著者
渡邊 泰男
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.147, no.5, pp.285-289, 2016 (Released:2016-05-13)
参考文献数
36

システインのチオール基側鎖にイオウ原子が繋がったポリサルファー化システインなどの活性イオウ分子は,細胞のレドックス恒常性の維持に重要な生理活性物質である.実は,これまでに,ほ乳類動物では活性イオウ分子の存在が知られていたが,その生体におけるシグナル応答と制御メカニズムについては不明であった.近年,質量分析法によるプロダクト解析によって,ヒト組織・血漿中に低分子から高分子の多種多様な活性イオウ分子が存在することが発見された.その一部は既知のグルタチオンと比しても,極めて強力な活性酸素消去能を有することが分かってきた.興味深いことは,このポリサルファーシステインは,タンパク質の構成アミノ酸にも認められていることである.これまで,タンパク質構成アミノ酸中の特定のシステインのチオール基の化学修飾(酸化,S-ニトロシル化,S-グルタチオン化,アルキル化)が,そのタンパク質の機能制御に関わることが報告されていた.つまり,この〝再発見〟された活性イオウ分子は,これまでのシステインチオール基を介した酸化修飾に新たに,あるいは既に相乗りする形でタンパク質機能を制御していると考えられる.本稿では,活性イオウ分子のユニークな生理機能の1つである細胞内タンパク質の修飾について,これまでのシステインのチオール基の化学修飾との関連性について述べる.
著者
植田 勇人
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.2, pp.116-118, 2007 (Released:2007-02-14)
参考文献数
15

欧米の抗てんかん薬の臨床開発事情から10数年の遅れをとり,我が国でもここ数年以内にトピラメイト,ラモトリジン,レベチラセタムなどの上市をみる予定である.2006年には既にガバペンチンが上市された.いずれも他剤との併用療法使用に限られるが,それぞれが有する抗てんかん作用機序が異なるため,従来の抗てんかん薬に難治性を示してきたてんかん性病態に対しての多角的なアプローチが可能で,多くの奏功事例を産むことが強く期待される.ここでは,すでに海外で報告されている新規抗てんかん薬の副作用や従来薬との相互作用などに触れながら,薬物治療の将来展望に言及する.
著者
笠松 真吾 藤井 重元 赤池 孝章
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.147, no.5, pp.299-302, 2016 (Released:2016-05-13)
参考文献数
10

システインパースルフィドなどの活性イオウ分子種は,チオール基に過剰にイオウ原子が付加したポリスルフィド構造を有する化合物であり,通常のチオール化合物に比べ,高い求核性と抗酸化活性を有している.近年,ポリスルフィドは,システインやグルタチオンなどの低分子チオール化合物だけでなく,タンパク質中のシステイン残基にも多く存在し,細胞内の様々なタンパク質がポリスルフィド化されていることが明らかになってきた.タンパク質中のシステインチオール基は,活性酸素や親電子物質によりもたらされる酸化ストレスのセンサーとして重要な役割を果たしていることが知られており,ポリスルフィド化はタンパク質機能制御を介したレドックスシグナル伝達メカニズムとして,細胞機能制御に関与することが予想される.しかしながら,複雑な化学特性を有するポリスルフィドは検出が難しいことから,生体内におけるタンパク質ポリスルフィド化の分子メカニズムやその生理機能は不明な点が多く残っており,特異的で高感度,かつ簡便なポリスルフィド化タンパク質検出方法の開発が求められている.タンパク質ポリスルフィド化の検出に関してはこれまで様々な問題点があり研究進展の妨げになっていたが,最近,信頼性のあるポリスルフィド化タンパク質の解析方法が報告され,様々なタンパク質が内因的にポリスルフィド化していることや複雑なポリスルフィドの構造と化学特性などが徐々に明らかになってきている.検出におけるいくつかの問題点は残されているものの,プロテオミクス研究への応用も期待されている.今後さらに,タンパク質ポリスルフィドのユニークな構造と化学特性に基づく特異的で高感度な検出方法の開発を進めることにより,タンパク質ポリスルフィドの生物学的意義の解明が大きく進展するものと考えられる.
著者
北村 明彦 畝山 寿之
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.6, pp.306-310, 2015 (Released:2015-06-10)
参考文献数
18

