著者
前田 和哉
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.135, no.2, pp.76-79, 2010 (Released:2010-02-14)
参考文献数
43
被引用文献数
1

近年,ヒト肝臓において非常に多くのトランスポーターが同定・機能解析されるにつれて,トランスポーターの遺伝子多型や薬物間相互作用による機能変動が薬物動態に与える影響を明らかにするための臨床研究も続々と報告されてきている.それに伴い,異物解毒システムの中でのトランスポーターの重要性が広く認知されてきた.代謝によって消失すると考えられてきた薬物の中にも肝取り込みトランスポーターの基質が含まれていることが明らかとなり,取り込みトランスポーターの機能変動が薬物動態の変化につながる事例が複数報告されてきている.本稿では,ヒト肝臓に発現する主な薬物トランスポーターを紹介すると共に,これらの遺伝子多型・薬物間相互作用が薬物動態や薬効・副作用に与える影響について概説することを目指した.
著者
田鳥 祥宏 小林 啓之
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.144, no.6, pp.265-271, 2014 (Released:2014-12-10)
参考文献数
22

ドパミン神経伝達には,統合失調症陽性症状(幻覚・妄想)と関連すると考えられる高濃度のドパミンにのみ反応する低感度のphasic 相,パーキンソン病様運動障害や高プロラクチン血症と関連する低濃度のドパミンで反応する高感度のtonic 相,行動のモチベーションと関連する中濃度のドパミンで反応する中感度のintermediate 相がある.我々はヒト型ドパミンD2 またはD3 受容体の発現密度が異なるCHO 細胞株を樹立してドパミンに対する感度レベルの異なる系を作成し,ドパミンD2 受容体部分アゴニストおよび抗精神病薬のin vitro 薬理作用を評価した.ドパミンD2 受容体発現細胞において,アリピプラゾールを含む部分アゴニストは,低発現・低感度レベル(高ドパミン濃度で反応)細胞においてアンタゴニストとして,中発現・中感度レベル細胞において部分アゴニストとして,高発現・高感度レベル細胞においてアゴニストとして作用した.アリピプラゾールのドパミンD2 受容体に対する固有活性は,統合失調症患者の陽性症状改善効果が不十分であった部分アゴニストよりも低く,また,パーキンソン病様運動障害を生じた部分アゴニストよりは高かった.アリピプラゾールの適した固有活性が優れた臨床特性(有効性と副作用の乖離)に寄与していると考えられる.アリピプラゾールを含む部分アゴニストはドパミンD3 受容体発現細胞においても部分アゴニスト作用を示した.統合失調症患者において抗うつ効果が報告されている抗精神病薬は,ドパミンD3 受容体発現細胞と比べてドパミンD2 受容体発現細胞に対して,より低濃度でアンタゴニスト作用を示した.これらの抗精神病薬の低濃度でのドパミンD2・D3 受容体アンタゴニスト作用の乖離が抗うつ効果に寄与している可能性がある.
著者
唐木 晋一郎 桑原 厚和
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.123, no.3, pp.211-218, 2004 (Released:2004-02-29)
参考文献数
3
被引用文献数
4 6

短絡電流法は,上皮膜における電解質輸送を電気生理学的に測定する技術である.この方法は,感度が非常に高く,時間的にも早い反応をリアルタイムに測定できるという点で,非常に優れた測定法であり,上皮膜の生理機能解析はもちろん,その他様々な方面への応用が可能である.例えば,腸管神経系は腸管上皮の電解質輸送を制御しており,腸管上皮の電解質輸送の変化を測定することで,腸管神経系の神経活動を解析することが可能である.本稿では,短絡電流法の原理と,実際に実験を行うための設備や手順について概説する.
著者
佐藤 亮介 萩原 加奈子 喜多 綾子 杉浦 麗子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.147, no.6, pp.340-345, 2016 (Released:2016-06-11)
参考文献数
25

