著者
渡辺 伸一 野田 琢嗣 小泉 拓也 依田 憲 吉田 誠 岩田 高志 西澤 秀明 奥山 隼一 青木 かがり 木村 里子 坂本 健太郎 高橋 晃周 前川 卓也 楢崎 友子 三田村 啓理 佐藤 克文
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.9-22, 2023 (Released:2023-04-21)
参考文献数
33

バイオロギング(biologging)とは、動物に様々なセンサーを取りつけて動物の行動や生態およびその周辺環境を調べる手法である。今世紀に入り、バイオロギングデータを共有するウェブ上の電子基盤システムとなるプラットフォームが世界各国で次々と構築されている。一方、日本国内で取得されたバイオロギングデータの共有は立ち後れている。本稿では、日本国内のバイオロギングデータを保存・管理・利用するために新たに開発したプラットフォーム(Biologging intelligent Platform: BiP)について紹介する。BiP の仕様を決めるにあたり、既存の12 のプラットフォームが格納するデータの種類や解析機能に関する特徴6 項目を3 段階で評価し、格納するデータ量の増大に寄与する特徴について考察し、その結果をもとにBiP の仕様、ならびに今後発展すべき方向性について検討した。既存プラットフォームを比較した結果、格納するデータ量の増加には、データ公開レベルとデータタイプの自由度が高く、データ解析ツールの充実度が高いという特徴が寄与していた。これらの特徴を踏まえてデータ公開レベルとデータタイプの自由度を高めるようにBiP を設計した。さらに次に示すBiP 独自のウェブ解析システム(Online Analytical Processing: OLAP)を搭載した。BiP のOLAP は次のような機能を持つ:1)バイオロギング機器によって得られたセンサーデータ(Level 0)をBiPウェブサイトへアップロードし、個体や装着時のメタデータを入力すると、動物の放出前や機器の回収後の不要部分を除去して、標準形式へ変換したLevel 1 データを作成する。2)GPS データをもとに、海流・風・波浪といった海洋物理情報(Level 2 データ)を抽出できる。3)登録者が公開設定したデータの場合、利用者はLevel 1, 2 データをCSV 形式およびネットワーク共通データ形式(Network Common Data Form: NetCDF)でダウンロードできる。今後は、海洋物理情報をグリッド化したLevel 3 データを生成する機能を付与し、対象種を海洋動物から陸生動物まで、対象地域も全世界へと広げて、収集するデータの質と量を増大させる計画である。
著者
田嶋 宏隆 久米 学 小川 真由 渡邊 俊 内山 里美 内山 耕蔵 大坪 鉄治 古賀 春美 亀井 裕介 三田村 啓理
出版者
アクオス研究所
雑誌
水生動物 (ISSN:24348643)
巻号頁・発行日
vol.2023, pp.AA2023-11, 2023-06-01 (Released:2023-06-01)

ニホンウナギ Anguilla japonica はかつて日本全国で豊富に漁獲された。しかし、現在は個体数が激減している。福岡県柳川市の掘割も本種の個体数が減少した場所の一つである。これは、水門の改修に伴い、シラスウナギの川から掘割内への侵入個体が激減したことが要因であると考えられている。現在、地元の高校やNPO法人により掘割へのニホンウナギの放流活動が行われている。しかしながら、野生個体または放流個体が掘割内に定着しているかは明らかになっていない。そこで本研究では、現在、福岡県柳川市の掘割にニホンウナギが生息しているかを明らかにするため、電気ショッカーを用いて本種の採集を試みた。その結果、5回の調査(2021年10月、2022年2月・3月・11月、2023年2月)において、合計47個体のニホンウナギを採集した。採集した個体が放流個体か天然個体かは判断することができなかった。採集された個体の全長は122–623 mmの範囲であった。47個体のうち2個体の銀ウナギが2022年11月の調査時に採集され、残りの45個体は黄ウナギですべての調査時に採集された。砂泥中からは139 mmから558 mmまで様々な全長の個体が採集された。中・大礫から採集された個体に比べ、巨礫や石垣から採集された個体の全長は大きい傾向があった。調査月の違いやウナギの全長に関わりなく本種を採集できたことから、掘割はニホンウナギが生息・成長するための環境を少なからず備えていると推測した。
著者
海部 健三 竹野 遼馬 三田村 啓理 高木 淳一 市川 光太郎 脇谷 量子郎 板倉 光 石井 潤 荒井 修亮
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.73-82, 2019-07-28 (Released:2019-09-10)
参考文献数
28
被引用文献数
1

