著者
橋本 正史
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.534-538, 2016

2015年4月からスタートした機能性表示食品の中で機能性成分としてルテインとゼアキサンチンがあるが、消費者の認知はまだそれほど高くない。表示例としては「ルテイン、ゼアキサンチンには眼の黄斑色素量を維持する働きがあり、コントラスト感度の改善やブルーライトなどの光刺激からの保護により、眼の調子を整えることが報告されています」というのがある。表示の科学的根拠は何か又安全性はどうかということについて紹介したい。
著者
中村 通子
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.44, no.7, pp.660-662, 2008-07-01 (Released:2018-08-26)
参考文献数
3

予防接種に対する市民の関心を,新聞に掲載された投書から考えた.関心は,2000年代前半から大きく高まっていることが分かった.その一方で,市民に届く情報は十分ではなく,関係学会の社会的責務は大きくなっている.市民が納得し,受け入れる予防接種にするためには,双方向型の情報提供の努力と,新しいワクチン開発,そして社会経済学的な見地を含めた合意作りに向けた議論が必要だ.
著者
濱田(佐々木) 幸恵
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.9, pp.883, 2016 (Released:2016-09-02)
参考文献数
5

記憶には,ものを覚えること(記銘),覚えていること(保持),覚えていることを想い出す(想起)という過程がある.記銘には,訓練によって何かを習得するという学習と内容的には同じであるが,感覚情報を知覚し,固定して,記憶痕跡とする過程が含まれる.最近では,記憶を情報処理的な観点から取り扱うことが行われており,記銘をコード化,保持を貯蔵,想起を探索と呼んでいる.これまでの研究では,それぞれの記憶過程で個別の神経回路単位が対応しているのか,また記憶を探索して想起するとき海馬以外の領域が関わるかについて実験的に明確になっていない.本稿では,Rajasethupathyらによって報告された,記憶想起に関わる前頭前皮質から海馬への投射経路の役割について紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Rajasethupathy P. et al., Nature, 526, 653-659 (2015).2) Frankland P. W., Bontempi B., Nature Rev. Neurosci., 6, 119-130 (2005).3) Ressler K. J., Mayberg H. S., Nature Neurosci., 10, 1116-1124 (2007).4) Taylor S. F. et al., Biol. Psychiatry., 71, 136-145 (2012).5) Wilson S. J. et al., Nature Neurosci., 7, 211-214 (2004).
著者
飯尾 彩加
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.12, pp.1159, 2016 (Released:2016-12-01)
参考文献数
3

麻薬性鎮痛薬は,多幸感や快楽に加え,使用中止による嫌悪感や退薬症候の回避のため,「心」と「体」が薬を止めたくても止められない状態にする.麻薬性鎮痛薬を使用し続けようとする強い欲求は,快楽や嫌悪感回避のいずれも脳内報酬系と呼ばれる神経回路により調節されており,側坐核と呼ばれる脳領域が重要であると指摘されている.これまでの研究から,側坐核への様々な神経系の入力が快楽や多幸感を調節していることは明らかになっているが,薬物の中断による嫌悪感や退薬症候を回避するための薬物への強い渇望における側坐核の役割については,あまり知られていなかった.Zhuらは,この麻薬性鎮痛薬の中止時に見られる嫌悪感や退薬症候が,快楽を作り出す脳領域と同じ領域で作り出されるが,異なる神経回路を利用して生み出されることを明らかにしたので紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Zhu Y. et al., Nature, 530, 219-222 (2016).2) Pascoli V. et al., Nature, 509, 459-464 (2014).3) Browning J. R. et al., Drug. Alcohol. Depend., 134, 387-390 (2014).
著者
山﨑 ゆきみ
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.710-711, 2017 (Released:2017-07-01)
参考文献数
1

私は薬学部を卒業後,海上保安庁に入庁し,今年で35年目になる.このうちの25年間,分析鑑定業務と呼ばれる仕事に携わってきた.今回,縁あって,このコラムに投稿する機会を頂いたので,入庁のいきさつを交え,海上保安庁での仕事を紹介したい.
著者
山口 貴弘
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.257, 2018 (Released:2018-03-01)
参考文献数
2