ERK MAPK経路やPI3K/Akt経路といった細胞内シグナル伝達機構は真核生物に高度に保存されており,細胞増殖や分化,アポトーシスといった様々な生命現象を制御している.このようなシグナル伝達機構に破綻が生じると,がんや自己免疫疾患,糖尿病,神経変性疾患などの疾病の引き金となることが知られている.したがって,シグナル伝達機構の制御機構を明らかにすることは,病態のメカニズム解明にとどまらず,疾病治療という観点からも極めて重要である.近年,シグナル伝達ネットワークを時空間的にダイナミックに制御する機構として,「RNA顆粒」という構造体が注目を集めている.ストレス顆粒やP-bodyといったRNA顆粒は,ポリ(A)+ RNAやRNA結合タンパク質などから構成されており,mRNAのプロセシングや分解,安定化といった転写後調節に関わる「RNAの運命決定装置」として発見された.我々は酵母遺伝学とゲノム薬理学的研究を展開することにより,MAPKシグナル依存的にストレス顆粒に取り込まれるRNA結合タンパク質を同定し,MAPKシグナルがストレス顆粒の形成を制御していることを見出した.さらに,カルシウムシグナルのキープレーヤーであり,免疫抑制薬FK506の標的分子でもあるSer/Thrホスファターゼ「カルシニューリン」がストレス顆粒に取り込まれることで,カルシニューリンシグナルが空間的に制御されていることを見出した.このような「ストレス応答やシグナル制御の拠点」としてのRNA顆粒の役割に関して種を超えた理解が進みつつあり,異常なRNA顆粒の形成と神経変性疾患やがんなどの病態との興味深い関係が浮かび上がりつつある.本総説では,我々の研究が明らかにしたシグナル伝達制御とRNA顆粒との関わり,その疾患治療への応用の可能性について紹介する.
著者
内田 勝幸 野口 裕司 荒川 礼二郎 橋本 佳子 五十嵐 康子 本多 秀雄
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.100, no.4, pp.293-300, 1992 (Released:2007-02-13)
参考文献数
28
被引用文献数
1 1

塩酸アンブロキソール(アンブロキソール)の気道粘液分泌および肺表面活性リン脂質分泌に対する効果をそれぞれラットおよびモルモットを用いて検討した.気道粘液分泌に対しては組織学的および生化学的に検討した.アンブロキソールは用量依存的に気道のムコ多糖を増加させ,肥厚した杯細胞数も用量依存的に増加した.また,中性ムコ多糖も有意に増加し,組織学的には気管腺の肥厚およびPAS陽性物質の増加が認められた.このことは,アンブロキソールが気管腺においては漿液性の粘液分泌を亢進させることを示唆する成績と考えられた.一方,肺洗浄液中のホスファチジルコリンはアンブロキソール投与により有意な増加を示さなかったが,飽和のホスファチジルコリンが占める割合は有意に増加し,アンブロキソールの肺表面活性リン脂質の分泌亢進作用を示唆する成績であった.以上の結果からアンブロキソールの去痰作用の機序として気道粘液分泌および肺表面活性リン脂質分泌の亢進作用が考えられた.
著者
横井 毅
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.134, no.6, pp.334-337, 2009 (Released:2009-12-14)
参考文献数
17

チトクロムP-450(CYP)を中心とした前臨床試験スクリーニング系の発達により,第II相代謝酵素で触媒される候補化合物が増加傾向にあると言われている.ヒトにおける代表的な第II相代謝酵素は,グルクロン酸抱合酵素(UGT)であり,近年多くの研究成果が集積されてきている.しかし,CYPと比べ前臨床試験スクリーニングへの応用は進んでいない.UGTのヒトin vivo代謝反応の予測系の確立は,UGTの様々な特性が原因で進展していない.特異的阻害薬が無いこと,活性化が認められること,さらに抱合代謝物によるUGT阻害などが試験系を難しくしている.さらに,種差および肝外臓器における情報は極めて少ない.グルタチオン抱合や硫酸抱合代謝物は,排出型トランスポーターの影響を受けるが,体内動態に及ぼす影響の検討が必要である.今後,CYP等の第I相と第II相酵素反応を同時に考慮できる評価系の構築が期待されている.
著者
堀井 郁夫 浜田 悦昌
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.6, pp.463-467, 2007 (Released:2007-06-14)
参考文献数
3

