著者
中澤 瞳
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.1261, 2014 (Released:2017-02-10)
参考文献数
3

私たち人間と同様に,マウスも初めて会った相手とそうでない相手を区別し,初めて会った相手に興味を持つことが以前から知られている.最近,遺伝子改変マウスの行動学的解析から,海馬のCA2領域が,この既知か新奇かを認識し,個体の違いを区別する社会性メモリーに非常に重要であるという興味深い報告がなされた.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Hitti L. F., Siegelbaum A. S., Nature, 508, 88-92 (2014).2) Kohara K. et al., Nature Neurosci., 17, 269-279 (2014).3) Wintzer M. E. et al., J. Neurosci., 34, 3056-3066 (2014).
著者
樋口 友里
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.55, no.8, pp.795, 2019 (Released:2019-08-01)
参考文献数
4

近年,メタボリックシンドロームの増加に伴って,非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver desease: NAFLD)患者数が増加している.NAFLDは非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis: NASH)を経て肝硬変・肝がんへと進展していくことから,その予防・治療は重要な課題である.AMP活性化プロテインキナーゼ(AMP-activated protein kinase: AMPK)は,複数の代謝経路を調節する因子として知られている.これまでに,経口糖尿病薬であるメトホルミンは肝臓でAMPKを活性化し,糖新生をはじめ様々な代謝異常を改善することはよく知られていた.しかし,全身で恒常的にAMPKを活性化させた遺伝子操作マウスでは肥満形質が発現することも指摘されており,AMPK活性化とNAFLDおよび肥満との関わりが明確となっていなかった.本稿では,ドキシサイクリン(Doxycycline: Dox)の投与により肝臓で活性型AMPKの発現を誘導できるマウスモデルを用いて,肝臓特異的なAMPK活性化がNAFLDの予防・治療標的となり得るかを検討したGraciaらの論文を紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Day E. A. et al., Trends Endocrinol. Metab., 28, 545-1560(2017).2) Yavari A. et al., Cell Metab., 23, 821-836(2016).3) Garcia D. et al., Cell Rep., 26, 192-208(2019).4) Xu G. et al., Curr Med. Chem., 25, 889-907(2018).
著者
上田中 徹
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.342, 2016 (Released:2016-04-01)
参考文献数
3

硫黄やリン,ヨウ素は容易に超原子価状態を形成することが知られている.なかでも超原子価ヨウ素は幅広く研究されており,シアノ化やアルキニル化,アリール化などに用いる求電子的官能基化剤として用いられている.一方で,超原子価硫黄化合物を基盤とした求電子的官能基化剤はこれまでほとんど報告がなく,未開拓分野であった.このような背景下,Alcarazoらは,超原子価ヨウ素反応剤と同じT字構造を有する超原子価硫黄化合物ジハロイミダゾリウムスルフランに着目し(図1(I)),新規求電子的官能基化剤の開発に成功したので,以下に紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Zhdankin V. V., Stang P. J., Chem. Rev., 108, 5299-5358 (2008).2) Arduengo A. J., Burgess E. M., J. Am. Chem. Soc., 99, 2376-2378 (1977).3) Talavera G. et al., J. Am. Chem. Soc., 137, 8704-8707 (2015).
著者
古谷 利夫
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.383, 2014

