著者
夏池 真史 菊地 哲郎 Lee Ying Ping 伊藤 紘晃 藤井 学 吉村 千洋 渡部 徹
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.39, no.6, pp.197-210, 2016 (Released:2016-11-10)
参考文献数
144
被引用文献数
12

食物連鎖の根底を担う藻類を含め生物にとって不可欠な微量元素である鉄は, 陸域から河川や地下水を経て下流に移行し, 沿岸域での基礎生産に貢献していると考えられている。本総説では, このような流域における鉄の生物地球化学動態について既往研究を整理した。鉄の化学的特性として, 中性pHでは無機第二鉄の溶解度はサブナノモーラーであること, 溶存有機物が鉄の溶解度を上昇させること, 種々の熱力学・光化学的反応が鉄の生物利用性と密接に関係することが明らかにされている。また, 微細藻類による鉄の生物利用性は鉄の化学種に強く依存するため, 陸域由来鉄が沿岸域の基礎生産に及ぼす影響を適切に評価するには, 鉄の化学種に着目して研究を進めていく必要がある。森・川・海のつながりにおける鉄と有機物の動態研究では, 陸での有機鉄の溶出から沿岸域生態系への移行までをカバーした総合的な研究が重要と考えられる。
著者
成尾 英仁 中摩 浩太郎 渡部 徹也 鎌田 洋昭 西牟田 瑛子 松崎 大嗣
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.211-228, 2019

<p>薩摩半島南東端に位置する開聞岳(924m)では,平安時代の貞観十六年(AD 874)と仁和元年(AD 885)に噴火が発生した.開聞岳東方の指宿市街地に位置する敷領遺跡・橋牟礼川遺跡では,貞観十六年テフラに対比されるKm12a3~4(紫コラ)下位から,噴火で被災した遺構・遺物が発見されており,噴火災害の様相と当時の人々の対応が明らかになってきた.本論では,遺跡内外でのKm12a3~4の堆積状況と「日本三代実録」の記録とを対比し,居住地域や耕作地が埋没するなどの災害が生じたこと,噴火途中で降雨によるラハールが発生したことなど,記録と発掘結果が整合することを示した.Km12a3~4が厚く堆積した地域では,噴火後に復旧作業を実施しなかったか,途中で断念し集落を完全に放棄した.一方,分布主軸からはずれた地域では復旧がなされ,噴火後の政治・経済の中心となったと推定される.</p>
著者
渡部 徹 三浦 尚之 西山 正晃
出版者
山形大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2020-07-30

本研究では,ノロウイルスを蓄積しない性質を有する牡蠣を選んで養殖することで,絶対的に安心・安全な牡蠣を生産する新たな構想のもとで挑戦的研究を実施する。まず,胃腸炎患者由来のノロウイルス株による牡蠣の汚染実験を行い,「ウイルスを蓄積しない牡蠣」を選別する。ノロウイルスが牡蠣の消化組織に発現した糖鎖に特異的に結合する性質に着目し,汚染実験で選別された「ウイルスを蓄積しない牡蠣」に特有な糖鎖の発現様式や発現量を明らかにする。さらに,その糖鎖の発現に関わる遺伝子を特定する。将来的に,この遺伝子をマーカーに用いて「ウイルスを蓄積しない牡蠣」をあらかじめ判別することで,ウイルスフリーな牡蠣養殖を目指す。
著者
米田 一路 齋藤 美樹 西山 正晃 植木 洋 坂上 亜希恵 渡部 徹
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.78, no.7, pp.III_23-III_32, 2022 (Released:2023-03-10)
参考文献数
35

