著者
高橋 優宏 岩崎 聡 西尾 信哉 鬼頭 良輔 新田 清一 神崎 晶 小川 郁 宇佐美 真一
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.270-276, 2018-08-30 (Released:2018-09-27)
参考文献数
19
被引用文献数
1

要旨: 一側聾は生活面の QOL の低下とハンディキャップを有しているため,医学的介入が試みられている。CROS (Contralateral Routing Of Signals) 型補聴器や埋め込み型骨導補聴器が施行されているが, 装用感や音源定位に関して不良の報告が多い。ヨーロッパではすでに一側聾に耳鳴りを伴った症例に対し人工内耳埋め込み術が施行され, CE (Communauté Européenne)-mark を取得している。そこで国内4施設において共同臨床研究「同側に耳鳴を伴う一側高度または重度感音難聴に対する, 人工内耳の装用効果に関する研究」を施行し, 当院にて1症例を経験した。術後4年経過した現在においても, 雑音下の語音聴取と方向感, 耳鳴りの改善が持続して認められており, 自覚的評価も良好である。一側聾症例における両耳聴効果をさらに実現するため, 今後一側聾に対する人工内耳埋め込み術の導入が期待される。
著者
石川 浩太郎 吉村 豪兼 西尾 信哉 宇佐美 真一
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.142-147, 2021 (Released:2021-11-25)
参考文献数
8

アッシャー症候群は聴覚・視覚の重複障害のため,コミュニケーション障害を生じる疾患である.アッシャー症候群について,これまで厚生労働科学研究補助金(難治性疾患研究事業)において研究が進められており,現在は難治性聴覚障害に関する調査研究班が担当して研究が行われている.アッシャー症候群は感音難聴と網膜色素変性症のそれぞれの症状の程度とその発症時期によって3つのタイプに分類されている.しかし臨床的な診断には限界があり,遺伝学的検査が確定診断の手助けとなっている.2020年3月31日現在で,204例が全国から登録され,先天性難聴を有し,網膜色素変性症の発症年齢は,10歳未満および10歳代の発症が多く見られた.原因遺伝子はタイプ1ではMYO7A遺伝子とCDH23遺伝子が,タイプ2ではUSH2A遺伝子が多数を占めた.同じ原因遺伝子でも,聴力型にバリエーションが見られることが確認され,原因遺伝子検索の重要性が示唆された.
著者
岩崎 聡 西尾 信哉 茂木 英明 工 穣 笠井 紀夫 福島 邦博 宇佐美 真一
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.56-60, 2012 (Released:2012-03-28)
参考文献数
8
被引用文献数
1

感覚器障害戦略研究「聴覚障害児の療育等により言語能力等の発達を確保する手段の研究」事業として平成21年から1年間に調査した症例対照研究のうち, 人工内耳装用児の現状と語音明瞭度・言語発達に関する検討を行った。対象は幼稚園年中から小学校6年までの両耳聴力レベル70dB以上の言語習得期前の聴覚障害児で, 124施設が参加した。言語検査が実施できた638名のうち人工内耳装用児は285名 (44.7%) であり, 言語発達検査の検討はハイリスク児を除外した190名であった。人工内耳+補聴器併用児が69.5%, 片側人工内耳のみが29.8%, 両側人工内耳が0.7%を占めた。難聴発見年齢は平均11.7ヶ月, 人工内耳装用開始年齢は平均3歳6ヶ月であった。人工内耳装用月齢と最高語音明瞭度とは高い相関を認め, 人工内耳装用開始時期が24ヶ月前とその後で言語発達検査を比較するとすべての検査項目で早期人工内耳装用児群で高い値が得られ, 早期人工内耳の有効性を支持する結果となった。
著者
山田 奈保子 西尾 信哉 岩崎 聡 工 穣 宇佐美 真一 福島 邦博 笠井 紀夫
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.175-181, 2012 (Released:2012-09-08)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

平成21年から22年の間, 聴覚障害児の日本語言語発達に影響を与える因子と, 発達を保障する方法を考える目的で行われた感覚器障害戦略研究・症例対照研究のデータを元に, 人工内耳手術年齢による言語発達の傾向について検討した。 対象は生下時から聴覚障害を持つ4歳から12歳までの平均聴力レベル70dB以上の638名のうち, 聴覚障害のみを有すると考えられる人工内耳装用児182名を, 補聴器の装用開始年齢, 人工内耳の手術年齢のピークで4群に分け比較した。 結果を語彙, 構文レベルの発達と, 理解系, 産生系課題とに分けてみると, 語彙, 構文共に, 理解系の課題においては, 補聴器装用早期群の成績が良好で, 産生系の課題については, 人工内耳手術年齢早期群の成績が良好であった。 このことから, 早期に音を入れることが言語理解に, 早期に十分弁別可能な補聴をすることが言語産生に影響を与える可能性があるという結果が得られた。
著者
高橋 優宏 岩崎 聡 古舘 佐起子 岡 晋一郎 西尾 信哉 宇佐美 真一
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.137-141, 2021 (Released:2021-11-25)
参考文献数
11

