著者
福田 治久 佐藤 大介 白岩 健 福田 敬
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.158-167, 2019-05-01 (Released:2019-06-13)
参考文献数
25
被引用文献数
2

目的:2011年度より第三者提供が開始されたレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)の研究利用が不十分な状況にある.学術研究を加速化させ,エビデンスに基づいた医療政策を推進するためには,NDBの活用可能性を高めていく必要がある.本研究の目的は,臨床疫学研究および医療経済研究を行うのに有用性が高く,かつ,データ容量の効率性が高いNDB解析用データセットを構築することである.方法:2009年 4 月から2016年12月の間の医科入院レセプトおよびDPCレセプトにおいて 1 度でも出現したことのある解析用患者IDを全データから無作為に25%分を抽出し,当該解析用患者IDの全期間における全診療行為情報を含む全レセプトデータを格納したNDBを用いた.臨床疫学研究および医療経済研究を行うのに有用性の高い解析用データセットテーブルに必要な変数について検討した.また,医科レセプトにおいては退院年月日情報が含まれていないことから,レセプトデータを用いた補完的な退院年月日を付加する方法について検討した.本検討では,退院年月日情報が含まれるDPCレセプトを用いて,入院年月日と診療実日数を用いる場合と,診療行為発生日を用いる場合のそれぞれの方法で退院年月日を算出し,実際のDPCレセプトに記載されている退院年月日との一致状況について検証した.結果:NDBに含まれるレコード識別情報を有機的に連結させた解析用データセットテーブルとして,以下の11テーブルを開発した:患者(KAN),レセプト(REC),傷病名(SYO),診療行為(SIN),薬剤(IYA),特定器材(TOK),調剤(TYO),調剤加算料等(TKA),DPC診断群分類(BUD),医療機関(IRK),入院(ADM).医療機関(IRK)を除く各テーブルは解析用患者IDによって相互に突合することができる.また,医科レセプトにおける補完退院年月日は,診療行為(SI),医薬品(IY),特定器材(TO),コーディングデータ(CD)の各レコードにおける診療行為年月日の最終日情報を用いることで,99.83%の入院症例において正しい退院年月日を付加することができた.結論:本研究において開発した解析用データセットテーブルを用いることで,NDBを用いた臨床疫学研究および医療経済研究を即座に実施可能な環境をもたらすことができる.
著者
白岩 健 船越 大 村澤 秀樹 下妻 晃二郎 斎藤 信也 福田 敬
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.422-426, 2018-10-31 (Released:2018-11-29)
参考文献数
14

医療経済評価において,QALY(quality adjusted life years: 質調整生存年)を算出するためには,選好に基づく尺度により測定されたQOL値が必要である.プロファイル型等の非選好型QOL尺度により測定されたスコアを医療経済評価に活用するために,近年「マッピング」と呼ばれる手法が用いられることが多くなってきている.マッピングは,非選好型尺度の測定値から選好型尺度により測定されるQOL値を予測するための手法であり,このマッピングの関数(あるいは変換方式等)を推定することが目的で実施される.このマッピングに関する研究報告については,23項目からなるMAPS声明が作成されており,筆者らによりその詳細を含め全訳されている.この全訳については,本解説のAppendixを参照されたい.マッピング研究は,現状のところその質につき玉石混淆の状況であるが,MAPS声明に従った質の高い報告が行われることにより,マッピング研究の活用可能性も広がっていくのではないかと考えられる.
著者
D Husereau M Drummond S Petrou C Carswell D Moher D Greenberg F Augustovski Ah Briggs J Mauskopf E Loder[著] 白岩 健 福田 敬 五十嵐 中 池田 俊也[翻訳]
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.641-666, 2013-12