自律神経を構成する交感神経と副交感神経は,一般的に脳から末梢臓器へ情報伝達を行う遠心路としての機能がよく知られているが,これらの自律神経束には求心性神経線維も含まれている.特に,迷走神経束はその70%以上が求心性であり,内臓感覚神経として機能していることが知られている.求心路の働きにより各臓器の状態がモニターされ,自律神経反射によって生体恒常性が維持されている.我々はこれまで,消化管での栄養素受容を求心性迷走神経の活動を指標として評価を行うとともに,その自律神経反射について検討を行ってきた.迷走神経活動測定にはいくつかの方法があり,研究の対象によって評価法を選ぶ必要がある.本稿では,腹部迷走神経が担う栄養素情報の解析に有効な求心性迷走神経線維からの神経活動記録法と,その薬理特性を検討するのに有効な迷走神経下神経節単離ニューロンからの神経活動記録法について紹介する.
著者
岡村 信行 原田 龍一 工藤 幸司 谷内 一彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.146, no.3, pp.144-149, 2015 (Released:2015-09-10)
参考文献数
20
被引用文献数
2

ミスフォールディングタンパク質の脳内蓄積は,血液脳関門透過性を有するβシート結合プローブを放射性標識し,これを生体に投与することによって計測可能である.PET(陽電子断層撮像法)を用いたアミロイドβタンパク質および微小管結合タンパク質(タウ)のin vivo計測法が近年実用化され,アルツハイマー病に代表される神経変性疾患の診断補助マーカーとして活用されている.またアルツハイマー病における中核的病理像の存在を直接的に反映するバイオマーカーとして,新規治療薬の概念実証や治療対象者の絞り込みにも利用される.アミロイドイメージングでは標準的なPETプローブである[11C]PiBのほか,デリバリー供給も可能な18F標識薬剤が複数実用化されている.近年のアミロイドPET研究では,認知機能の障害されていない高齢者でも高頻度にアミロイドβタンパク質の脳内蓄積が観察されている.プレクリニカル・アルツハイマー病と呼称されるこうした高齢者の一群は,認知症発症のハイリスク群とみなされ,予防的介入研究の対象とされている.一方,脳内に蓄積したタウを画像化する技術はまだ確立されていないが,複数の有力なPETプローブが開発され,その臨床応用報告が近年相次いでいる.タウPETプローブの脳内集積量は疾患重症度とよく相関し,神経変性との密接な関わりを持つ新たな画像バイオマーカーとして注目されている.本技術は疾患モデル動物を用いた小動物イメージングにも応用可能である.これまで死後にしか知り得なかった線維化タンパク質の脳内蓄積を経時的に追跡することで,病初期におけるミスフォールディングタンパク質の形成プロセスを明らかにし,また治療前後での変化をモニタリングすることが可能である.
著者
田原 誠 柴田 篤 桂 紳矢
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.147, no.5, pp.311-318, 2016 (Released:2016-05-13)
参考文献数
27

慢性骨髄性白血病(CML)患者の95%以上で発現しているBcr-Abl融合遺伝子は,その恒常的な活性化が白血病細胞の増殖に関与しており,Bcr-AblチロシンキナーゼはCMLの治療における分子標的と考えられている.ボスチニブ水和物(以下ボスチニブと記す)はCMLの治療薬として開発された,AblおよびSrcを選択的に阻害する経口チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)である.ボスチニブは酵素レベルではAblおよびSrcに加えて数種のイマチニブ耐性型Bcr-Ablに対しても阻害作用を示し,細胞レベルでは種々の野生型およびイマチニブ耐性のCML細胞株に対して増殖阻害作用並びにシグナル伝達阻害作用を示した.一方ボスチニブは,イマチニブ,ダサチニブおよびニロチニブと異なり,c-Kitおよび血小板由来成長因子受容体(PDGFR)に対しては阻害作用を示さず,骨髄抑制および体液貯留に起因する副作用の軽減が期待された.In vivoにおいてもボスチニブはCMLを始めとする種々の異種移植モデルにおいて,臨床的に到達可能な血漿中濃度で抗腫瘍作用を示した.臨床試験では,2次治療および3次治療のCML患者を対象として国内外で実施した第Ⅰ/Ⅱ相試験の第Ⅱ相部分(有効性検討試験)で主要評価項目に設定した2次治療の慢性期CML患者の24週時点での細胞遺伝学的大寛解(MCyR)率は,海外試験では35.5%,国内試験では35.7%であった.また忍容性は全般的に良好であり,安全性プロファイルは許容可能であった.さらに骨髄抑制および体液貯留に起因するボスチニブの副作用の発現率はイマチニブ,ダサチニブおよびニロチニブより低く,非臨床試験で示された標的阻害プロファイルの違いが臨床的に裏付けられた.これらの非臨床および臨床試験成績からボスチニブの有用性が確認され,本邦では前治療薬に抵抗性又は不耐容の慢性骨髄性白血病を適応症として2014年9月に承認された.
著者
山中 章弘
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.140, no.6, pp.280-284, 2012 (Released:2012-12-10)
参考文献数
19
被引用文献数
2