創薬は難しい.私は,物理化学あるいは構造生物学の立場から少しでも創薬に貢献しようと悪戦苦闘してきた.いまではSBDD<sup>※1</sup>やFBDD<sup>※2</sup>はHTS<sup>※3</sup>などと同様,創薬手法としてよく知られた方法だが,私の挑戦は1987年に遡る.NMRで決定したBPTI<sup>※4</sup>の構造を,X線で決めた構造と比較した論文を読んだとき,タンパク質の立体構造を利用する創薬が早晩必須となることを予感した.ちなみに1987年のPDB<sup>※5</sup>に登録された立体構造は年間25個,累積で238個であった.2012年の年間登録が8,936個,累積で86,975個であることと比べると隔世の感がある.<br>標的タンパク質の立体構造に基づく創薬をラショナルドラッグデザインと呼び,X線構造解析法とNMR法という実験的な手法に,コンピュータを使ったシミュレーションを加えたSBDDが登場した.私は所属していた山之内製薬(現アステラス製薬)の研究所が1989年につくばに移転した際に,大変な苦労の末にX線回折装置と600MHzNMRに加えて,コンピュータグラフィックスを揃えた分子設計研究室の設立を推進した.当時は日本国内のX線結晶学の研究者を集めても,海外の大手製薬会社1社のX線結晶学の研究者程度しかいないと言われた時代であった.SBDDは1990年のHIVプロテアーゼとリガンドとの複合体解析に始まり,その後,ノイラミニダーゼを標的にしてタミフルがデザインされた例は有名である.また,1994年にはSAR by NMRが発表され,FBDDの源流となった.FBDDを武器とした創薬ベンチャーが幾つも登場し,その中の1つ,Plexxikon社が2005年に見いだしたゼルボラフはBrafタンパク質の変異型を標的とした皮膚がん治療薬として,FBDDによる最初のFDA承認薬となっている.<br>SBDDやFBDDを支える中心的な技術は,タンパク質の構造解析である.タンパク質の基本構造は10,000種類と見積もられ,網羅的に構造を決める世界的な構造ゲノミクスが計画された.日本では2002年からタンパク3000プロジェクトがスタートし,2007年度までの5年間で3,000を大きく超える構造決定に成功した.評価は様々あるようだが,日本の構造生物学研究を支える多くの研究者を育て,製薬企業の創薬研究に質的変化をもたらした功績は大きいと考えている.その後も技術は進展し,重要な創薬標的であるGPCR<sup>※6</sup>の構造決定が進んでいる.また最近,19F-NMRを使ったスクリーニング法も注目されている.これは,フッ素原子を含む承認薬が全体の約1/3を占めている点に着目し,フッ素原子を好むタンパク質側の結合部位を探索する手法であり,単にFBDDの一手段に留まらず新たなドラッグデザインにつながる可能性をはらんでいる.<br>創薬は難しい.しかし,活性や選択性を上げるためには標的タンパク質がリガンド分子を認識する描像を手にすることが必要で,これが創薬に大きく貢献することに異論を挟む人はいないであろう.海外の製薬会社が極めてルーティン的にSBDDやFBDDを創薬に取り入れているのに比べ,日本ではまだまだという感は否めない.構造生物学の重要性をより一層認識して欲しいものである.<br><br>※1 SBDD:structure based drug design(標的タンパク質の構造に基づく分子デザイン),※2 FBDD:fragment based drug design(フラグメント分子を利用した分子デザイン),※3 HTS:high throughput screening(ハイスループットスクリーニング),※4 BPTI:bovine pancreatic trypsin inhibitor(ウシトリプシン阻害剤),※5 PDB:Protein Date Bank(タンパク質構造データバンク),※6 GPCR:G-protein coupled receptor(Gタンパク質共役受容体).
著者
眞弓 忠範
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.268, 2017

濱 堯夫先生のご研究は一貫して生理化学分野で、「生体内ヒスチジン誘導体ーアンゼリン、カルノシン、エルゴチオネインーに関する研究」であり、原著論文のほか多くの著書・総説を発表され、「疲労回復とアンチエイジング効果」として現在脚光を浴びているイミダゾール・ジペプチド研究の基礎を築かれました。数多くの研究・教育に対するご業績により英国国立病理学会フェローを初め、兵庫県知事表彰、日本薬学会教育賞、瑞宝中綬章などを受章されました。
著者
坂本 謙司
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.711_1, 2019

昨年末,青春18きっぷを使って東北地方を旅した.その際,東日本大震災で甚大な被害を受けた三陸地方を34年ぶりに訪れた.津波により浸水した場所を示す多数の道路標識や,流されて更地のようになってしまった駅の跡地を目の当たりにし,想像を越えた被害の甚大さに足が震えた.今回の旅により,自分の身近で災害が起きる可能性を常に意識し,もしもの時にどのように行動すべきなのか議論することも,我々薬学部の教員にとって重要であることを再認識させられた.
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.890-891, 2020

