著者
森川 正利
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.193-203,en17, 1954-05-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
33

The hemolytic activity of various surface active agents (SAA) and their influences on the activity of other hemolytic agents was investigated using rabbit red cells. The result : 1) The hemolytic potency of cationic SAA was markedly stronger, than that of anionic or nonionic ones. There seems to be no relation between the hemolytic activity and the surface tension of the SAA solution. 2) Tween 80, G 2162 and Softex KW (cetyl trimethyl ammonium biomide) increased the intensity the hemolysis elicited by urethane, chloral, HgCl2, Pb(NO3)2 and hypotonic solution respectively, but Span inhibited it. 3) The hemolytic activity of staphylolysin was suppressed by SAA, especially by cationic agents. The ratio of concentration of SAA and staphylolysin required to suppress hemolysis was C/CC/16C (C= the minimum hemolysing concentration). 4) The hemolytic action of Softex KW and Span 20 was inhibited by cholesterol, but this inhibition was not so strong as in the case of saponin-hemolysis.
著者
天野 託 関 貴弘 松林 弘明 笹 征史 酒井 規雄
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.126, no.1, pp.35-42, 2005 (Released:2005-09-01)
参考文献数
17

メタアンフェタミン(MAP)を5日間反復投与し,側坐核ニューロンと腹側被蓋野ドパミンニューロンのドパミンレセプターに対する感受性を検討した.MAP最終投与後5日後では,生体位の実験において,マイクロイオントホレーシスにより投与したドパミンおよびMAP対し,側坐核のニューロンは過感受性を示した.また,スライスパッチクランプ法を用いた実験でも,生体位と同様にD2レセプターに対する感受性の亢進が起こっていた.腹側被蓋野ドパミンニューロンのD1およびD2両レセプターもドパミンに対する感受性亢進が起こっていることが,スライスパッチクランプ法を用いた検討でも明らかになった.さらに,最終投与後5日後において,実験終了後のピペットから回収したmRNAをRT-PCRにより増幅した結果,側坐核ニューロンにはドパミンD1およびD2LレセプターのmRNAが存在していたが,両受容体のmRNAの発現パターンは生食投与群およびMAP投与群で,変化は認められなかった.以上の事から,MAP反復投与により,腹側被蓋野ドパミンおよび側坐核ニューロンにおいてドパミンレセプターの過感受性が起こると考えられる.しかし,ドパミンレセプターサブタイプの分画に変化がなく,おそらく細胞表面で作用するD2レセプター密度の増加か,細胞内伝達系の変化によりD2レセプターの機能が亢進している可能性が考えられる.MAPによるD2レセプターの感受性の変化にプロテインキナーゼC(PKC)が関与しているかをGFP標識PKC(PKC-GFP)のトランスロケーションをコンフォーカルレーザー顕微鏡下に観察し検討した.MAPの急性投与はSHSY-5Y細胞においてPKC-GFPのトランスロケーションを引き起こさなかった.
著者
曽良 一郎 福島 攝
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.128, no.1, pp.8-12, 2006-07-01
参考文献数
32
被引用文献数
4 2