牡蠣を人為的にノロウイルスGII.2とGII.4に汚染する実験を行い,牡蠣に蓄積されたノロウイルス量の分析を行った.ノロウイルスGII.2(陽性率:80.0%)はGII.4(陽性率:60.0%)よりも牡蠣に蓄積されやすい傾向があった.遺伝子型に関わらず,高濃度のノロウイルスGIIを添加した人工海水で24時間飼育しても,ノロウイルスGIIを蓄積しない牡蠣が存在し,ウイルス蓄積量の多い牡蠣(中腸腺1g当たり約4.08log copies)と少ない牡蠣では100倍以上の個体差があったが,牡蠣のノロウイルスGII蓄積量は,個体重量や中腸腺重量とは相関がなかった.今回の実験で確認されたようなウイルス蓄積量の少ない牡蠣を選別して養殖できれば,より安全性の高い牡蠣の提供につながるだろう.
著者
森 祐哉 西山 正晃 米田 一路 渡部 徹
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.78, no.7, pp.III_307-III_316, 2022 (Released:2023-03-10)
参考文献数
30

山形県庄内地方を流れる赤川,最上川から大腸菌を分離し,その分離株について,系統発生群の分類とその薬剤感受性を評価した.1年間のモニタリングにより,653株の大腸菌が得られ,7つの系統発生群のうち,病原性の高いB2群に最多の217株(33.2%)が分類された.全大腸菌分離株のうち,1薬剤以上に耐性を示した株は175株(26.8%)であり,第三世代セフェム系抗菌薬であるCTXやCAZや,カルバペネム系抗菌薬(IPM)に耐性を示し,ESBL産生菌やCREの疑いが高い株が存在した.また,66株(10.1%)が異なる3つ以上のグループの抗菌薬に耐性を示す多剤耐性菌であり,その中には合計7薬剤に耐性を示す株も存在した.大腸菌による汚染度の低い河川から上記のような薬剤耐性大腸菌が検出されたという事実は,環境中における耐性菌のモニタリングの重要性を示している.
著者
福士 謙介 渡部 徹 渡辺 幸三
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

東南アジアでは、暑熱環境による熱中症や睡眠障害、洪水や渇水に伴う水系感染症、そして蚊個体数・生息分布の増加に伴うベクター感染症が、気候変動下で深刻化している。本研究は、環境情報、文化的な情報、エネルギー使用状況等の情報および、人間行動や建築情報を含めたデータの収集を行った。都市の下水からの病原微生物による近郊農地が汚染されていること、および洪水時にウイルスによる胃腸炎が流行していることが示唆された。また、スマートフォンアプリを開発し、リアルタイムで蚊に刺された住民からデータを集積できた。さらに、効率的に蚊を集め、深層学習などを使って蚊を蚊として正しく羽音に基づいて同定できる正答率を高めた。
著者
福士 謙介 渡部 徹 渡辺 幸三 浦 剣
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

気候変動下では、都市気象の変化により感染症や暑熱障害等の健康リスクが高まることが想定されており、特に途上国都市ではその脆弱性が懸念される。本研究は、東南アジアの都市を対象として、(1)熱中症や睡眠障害等の暑熱に関連する健康障害、(2)下痢症・皮膚病・眼病等の水系感染症、(3)デング熱やジカ熱等の蚊媒介感染症の3つの健康リスクをそれぞれ予測する機械学習モデルを開発する。そして、気候変動モデルとのカップリングにより、想定する気候変動適応オプション下における3つの健康リスクのDALY(障害調整損失年)をそれぞれ算定し、合計して経済的損失に換算することで、3つのリスクを統合的に評価する手法を構築する。
著者
伊藤 絵里香 伊藤 紘晃 浦 剣 Nguyen Thanh Gia 渡部 徹
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.72, no.7, pp.III_295-III_304, 2016 (Released:2017-04-03)
参考文献数
21
被引用文献数
1