ニホンウナギは重要な水産資源だが,現在個体群は減少し,環境省および IUCN によって絶滅危惧種に区分されている.個体群を回復させるための対策が求められているが,その生育城である河川や沿岸域の環境をどのように回復すべきか,知見は限られている.本研究では成育場である河川や湖沼,沿岸域の環境の回復策に資することを目指し,福井県久々子湖において,超音波テレメトリー手法を利用して,ニホンウナギ 10 個体の行動を追跡した.超音波発信機を挿入した個体を放流した後,全ての個体が測位可能範囲内で測位された.明け方(4:00-6:00)および昼(6:00-18:00)に測位された個体は少なかったが,夕方(18:00-20:00)および夜(20:00-翌4:00)にはほぼ全ての個体が測位された.位置が確認された時間の長さは個体ごとに大きく異なり,最も短い個体で 0.3 時間,最も長い個体で 102.3 時間,平均は 16.5 時間であった.調査期間全体の湖岸エリア(水際から 50 m 以内)と沖エリア(水際から 50 m 以遠)の滞在時間比と面積比を個体ごとに比較した結果,6 個体で有意差が検出された.このうち 4 個体は湖岸エリアの滞在時間比が大きく,2 個体は沖エリアの滞在時間比が大きかった.湖岸エリアに滞在しなかった 1 個体を除き, 9 個体について湖岸を石積み護岸エリア,ヨシ帯エリア,コンクリート護岸エリアに分けて,各エリアの滞在時間 比と面積比を比較したところ,全ての個体で有意差が検出された.このうち 7 個体では石積み護岸エリアの滞在時間が最も長く,ヨシ帯エリアの滞在時間が最も長い個体と,コンクリート護岸エリアの滞在時間が最も長い個体が,それぞれ 1 個体ずつ見られた.湖岸を利用する個体については石積み護岸を選択する傾向が見られたが,沖および湖岸の利用は個体ごとにばらつきがあり,一定の傾向は確認されなかった.
著者
海部 健三 竹野 遼馬 高木 淳一 市川 光太郎 脇谷 量子郎 板倉 光 平江 多績 猪狩 忠光 三田村 啓理 荒井 修亮
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.83-92, 2019-07-28 (Released:2019-09-10)
参考文献数
27
被引用文献数
5

鹿児島県水産技術開発センターの所有する人工池(21.2 m × 36.0 m,水深1.1 m)において,間隙を持つ石積み,および,間隙が埋められた石積みを作成し,超音波テレメトリー技術を利用してニホンウナギ 8 個体の行動追跡を試みた.砂泥底の実験池内に直径約 1 m,高さ約 0.7 m の円錐型に,石積みを6 基設置した.石積みのうち 3 基に関しては,実験開始 9 日後に砂泥を用いて石材の間隙を塞ぎ,その 26 日後に砂泥を除去した.行動追跡実験の供試個体としてニホンウナギ 8 個体を用い,ピンガーを腹腔に挿入して実験池に放流した.8 台の受信機を用い,個体ごとに 1 時間単位で二次元カーネル密度推定を行い,実験期間中のニホンウナギの存在位置を推定した.間隙のある石積みに定位する個体が確認されたが,定位する環境は個体ごとに異なるだけではなく,同一個体であっても,利用環境は時間の経過と環境改変とともに変化しうることが確認された.また,石積みの間隙を砂泥で埋めることによって,定位環境としての石積みの利用は激減した.複数個体が同一の石積みを利用することは少なく,個体の侵入によって,別の個体の石積みの利用が制限される可能性が示唆された.さらに,実験中にニホンウナギが砂泥に潜る行動が観察され,実験期間中には巣穴と考えられる構造が確認された.既往研究によれば,石の間隙が砂泥で埋まる要因として,土砂供給の減少と流量の安定化が考えられる.ダムなどの河川横断構造物が土砂供給の減少と流量の安定化の要因の一つとされており,ニホンウナギの生息環境の改善のためには,これらの問題に対する適切な対処が必要と考えられる.
著者
平岡 修宜 荒井 修亮 中村 憲司 坂本 亘 三田村 啓理 光永 靖 米田 佳弘
出版者
公益社団法人日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.910-916, 2003-11-15
被引用文献数
10 6