医薬品の開発を進めるに際しては開発ステージに応じた非臨床安全性試験の実施が求められており,その基本となっているのが,単回投与毒性試験と反復投与毒性試験,いわゆる一般毒性試験である.単回投与毒性試験は単回投与によって概略の致死量(げっ歯類)や毒性兆候が発現する用量(非げっ歯類)を明らかにすること,反復投与毒性試験は繰り返し投与によって誘起される毒作用を明確にし,毒作用を誘起する用量と毒作用の認められない用量(無毒性量)を明らかにすることを目的としている.実験方法や実施時期はICHの合意に基づいたガイドラインで規定され,詳細について記載した解説書も発行されている.両試験とも試験で認められた種々の変化のどれが毒作用か,認められた毒作用はcriticalか否か,暴露状態と毒作用の関係等を考慮し,慎重に結果を解釈する必要がある.更に,毒作用の発現機序,発現の程度,回復性,治療係数,臨床試験上の対処手段等の観点から総合的に安全性評価を行うことが,適切な臨床開発を進めるためには不可欠である.
著者
中村 明夫 今泉 晃 柳川 幸重
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.124, no.6, pp.427-434, 2004 (Released:2004-11-26)
参考文献数
58
被引用文献数
2

β2アドレナリン交感神経受容体(β2-AR)刺激薬の大部分は未変化のまま腎臓より排泄されるため,ネフロンを通過する過程でなんらかの薬理学的効果を発揮すると思われる.しかしながら,β2-ARの腎機能調節における役割が明らかにされていないため,実際の使用時には,このような薬理効果は考慮されていない.腎臓のβ2-ARは主に近位尿細管上皮細胞と,腎動脈の平滑筋細胞膜に分布している.これらの発現の部位を考えれば,β2-ARは糸球体機能や,ネフロンでのナトリウムと水分バランスに作用していると思われる.実際,β2-AR刺激薬を投与すると腎糸球体濾過率は著しく低下する.一方,β2-AR刺激薬は腎臓での炎症性サイトカイン,例えばTNF-αの産生を阻害する.さらに,β2-AR刺激薬は溶血性尿毒症症候群(HUS)の志賀毒素によるアポトーシスの誘導を抑制することがわかっている.腎臓のβ2-AR機能に関して薬理学的根拠に基づいた理解を進めることは,呼吸器疾患で投与されるβ2-AR刺激薬の腎機能を考慮した適正使用についてや,敗血症とHUSに伴う腎臓の炎症や障害に対する治療について重要かつ新しい情報を提供することになる.
著者
内原 脩貴 多胡 憲治 多胡 めぐみ
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.153, no.4, pp.147-154, 2019 (Released:2019-04-11)
参考文献数
27
被引用文献数
1 2

BCR-ABLは,慢性骨髄性白血病(CML)や急性リンパ芽球性白血病(ALL)の原因遺伝子産物であり,転写因子STAT5やキナーゼAktの活性化を介して強力な形質転換能を示す.BCR-ABLを標的とした分子標的薬イマチニブの開発により,CMLやALLに対する治療効果は劇的に改善された.しかしながら,イマチニブの継続的な投与により,bcr-abl遺伝子にイマチニブ耐性を示す二次的な突然変異が生じることも報告されている.これまでに,イマチニブ耐性CMLやALLに対する第二世代のBCR-ABL阻害薬として,ニロチニブやダサチニブが開発されているが,BCR-ABLのATP結合領域に存在するT315I変異は,これらの第二世代のBCR-ABL阻害薬に対しても抵抗性を示すため,薬剤耐性を克服した新規の白血病治療薬の開発が望まれている.我々は,ヒノキ科ヌマスギ属の針葉樹であるラクウショウの球果から抽出されたアビエタン型ジテルペン化合物であるタキソジオンが,細胞内の活性酸素種(ROS)を産生することにより,BCR-ABL陽性CML患者由来K562細胞のアポトーシスを誘導することを見出した.タキソジオンは,ミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅲの活性を阻害することにより,ROSの産生を誘導した.また,タキソジオンは,ROSの産生を介して,BCR-ABLやその下流シグナル分子であるSTAT5やAktをミトコンドリアに局在させ,これらの分子の活性を阻害するというユニークな機序により,BCR-ABL陽性細胞のアポトーシスを誘導することを新たに見出した.さらに,タキソジオンは,T315I変異を有するBCR-ABL発現細胞に対しても強力な抗腫瘍活性を示すことが明らかになった.我々の研究成果は,タキソジオンがBCR-ABL阻害薬に耐性を示すCML,ALLの新たな治療薬として応用できる可能性を示すと共に,BCR-ABL以外の原因遺伝子に起因する様々な腫瘍性疾患に対する治療薬開発においても重要な手掛かりとなると期待される.