注意欠陥・多動性障害(AD/HD:Attention Deficit/Hyperactivity Disorder)における治療薬として使用されているアンフェタミンなどの覚せい剤の作用メカニズムについては十分に解明されていないが,覚せい剤がドパミン(DA)やノルエピネフリン(NE)などの中枢性カテコールアミンを増やすことから,ADHDへの治療効果が中枢神経系におけるカテコールアミン神経伝達を介していることは明らかである.モノアミントランスポーターは主に神経終末の細胞膜上に位置し,細胞外に放出されたモノアミンを再取り込みすることによって細胞外濃度を調節している.ドパミントランスポーター(DAT)は覚せい剤の標的分子であり,ADHDとの関連が注目されている.野生型マウスに覚せい剤であるメチルフェニデートを投与すると運動量が増加するが,多動性を有しADHDの動物モデルと考えられているDAT欠損マウスでは,メチルフェニデート投与により運動量が低下する.野生型マウスではメチルフェニデート投与後に線条体で細胞外DA量が顕著に増加するのに対して,DAT欠損マウスでは変化がなく,これに対して前頭前野皮質では,野生型マウスでもDAT欠損マウスでもメチルフェニデートによる細胞外DA量の顕著な上昇が起こった.前頭前野皮質ではDA神経終末上のDATが少ないためにDAの再取り込みの役割をNETが肩代わりしていると考えられており,メチルフェニデートは前頭前野皮質のNETに作用して再取り込みを阻害するためにDAが上昇したと考えられた.筆者らは,この前頭前野皮質におけるDAの動態が,メチルフェニデートによるDAT欠損マウスの運動量低下作用に関与しているのではないかと考えている. 1937年に米国のCharles Bradley医師が多動を示す小児にアンフェタミンが鎮静効果を持つことを観察して以来,注意欠陥・多動性障害(AD/HD:Attention Deficit/Hyperactivity Disorder)におけるアンフェタミンなどの覚せい剤の中枢神経系への作用メカニズムについて数多くの研究がなされてきたが,未だ十分に解明されていない.覚せい剤がドパミン(DA)やノルエピネフリン(NE)などの中枢性カテコールアミンを増やすことから,ADHDへの治療効果が中枢神経系におけるカテコールアミン神経伝達を介していることは明らかである.健常人への覚せい剤の投与は興奮や過活動を引き起こすにもかかわらずADHD患者へは鎮静作用があることから,覚せい剤のADHDへの効果は「逆説的」と考えられている.本稿では覚せい剤の標的分子の一つであるDAトランスポーター(DAT)に関する最近の知見を解説するとともに,我々が作製したDAT欠損マウスをADHDの動物モデルとして紹介し,ADHDの病態メカニズム解明に関する近年の進展について述べる.<br>
著者
冨永(吉野) 恵子 小倉 明彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.142, no.3, pp.122-127, 2013 (Released:2013-09-10)
参考文献数
30

海馬で獲得された記憶情報は,時間とともに海馬から皮質に転送され,安定な長期記憶となるとされる.記憶の獲得は,海馬を含む回路内のシナプスで,直ちに伝達効率が変化することで起こると考えられている.これに対応する細胞レベルの現象が,長期増強現象(LTP)である.しかし,LTPと長期記憶をつなぐ固定の過程については未解明の点が多く,細胞レベルの研究と行動レベルの研究にギャップがある.私たちはそのギャップを埋めるため,独自の実験系を立ち上げた.げっ歯類新生仔脳から海馬切片を作り培養下で成熟させると,生体脳と等価な神経回路をガラス器内に再現できる.この系にLTPを繰り返し誘発すると,伝達強度がゆっくりと増大し,増強状態が数週間以上持続する.RISEと名づけたこの現象は,既存シナプスでの伝達効率調節現象であるLTPとは異なり,シナプス自体の増加を伴う構造可塑性現象であった.その様子を追跡すると,初期には樹上突起棘の発出と退縮の両者が高まり,その後退縮が先に収まって,結果的に増加がおこるという経過をとった.また,RISEの成立には,BDNFや幼若型AMPA受容体(Ca2+透過型受容体)が,原因として関与している.現段階ではRISEが行動上記憶の固定過程のガラス器内再現だと断定はできないが,少なくとも海馬を含む皮質ニューロンに,こうした構造可塑性を起こす能力が備わっていることが示された.即時的変化とは別の,ゆっくり発達する構造可塑性現象RISEは,細胞レベルと行動レベルのギャップを埋める実験系となる可能性がある.
著者
川崎 博已 黒田 智 三牧 祐一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.115, no.5, pp.287-294, 2000 (Released:2007-01-30)
参考文献数
43
被引用文献数
3 5

