液晶ディスプレーに投影する物体中心条件,3)小型CCDカメラ内蔵のHMDで机上の検査用紙を投影する身体中心条件,の3条件で検査を実施した.更に2)・3)に関して,(A)HMDに投影する映像を画面の両端を基準に左右方向に75%および60 %に縮小した条件,(B)映像の左側に点滅する矢印を表示する条件の画像修正で検査を実施した.分析方法は線分抹消試験の中央列4本を除き紙面を左と右に2分割し,抹消した線分の抹消率を求め,各条件について比較検討した.また,検査前には超小型CMOSカメラを搭載した重量85gのヘッドユニットで両眼球運動を撮影し,検査中はデジタルビデオカメラを用い体幹・頭部の運動を同時記録した.<BR>【結果】通常検査と物体中心の抹消率は共に左紙面は0%,右紙面は各々100%で,身体中心は左紙面抹消率89%,右紙面抹消率94%であった.物体中心(A)の右縮小60 %は同様の傾向を示し,更に(B)により左紙面の末梢率が上昇した.身体中心でも(A)に(B)を加えると左紙面の末梢率が上昇した.通常検査時の眼球運動では左側への眼球運動を認めず,物体中心条件の(A)では頭部は縮小方向への回旋位で保持し,身体中心では縮小方向に係わらず左回旋位での保持を認めた.<BR>【考察】HMD使用に加え眼球・頭部・体幹運動分析により,通常検査に比べよりUSN障害度を統合的に評価できるシステムを構築した.また,画面縮小,注意喚起用矢印などを加工してHMDによる視覚情報呈示を行うことにより無視環境を改善させ得る可能性が示唆された.<BR><BR><BR>
著者
今枝 秀二郞 孫 輔卿 内山 瑛美子 田中 友規 スタッヴォラヴット アンヤポーン 角川 由香 馬場 絢子 田中 敏明 飯島 勝矢 大月 敏雄
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.85, no.773, pp.1387-1395, 2020 (Released:2020-07-30)
参考文献数
12
被引用文献数
1 2

[Introduction] Falls and femoral fractures are one of the most serious problems for an elderly daily life, these causes the possibility to become bedridden or forced to move to an elderly facility from their home. However, ways of falling and continuing to dwell in own houses by changing the architectural environment for the elderly people were unknown. The whole study revealed the measures of fall prevention by architectural ways at home and the purpose of this part was to clarify the architectural factors which related to falls and femoral fractures in their houses from the viewpoint of fall prevention. [Methods] This study had two steps. First, interview in hospital was conducted when elderly patients went into the University of Tokyo Hospital after they experienced falls and femoral fractures. In this interviews, basic information of patients and situation of falls were collected also by using clinical information. Second, tracking investigation by home-visit interview or interview in hospital was conducted after they went back home and it included measurement of fall places. [Results] The average age of 43 patients was 80.9 (SD 8.3) years old, the number of female was 34 (the average age was 80.6, SD 7.8) and that of male was 9 (the average age was 81.8, SD 10.4). First interviews showed that falls which caused femoral fracture happened all over places but the number of falls at home was biggest, 17 cases in 43 cases. In the houses, the number of falls at bedroom was 6 cases, at the corridor was 4 cases and at the living room was 3 cases. All 6 falls at the night time occurred going to or going back from toilet at home. In six types of falls, the number of falling by internal forces was biggest and next was falling by external forces. Fall cases at home had four types of falls. By analysis of each fall case in the house, architectural factors which caused falls and the effective architectural measures against falls were revealed. In addition, falls at home related to toilet had high risk for falls in spite of fall types and these results indicated that it was important to consider the routes and behaviors when falls happened. The home-visit interview revealed that these routes and behaviors related to housing plan such as the locations of bed and types or directions of doors. The actual routes at falls were showed on housing plane figure, how people rotated in the architectural spaces before they fell was revealed. From these second investigation, the ways of renovation which will prevents next fall at home was clarified. [Conclusion] This research showed the ways of falls which caused femoral fractures for the elderly in their houses and the possibility for the ways of architectural fall preventions by multidisciplinary specialists including architecture, medicine, nursing and physical therapy. In the next step, how people renovated their houses after they went back home in long-term care insurance system and who were involved with these renovation will be researched.
