著者
永澤 加世子 西田 裕介
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌 第28回東海北陸理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.91, 2012 (Released:2013-01-10)

【はじめに】 高齢者では骨粗鬆症や圧迫骨折、長年の労働や生活環境など様々な原因により円背姿勢が構築されていき、背筋群の持続的遠心性収縮がおこるとされている。そのため背筋群の筋内圧上昇に伴う筋血流の減少により筋の委縮がおき、出力低下に繋がると考えられる。先行研究より円背姿勢は重心動揺が大きく、歩行が不安定になると報告されている。本研究では背筋の筋疲労が体幹動揺性に与える影響を捉えることを目的とし、器質的なアライメント変化による筋力の低下や姿勢制御に影響を与える感覚低下の影響を除外するため、対象を健常男性とした。【方法】 対象は下肢、腰部に明らかな疾患のない健常男性14名(平均年齢24±1歳、身長173.3±3.2㎝、体重65.5±5㎏)とした。対象者には本研究の意義ならびに目的を十分説明し、紙面にて同意を得た。方法は三軸加速度計を第三腰椎棘突起に貼付し、疲労前後で10m最速歩行時の加速度を測定した。加速度の解析方法として、動揺性の指標である二乗平均平方根(RMS)とRMSを歩行速度の二乗値と平均歩幅で補正し動揺要素を抽出したNormalized RMS(NRMS)を求めた。また、背筋を疲労させるためSorensenのtrunk holding testを一部変更したものを使用した。統計解析には各軸間で対応のあるt検定を使用し有意水準は危険率5%未満とした。【結果】 体幹動揺性を表わすNRMS(X・Y・Z)を各軸間で比較した。疲労前後の順で以下に記載する。Xは(0.28、0.29)、Yは(0.31、0.32)、Zは(0.3、0.3)であり、各軸間で疲労前後では体幹動揺性に有意差が認められなかった。これは背筋の疲労前後でX(前後軸)、Y(上下軸)、Z(左右軸)の方向で動揺性の変化が見られない結果となった。【考察】 健常男性では、背筋の筋疲労は歩行時の体幹動揺性に影響を与えない結果となった。先行研究より、高齢者では足関節での姿勢制御能力が低下し、代償的に股関節優位な戦略をとることや、アライメントの変化により下肢の筋出力が発揮しにくくなりパフォーマンスへ影響を及ぼすとされている。今回は対象が健常男性であり下肢筋力の低下は認められないため股関節や足関節の戦略にて背筋の筋疲労による影響を代償していると考えられる。また、足底の感覚情報入力が減少することにより重心動揺が増大するとの報告もあるが、健常男性では末梢の感覚機能低下が体幹動揺の決定因子にはならないと考える。【まとめ】 明らかな下肢筋力低下や末梢の感覚機能低下が認められなければ、背筋の筋疲労による体幹動揺性の変化を他の戦略にて代償させ、パフォーマンスレベルへの影響を少なくすることができると考えられる。したがって、背筋の筋疲労が及ぼす体幹動揺性への理学療法アプローチとしては、背筋の筋出力向上プログラムと比較し股関節や足関節での姿勢制御能力を向上させるようなアプローチがより体幹動揺性を減少させることが示唆された。そして股関節と足関節の制御が向上することによりパフォーマンス改善に繋がることが考えられる。
著者
上村 さと美 西田 裕介 大嶽 昇弘
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, 2005-04-20