インスリンは,糖代謝ばかりでなく内因性血管作動物質として循環調節に関与している可能性が示唆されている.インスリンの血管作用は複雑で,血管収縮性に働いて血圧上昇を起こす作用と血管拡張性に作用して降圧を生じる相反する作用が知られている.インスリンの慢性効果として腎Na+の再吸収促進による体液量増加,中枢神経を介した交感神経活動増加による血中ノルアドレナリン,アドレナリン上昇,血管平滑筋細胞の増殖促進によって間接的に血管抵抗を増して血圧上昇を起こす.一方,インスリンの急性効果として血管に対する直接作用である血管拡張作用があり,その機序としてNa+,K+-ATPase活性充進に基づく血管平滑筋膜の過分極,Ca2+-ATPase活性増加による細胞外へのCa2+流出と細胞内Ca2+濃度の低下,βアドレナリン受容体を介する細胞内cyclicAMP濃度上昇の促進,血管内皮細胞における一酸化窒素の合成促進と遊離による血管弛緩が考えられている.抵抗血管ではカルシトニン遺伝子関連ペプチド受容体を介した内皮非依存性の血管弛緩作用の機序もある.本態性高血圧ではインスリン抵抗性とともに高インスリン血症がみられる.インスリン抵抗性状態では,主に血管内皮細胞機能の低下とインスリンの血管弛緩作用の減弱が起こり,血管収縮系の充進が加わって血圧上昇に寄与し,高血圧の進展に関与している可能性が示唆されている.
著者
大野 桂司 田原 一二
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.135, no.6, pp.255-260, 2010

ラスリテック<sup>®</sup>(一般名:ラスブリカーゼ(遺伝子組換え))は,<I>Aspergillus flavus</I>由来の尿酸オキシダーゼの遺伝子を<I>Saccharomyces cerevisiae</I>株に導入し,発現させた遺伝子組換え型尿酸オキシダーゼであり,尿酸を水溶性の高いアラントインに変換する新規作用機序を有している.本剤は欧米を含む世界50ヵ国以上で承認されており,本邦では「がん化学療法に伴う高尿酸血症」を効能または効果として2009年10月に承認された.悪性腫瘍に対して化学療法は有効な治療方法の1つであるが,しばしば腫瘍崩壊症候群(急激な腫瘍細胞の崩壊が生じた結果,大量の核酸,カリウムおよびリン酸などが細胞内から血中に放出され,それにより高尿酸血症,高カリウム血症,高リン酸血症が生じること)を引き起こすことがある.尿酸は通常,腎臓から排泄されるが,多量に産生された尿酸を十分排泄することができず,腎で析出することがあるため,がん化学療法により高尿酸血症に至った患者では腎機能障害や急性腎不全が発現し,致命的な経過をたどることがある.このため,化学療法後の高尿酸血症を予防することが重要であるとされている.本剤承認前までの本邦における予防方法は,輸液,尿のアルカリ化,アロプリノールの投与などがあげられるが,これらの対処方法では尿酸値を下げるまでに時間を要することやアロプリノールが経口薬のみであることから服薬が困難な患者では使用できないことなどの問題があり,十分対処できない患者が存在した.ラスリテック<sup>®</sup>は投与直後から尿酸値を速やかに低下させることが期待でき,国内臨床試験においてはほとんどの患者で投与後4時間までに尿酸値を1 mg/dL以下まで低下させた.近年,優れたがん治療薬が開発されていく中で,がん化学療法に伴う高尿酸血症への対処の重要性は増しており,本剤はその一助となることが期待される.
著者
末丸 克矢 荒木 博陽 五味田 裕
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.119, no.5, pp.295-300, 2002 (Released:2003-01-21)
参考文献数
32
被引用文献数
5 4

神経性ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)は,αサブユニットとβサブユニットから構成される5量体のイオンチャネル型受容体であり,多くの神経伝達物質の放出を促進することによって精神機能にさまざまな影響を及ぼす.従来より,喫煙と各種精神病疾患の関係について多くの調査や研究が行われ,精神分裂病,うつ病および不安などの精神病疾患と喫煙の間に正の関連性があることが示されている.その喫煙動因として,ニコチンの中枢刺激作用により精神疾患の症状を自ら改善しようとする試み(self-medication),またはニコチン退薬症候に伴う症状の悪化をニコチン再摂取により軽減させていることが考えられている.近年,nAChRサブユニットのノックアウトマウスや各種精神疾患の動物モデルを用いて神経性nAChRの精神薬理作用の解明が進み,精神分裂病の注意障害や情報処理障害にはα7 nAChRが,またニコチン依存および退薬症候にはα4β2 nAChRが関与していることが示唆されている.
著者
橋本 謙二
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.3, pp.201-204, 2006 (Released:2006-05-01)
参考文献数
27
被引用文献数
7 6