脳内に多数存在する神経細胞同士の複雑なネットワークによって,行動発現が制御されている.これまで脳内の特定の神経活動のみを高い時間精度で人為的に制御する手法が存在していなかったため,神経回路機能と行動発現を繋げる研究を行うことが難しかった.光を受容し,細胞機能に影響を与える分子を特定の神経細胞に発現させ,低侵襲的で透過性の高い光を照射することによって,特定の神経活動を操作できる手法(オプトジェネティクス(光遺伝学))が近年開発された.本手法の導入には,分子生物学,生理学,電気生理学,遺伝子工学,光工学などの様々な知識と技術が必要であったが,最近では多くの企業から光遺伝学に特化した便利な装置や物品が販売されており,導入が容易になってきている.本稿では光遺伝学を用い,インビボにおいて特定の神経活動を操作する方法について概説する.
著者
山田 清文
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.111, no.2, pp.87-96, 1998-02-01 (Released:2007-01-30)
参考文献数
50
被引用文献数
6 5

Nitric oxide (NO) is a free radical gas that is synthesized from L-arginine by NO synthase (NOS). Activation of NMDA, non-NMDA or metabotropic glutamate receptors causes NO formation through NOS activation. From data obtained in experiments performed by microdialysis together with nitrite and nitrate assay, we have proposed that NO production in the cerebellum following non-NMDA and metabotropic glutamate receptor activation may be independent of NOS activity, while NMDA receptor-mediated NO production depends on its activity. Glial cells appear to play a role in modulating NO production by regulating L-arginine availability. Activation of NMDA receptors and the increase in intracellular calcium concentration is a trigger for the long-term potentiation (LTP). NO acts as a retrograde messenger in the hippocampal LTP to enhance glutamate release from presynaptic nerve terminal, in which cyclic GMP may be involved. Behavioral studies demonstrate that NO is involved in some forms of learning and memory. Our studies suggest that NMDA/NO/cyclic GMP signaling plays a role in spatial working memory. Further, it is suggested that NO production in the brain is altered by aging. These results support the hypothesis that NO plays a role in mechanism of synaptic plasticity.
著者
北村 佳久 四宮 一昭 五味田 裕
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.132, no.6, pp.329-333, 2008 (Released:2008-12-12)
参考文献数
16
被引用文献数
1 2