2 0 0 0 OA 神経毒性試験

著者
高橋 宏明 高田 孝二
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.131, no.6, pp.462-467, 2008 (Released:2008-06-13)
参考文献数
8

農薬などの化学物質の安全性評価の分野では,脳神経系の機能,形態,発達への影響を体系的に評価するガイドラインが整備されている.その特徴は,一般毒性試験を1次スクリーニング試験と位置づけ,成獣期ならびに発達期のガイドラインを揃えることによって,脳神経系への影響を段階的に評価することにある.本稿では,神経毒性に関連するガイドラインを紹介し,世界的な標準であるOECDガイドラインに基づいて哺乳動物を対象にした神経毒性試験を解説した.
著者
中川 俊人
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.135, no.2, pp.84-86, 2010 (Released:2010-02-14)
参考文献数
15

ヒトにおける薬物動態予測は医薬品開発にとって非常に重要である.種々の予測法がある中,in vitro試験からの予測法は,動物種差を考慮せず,理論に基づく予測が可能であるため,様々な手法について,近年盛んに研究・報告されている.特に肝ミクロゾームや肝細胞などをもちいた代謝クリアランスの予測や薬物間相互作用の予測は,近年の低分子医薬品開発にとって非常に影響が大きい.それらを中心に,種々のin vitro試験からのヒト体内動態予測法について概説する.
著者
平山 良孝 茅切 浩
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.119, no.1, pp.45-53, 2002 (Released:2002-12-10)
参考文献数
73
被引用文献数
1 1

カリクレイン-キニン系は循環調節,炎症·アレルギー,痛み,ショック等において多くの生理的,病態生理的役割を果たしていると考えられている.キニンの受容体にはこれまでにB1およびB2の2種類が知られており,ブラジキニン(BK)をはじめとしたキニンはそれらの受容体を介して作用を示す.B2受容体は多くの組織において恒常的に発現されており,キニンの大部分の生理学的活性を媒介していると考えられている.一方,B1受容体は炎症反応や組織傷害等により発現が誘導され,炎症反応の維持やそれに伴う痛みに関与していることが示唆されている.B2受容体に対する拮抗薬の研究はBKのペプチドアナログから始まり,最近では非ペプチド性拮抗薬に主流は移っているが,臨床試験結果が開示されているのはペプチド性拮抗薬NPC567,CP-0127とHOE-140の3剤である.これらの薬剤は,鼻炎,気管支喘息,全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome: SIRS)·敗血症,外傷性脳傷害等で評価され,ある程度BKの関与について示唆する役割を果たしたが,いずれも治療薬として期待されたほどの作用を示したとは言えなかった.また,いずれの試験についても,拮抗薬としての効力や試験時の投与用量·用法に関してB2受容体拮抗薬の力量を充分に判断できる試験であったかどうか,疑問が残されている.今後は新しく見出された拮抗薬を中心に,これら既存の適応症に対する有効性に関して結論が出されるとともに,これまでに試されてこなかった適応症に対しても可能性を確かめられることが望まれる.B1受容体拮抗薬については未だに臨床評価されたものはないが,ペプチドタイプ拮抗薬やB1受容体遺伝子KOマウスでの検討によりその役割が明らかにされつつあり,今後のさらなる研究の進展が期待される.
著者
松井 広
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.148, no.2, pp.64-68, 2016 (Released:2016-08-01)
参考文献数
27

