- 著者
-
後藤 玲子
- 出版者
- 福祉社会学会
- 雑誌
- 福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
- 巻号頁・発行日
- vol.7, pp.24-40, 2010-03-31 (Released:2019-10-10)
- 参考文献数
- 20
社会の中に,生活に困っている人がおり,その人を援助する必要があるとして,私的な援助あるいは宗教的な慈善ではなく,なぜ, どのような根拠で,国の責任で扶助することが要請されるのだろうか。本報告の目的は,分配的正義の理論を参照しつつ,公的扶助の正当性をめぐる論拠を探り当てること,より具体的には,フライシャッカーの批判を手がかりに,ロールズ正義論とセンの潜在能力アプローチの射程を確認することにある。個々人の必要に応じた格差的な資源分配を,無条件に,十分になすことが,なぜ, どのような論拠で正当化されるのか, この間いに関する本稿の暫定的な結論は,ロールズの「何人も,他の人々の助けにならないかぎり・・・,本人の功績とは無関係な偶然性から便益を受けてはならない」という命題を,アリストテレスの拡大解釈に基づく「リスクの前での対称性」,「広義の責任概念」,「広義の貢献概念」などで補助した上で,センの福祉的自由への権利という考え方で補おうというものである。後者は,個人の利益(interest) と意思(will)の尊重というきわめてオーソドックスな,けれども両立困難な近代の概念を具体化しようという試みである。