うつ病の治療は抗うつ薬を中心とした薬物療法が中心である.多くの患者は抗うつ薬の服用により自覚症状が改善し社会生活への復帰が可能となっている.しかしながら,十分な治療を行っても,うつ症状の改善を見ない治療抵抗性うつ病の存在が問題とされている.これまで,うつ病の動物モデルおよび抗うつ薬のスクリーニングモデルが報告され,新規抗うつ薬の開発に寄与している.その一方,治療抵抗性うつ病を反映した動物モデルはその病態像が明確でないこともあわせて報告がなかった.そこで,我々は治療抵抗性うつ病の病態像の解明および次世代の抗うつ薬の創薬研究に応用させるため,治療抵抗性うつ病の動物モデルの作製を行った.これまで,うつ病は中枢神経系の機能異常のみならず,視床下部-下垂体-副腎皮質(hypothalamic-pituitary-adrenal axis:HPA)系の機能異常を含む中枢神経系-内分泌系の機能異常が関与していることが知られていた.特に,既存の抗うつ薬に反応しない患者に対してグルココルチコイド受容体拮抗薬の有効性も明らかにされている.そこで,我々はHPA系の過活動モデルが治療抵抗性うつ病の病態像の一部を反映していると仮定し,adrenocorticotropic hormone(ACTH)反復投与によるHPA系過活動モデルの作製を試みた.治療抵抗性うつ病の動物モデルとしての有用性については抗うつ薬のスクリーニング系であるラット強制水泳法の不動時間を指標として検討を行った.その結果,ACTH反復投与ラットではいくつかの既存の抗うつ薬の抗うつ効果が消失し,薬物反応性の側面より治療抵抗性うつ病を反映していると考えられた.この抵抗性には自殺者の死後脳で増加が報告されている5-HT2A受容体の過活動の関与を認めている.さらに,ACTH反復投与ラットでは海馬歯状回における神経細胞の新生作用が抑制されていることより,この抑制作用が治療抵抗性の病態の一部とも考えられる.本稿ではこれらACTH反復投与によるHPA系過活動モデルの治療抵抗性うつ病の動物モデルとしての有効性を紹介する.
著者
原 崇 浦野 文彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.144, no.2, pp.53-58, 2014 (Released:2014-08-10)
参考文献数
19

近年の研究成果より,小胞体ストレスが糖尿病におけるβ細胞死に深く関わっていることが明らかとなっている.本稿では,小胞体ストレスに起因するβ細胞死を抑制するための創薬アプローチとして二つの方法を紹介する.一つは小胞体ストレス依存性のアポトーシス誘導因子を見出し抑制する方法である.β細胞は小胞体ストレスに対して脆弱であり,閾値を越えた小胞体ストレスを受けると積極的にアポトーシスを誘導する.我々はこの小胞体ストレス依存性のアポトーシス誘導因子としてthioredoxin-interacting protein(TXNIP)を見出した.TXNIP は小胞体ストレスを受けると発現が上昇し,インフラマソーム活性化を介して細胞死を誘導した.TXNIP の発現を抑制すると小胞体ストレスによるβ細胞死が減少したことから,TXNIP を標的とした創薬の可能性を提示した.もう一つのアプローチは,ストレスによって生じる小胞体カルシウムの減少を抑制して細胞死を防ぐ方法である.我々はβ細胞に有害な高グルコース,脂肪酸,サイトカインなど様々な糖尿病の増悪因子がβ細胞の小胞体カルシウム量を減少させ,小胞体ストレスを引き起こし,細胞死を誘導することを示した.実際に小胞体カルシウムの減少を抑制する化合物は小胞体ストレスによるβ細胞死を防いだことから,小胞体カルシウム量を指標とした化合物スクリーニングがβ細胞死を防ぐ化合物探索に有効であることを示した.ここで示したアプローチ以外でも様々な切り口で小胞体ストレスに由来するβ細胞死を抑制することが可能であるが,それには小胞体ストレスの特性をよく知っておくことが重要である.ここでは小胞体ストレスの概要を紹介しながら,我々が検討してきた基盤研究について紹介し たい.
著者
高橋 希 鈴木 忍 酒井 兼司 東 久弥
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.2, pp.100-106, 2015 (Released:2015-02-10)
参考文献数
31