ミニ特集:専門・認定薬剤師を知る<br>ミニ特集にあたって:今回,ミニ特集「専門・認定薬剤師を知る」を企画するに当たって,様々な意見を委員の先生方よりいただき,専門・認定薬剤師制度は薬剤師の専門性の質を確保する手段の1つに過ぎないことを改めて強く感じている.乱立する専門・認定制度に対する懐疑的な見方もあるが,認定を取得した各個人が考え行動することで,のちにその認定制度が評価されるのではないだろうか.本ミニ特集では,初めに日本薬剤師研修センター,日本病院薬剤師会,日本医療薬学会,認定薬剤師認証機構としての認定・専門薬剤師制度の考え方について,さらに保険薬局薬剤師・病院薬剤師のどちらも取得できるという観点と,近年のニーズを踏まえ,日本腎臓病薬物療法学会,日本緩和医療薬学会,日本臨床腫瘍薬学会,日本薬局学会が認定する認定・専門薬剤師ついて,そのねらいや認定条件,今後の展望などを寄稿していただいた.専門・認定薬剤師制度についての理解を深めるきっかけになれば幸いである.<br>表紙の説明:薬用植物と家紋シリーズは明智光秀の桔梗紋から始まっている.大河ドラマ「麒麟がくる」は8月末に放送再開となった.波乱万丈なドラマのクライマックスは本能寺の変だが,その戦いの彼方では,秀吉が毛利家と最後の戦いを演じていた.その毛利家は,沢鷹紋も家紋として用いていた.電子付録では,毛利家を取り巻く歴史物語とオモダカ属など水辺の植物を紹介する.写真のオモダカには薬効はなく,類縁のサジオモダカが漢方に用いられる.
著者
小林 義典
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.104-108, 2021 (Released:2021-02-01)
参考文献数
25

従来、麻黄の活性本体はエフェドリンであり、他の化合物の寄与は少ないと考えられてきた。しかし、動物実験での経口投与における鎮痛作用や抗炎症作用には高分子縮合型タンニン(EMCT)の寄与が大きいことが明かとなった。このEMCTを含有するエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(EFE)は古典的な薬能を有し、エフェドリンによる副作用やうっかりドーピングの心配がない安全な麻黄製剤の原料として有望である。
著者
川添 和義
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.114-118, 2021 (Released:2021-02-01)
参考文献数
3

漢方薬は生薬・天然物を臨床現場とつなぐ大きな存在であるにもかかわらず,薬剤師が臨床現場で生薬を意識することはほとんどない。しかし,漢方薬の本質を知るためには生薬の漢方薬における働き(薬能)を意識することが重要であり,その本質を知ることで,適正な服薬指導や漢方利用が可能となる。今後,さらに広がると考えられる漢方利用に対し,生薬の働きを深く知ることが今後の薬剤師にも求められる。
著者
小松 かつ子
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.89-93, 2021 (Released:2021-02-01)
参考文献数
25

我が国の生薬を巡る現状を紹介し、今後、生薬の持続的利用と品質保証、漢方薬の効能リポジショニングおよび植物性医薬品や機能性表示食品の開発を行うために必要な組織体制の構築と、その中における生薬・薬用植物研究の役割などについて考察した。
著者
吉松 嘉代
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.94-98, 2021 (Released:2021-02-01)
参考文献数
22

生薬は,我々の健康の維持・増進に欠かせないものである.しかしながら天然資源を基原とする生薬は.その供給のほとんどを国外,特に中国に大きく依存しており,持続的確保が危惧されている.生薬の安心・安全な持続的供給の実現には,生薬の国内自給率向上が必須であり,そのためには薬用植物種苗供給体制の構築が必要不可欠である.本コラムでは、薬用植物種苗供給の実装化を目指した我々の取り組みについて紹介したい.
著者
袴塚 高志
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.99-103, 2021 (Released:2021-02-01)