著者
杉原 俊一 鈴木 康太 八反田 葉月 松村 亮 三浦 いずみ 田中 敏明 加藤 士雄 棚橋 嘉美 宮坂 智哉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに】今後の介護予防・日常生活支援総合事業では,元気な高齢者と二次予防事業対象者を分け隔てることなく,高齢者のニーズに応じた介護予防の取り組みが求められ,リハビリテーション専門職(以下リハ職)による互助活動を支援する仕組み作りが重要となる。そこで本研究では,二次予防事業終了者の自主体操グループにアセスメント訪問を実施し,今後の互助活動のリハ専門職の関与について検討することを目的とした。</p><p></p><p></p><p>【方法】対象は,T区地域包括支援センターが後方支援している自主体操グループ参加者のうち(10グループ),リハ職によるアセスメントを実施した4グループ28名(平均年齢76.4±6.1歳,69~86歳)とした。調査項目は生活空間の評価としてLife space assessment(LSA),日本語版Montreal Cognitive Assessment(MoCA-J,cut-off値26点),ハンドヘルドダイナモメーターによる等尺性膝伸展筋力の体重比(下肢筋力),Timed Up And Go Test(TUG),開眼片脚立位時間(片脚立位),CS-30とした。更に携帯型加速度計(AYUMIEYE,GE社製)により,垂直・側方・前後方向の体幹部の加速度の二条平均平方根(root mean square,以下RMS)を算出し,RMSを歩行速度の二乗値で除して正規化した後,TUG,片脚立位,CS-30との各指標の関連性についてピアソンの相関係数を求め,危険率5%未満を有意とした。</p><p></p><p></p><p>【結果】LSAは70.5±26.7点,MoCA-Jは20.7±4.4点,下肢筋力は31.9±12.4%BW,TUGは7.1±1.6秒,片脚立位は17.8±9.6秒,CS-30は16.5±4.2回で,MoCA-Jでは参加者の86%が,下肢筋力及び片脚立位では50%以上が転倒リスクのcut-off値以下であった。加速度との関連性は前後方向のRMSで相関を認めず,上下及び左右方向のRMSでTUG,CS-30,片脚立位時間で有意な相関を示した。</p><p></p><p></p><p>【考察】対象者の多くがMoCA-JによるMCIのスクリーニングでcut-off値以下を示し,生活機能において多面的な低下が危惧されることから,MCIの早期発見に向けたリハ職による関与の必要性が示唆された。LSAの結果より町内レベルの外出を行う対象者を含む場合,TUGやCS-30のみでは,転倒スクリーニングは困難な可能性が考えられた。一方,TUG等の各評価指標と歩行加速度については関連性を認めており,多様な参加者のアセスメントには,鋭敏に転倒リスクを捉えうる可能性がある加速度歩行指標の組み合わせが必要と考えられる。</p><p></p><p></p><p>【理学療法の意義】リハ専門職による互助活動の包括的な訪問アセスメントによる介護予防データの蓄積により,各地域における介護予防のスクリーニング法の確立に繋がる可能性がある。</p>
著者
木戸 聡史 須永 康代 廣瀬 圭子 宮坂 智哉 田中 敏明 清水 孝雄 佐賀 匠史 髙柳 清美 丸岡 弘 鈴木 陽介 荒木 智子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E4P1197, 2010

【目的】本研究目的は、トイレ内の転倒者の検出による迅速な発見と保護を可能とするため、トイレでの転倒状態をより正確に検出するための解析アルゴリズムを構築することである。そのため、我々は静止画熱画像パターンを用いて健常被験者を対象に、正常なトイレ動作と、模擬的に再現したトイレでの転倒姿勢を16パターンのアルゴリズムで判別分析した。各アルゴリズムにおいて求めた判別率を検証し、より有効な転倒検出方法を検討した。<BR>【方法】被験者は歩行及びトイレ動作が自立できる健常成人男性5名とした。身体特性は、身長172.5±5.5cm、座高93.1±2.2cm、胸囲91.2±3.9 cmだった。熱画像センサはTP-L0260EN (株式会社チノー製)を用いた。熱画像センサの特性は解像度0.5 &deg;C、視野角60°、frame time 3 Hz、data point 2256 (47×48)で、地上から2.5mの高さに設置した。被験者が腰掛けるADL(日常生活動作)練習用便座の高さは0.4mとし、便座から0.4m離れた床面5か所に、印をつけた。被験者は模擬的な正常トイレ動作(NA)を1回実施した。NAは、トイレへの入室、便座への着座 、便座からの立ち上がり、トイレからの退室からなる動作とした。その次に、転倒を想定した姿勢変換(FA)を1回実施した。FAは、あらかじめ印をつけた5箇所の位置で、長座位(開脚・閉脚)、仰臥位(開脚・閉脚)となり、便座に対して着座する方向を変更して実施した。それらの動作および姿勢変換を熱画像センサで記録した。記録した熱画像のデータは47×48=2256 pointの温度データで、3Hzの間隔で取得した。被験者1人あたり、NAから20個、FAから60個の熱画像データを任意に抽出した。抽出した熱画像データは、熱画像のエリアを4、9、16、25、36、49、64、81エリアに分割し、分割した各エリアの分割内平均温度(Avg)と分割内最高温度(Max)を求めた。8×2=16個のデータ処理パターンごとに、被験者5名分のNAの100データとFAの300データを用い、判別分析を実施して、正常/転倒の判別率を求めた。