背景:医療技術の経済評価では,報告様式(reporting)に関する課題がある.経済評価では,研究結果の精査を可能にするために,重要な情報を伝えなければならない.しかし,公表される報告は増加しているにもかかわらず,既存の報告様式ガイドラインは広く用いられていないのが現状である.そのため,既存のガイドラインを統合・更新し,使いやすい方法で,その活用を促進する必要がある.著者や編集者,査読者によるガイドラインの使用を促進し,報告様式を改善するための一つの手法がチェックリストである.目的:本タスクフォースの目的は,医療経済評価の報告様式を最適化するための推奨(recommendation)を提供することである.The Consolidated Health Economic Evaluation Reporting Standards (CHEERS)声明は既存の医療経済評価ガイドラインを現時点における一つの有用な報告様式ガイダンスに統合・更新する試みである.The CHEERS Elaboration and Explanation Report of the ISPOR Health Economic Evaluation Publication Guidelines Good Reporting Practicesタスクフォース(以下CHEERSタスクフォース)はCHEERS声明の使用を促進するため,それぞれの推奨に対する具体例や解説を提供する.CHEERS声明の主な対象は,経済評価を報告する研究者,出版のための評価を行う編集者や査読者である.方法:新たな報告様式ガイダンスの必要性は医学編集者を対象とした調査によって確認された.過去に出版された経済評価の報告様式に関するチェックリストやガイダンスは,システマティックレビューやタスクフォースメンバーの調査によって同定した.これらの作業から,候補となる項目のリストを作成した.アカデミア,臨床家,産業界,政府,編集者の代表からなるデルファイ変法パネルを2ラウンド行うことによって,報告様式に不可欠な項目の最小セットを作成した.結果:候補となる44項目の中から24項目とそれにともなう推奨が作成された.そのうち一部は単一の研究に基づく経済評価を,一部はモデルに基づく経済評価を対象としている.最終的に推奨は,6個の主要なカテゴリーに分割された.1)タイトル(title)と要約(abstract),2)序論(introduction),3)方法(methods),4)結果(results),5)考察(discussion),6)その他(others)である.推奨はCHEERS声明における24項目からなるチェックリストに含まれている.タスクフォースの報告ではそれぞれの推奨に関する解説と具体例を作成した.ISPOR CHEERS声明はValue in Health誌あるいはCHEERSタスクフォースのウェブページ(http://www.ispor.org/TaskForces/EconomicPubGuidelines.asp)から利用可能である.結論:CHEERS声明とタスクフォースによる報告様式に関するガイダンスは,一貫性があり透明性の高い報告様式と,究極的にはよりよい医療上の決定につながるだろう.本ガイドラインの普及や理解を促進するために,医療経済あるいは医学雑誌10誌でCHEERS声明を同時に出版している.そのほかの雑誌や団体にもCHEERS声明を広く伝えることを勧める.著者らのチームはチェックリストをレビューし,5年以内に更新することを計画している.
著者
森川 美絵 中村 裕美 森山 葉子 白岩 健
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.313-321, 2018-08-31 (Released:2018-10-26)
参考文献数
21

目的:日本では,利用者視点やケアの社会的側面を考慮したアウトカムの把握・測定尺度の開発と,それをケアシステムやケア事業の運営につなげていくことが大きな課題である.本稿では,著者らが本邦初の試みとして取り組んでいる社会的ケア関連QOL尺度the Adult Social Care Outcomes Toolkitの利用者向け自記式 4 件法(ASCOT SCT4)の日本語版開発に関して,特に,設問項目の日本語翻訳の言語的妥当性の検討に焦点をあて,その概要を報告する.方法:翻訳プロセスは「健康関連尺度の選択に関する合意に基づく指針」(COSMIN)に依拠し,順翻訳・逆翻訳・精査と暫定日本語版の作成,事前テスト,事前テスト結果および臨床的観点をふまえた修正と最終承認,の3段階で実施した.実施期間は2016年 7 月〜2017年12月である.事前テストでは,第一段階で生成された暫定日本語翻訳版について,2地域の潜在的利用者を対象とした認知的デブリーフィングを実施した.認知的デブリーフィングは,設問項目の意味の理解や文化的な許容を確認するための構造化されたインタビュープロセスである.結果:事前テストの結果,尺度を構成する 8 領域のうち「日常生活のコントロール」領域および「尊厳」領域の 3 つの設問項目で,暫定翻訳語への違和感や設問文の言い換え困難が報告された.事前テスト結果をふまえた原版開発者・日本の研究チーム・翻訳会社の 3 者による修正案の検討,さらに臨床的観点からのより簡潔で日常用語に近い表現にむけた微修正を経て,最終的な日本語翻訳版が承認された.結論:社会的ケア関連QOL尺度であるASCOT SCT4について,翻訳手続きの国際的指針に適合し,原版開発者から承認を受けた日本語翻訳版を世界で初めて作成した.翻訳の言語的妥当性を確保する上で,潜在的利用者から直接的なフィードバックを得ることの重要性が確認された.「日常生活のコントロール」「尊厳」領域の設問項目の翻訳には,翻訳先言語での日常会話における通常用語に照らした,注意深い検討が必要となることが示唆された.今後は,尺度の妥当性の統計的検討や,ケアのシステムや実践のアウトカム評価におけるASCOT日本語翻訳版の応用手法の検討を進める必要がある.
著者
白岩 健 能登 真一 小林 慎 福田 敬
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.344-369, 2023-10-31 (Released:2023-11-14)
参考文献数
169