【はじめに】要介護高齢者を介護する介護者の介護に対する負担感は、要介護高齢者の日常生活能力との関係もあるが必ずしもそれだけではない。今回、介護者の介護負担感をZarit介護負担尺度日本語版(以下、ZBI)と、その下位尺度であるPersonal strain(介護を必要とする状況に対する否定的感情の程度を示す介護負担感)及びRole strain(介護によって社会生活に支障をきたしている程度から生じる介護負担感)を用い、介護期間と介護負担感との関係を検討した。<BR>【方法】対象は訪問看護ステーションを利用している中枢神経疾患既往の要介護高齢者22名(男性11名、女性11名、平均年齢79.1歳、要介護度平均3.9)の主介護者22名(男性4名、女性18名、平均年齢63.5歳)であった(続柄は配偶者10名、嫁4名、子供6名、血縁者2名)。介護者に対しZBI、介護期間、介護者の健康状態を質問紙に記し自記式にて調査した。結果をもとにZBIの総得点(合計88点)を算出した。また、ZBIをPersonal strain項目に該当する項目(合計48点)と、Role strain項目に該当する項目(合計24点)に分類し、各々を合計点数で除して介護負担感(%)を算出した。統計学的手法としてはピアソンの相関係数検定を用い有意水準を5%未満とした。また、介護者の健康状態の把握は良好、不良の2択での記載とした。<BR>【結果】平均介護期間は6.0±5.03年、ZBI総得点平均は30.3±14.7点であった。Personal strain該当項目の介護負担感は35.0%(17.0±8.3点)、Role strain該当項目の介護負担感は33.0%(8.0±4.6点)であった。介護期間とZBI総得点(r=0.43)及び介護期間とPersonal strain項目点(r=0.45)においては有意な関係が認められた(p<0.05)。また、Personal strain項目点とRole strain項目点間でも有意な関係が認められた(r=0.74、p<0.05)。介護者の健康状態は良好9名(平均年齢58.2歳、ZBI総得点平均25.5点、平均介護期間3.9年)、不良13名(平均年齢67.1歳、ZBI総得点平均33.6点、平均介護期間7.9年)であった。<BR>【まとめ】介護期間が増すごとに介護負担感総得点及び、Personal strain項目の点数の増大が認められた。また、Personal strain項目とRole strain項目間においても有意な関係が認められた。よって、介護期間が増すにつれ現状のPersonal strain項目の負担感の把握と軽減が、Role strain項目の介護負担感の軽減に関与し、ZBI総得点の減少を得られると考えられる。さらには介護者の継時的な体調管理も必要と考えられる。
著者
加辺 憲人 黒澤 和生 西田 裕介 岸田 あゆみ 小林 聖美 田中 淑子 牧迫 飛雄馬 増田 幸泰 渡辺 観世子
出版者
The Society of Physical Therapy Science
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.199-204, 2002-08-20
被引用文献数
27 20

本研究の目的は,健常若年男性を対象に,水平面・垂直面での足趾が動的姿勢制御能に果たす役割と足趾把持筋力との関係を明らかにすることである。母趾,第2~5趾,全趾をそれぞれ免荷する足底板および足趾を免荷しない足底板を4種類作成し,前方Functional Reach時の足圧中心移動距離を測定した。また,垂直面における動的姿勢制御能の指標として,しゃがみ・立ちあがり動作時の重心動揺を測定した。その結果,水平面・垂直面ともに,母趾は偏位した体重心を支持する「支持作用」,第2~5趾は偏位した体重心を中心に戻す「中心に戻す作用」があり,水平面・垂直面での動的姿勢制御能において母趾・第2~5趾の役割を示唆する結果となった。足趾把持筋力は握力測定用の握力計を足趾用に改良し,母趾と第2~5趾とを分けて測定した。動的姿勢制御能と足趾把持筋力との関係を分析した結果,足趾把持筋力が動揺面積を減少させることも示唆され,足趾把持筋力の強弱が垂直面での動的姿勢制御能に関与し,足趾把持筋力強化により転倒の危険性を減少させる可能性があると考えられる。<br>
著者
西田 裕紀子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.25-36, 2014 (Released:2014-12-24)
参考文献数
32
被引用文献数
2

本稿では,2012年7月から2013年6月の1年間に日本で公表された,成人期・老年期の発達に関心をもつ心理学研究の動向を展望した。まず,研究の成果を「育児・親としての経験」,「夫婦関係」,「高齢者の心的発達・well-being」,「認知機能・知能」,「その他」の5つのテーマに分類して概観し,個々の研究に関して,新しい発見や生涯発達研究への示唆,今後の課題について論じた。それらの結果から,以下の全体的な傾向が指摘された。まず,成人期・老年期の心理的発達に関する論文の数は,例年と同様に多くはなかった。しかしながら,これまで研究が少ないと指摘されてきた夫婦の関係性に関する論文や,高齢化にともなって社会的な要請の強い高齢者の心的発達・well-beingに関する論文などが精力的に発表されており,この1年間の研究成果は,我が国の生涯発達研究の今後の進展に貢献するものと考えられた。最後に,成人期・老年期の発達研究の重要性と難しさ,今後の展望を議論した。
著者
竹内 真太 西田 裕介
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A1Sh2025-A1Sh2025, 2010