近年,上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異陽性の進行・再発非小細胞肺がん(NSCLC)に対する1次治療において,EGFR-チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の有効性が示されている.アファチニブは,EGFR(ErbB1)のほか,HER2(ErbB2)やErbB4のチロシンキナーゼ領域のアデノシン三リン酸(ATP)結合部位に共有結合することで,それらのリン酸化を阻害する不可逆的ErbB受容体ファミリー阻害薬である.非臨床研究においてアファチニブは,EGFRのほか,HER2およびErbB4のチロシンキナーゼ活性を選択的かつ持続的に阻害し,EGFR受容体を発現する種々の腫瘍細胞に対する細胞増殖抑制効果およびマウス担がんモデルに対する腫瘍増殖抑制効果を示した.国内外で実施されたEGFR-TKIを含む化学療法未治療のEGFR遺伝子変異を有する進行NSCLC患者を対象とした臨床試験では,アファチニブは標準化学療法に比べ,無増悪生存期間(PFS)の有意な延長を示したほか,健康関連の生活の質(QOL)の評価において,肺がん関連症状の改善効果を示した.アファチニブによる有害事象としては,主に下痢,発疹/ざ瘡,口内炎,爪の異常などが認められたが,その多くは支持療法,休薬/減量により管理可能であった.以上から,アファチニブの有効性,安全性が確認されたことにより,我が国では,2014年1月に「EGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌」に対する治療薬として承認された.
著者
大隅 義継
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.96, no.5, pp.205-216, 1990 (Released:2007-02-20)
参考文献数
83
被引用文献数
1

Central neurotransmitter and/or neuromodulator candidates reported to affect gastric acid secretion are: (excitatory) acetylcholine, thyrotropin releasing hormone, GABA, oxytocin; (inhibitory) noradrenaline, adenosine, bombesin, calcitonin-gene related peptide, corticotropin releasing factor, beta-endorphin, neurotensin, neuropeptide Y, insulin-like growth factor II and prostaglandins. Regulation of gastric acid secretion by central administration of these substances in experimental animals such as rats and dogs are briefly reviewed, and central inhibitory mechanisms of this function are discussed based on our studies with noradrenaline and bombesin. Roles of hypothalamic nuclei such as the ventromedial nucleus and the lateral hypothalamus in regulation of autonomic nerve activities are also described as an introductory note.
著者
奥田 耕助 田中 輝幸
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.4, pp.183-186, 2015 (Released:2015-04-10)
参考文献数
28

Cyclin-dependent kinase-like 5(CDKL5)遺伝子はXp22領域に位置し,mitogen-activated kinases(MAPKs)およびcyclin-dependent kinases(CDKs)と相同性のあるリン酸化酵素CDKL5をコードする.2003年以降,早期発症難治性てんかんを伴う重度発達障害である「X連鎖性ウエスト症候群」および「非典型レット症候群」の患児においてCDKL5遺伝子変異の報告が相次ぎ,CDKL5はてんかん・発達障害の原因遺伝子として注目を集めている.CDKL5遺伝子の主な病因変異は,リン酸化酵素活性の阻害かタンパク質自体の喪失を来すloss-of-function変異である.CDKL5タンパク質は神経細胞の核と細胞質に分布し,細胞質では成長円錐,樹状突起,樹状突起スパイン,興奮性シナプスに局在する.これまでにCDKL5は,Rho-GTPase Rac1と相互作用し,BDNF-Rac1シグナリングを介して神経細胞樹状突起の形態形成を制御すること,興奮性シナプス後部においてNGL-1をリン酸化し,NGL-1とPSD-95の結合を強化し,スパイン形態とシナプス活動を安定化すること,さらにパルミトイル化PSD-95と結合し,その結合がCDKL5のシナプス標的と樹状突起スパイン形成を制御することなどが明らかにされた.また2つの研究室からCdkl5ノックアウトマウスの作製・解析が報告され,活動性変化,運動障害,不安様行動の減少,自閉症様の障害,恐怖記憶の障害,事象関連電位の変化,複数のシグナル伝達経路の障害,けいれん誘発薬に対する脳波反応の異常,樹状突起の分枝異常,歯状回神経新生の変化などが同定された.以上の結果と我々独自のデータから,CDKL5は興奮性シナプス伝達を調節し,ヒトのCDKL5変異に伴う病態がシナプス機能異常であることが示唆される.
著者
中村 健
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.121, no.5, pp.357-364, 2003 (Released:2003-04-26)
参考文献数
28
被引用文献数
2 2 2