日本の生薬・漢方製剤の安全性,有効性及び品質は,公定書(日本薬局方及び局外生規[日本薬局方外生薬規格])を基礎として,GMP(Good Manufacturing Practice),GQP(Good Quality Practice),GVP(Good Vigilance Practice),GACP(Good Agricultural and Collection Practice)などにより多面的に確保され,各事業者が実施するべき個別の要件は製造販売承認書に規定されている.本稿では,現代日本の薬事制度において承認を受けた天然物医薬品としての生薬に限定して,その品質確保に資する取り組みについて主に制度の面から解説する.
著者
福島 若葉
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.55, no.11, pp.1029-1033, 2019

インフルエンザワクチンは, 国際的にも長く使用されてきたワクチンの1つであるが, その有効性について批判の絶えないワクチンでもある. 一方, そもそもワクチンの効果はどのように評価すべきか, 「ワクチン有効率」の数値が何を意味しているかについて, 正確に答えられない方も多いのではないだろうか. 本稿では, インフルエンザワクチンを例に, ワクチン有効性の概念について解説するとともに, 今後のワクチン開発の展望について述べる.
著者
周東 智
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.340_1, 2019

学生達のやる気は、研究室も変えるし彼らの将来も左右する。自分が「言われたことはしたくない」ので、学生にも「これをやれ、こうしろ」とは言いたくない。そんな訳で、自ら立ち上げた研究室は「良くても悪くても、日本で一番自由な有機化学の研究室」との評である。多くの志士を見出した"そうせい侯"毛利敬親よろしく、学生の提案に肯くばかりの"そうしな教授"が理想だが、中々そうもいかない。
著者
酒井 弘憲
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.10, pp.978-979, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
2

今年もまた,秋の風が感じられる季節がやってきた.冬生まれの筆者は夏の暑さが何よりも苦手であり,暑さから逃れられる秋から冬にかけては大好きな季節でもある.しかし,あの暑苦しい夏が大好きという方も大勢いらっしゃるようで,夏をテーマにした音楽や,夏を取り上げた文学の名作も数多い.我が国では,清少納言の枕草子に有名な「夏は夜.月のころはさらなり.やみもなほ,蛍の多く飛びちがひたる.また,ただ一つ二つなど,ほのかにうち光りて行くもをかし.雨など降るもをかし.」のくだりがあるし,英国では,もちろんウィリアム・シェークスピアのそのものずばり「真夏の夜の夢」がある.全5幕からなり,アテネ近郊の森に足を踏み入れた貴族や職人,森に住む妖精たちが登場する.人間の男女は結婚に関する問題を抱えており,妖精の王と女王は養子を巡りけんかをしている.しかし,妖精の王の画策や妖精の一人であるパックの活躍によって最終的には円満な結末を迎えるというよく知られた戯曲である.実在について賛否の議論もあるシェークスピアだが,写楽と同じように,別人説もかまびすしい.有名なところでは,フランシス・ベーコン同一人説などがある.数百年前の人物についてそんなことを調べるなど至難の業であると思っていると,その人の書いた文章の書き癖から統計学を使って同一人であるかどうかを調べてみようという興味深い研究手法があるのだ.これを「計量文献学」と呼ぶ.
著者
櫻井 文教 水口 裕之
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.1099-1103, 2020 (Released:2020-12-01)
参考文献数
13

B型肝炎ウイルス(HBV)の感染を原因とするB型肝炎は、最終的に肝硬変、肝癌へと進行することから、革新的治療薬の開発が求められている。しかし現在、HBVが感染可能な培養細胞はわずかであり、新規治療薬の開発ならびにHBV感染機構の解明に向けては、利便性の高いin vitro感染評価系の開発が急務である。一方でヒトiPS細胞由来肝細胞は、肝細胞に感染する病原体の感染評価系として適した特性を有している。本稿では、ヒトiPS細胞由来肝細胞のHBV感染評価系としての有用性について紹介する。