関西国際空港護岸域において採捕したスズキに超音波発信機を装着し,2001年8月に9個体,11月に11個体を放流した。護岸域に設置した受信機で行動を連続測定した結果,受信が記録され続ける個体と放流直後から記録されない個体が確認された。記録が続いた個体でも,1日以上記録の途切れる期間があり,受信範囲(約350m)を越える沖合へと移動したと考えられる。産卵期以前は小潮時に,産卵盛期は寒波・低気圧の到来時に多くの個体で記録が途切れた。スズキの沖合への移動はこれら生息環境の変化に対応していると推察された。
著者
山本 宗一郎 三田村 啓理 黒川 皓平 國森 拓也 堀 正和 荒井 修亮
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.88, no.5, pp.355-364, 2022-09-15 (Released:2022-09-29)
参考文献数
31

マコガレイ成魚30個体に水温・深度ロガーを装着し,2017年7月3日に周防灘姫島地先で放流して2個体から12-1月までのデータを得た。高水温となる9月の2個体の経験水温の最頻値は24-25℃(53.9-57.6%)であった。最高経験水温は27℃に達したが26℃以上の頻度は3.9-4.5%と低かった。深度データからは離底行動が観測され,連続した離底行動後に生息水深,生息水温,分布域等が変化した。よって,天然海域では26℃未満の水温帯で生息可能であり,離底行動は移動に関連していたと考えられた。
著者
古川 元希 澤田 英樹 三田村 啓理 益田 玲爾 荒井 修亮 山下 洋
出版者
日本水産増殖学会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.179-182, 2019-06-20 (Released:2020-06-20)
参考文献数
25

Japanese common sea cucumber Apostichopus japonicus is one of the most important fisheries species of the world, while the natural resources are declining recently. We examined the retention rate of single spaghetti tags applied to A. japonicus to use future mark-recapture studies for estimating their stocks and/or their ethology. Eight of 10 individuals retained the tags for 76 days under 12°C. The retention rate is high compared to the other studies using spaghetti tags on Aspidochirotida, and that is practical levels to utilize for ecological and/or conservation studies in the active and reproductive season of A. japonicus.
著者
新家 富雄 鴨志田 隆 市川 光太郎 三田村 啓理 荒井 修亮
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. US, 超音波 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.111, no.191, pp.11-16, 2011-08-23
被引用文献数
1

目視調査が難しい魚類の行動を知る手法として,魚に取り付けた超音波ピンガーが発信する信号からその存在や位置を求めるバイオテレメトリーがある.これまでのバイオテレメトリーシステムは異なる周波数のピンガーを連続的に追跡できなかった.本稿では複数台のステレオ式自動水中音録音装置(AUSOMS version 3.0)用いたバイオテレメトリーシステムを提案する.システムを構成するAUSOMS version 3.0は,超音波ピンガー信号の帯域(60〜84kHz)を低周波帯域(0〜24kHz)に変換し,14.4日間の連続録音ができる.2011年5月,広島県生野島において,提案するシステムを用いて10尾のアカメバルを同時に連続7日間,高精度にモニターすることに成功した.
著者
小路 淳 高須賀 明典 三田村 啓理
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

沿岸生態系における魚類群集の主要な捕食者―被捕食者を特定するための魚類群集調査と胃内容物解析を広域的に実施した.コアサイトとして季節別調査を実施した瀬戸内海と北海道では,季節に関係なく捕食者のバイオマスが夜間に増大することが明らかとなった.日中に比べて夜間に藻場を利用する大型魚食性魚類が増加することにより,小型魚類の被食リスクが高まる傾向が南北サイト,季節で共通して認められたことは,夜間の藻場において日中よりも捕食圧が高まることが普遍的なものであることを支持している.一連の結果から,沿岸域の食物網構造は,小さい時空間スケールで大きく変動する特性を備えていることが明らかとなった.