トウガラシ微斑ウイルスとアイチウイルスを養殖牡蠣から検出し,ノロウイルス汚染の指標として用いることが出来ないか検討した.トウガラシ微斑ウイルスは検出頻度がノロウイルスよりも高く,そのRNA量も多かったが,アイチウイルスは検出頻度,RNA量ともにノロウイルスと同程度であり,指標として適さないことが明らかになった.トウガラシ微斑ウイルスのRNA量を指標として,ノロウイルス陽性率を推定する方法を提案した.高い陽性率が推定される場合には,ノロウイルス検出を省略することで時間や費用を削減できる可能性がある.
著者
ホワン ティー マイ 渡部 徹 福士 謙介 小野 あをい 中島 典之 山本 和夫
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.34, no.10, pp.153-159, 2011 (Released:2011-10-10)
参考文献数
21
被引用文献数
1 4

衛生環境が貧しい途上国都市では,洪水時に,住民が病原微生物に汚染された水に接する機会が増えるため,感染症のリスク上昇が懸念される。本研究では,ベトナム国フエ市を対象に,洪水時と平常時における主要な感染経路からの大腸菌感染症の発症リスクを定量的に評価した。平常時における年間リスクは,最大で0.026(38人に1人が発症)と見積もられた。特に,家や店で生野菜を摂取することによるリスク(0.024)が高かった。一方,洪水時には,洪水中での家具の移動や掃除,料理,水遊び等の不衛生な行為によりリスクが0.45にまで大幅に上昇した。年間でわずか6.5日に過ぎない洪水時のリスクが平常時の年間リスクの17倍に相当することから,インフラ整備による洪水制御には大きなリスク削減効果が期待できる。しかし即時のインフラ整備は難しいことから,上記のような洪水中での不衛生な行為を控えることがより現実的な対策と言える。
著者
三浦 尚之 渡部 徹 藤井 健吉 金谷 祐里 田中 宏明 村上 道夫
出版者
一般社団法人日本リスク学会
雑誌
日本リスク研究学会誌 (ISSN:09155465)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.71-81, 2018-05-25 (Released:2018-06-09)
参考文献数
44

In developed countries with water supply and sewerage systems, risk of waterborne infectious diseases caused by pathogenic bacteria has been controlled at a certain level employing the water quality standards using fecal indicator bacteria. However, behavior of viruses and protozoa in water treatment processes or environmental water is different from those of indicator bacteria, and a quantitative microbial risk assessment (QMRA) approach for the management of risk from specific pathogenic microorganisms has been used in the U.S., etc. In this review article, we overview the waterborne microbial risk studies on the leading edge with pointing out some critical issues in this field. The topics include environmental survey on microbial contamination, risk assessment and modeling, risk management, and risk communication.
著者
渡部 徹 倉島 須美子 Pham Duy Dong 堀口 健一 佐々木 貴史 浦 剣
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.72, no.7, pp.III_505-III_514, 2016 (Released:2017-04-03)
参考文献数
27
被引用文献数
1

都市下水処理水の掛け流し灌漑により,天然の水資源を全く利用せず,窒素とカリウムの施肥なしで飼料用米「べこあおば」の栽培を行った.同じく下水処理水を循環灌漑して同品種を栽培した先行研究に比べて2倍以上の処理水を灌漑したものの,水稲の生長には顕著な変化は見られなかった.一方,収穫された玄米の栄養成分の分析では,粗タンパク質含有率(最大13.1%)が先行研究の結果や通常の水田での標準値を大きく上回っていた.粗脂肪と可溶無窒素物は標準値を若干下回ったが,処理水の連続灌漑により,高タンパクで飼料としての価値の高い米を十分な収量で収穫することができた.通常の水田の条件でも同程度の収量で栄養特性の近い米が収穫できることを示したが,それには多量の施肥が必要で収益性が低い.
著者
福岡 久雄 渡部 徹 廣瀬 誠 小川 仁士
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
研究報告コンピュータと教育(CE)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.6, pp.1-7, 2014-11-29