統計解析ソフトウェアはSPSS Ver.17.0を用いた。<BR>【説明と同意】対象者に対して、ヘルシンキ宣言に基づき研究の趣旨と内容について口頭および書面で説明し同意を得た後に研究を開始した。なお本実験は、植草学園大学倫理委員会の承認を受けて行った。<BR>【結果】実験時の周囲温度は24.8±0.2&deg;Cで、被験者がいない状態の熱画像パターンの温度は最低23.9&deg;C、最高26.9&deg;C、25.1±0.3&deg;Cだった。NAの100データの温度は最低24.2&deg;C、最高31.5&deg;C、26.0±1.1&deg;Cだった。FAの300データの温度は最低24.2&deg;C、最高31.8&deg;C、26.0±1.0&deg;Cだった。熱画像パターンから被験者の表情は判別できなかった。4分割でMax(4Max)の判別率は75.0%、4Avgは88.0%、9Maxは90.8%、9Avgは90.5%、16Maxは94.0%、16Avgは94.3%、25Maxは96.8%、25Avgは96.0%、36Maxは96.3%、36Avgは95.5%、49Maxは95.0%、49Avgは96.3%、64Maxは96.8%、64Avgは97.3%、81Maxは96.3%、81Avgは97.8%で最大だった。81Avgでは判別分析で用いた81分割エリアのうち、判別率を導くための判別式の係数となった領域は21箇所だった。判別分析に使用したNA+FAの400データのうち、誤検出した数は、NAをFAと判別したものが1個、FAをNAと判別したものが9個だった。NAをFAと判別したものは判別式に使用しない領域に被験者の最高温度の領域があった。またFAをNAと検出した例は、便座に近接した領域で被験者の最高温度の領域がある場合が多く、便座に着座したパターンとの判別が困難だった。<BR>【考察】本研究は健常者をモデルとして、転倒を検出するためのアルゴリズムを検証した結果、熱画像センサのデータを81分割して各エリア内平均値を判別分析すると、トイレ動作の転倒を97.8%の判別率で検出した。誤検出した2.2%をさらに減らすためには動作や姿勢変換の加速度などの変化を転倒の判定に加えることが有効と考えられた。現状では、誤検出の部分を有人による看視で補助すれば転倒の判定は可能と考えられる。また本実験では、被験者の最高表面温度は約32&deg;Cで熱画像センサの温度分解能は0.5&deg;Cのため、室温31&deg;C以下で使用する条件下であれば、1秒以内に転倒が判別できる、被験者のプライバシーに配慮できる特性が得られた。今後は転倒判別に時系列的な要素を加えてより実用的な転倒判定を目指す。並行して病院や施設のトイレに熱画像センサを設置し、フィールドによる試験を実施する。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究では、高齢者・障害者のADL支援に関するニーズを理学療法士として見極め、現場に必要なシステム開発への発想・着眼とシステムの検証を実施した。研究結果は病院および介護老人保健施設に必要な機器開発のための重要な基礎的データである。
著者
小島 悟 田中 敏明 橋本 伸也 武田 秀勝
出版者
札幌医科大学保健医療学部
雑誌
札幌医科大学保健医療学部紀要 = Bulletin of School of Health Sciences Sapporo Medical University = Bulletin of School of Health Sciences Sapporo Medical University (ISSN:13449192)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.25-31, 1999-03

健常男性10名を対象に、体幹の前傾角度及び足部位置の相違が椅子からの立ち上がり動作に及ぼす運動学的差異を検討した。体幹の前傾を増加させて立ち上がると、殿部離床時の身体重心?踵部距離と膝関節伸展モーメントが減少し、股関節伸展ならびに足関節底屈モーメントは増加した。足部を後方へ引いて立ち上がると、身体重心の前方移動距離と殿部離床時の身体重心?踵部距離が減少した。しかし、動作時の下肢関節ピークモーメント値に変化はなかった。以上の結果から、立ち上がりの際に足部を後方へ引いたり、体幹をより前傾させることによって、安定した姿勢で殿部を持ち上げることができるものと推察された。また体幹の前傾を増加させることで、股及び足関節の負担は増加するが、動作に必要な膝関節伸展筋群の負担を軽減できるものと考えられた。BACKGROUND : Standing from a seated position is a common activity of daily living, and essential for independent life. Many elderly and patients with musculoskeletal and neurological dysfunctions have difficulty in rising from a chair. Biomechanical analyses of chair rise are needed for the basis for more effective therapeutic programs. PURPOSE : The purpose of this study was to analyze the influence of initial foot position and trunk flexion on sit-to-stand (STS) transfer using a biomechanical model. METHODS : Ten healthy males performed the STS movement under 3 different conditions; 1) natural STS movement, 2) STS movement with increasing flexion of the trunk, 3) STS movement by placing the feet further back toward a chair. A motion analysis system and a force plate were used to collect kinematic and kinetic data. RESULTS : During the STS movement with the feet placed further back toward a chair, the distance between center of mass and base of support at seat off significantly decreased compared to that during the natural STS movement, but there were no siginificantly differences in lower limb moments. During the STS movement with increasing flexion of the trunk, the distance between center of mass and base of support at seat off, the moment of the knee significantly decreased, whereas moments of the hip and ankle significantly increased compared to those during the natural STS movement. CONCLUSIONS : The results suggest that placing the feet further back toward a chair or increased trunk forward lean is a more effective strategy to facilitate postural stability. Moreover, increased trunk forward lean is useful in reducing knee moment, although this strategy may be inefficient for the hip and ankle joints.
著者
田中 敏明 五十嵐 聖貴 園田 武 尾島 孝男 福山 龍次
出版者
北海道環境科学研究センター
雑誌
北海道環境科学研究センター所報 (ISSN:09168656)
巻号頁・発行日
no.36, pp.35-40, 2010-10

十勝管内大樹町にある生花苗沼では、他の水域と比べ巨大なシジミが漁獲される。しかし、本シジミが一般的な有用種であるヤマトシジミ(Corbicula japonica)なのか、何らかの原因で成長が著しいのか等不明な点が多い。本研究は、生花苗沼に生息する巨大シジミの成長因子解明を目的とし調査を実施中である。本報では、これまで実施してきた生花苗沼の水質、同沼のシジミの食性、成長についての研究成果の一部を報告する。
著者
伊福部 達 中邑 賢龍 福島 智 田中 敏明 畑一 一貴
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本課題の目的は、筋・神経系障害(筋萎縮や失語症・発話失行)により発話が困難になった障害者のために、テキスト情報に加えて、リズム、抑揚、笑い、怒りなどのノンバーバル情報を表出できるような実用的な発話支援機器を開発するところにある。平成22年度は、21年度に提案した実施項目に従って遂行し、以下のような成果が得られた。実施項目:昨年度はウェアラブルPCとポインティング・デバイス(P.D)を用いて、音声を生成するパラメータを直接的に指やペンの動きで制御できる「構音障害者の音声生成器」を試作した。本年度は、これを利用して家庭内やリハビリ現場を想定し、生成された連続音声や感情音がどこまで正確に認識され得るのかを評価し、誰もが利用できるようにios上でプログラムをダウンロードできるようにした。評価結果:(a)昨年度の評価結果から、摩擦音(サ行)が出だしにあるような連続音声の認識率が低かったことから、P.D上に摩擦音を出せる領域を設け、音声の認識率と操作性の複雑さの観点からその有用性を評価した。その結果、操作性はそれほど負担にならないこと、全ての連続音声を認識させえることなどを確認した。(b)イントネーションやアクセントも付加できるように、表面圧センサの付いたRDを用いて、筆圧や指の押圧により非言語音を生成できるようにした。その評価から、「急ぎ」、「笑い」、「怒り」などを表わす抑揚を30分程度の訓練で単語に付加できるようになった。以上から、使用頻度の高い音声ほど何かを緊急にリアルタイムで伝えたいときに有用であることを確認した。(c)本インタフェースを同時に、多くのユーザに利用してもらうために、歌を生成できるような「音声楽器」へ拡張するとともに、本プログラムをウェブ上でダウンロードすることによって、スマートフォンにより誰もが利用できるようにできるようにした。