光遺伝学は,開発当初から,主に脳神経細胞に適用されてきた.しかし,光遺伝学のアイディア自体は,どんな細胞の光制御にも応用可能である.多種の細胞が形作るネットワークを,何らかの信号が行き交うことで,多細胞生物である我々は,ひとつの個体として,整合性のある活動を行っている.本稿では,脳内グリア細胞に光遺伝学を適用した例を紹介する.また,光遺伝学は,細胞内pH操作のツールとしても活用できる.私たちの研究を通して,細胞内pH変動から始まるシグナル・カスケードの重要性が明らかになってきた.本稿の後半では,脳内において,細胞内pHが変動する要因,また,pH変動が及ぼす効果について,これまでの先行研究をまとめて総説する.
著者
阿部 正義 清水 直美 柴田 和彦 桂木 猛
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.116, no.supplement, pp.88-93, 2000 (Released:2007-01-30)
参考文献数
12

気管支喘息の病態での補体活性化の関与を検討した。能動感作ラットに抗原(OA)と共に補体活性化産物であるアナフィラトキシンC5aを気管内投与すると、即時型反応に引き続いて持続的な気道抵抗の上昇を認めた。同時に胆汁中の Cysteinyl-Leukotrienes の主要な代謝物であるN-Ac-LTE4を測定するとOAとC5aの同時刺激により持続的に肺での Cysteinyl-Leukotrienes 産生の増加が認められた。一方、能動感作ラットにOAを反復曝露することにより気道粘膜下組織に好中球を中心とした著明な炎症性細胞浸潤と遅発型の気道反応をおこす実験モデルを作成した。肺組織を抗C5a受容体抗体で免疫染色すると、浸潤した好中球並びに肺胞マクロファージにその発現が認められた。次に、補体系をその上流(C3およびC5転換酵素レベル)で阻害する、二種類の抗補体剤(nafamostat mesilate (Futhan) 並びに sCR1)で前処置してから抗原を曝露すると、いずれも遅発型反応を抑制したがsCR1の方がより強く抑制した。病理組織学的にも反復抗原曝露による炎症性細胞浸潤はsCR1前処置により著明に抑制された。またC5a受容体拮抗剤で前処置すると遅発型気道反応並びに気道粘膜下への細胞浸潤はともに抑制された。更に、sCR1前処置により補体系を阻害したラットに抗原とともに微量の C5a des Arg を気管内に投与すると遅発型気道反応並びに気道粘膜下組織への炎症性細胞浸潤の両方を再現することができた。一方、Interleukin-8ファミリーに属する Cytokine-induced neutrophil chemoattractant-1 (CINC-1) は C5a des Arg の100倍濃度まで使用しても有意の作用は認められなかった。以上より、反復する抗原・抗体反応により産生される気道内の微量C5aが一部の喘息の病態を重症化していると考えられ、抗補体剤、殊にアナフィラトキシンC5a受容体拮抗剤は新規の抗喘息薬に成り得る可能性が示唆される。
著者
斎藤 祐見子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.1, pp.34-38, 2007 (Released:2007-07-13)
参考文献数
35

Gタンパク質キメラを利用したアッセイ法により,オーファン受容体SLC-1に対する内在性リガンドをラット脳から精製し,メラニン凝集ホルモン(MCH)であることを同定した.MCHは魚類の体色変化を引き起こす一方,哺乳類では視床下部外側野に著しく局在し,摂食行動に深く関与することが知られていた.このように注目される鍵分子でありながらもMCH受容体の正体は謎であった.本受容体の発見により,様々な遺伝子改変動物が作製され,また,選択的アンタゴニスト開発および行動薬理学的解析が大きく進展した.この結果,MCH系は摂食/エネルギー代謝の他に,うつ不安行動にも関与することが強く示唆されている.MCH受容体は創薬創出の有望な標的分子となりつつある.
著者
曽我 史朗
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.141, no.1, pp.9-14, 2013 (Released:2013-01-10)
参考文献数
13
被引用文献数
1