【目的】<BR>ヒトの歩行や走行中、心拍リズムと運動リズムが近付いた際、2つのリズム間で同期現象を示すことが報告されており、この現象はCardiac-Locomotor Synchronization(CLS)と称されている。CLSの生理学的意義の1つとして、活動筋の弛緩のタイミングと心臓の拍動のタイミングが一致し、筋内圧が下がった時に筋へ血液が流入することで、活動筋への血流量が最大化することが推測されている。我々は、先行研究にてCLSを誘発した歩行中と同負荷の自由歩行中の心拍数と酸素摂取量を比較し、心拍数に差がない状態でも、酸素摂取量はCLSを誘発した歩行で高値を示すことを確認した。このことからCLSを誘発することにより歩行中の動静脈酸素含有量格差に差が出ることが推測された。本研究では、CLSを誘発した歩行中と同負荷の自由歩行中の心拍数、酸素摂取量、下腿筋血流量を測定し、CLSの生理学的意義を明らかにすることを目的とした。<BR>【方法】<BR>対象は心血管系疾患の既往がない若年男性8名(年齢21±2歳、身長169.6±3.53cm、体重57.7±4.20kg(平均±標準偏差))とした。対象者は心電図用電極、右踵部にフットスイッチ、左下腿外側に筋血流量計プローブ、呼気ガスマスクをそれぞれ装着し、対象者が運動リズム120step/min、心拍数120bpmとなるトレッドミル速度と傾斜を決定した。次に、以下の2つのプロトコルを実施した。プロトコル1では、CLSを誘発するため、対象者は先に決定したトレッドミル負荷にて、120beats/minのブザーに合わせた歩行を約5分間行い、心拍数が定常状態に達した後、心電図計からのブザーに歩行リズムを合わせた。呼吸リズムは歩行リズムとの比率が1:4となるよう指示し、その際の呼気と吸気の比率は1:1とした。対象者は定常状態にて10分間歩行を行った。プロトコル2では、同様のトレッドミル負荷にて5分間のウォーミングアップを行い、その後定常状態にて10分間の自由歩行を行った。定常状態での10分間を測定期間とした。2つのプロトコルの順はランダムに実施された。プロトコル1から導出された心拍リズムと歩行リズムを用いて、2つのリズム間の結合度を示す指標、位相コヒーレンス(λ)を1分毎に算出した。λは0から1の数を示し、高値であるほど2つのリズム間の結合度が高いことを表す。プロトコル1にてλが0.6を超えている部分をCLSが発生しているととらえ、CLS発生時と自由歩行時を対応のあるt検定にて比較した。またCLSの発生している時間数と、CLSを誘発した歩行と自由歩行の平均値の差(プロトコル1-プロトコル2)の関連を、スピアマン順位相関係数検定を用いて検討した。有意水準は危険率5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR>対象者には口頭にて実験の主旨を説明し、同意書にて参加の同意を得た。本研究は、聖隷クリストファー大学の倫理委員会の承認のもと実施した。<BR>【結果】<BR>プロトコル1にて8人中7人の対象者でλが0.6を超える部分が観測された。CLS発生時と自由歩行時の比較の結果、酸素摂取量はCLS発生時が29.13ml/kg/min、自由歩行時が28.19ml/kg/minでありCLS発生時で有意に高値を示した。筋血流量を示すと考えられるTotal HbはCLS発生時が17.91g/dl、自由歩行時が17.58g/dlでありCLS発生時で有意に高値を示した。心拍数には有意差は認められなかった。CLSの発生している時間数と2つのプロトコル間の差の関連は、Total Hbにて相関係数0.70(p=0.07)、酸素摂取量にて相関係数0.61(p=0.10)であった。<BR>【考察】<BR>酸素摂取量と心拍数では、我々の先行研究と同様の結果が確認された。また、CLSが発生している際に筋血流量が増加することが確認された。更にCLSの発生している時間が長い対象者ほど、自由歩行時よりもCLSを誘発した歩行で筋血流量、酸素摂取量が高値を示す傾向がみられた。以上のことから、CLSが発生している歩行では、同負荷の自由歩行と比較して、筋血流量が増加し、その結果、活動筋への酸素供給量の増大、それに伴うタイプ1線維の活性化、酸素代謝の亢進が起こり、酸素摂取量が増加することが推測された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>CLSは若年者よりも高齢者で、また、低強度よりも高強度において発生しやすいことが報告されている。このことは、運動による要求に対し、活動筋と心血管系を協応させることで血液循環の効率化を行い対応した結果であると考えられる。CLSを誘発することによって、運動中の心血管系と活動筋間の協応を導くことができる可能性があり、今後検討を行うことで、高齢者や心疾患患者に対する運動療法として応用できると考えられる。
著者
西田 裕紀子 丹下 智香子 富田 真紀子 安藤 富士子 下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.76-86, 2014

本研究では,地域在住高齢者の知能と抑うつの経時的な相互関係について,交差遅延効果モデルを用いて検討することを目的とした。分析対象者は「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の第1次調査に参加した,65~79歳の地域在住高齢者725名(平均年齢71.19歳;男性390名,女性335名)であった。第1次調査及び,その後,約2年間隔で4年間にわたって行われた,第2次調査,第3次調査において,知能をウェクスラー成人知能検査改訂版の簡易実施法(WAIS-R-SF),抑うつをCenter for Epidemiologic Studies Depression(CES-D)尺度を用いて評価した。知能と抑うつの双方向の因果関係を同時に組み込んだ交差遅延効果モデルを用いた共分散構造分析の結果,知能は2年後の抑うつに負の有意な影響を及ぼすことが示された。一方,抑うつから2年後の知能への影響は認められなかった。以上の結果から,地域在住高齢者における知能の水準は,約2年後の抑うつ状態に影響する可能性が示された。
著者
西田 裕紀子 丹下 智香子 富田 真紀子 安藤 富士子 下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.276-286, 2012