特発性両側性感音難聴のうち,加齢性難聴とは明らかに異なる40歳未満の遅発性難聴を発症する7つの原因遺伝子が同定され,若年発症型両側性感音難聴と定義された.診断基準は①遅発性,若年発症,②両側性,③原因遺伝子が同定されており,既知の外的要因が除かれているものである.現在,ACTG1,CDH23,COCH,KCNQ4,TECTA,TEMPRSS3,WFS1遺伝子が原因遺伝子として診断基準に示されており,70 dB以上の高度難聴であれば指定難病の申請ができる.ACTG1症例,TEMPRSS3症例のように,次世代シークエンサーによる遺伝学的検査および遺伝カウンセリングにより補聴器から人工聴覚器手術への自律的選択が可能となり,大きな福音となっている.
著者
高橋 優宏 岩崎 聡 吉村 豪兼 古舘 佐起子 岡 晋一郎 西尾 信哉 宇佐美 真一
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.129-135, 2022 (Released:2022-08-25)
参考文献数
13

一側伝音・混合性難聴症例に対し臨床研究「一側性伝音・混合性難聴に対する埋め込み型人工中耳の有効性に関する探索的臨床試験」において人工中耳(Vibrant Soundbridge®: VSB)埋込み術を4例施行した.本邦における人工中耳臨床試験(両側難聴)と同様に裸耳骨導閾値はいずれの周波数においても維持され変化がみられず,装用後6ヶ月での安全性が確認できた.さらに4例とも人工中耳臨床試験(両側難聴)と同様に良好な自由音場装用閾値を示し有効性が確認された.また,本研究における騒音下での語音弁別,方向定位検査も良好な結果であり,一側性伝音・混合性難聴症例において人工中耳VSBの有効性が示唆された.今後,本邦での適応拡大が期待される.
著者
中西 啓 喜夛 淳哉 西尾 信哉 宇佐美 真一 三澤 清
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.145-151, 2022-04-28 (Released:2022-05-24)
参考文献数
17

要旨: 常染色体優性遺伝性難聴家系において遺伝学的検査をおこない, 本人と母に TECTA 遺伝子多型を同定した。 TECTA 遺伝子多型は zona pellucida ドメインに位置しており皿形のオージオグラムを呈することが多いと報告されている。 本人は皿形のオージオグラムを呈していたが, 母は高音障害型であった。 母の経時的なオージオグラムを解析すると, 54歳時には皿形のオージオグラムを呈しており, 加齢とともに高音域の聴力閾値が上昇して高音障害型となっていた。 一方, 母の中音域の難聴の進行度は0.5dB HL/年とほとんど進行していなかった。 これらのことより, zona pellucida ドメインの TECTA 遺伝子変異でも,加齢とともに高音域の聴力閾値が上昇して高音障害型となる可能性が示唆された。

1 0 0 0 OA 先天性難聴

著者
荒井 康裕 西尾 信哉 折舘 伸彦 宇佐美 真一
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.131-136, 2021 (Released:2021-11-25)
参考文献数
5

先天性難聴の遺伝学的検査は2012年に保険収載されて以来,難聴の原因を明らかにし最適な医療を提供するために必要なツールとして全国の施設で実施されている.難聴遺伝学的検査のメリットには,1)難聴の正確な診断ができる,2)難聴の重症度や予後の予測ができ,めまいや糖尿病などの随伴症状の予想ができる,3)人工内耳を行うかどうか等の治療法選択の参考になる,などが挙げられる.2012年10月から2020年5月までの期間に当院において遺伝学的検査を施行した先天性難聴患者は119家系132名であり遺伝子変異検出率は41.7%(47家系56例)であった.難聴遺伝学的検査は,より早期の両側同時人工内耳手術の決定の際に非常に有用なツールと考えられた.また,進行性難聴における人工内耳植込の時期決定にも,難聴遺伝学的検査が有用であった.遺伝子診断後に注意すべき点として,遺伝子変異による難聴と診断した後も,慎重に難聴の経過を追うことが大切である症例が認められた.
著者
西尾 信哉 宇佐美 真一
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.116-124, 2021 (Released:2021-11-25)
参考文献数
18