神経細胞は複数の細胞内カルシウム上昇メカニズムに加え,機能的に異なる構造を持っている.神経細胞が興奮した場合,それぞれのコンパートメントでどのようなメカニズムでどのように細胞内カルシウム濃度が上昇するのか,そのような局所的カルシウム濃度変化をそれぞれの部位でいかにして捉えるか,以下テクニカルな面を中心に解説する.
著者
森実 飛鳥 高橋 淳
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.147, no.5, pp.264-268, 2016 (Released:2016-05-13)
参考文献数
27
被引用文献数
1

パーキンソン病の治療としてはL-dopaをはじめとした薬剤による内服治療が標準的である.薬剤治療は初期には有効であるが,4~5年を経過すると薬の有効性が減じ,ジスキネジアやon-off現象などの副作用が出現し,薬剤のみでの疾患コントロールが困難になってくる.補助的な治療の一つとして中絶胎児組織を使った中脳細胞移植治療が欧米で試験的に行われてきた.この胎児移植では一定の効果はあるものの,ドナー細胞の供給が難しく,そのために質の安定性が保たれないことなどから一般的な治療とはなっていない.この問題点を解決すべく,人工多能性幹細胞(iPS細胞)の応用が期待されている.我々はiPS細胞からドパミン神経前駆細胞を分化誘導し,パーキンソン病に対する細胞移植治療を目指して研究を行ってきた.すでに臨床応用可能な分化誘導のプロトコールを確立し,パーキンソン病モデル動物等を用いて前臨床試験を行っている.移植した細胞は脳内に生着し,モデル動物の機能回復に寄与することを確認している.iPS細胞利用の1つのアドバンテージとして自家移植の可能性が挙げられる.自家移植は拒絶反応が最小限に抑えられて理想的ではあるが,コストや時間の問題から臨床現場で普及するにはハードルが高い.次善の策として,健常者の細胞から臨床グレードで樹立された既存のiPS細胞を用いる方法が考えられる.京都大学で始まったiPS細胞ストックプロジェクトではヒト白血球型抗原(HLA)がホモ接合体である健常人ドナーの細胞から樹立したHLAホモiPS細胞を備蓄していき,各患者の種々な型のHLAと適合し易いiPS細胞を集めている.これが整備されると将来的には様々な領域でHLA適合移植が可能となる.我々はこのストックiPS細胞を利用し,パーキンソン病に対し他家(同種)移植を行う臨床治験を計画している.
著者
佐藤 廣康 西田 清一郎 土田 勝晴
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.147, no.3, pp.144-147, 2016 (Released:2016-03-10)
参考文献数
21
被引用文献数
2

東洋医学的概念,五臓の「腎」は先天の生命力を表し,老化予防・抗病力の賦活を意味する.更年期症状,冷え,全身倦怠,水分代謝の機能低下,頻尿,夜間頻尿,尿失禁,浮腫,前立腺肥大,性欲減退,勃起障害などの臨床症状を腎虚という.腎虚に対して処方される補腎剤には六味丸・八味地黄丸・牛車腎気丸があり,六味丸に2生薬ずつ添加した生薬構成をしている.補腎剤は若年ラット(10~15週齢)と高齢ラット(35週齢以上)で血管弛緩作用に違いを示した.単一フィトケミカル(植物由来機能物質)では薬理効果の加齢的減衰が著明であるが,多成分複合薬(漢方薬を含む)は抗加齢効果を表す.六味丸は,高齢ラットでは血管内皮依存性弛緩作用が弱くなった.高齢ラットで,八味地黄丸は六味丸より強い弛緩作用を表すが,内皮依存性弛緩作用はみられず,平滑筋作用が強い.牛車腎気丸は高齢ラットで弛緩作用は増強し,血管内皮依存性弛緩作用は保たれた.含有生薬の違い(種類,含有数)から,薬理作用に加齢的差異が表れたと考えられた.一方,糖尿病ラットでは,血管弛緩作用の加齢変化は著明に見られなかった.臨床適用では,長期投与によって主訴症状を改善した.同時に圧脈波解析では動脈スティフネス(CAVI)も著明に低下させた.病態下では急性投与での効果発現は表れにくく,長期投与の必要性が示唆された.
著者
古川 哲史 黒川 洵子 白 長喜
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.147, no.3, pp.152-156, 2016 (Released:2016-03-10)
参考文献数
8