医療経済評価は,費用と結果の点から,代替案との比較分析を行うものである.2013年に公表されたCHEERS(The Consolidated Health Economic Evaluation Reporting Standards)は,医療経済評価の特定や解釈が可能で,意思決定に有用であることを保証するために作成された.CHEERSはガイダンスとして,どの健康介入を比較したか,どのような状況で,どのように評価を行い,どのような結果が得られたか,あるいは読者や査読者たちがその研究を解釈し,利用するのに有用かもしれない詳細な事項について,著者が正確に報告するために役立つことを目的としていた.新しいCHEERS 2022は,以前のCHEERS報告ガイダンスを置き換えるものである.これは,あらゆる種類の医療経済評価,この分野における新しい方法や発展,患者や一般市民などステークホルダーの役割増加に容易に対応できるガイダンスの必要性を反映したものである.また,個人の健康か集団の健康か,単純であるか複雑であるかを問わず,コンテクスト(医療,公衆衛生,教育,社会的ケアなど)によることなく,あらゆる形式の介入に幅広く適応可能である.この報告書には推奨と解説のついた28項目からなるCHEERS2022チェックリストと各項目の具体例が示されている.CHEERS 2022は主に,査読誌に経済評価を報告する研究者とそれらを評価する査読者や編集者を対象としている.しかし,研究を計画する際には,報告要件を熟知していることが分析者にとって有用であると考えられる.また,意思決定において透明性がますます重視されるようになっており,報告に関するガイダンスを求める医療技術評価機関にとっても有用な可能性がある.
著者
白岩 健
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.29-33, 2017 (Released:2017-06-27)
参考文献数
5
被引用文献数
1

多くの先進諸国では医療技術の発展等にともなう医療費増加が社会的課題となっている.そのような状況の中で,限られた医療資源をより効率的に配分するため,費用効果分析が意思決定にも活用されるようになってきた.多くの国ではこのような医療経済性も含んだ医療技術評価(HTA)を専門的に実施する研究機関が存在する.特に費用効果分析を医薬品や医療機器に関する意思決定に活用している国々では,このようなHTA機関が意思決定に関与しており,日本でも体制の整備が必要である.医療経済評価で使用するデータは主に(i) 臨床的な有効性・安全性,長期的な予後・病態の推移,(ii)QOL値,(iii) 費用の3 種類がある.QOL値や費用データについては,医療経済評価を実施する目的のために必要なものであり,また,QOL値や費用データは可能ならば国内データを用いることが望ましく,特に費用は海外データの外挿が困難である.よって,医療経済評価を意思決定に活用できるよう実装するためには,これらのデータを利用できるような研究の蓄積やデータベースの構築などが重要である.
著者
齋藤 信也 児玉 聡 安倍 里美 白岩 健 下妻 晃二郎[翻訳]
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.667-678, 2013-12

本報告書は,ガイダンス(推奨)作成に用いるプロセスを設計する際,およびガイダンスの各項目を作成する際にNICEが従うべき諸原則についてまとめたものである.これは主として,介入の効果と費用対効果に関する決定を行う際,とくにそれらの決定がNHSの資源配分に影響を与える場合に,NICEおよびNICEの諮問機関(advisory body)が適用すべき判断に関するものである.本報告書はNICE理事会によって作成された.これは2005年に作成された「社会的価値判断(Social value judgements)」第一版に基づいている.すべてのNICEガイダンスおよびガイダンスの作成にNICEが用いるプロセスは,本研究所の法的義務,および本報告書で記述された社会的価値の諸原則と一致していなければならない.NICEガイダンスのいずれかの部分がこれらの諸原則に従っていない場合,NICEと諮問機関はそれらを特定し,その理由を説明しなければならない.
著者
下妻 晃二郎 能登 真一 齋藤 信也 五十嵐 中 白岩 健 福田 敬 坂巻 弘之 石田 博 後藤 玲子 児玉 聡 赤沢 学 池田 俊也 國澤 進 田倉 智之 冨田 奈穂子
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

経済状況の低迷が続く多くの先進国においては、公的医療資源の適切な配分は、費用対効果などの合理的な社会的価値判断に基づいて行われている。日本では従来そのような仕組みがなかったが、2016年度から、高額な医療用製品を対象に政策への施行的導入が予定されている。本研究では費用対効果分析による効率性の向上にむけて技術的課題の解決を図り、同時に、効率性の追求だけでは疎かになりがちな公平性の確保を図るために考慮すべき、倫理社会的要素の明確化とそれを政策において考慮する仕組み作りを検討した。