多剤耐性菌は世界中で急速に発生拡散しており,多剤耐性菌感染症による健康リスクは増大している.近年,多剤耐性菌感染症の治療に効果的であるとしてコリスチンが再注目されている.コリスチンは1950年に日本で発見された抗菌薬であり,主に家畜の飼料添加物として世界中で利用されている.ヒトに対しては,腎毒性や神経毒性等の副反応が強く,使用は限定されていた.しかし,多剤耐性菌感染症の最終選択薬として,日本でも2015年に一部の多剤耐性グラム陰性菌の感染症治療薬として適応が認められた.多剤耐性菌に対する「最後の切り札」として期待されているコリスチンであるが,2015年にプラスミド性コリスチン耐性遺伝子(mobilized colistin resistance gene)mcr-1を持つ大腸菌が初めて報告され,それ以降,各国で臨床検体,食肉等から数多く検出されている.また,mcr-1以外のプラスミド性コリスチン耐性遺伝子が次々に報告され,多剤耐性菌感染症の治療への影響が懸念されている.プラスミド性コリスチン耐性が拡散している原因は,コリスチン耐性遺伝子を持つプラスミドが,同種もしくは異種の細菌に水平伝達していくことや,可動性挿入配列IS(insertion sequence)のような転移因子(transposable genetic elements)による拡散が考えられる.今回はISの一種であり,コリスチン耐性拡散の要因とされているISApl1に関する研究について紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Liu Y. et al., Lancet Infect. Dis., 16, 161-168(2016).2) Poirel L. et al., Antimicrob. Agents Chemother., 61, e00127-17(2017).
著者
倉内 祐樹
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.356, 2018 (Released:2018-04-01)
参考文献数
3

「寝る子は育つ」,「果報は寝て待て」,「早起きは三文の徳」などのことわざにもあるように,睡眠は私たちの生活に必要不可欠なイベントである.しかし,現代の24時間型生活スタイルや多忙に伴う睡眠サイクルの乱れは睡眠の質を低下させ,日本のみならず諸外国でも生活の質(Quality of life)を著しく低下させる原因となっている.睡眠不足は仕事能率の低下,うつ病や認知症,循環器系疾患のリスクを高めることが知られているが,睡眠不足の健康への影響は未だ不明な点が多い.本稿では,睡眠不足が疼痛感受性を亢進させることを実証したAlexandreらの論文を紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Fossum I. N. et al., Behav. Sleep Med., 12, 343-357(2014).2) Luyster F. S. et al., Sleep, 35, 727-734(2012).3) Alexandre C. et al., Nat. Med., 23, 768-774(2017).
著者
冨田 寛
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.28, no.11, pp.1224-1229, 1992-11-01 (Released:2018-08-26)
被引用文献数
2
著者
山口 賀章
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.255, 2018 (Released:2018-03-01)
参考文献数
2

2017年のノーベル生理学・医学賞は,概日リズムを制御する分子機構を明らかにしたHall,Rosbash,Youngの3人に授与された.彼らの研究を発端とし,24時間周期の概日リズムが,地球の自転による明暗変動ではなく,生体の個々の細胞が持つ時計遺伝子により主体的に形成されることがわかってきた.概日リズムの分子機構は,植物,昆虫,ヒトと進化上,高度に保存されており,ほ乳類では転写活性化因子であるCLOCKとBMAL1のヘテロダイマーが,PerやCry遺伝子のE-box配列に結合し転写を活性化する.翻訳されたPERやCRYタンパク質は,核へと移行しCLOCKとBMAL1による転写を抑制する.この結果,PerやCryの発現量はリズム性を示す.また,時計遺伝子のノックアウト(KO)マウスは,概日行動リズムに異常を示す.例えば,常時消灯下でのCry1とCry2それぞれのKOマウスの概日行動リズムは,短周期および長周期となり,ダブルKOマウスでは概日リズムは消失する.このように,培養細胞や遺伝子改変動物を用いて,概日リズムの分子機構やその生理的意義は広く研究されてきた.しかし,ヒトのリズム異常を対象とした研究はあまりなされていなかった.本稿では,ノーベル賞受賞者の1人であるYoungらによる,ヒトCRY1遺伝子の変異に基づく睡眠障害を報告した論文を紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Brown S. A. et al., Dev. Cell, 22, 477-487(2012).2) Patke A. et al., Cell, 169, 203-215(2017).
著者
大谷 悠介 関 貴洋 梅野 太輔
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.658-661, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
12

二次代謝経路(天然物経路)は生理活性と新規酵素の宝庫であり,リデザインも容易である。一方で,これを一次代謝に匹敵する馬力で高度に運転するためには,多くの新しい工学的努力を要する。本稿では,筆者たちのテルペノイド合成経路の進化工学の経験をもとに,天然物生合成経路の高効率運転を目指したリデザイン技術のあり方について議論する。
著者
佐藤 玄 王 超 内山 真伸
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.684-688, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
10

天然物の巧みな『ものづくり』の仕組みを解き明かし、目的に応じて生合成経路を人工改変することができれば、有機化学・天然物化学における学理・学術的な成果としてはもちろん、創薬・物質科学に強力なツールをもたらすに違いない。本稿では、最近当研究室で取り組んでいる「計算化学的手法を基盤とした未解明生合成経路の探索」について紹介する。
著者
白石 太郎 葛山 智久
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.679-683, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
23

天然物は人知を超えた幅広い多様性と生物活性を有している。近年、次世代シーケンサーの発展により微生物のゲノム解析が数多く報告されるようになるとともに、微生物が生産する天然物からの医薬品探索・開発研究の手法も大きく変化してきている。本稿では近年の天然物探索手法の展開と天然物生合成研究の意義・展開について述べる。