天然物由来の生理活性物質(Geldanamycin,Radicicol)の生理活性メカニズムを,酵母やがん細胞を使ったバイオロジーを組み合わせて解析していくことによって,heat shock protein 90(Hsp90)が重要な抗がん薬標的であることが明らかにされてきた.Hsp90は,がんの増殖・生存に関わる多くの“クライアントタンパク質”の機能維持に必須であり,Hsp90阻害によってこれらクライアントタンパク質の機能をマルチに阻害することによって種々のがん細胞に対して抗腫瘍活性を示す.Hsp90阻害薬の臨床応用はGeldanamycin誘導体で先行して実施されてきたが,それらとは全く異なる骨格を持つ新規Hsp90阻害薬KW-2478を創製し臨床試験が進んでいる.本報ではHsp90が抗がん薬標的として発見されてきた経緯,新規Hsp90阻害薬KW-2478の研究開発,およびHsp90阻害薬開発の現状等について紹介する.
著者
神庭 重信
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.128, no.1, pp.3-7, 2006 (Released:2006-08-29)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

あらゆる疾患の原因は,遺伝子と環境とで説明できる.たとえば,交通外傷は環境が,血友病のような遺伝子疾患は単一遺伝子が原因である.そしてがん・糖尿病・高血圧などの生活習慣病の発症には遺伝子と環境による同程度の寄与が推定されている.精神疾患の多くは,これら生活習慣病に類似しており,遺伝子の影響と環境の寄与がほぼ同程度であると考えられている.環境が精神疾患の発症に関与するとして,それには大きく二つの関わり方がある.一つは,精神疾患の発症脆弱性を作る環境ストレスであり,他は精神疾患の発症の誘因としてのそれである.発症脆弱性の形成に関わるストレスとして問題になるのは,幼弱期の環境である.胎児期から幼少時期,脳が発生・発達しつつあるとき,脳は環境への感受性が高く,かつ好ましい環境を強く必要とする.たとえば胎児期であれば,妊娠中の母親の受けるストレスが脳発達に影響することが知られている.また幼少時期であれば,親子関係を中心とする家庭環境の影響は極めて大きい.同じ遺伝子を共有する一卵性双生児でも,形質に違いが見られ,統合失調症や双極性障害で不一致例がみられる.これは一卵性双生児のおかれたおなじ生活環境でも,個々人のユニークな体験が重要であることを意味する.さらに言えば,発症に予防的に作用する環境もあれば,促進的に作用する環境もあるだろう.本稿前半では,環境と遺伝が精神疾患にどのように関わっているのか,その最新の知見を説明し,後半では,心理的ストレスが脳の微細構造,なかでも海馬の錐体細胞の萎縮あるいは神経新生に影響を与えることの実験的証拠を紹介する. 本特集は,万有生命科学振興国際交流財団主催のセミナーを元にしたものです.
著者
島崎 敦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.128, no.4, pp.250-254, 2006 (Released:2006-10-13)
参考文献数
33
被引用文献数
1 1

視神経障害を伴い視野が欠損していく緑内障の治療は,眼圧下降点眼薬または手術によって危険因子となる眼圧を長期に渡りコントロールすることが基本となっている.そのため,眼圧下降点眼薬は緑内障治療において非常に重要な役割を担っている.既存の眼圧下降点眼薬は作用機序により,副交感神経作動薬,交感神経作動薬,交感神経遮断薬,プロスタグランジン系薬および炭酸脱水酵素阻害薬に分類され,複数の薬剤を併用する場合は,それぞれの薬理作用が相殺されないような組み合わせで用いられる.現在,これまでとは異なる新規な作用機序を有する眼圧下降点眼薬として線維柱帯作用薬が開発されている.また,米国では薬物治療の新しいアプローチとして,障害を受ける視神経を直接保護する視神経保護薬が開発されている.今後,緑内障患者のQOLをこれまで以上に高める薬剤の開発が望まれるが,そのためには多因子疾患である緑内障の病態を解明し,緑内障病態をより反映した動物モデルを確立するとともに,そこで得られた知見から新しい薬剤ターゲットを見出すことが課題となっている.近年の遺伝子解析技術の発展に伴い,緑内障病態が更に解明されていくことを期待したい.
著者
石黒 茂 西尾 晃 宮尾 陟 森川 嘉夫 竹野 一 柳谷 岩雄
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.90, no.3, pp.141-146, 1987 (Released:2007-02-23)
参考文献数
24
被引用文献数
1