薬用人参は最もポピュラーな生薬の1つであり,東洋医学では不老長寿の薬・万能薬として使われている.その主成分はステロールサポニン(ginsenoside)であり,薬理作用としては免疫賦活作用,抗がん作用,血管拡張作用などが知られているが,その作用機序の詳細は不明である.我々は,薬用人参の心血管系に対する作用を検討した.薬用人参は,急性作用として心筋活動電位持続時間を短縮し,細胞内カルシウム濃度を低下させることで心血管系保護作用を示す.薬用人参成分の中で,ginsenoside Reが主な作用成分であった.コントロール状態では,緩徐活性化遅延整流性カリウム電流(IKs)を活性化し,交感神経刺激状態ではL型カルシウム電流(ICaL)を抑制することにより活動電位持続時間を短縮した.IKs活性化,ICaL抑制とも一酸化窒素(NO)依存性であるが,その機序は異なっていた.IKs活性化は,IKsチャネルαサブユニットKCNQ1のニトロシル化,ICaL抑制は交感神経刺激により産生されたcAMPの分解の促進によりもたらされた.NO産生源は3型NO合成酵素(NOS3,別名eNOS)であり,eNOS活性化はカルシウム非依存性であり,リン酸化酵素Akt依存性であった.Aktの活性化は,性ホルモン受容体であるエストロゲン受容体,アンドロゲン受容体,プロゲステロン受容体を介して行われた.Ginsenoside Reはエストロゲン受容体,アンドロゲン受容体,プロゲステロン受容体に直接結合するが,コアクチベーターの結合を起こさないために,ゲノム作用を示さなかった.以上から,薬用人参のステロールサポニンginsenoside Reは性ホルモン受容体非ゲノム作用の特異的リガンドとして心血管保護作用を示すことが明らかとなった.
著者
仁木 一郎
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.139, no.1, pp.13-16, 2012 (Released:2012-01-10)
参考文献数
34

硫化水素(H2S)は細胞で産生されるガス性のメッセンジャーであり,その作用は多岐に及ぶ.私たちは膵B細胞を研究の対象としてH2Sの機能と産生調節について検討してきた.その結果,(1)このガスがインスリン分泌を抑制すること,(2)酸化ストレスを軽減することによって膵B細胞を障害から保護すること,(3)小胞体ストレスによる細胞死には影響を与えないこと,(4)グルコースによりH2Sの産生が増えることを報告してきた.さらに,(5)分泌刺激濃度のグルコースがH2S産生酵素であるcystathionine-γ-lyase(CSE)の発現を誘導することを発見した.ここで不思議なのは,なぜインスリン分泌刺激であるグルコースが,このホルモンの分泌を抑制するH2Sの産生を増すかである.これについて私たちは,高濃度のグルコースによってもたらされる酸化ストレスや細胞内Ca2+の恒常的な上昇に起因する障害から,H2Sが膵B細胞自らを保護する安全弁の役目を果たす,と考えている.しかし,H2S産生酵素の誘導や,その膵B細胞死に対する影響に関する結果は報告によって異なり,この方面のH2S研究を論文でフォローする場合にしばしば当惑することもあるのではないかと思う.この稿では,そういった報告間の齟齬にも触れつつ,私たちが自らの知見をもとに立てた「H2Sが膵B細胞に内蔵されたブレーキ(intrinsic brake)である」という仮説を紹介する.
著者
高野 晶寛 須原 哲也
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.128, no.3, pp.177-183, 2006 (Released:2006-09-14)
参考文献数
65

PET(positron emission tomography)は脳内の代謝や神経伝達機能の変化を生体内で測定することが可能な分子イメージングの有力な研究方法であり,統合失調症をはじめとする精神神経疾患の病態解明や治療法の開発において重要な役割を果たすと考えられている.本稿では統合失調症の病態の解明および薬物療法の開発におけるPET研究について神経伝達機能に関するものを中心に概括した.統合失調症では前部帯状回や視床でのドパミンD2受容体の低下をはじめとする様々な神経伝達機能の変化がおきていることや抗精神病薬の臨床用量の設定や評価においてPETを用いて神経受容体の占有率を測定することが必要不可欠となってきている現状などについて言及した.