一般に,CS(Computer Science)アンプラグドにおける Activity の実践は,実践者の近隣の子供たちを対象に行われることが多い.ある地域の素材を生かした Activity は,その近隣の子供たちにとって親しみやすく,かつ興味を持って取り組むことができ,教育効果を高めることができると考える.本研究では,地域として島根県を想定し,その地域素材として出雲神話に登場するヤマタノオロチに着目する.学習する技術課題は各種スケジューリング技法である.具体的には,オロチが各種スケジューリングに従って食事をするというシナリオに沿った Actvity を提案する.本 Activity を高等専門学校の低学年生に対して実践した結果についても報告する.CS Unplugged is a method of teaching computer related technology to children, who are in general lacking in mathematical or some other scientific background. The feature of CS Unplugged is that it does not use actual computers in its teaching process. Instead of using computers, it teaches computer related technology through some desktop play activities. When we practice CS Unplugged activities in elementary or junior high schools, the target pupils are local children in general. Using regional materials in the activities can make them more friendly to the children. In this paper we propose a new CS Unplugged activity for learning various scheduling methods. The activity utilizes Yamata-no-Orochi(Eight-headed dragon) that appears in Izumo Myths, as the regional material of Shimane Prefecture.
著者
小林 光 田中 章浩 岸田 悟 渡部 徹 長谷川 弘
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. NC, ニューロコンピューティング (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.107, no.542, pp.421-426, 2008-03-05
参考文献数
9

本研究では,バックプロパゲーション法による3層階層型ニューラルネットワークを用いて指紋と声紋によるハイブリッド認証システムを構築した.指紋認証では2次元高速フーリエ変換と逆フーリエ変換によって前処理を行い,ニューラルネットワークへの入力データとした.声紋認証では高速フーリエ変換によって前処理を行い,ニューラルネットワークへの入力データとした.それぞれ各認証を行い,中間層・出力層ユニット数がニューラルネットワークの性能の及ぼす効果を明らかにした.さらに,可変の重み付きAND結合を用いた指紋と声紋によるハイブリッド認証システムを構築し,性能を調査した.これらの結果より, 3層階層型ニューラルネットワークが個人認証システムに有効であることを示した.
著者
蒔苗 靖子 渡部 徹 大村 達夫 遠藤 銀朗
出版者
日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 = Journal of Japan Society on Water Environment (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.23, no.12, pp.771-777, 2000-12-10

Outbreaks of infectious diseases by new pathogenic microorganisms through water utilization have been reported in recent years. Especially, Legionnaires' disease has been recognized as a serious problem in modern societies since a high concentration of <i>Legionella pneumophila</i> often exist in water environment (such as cooling tower, bath water, recreational water) close to human activities. In this study, the quantitative detection method (colony-hybridization) for <i>L. pneumophila</i> was developed by combining the hybridization with the plate culture method. The developed detection method enabled <i>L. pneumophila</i> to be enumerated in various water samples. It was possible to quantify <i>L. pneumophila</i> without interferences of other bacteria by this method in case that the number of total coliforms on the plate was less than 10<sup>3</sup> CFU.
著者
中村 哲 翠川 裕 波部 重久 松田 肇 翠川 薫 渡部 徹 中津 雅美 二瓶 直子 鈴木 琴子 黒倉 壽 風間 聡 三好 美紀 桐木 雅史
出版者
独立行政法人国立国際医療研究センター
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

ラオス国との共研究の主対象となったラオスの消化管寄生虫感染症に関して、現地調査により山岳部と平地とで寄生虫相が異なることを示唆した。特に淡水魚類の生食を介して感染するタイ肝吸虫類の感染が都市周辺域において顕著に高いことを示した。さらに、山岳地居住民の感染率と健康調査データの解析からリスク因子として、年齢や識字率、集落での衛生的な飲み水の利用割合、民族の比率を見出した。そして、これらの因子による重回帰で得られるリスクマップを含めた、地区内または広域でのリスク管理手法を示した。