マグネシウム(Mg)欠乏飼料で幼若ラットを飼育すると脾臓のヒスタミン含量が著明に増加する.この増加したヒスタミンがどのような細胞に含まれているのかを明らかにする目的で組織学的観察を行った.Mg欠乏飼料(0.001%Mg)で幼若ラット(平均体重50g)を飼育すると,8日目には脾臓の腫大がみられ,対照ラットの約2倍の重量を示し,ヒスタミン含量は約30倍に増加した.エポキシ樹脂包埋の厚切標本の光学顕微鏡観察により多数の顆粒細胞が観察された.電子顕微鏡観察では,核の形態と顆粒の電子密度から好中球および好酸球が鑑別されるが,この二種類の細胞以外に,数個から20数個の顆粒を含有する細胞が観察された.この細胞の顆粒の大きさは肥満細胞の約2倍(1μmを越える)に達するものも認められた.遊離脾臓細胞をギムザ染色すると,Mg欠乏ラットでは,対照ラットでは観察されなかった好塩基性骨髄球および好塩基球の出現が観察された.これらの細胞内にはo-phthalaldehydeと反応して黄色の螢光を示す顆粒が散在して認められた.一方,腹腔肥満細胞を同様にo-phthalaldehydeと反応させると黄色の螢光を示す顆粒は密に存在しており,好塩基性細胞のものとは異なっていた.以上の成績より,Mg欠乏ラット(Mg欠乏8日目)脾臓のヒスタミン含量増加には,好塩基球の増加が関与していることが示唆された.
著者
服部 裕一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.152, no.1, pp.10-15, 2018 (Released:2018-07-11)
参考文献数
21

ヒスタミンは,生体内において,炎症,アレルギー反応,胃液分泌,神経伝達など,多岐にわたる生理活性作用を有し,これら作用はGタンパク質共役型ヒスタミン受容体を介して引き起こされるが,これまでにH1,H2,H3,H4の4種類のヒスタミン受容体が同定されている.1990年代の終わりから,次々と,これらヒスタミン受容体を欠損させた,あるいはヒスタミン合成酵素であるヒスチジン脱炭酸酵素(HDC)を欠損させた,ヒスタミン関連遺伝子のノックアウトマウスが開発され,ヒスタミンの新たな生理的,病態薬理学的役割が見出されている.敗血症は,高齢者人口の増加,悪性腫瘍や移植時の化学療法などによる免疫機能の低下,多剤耐性菌の出現などにより,症例数は増加の一途をたどり,現在においてもなお高い死亡率を有している.現在,敗血症は,感染に対する制御不能な宿主反応による生命に関わる臓器不全と定義されるようになったが,急性肺傷害をはじめとする敗血症性臓器不全の発症・進展機構は,未だ十分に理解されていない.敗血症病態においてヒスタミンの血中レベルが上昇するという報告は古くから知られており,ヒスタミンが敗血症病態の修飾に関与し,ヒスタミンが敗血症による主要臓器の組織傷害の進展に寄与している可能性が想定される.本稿では,HDCノックアウトマウスと,H1およびH2受容体ダブルノックアウトマウスを用いて,盲腸結紮穿孔により多菌性敗血症にしたときの主要臓器における組織傷害の程度の,ヒスタミンが欠損している場合,そして,H1およびH2受容体が欠損している場合での修飾的変化について紹介し,敗血症性臓器障害におけるヒスタミンの役割について考察する.