次世代シークエンサーの臨床応用により既知難聴原因遺伝子の網羅的解析が可能となってきた.その一方,非常に多くのバリアントが同定されるため,見出されたバリアントの病原性の判断が新たな課題となっている.本稿では,難聴の次世代シークエンス解析の実際の流れと,見出されたバリアントのフィルタリング,病原性判断手法に関して概説する.信州大学では遺伝性難聴患者の臨床情報と遺伝情報の統合データベースの開発を進めており,すでに12,000例を越える症例の詳細な臨床情報と遺伝子解析データが集積されている.All Japan の体制で収集されたビックデータを用いることで,病原性を効率的に判断することが可能となっている.また,信州大学で開発した保険診療で用いられている次世代シークエンサーと同一プラットフォームのデータを用いたCopy Number Variation解析法に関しても紹介する.
著者
大上 麻由里 大上 研二 西尾 信哉 宇佐美 真一
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.148-154, 2021 (Released:2021-11-25)
参考文献数
14

次世代シーケンサー時代になり,稀な症候群性難聴の正確な診断ができるようになった.今回我々は,信州大学との共同研究にて行われた難聴の遺伝子解析研究により,症候群性難聴の原因遺伝子変異が同定された症例から,特に症候群性難聴の早期診断意義について考察した.遺伝学的検査により症候群性難聴を早期に診断することは,随伴症候の早期治療開始を可能にするだけではなく,手術など難聴治療にも必要な情報を提供することが可能になるなど早期介入に有用であった.また,随伴症状による問題を発症前に理解することで,サポート体制や療育の見直しにつながる場合もあった.次世代シーケンサーを用いた網羅的解析により症候群性難聴が随伴症候発現前など,より早期に遺伝学的に診断可能となってきたが,予測される随伴症状への早期からの対応も可能となり,部分的にしか症候を有さない非典型例の確定診断,随伴症状への早期からの対応や,将来を見据えた治療法の選択など様々なメリットがあることが明らかとなった.
著者
鬼頭 良輔 西尾 信哉 宇佐美 真一
出版者
信州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

突発性難聴は特定疾患(難病)に含まれ、患者のQOLを著しく低下させるため疾患の克服が期待されている。信州大学医学部耳鼻咽喉科の管理する難治性内耳疾患の遺伝子バンクに集積された突発性難聴患者のサンプル192例(患者群)およびコントロール群を対象に、過去に騒音性難聴や心筋梗塞、動脈硬化との関連が報告されている酸化ストレス関連遺伝子の遺伝子多型(31遺伝子39SNPs)を中心に、患者群とコントロール群とでの遺伝相関解析を行い、酸化ストレス関連遺伝子であるSOD1が突発性難聴の発症に関与することを見出した。
著者
矢野 卓也 宇佐美 真一 西尾 信哉
出版者
信州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

ミトコンドリア遺伝子変異による難聴は、両側性感音難聴の2~3%に及ぶとされており、聴覚機能の維持にミトコンドリアが深く関与することは明らかになっているが、ミトコンドリア遺伝子変異により難聴を発症する詳細なメカニズムは未だ不明である。本研究では、難聴患者400名のミトコンドリア遺伝子解析を行うとともに、その臨床的特徴に関する詳細な分析を行った。その結果、日本人難聴患者における変異の種類と、頻度、また臨床的特徴を明らかにすることができた。また、ミトコンドリア遺伝子変異を持つ難聴患者由来の培養細胞を用いて、難聴発症のメカニズムを明らかにすることができた。
著者
宇佐美 真一 工 穣 鈴木 伸嘉 茂木 英明 宮川 麻衣子 西尾 信哉
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.151-155, 2010 (Released:2011-11-30)
参考文献数
15
被引用文献数
10 8

低音域に残存聴力を有する高度感音難聴患者に対し人工内耳埋め込み術を施行した。症例は60歳女性。40歳頃から難聴を自覚した。50 歳頃からは右耳の補聴器の装用効果が認められなくなった。この症例にMED-EL社人工内耳(COMBI 40+:standard電極)埋め込み術を行った。電極挿入は、より低侵襲な正円窓からのアプローチにより行った。全電極を挿入したにもかかわらず、挿入後の低音部聴力が保存できた。残存聴力の保存が確認できたため、Electric acoustic stimulation用のスピーチプロセッサであるDUET®を用い、低音部は補聴器、高音部は人工内耳により音情報を送り込んだ。8ヶ月後の語音弁別能を評価した結果、術前15%であった最高明瞭度が50%にまで改善が認められ、日本語の聴取においても有用であることが明らかとなった。