本研究では,中高年者の開放性がその後 6 年間の知能の経時変化に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。分析対象者は,「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の第2次調査及び6年後の第5次調査に参加した,地域在住の中年者及び高齢者1591名であり,開放性はNEO Five Factor Inventory,知能はウェクスラー成人知能検査改訂版の簡易実施法(知識,類似,絵画完成,符号)を用いて評価した。反復測定分散分析の結果,開放性が知能の経時変化に及ぼす影響は,知能の側面や年代によって異なることが示された。まず,「知識」得点の経時変化には,高齢者においてのみ開放性の高低が影響しており,開放性が高い高齢者はその後6年間「知識」得点を維持していたが,開放性が低い高齢者ではその得点が低下することが示された。一方,「類似」,「絵画完成」,「符号」では,開放性が高い中高年者は低い中高年者よりも得点が高いことが示されたが,開放性の高低による経時変化への影響は認められなかった。以上より,中高年者の開放性は知能やその経時変化の個人差の要因となること,特に高齢者にとって,開放性の高さは一般的な事実に関する知識量を高く維持するために役立つ可能性が示唆された。
著者
西田 裕紀子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.433-443, 2000-12-30
被引用文献数
7

本研究の目的は,幅広い年代(25〜65歳)の成人女性の多様なライフスタイルについて,複数の構成要素からなる心理的well-beingとの関連から検討することであった。まず研究1では,成人期全般に適用でき,理論的背景が確認されているRyffの概念に基づき,人格的成長,人生における目的,自律性,自己受容,環境制御力,積極的な他者関係の6次元を有する心理的well-being尺度が作成され,6次元の信頼性・妥当性が確認された。また,年代によって心理的well-beingの様相が異なり,次元によっては発達的に変化することが示された。次に研究2では,ライフスタイル要因と心理的well-being各次元との関連について検討した。その主な結果は以下の通りである。(1)年代と就労の有無,社会活動参加度を独立変数,心理的well-being各次元を従属変数とする分散分析を行った結果,就労,社会活動という家庭外での役割は,成人女性の心理的well-beingとそれぞれ異なった形で関連していることが示された。特にこれまで家庭外役割としてほとんど焦点が当てられてこなかった社会活動が,就労とは異なった形で心理的well-beingと強く関連していたことから,成人女性の発達的特徴を考える際に,就労以外の様々な活動にも目を向けることの必要性が示唆された。(2)年代別に,妻,母親,就労者,活動者の各役割達成感と心理的well-being各次元との偏相関係数を検討した結果,長期にわたる成人期においては,各年代に応じた役割を獲得し,それによる達成感を得ることが心理的well-beingと強く関連することが明らかになった。この結果から,それぞれの役割の質的側面が成人女性のライフサイクルの中で異なった重要性を持つことが示唆された。
著者
西田 裕介 久保 晃 田中 淑子
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 = The Journal of Japanese Physical Therapy Association (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.29-31, 2002-02-20
被引用文献数
3

日本人の20歳代健常成人105名を対象に, 前腕長および下腿長と身長との関係を検討し, 各肢長と身長との関係を分析した。測定方法は, 身長は, 背臥位にて頭頂から足底までを計測した。前腕長は, 端座位にて上腕骨外側上顆から橈骨茎状突起まで(以下 : 前腕長(1)), 肘頭から橈骨茎状突起まで(以下 : 前腕長(2))を計測した。下腿長は, 背臥位にて膝関節外側裂隙から外果下端まで(以下 : 下腿長(1)), 腓骨小頭から外果下端まで(以下 : 下腿長(2))を計測した。統計学的手法には, 各肢長の測定値と身長においてピアソンの相関係数の検定を用い, また, 目的変数を身長, 説明変数を前腕長(2)・下腿長(2)とする重回帰分析を行った。ピアソンの相関係数の結果より, 全体および男性においては身長と高い相関関係を示した(男性 : r=0.65〜0.85,全体 : r=0.76〜0.86)。一方, 女性では男性および全体と比較すると相関係数が低かった(r=0.57〜0.70)。重回帰分析では, 女性においても高い相関係数が得られ(男性 : r=0.89,女性 : r=0.81,全体 : r=0.92), 重回帰分析より求めた回帰式を用いることで, 身長の推定が可能であると考えられる。このことは, 身体に高度な変形を呈する症例や立位保持が困難で身長の測定が不可能な症例に対して, 栄養状態や体格を把握した上で理学療法を実践する際に有意義であると思われる。