近年,自殺の増加が社会問題になってきており,年間3万人以上の方が,自ら命を絶っている.自殺の原因の一つが,代表的な精神疾患のうつ病であるといわれている.うつ病の治療には,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)等の抗うつ薬が使用されている.SSRIの急性の薬理作用は前シナプスに存在するセロトニントランスポーターを阻害することにより,シナプス間隙のセロトニン量を増加させることであるが,治療効果の発現には数週間を要することが知られている.一方,SSRIのセロトニン神経系における作用は投与直後に認められることから,セロトニン神経系に直接に作用するだけでなく,細胞内の様々なシグナル伝達系に関わる転写因子制御の分子メカニズムが注目されている.本稿では,うつ病の病態および抗うつ薬の作用メカニズムにおける脳由来神経栄養因子(BDNF)の役割に焦点を当て,最新の知見について解説する.
著者
稲垣 直樹
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.131, no.1, pp.22-27, 2008 (Released:2008-01-11)
参考文献数
30

近年,アレルギー疾患患者の数は増加の一途をたどっており,アレルギーを克服するためのより確実な戦略の構築が望まれている.自然免疫の機構についての解析が飛躍的に進み,微生物産物を認識する受容体および細胞内シグナル伝達経路が明らかになってきた.自然免疫の機構は獲得免疫の誘導にも役割を演じることから,アレルギー克服の手がかりが得られる可能性を有する.アレルギー疾患は背景にTh2細胞優位なTh1/Th2バランスを有するとされており,バランスを矯正することがアレルギー克服につながると考えられる.また,制御性T細胞の誘導あるいは移入が免疫応答の過剰発現であるアレルギーの制御に有用であると推定される.アレルギーの発症,進展,増悪には種々の遺伝因子が関与するが,遺伝因子の発現制御もアレルギー克服に役立つと思われる.一方,強力なアレルギー性炎症抑制効果を発揮するステロイドなど,既存の薬物の効果的な使用方法も検討されている.
著者
今村 武史
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.136, no.4, pp.225-228, 2010-10-01
参考文献数
8

メタボリック症候群や糖尿病の成因・増悪因子と考えられるインスリン抵抗性は,インスリン作用の中でも特に,血糖降下作用の障害を主徴とする.血液中の糖は細胞内に取り込まれることによって減少することから,インスリン抵抗性の機序は最終的に,細胞内への糖取り込みというインスリン作用の障害に帰結されると言える.脂肪細胞などのインスリン標的細胞を用いたインスリン依存性糖輸送の分子機構は,これまで数多くの研究報告が蓄積され,全体像が次第に明らかとなってきた.これらの細胞ではインスリン刺激に反応して,糖輸送体タンパク質GLUT4に特異的な小胞が細胞膜表面へ輸送され,GLUT4タンパク質が細胞膜表面へ発現することによってはじめて細胞内への糖取り込みが可能となる.このインスリン依存性糖輸送のステップは,糖代謝におけるインスリン作用の律速段階であり,GLUT4タンパク質の細胞膜発現量はインスリン抵抗性の程度と逆相関することが知られている.つまり,GLUT4輸送に対するインスリン作用機構を理解することは,細胞レベルでのインスリン抵抗性機序の解明につながるものと考えられる.一方で,これまで糖輸送体GLUT4に関する多種多様な実験法が報告されてきたため,各実験結果によって示される範囲が曖昧になりやすく,目的を得るのに適した実験法の取捨選択に戸惑うところでもある.この稿では,糖輸送に関する細胞内インスリン作用の解析を行うための種々の実験法を紹介し,相違点とその長短を概説した.
著者
久場 敬司
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.151, no.3, pp.94-99, 2018 (Released:2018-03-10)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

心不全のシグナル伝達における転写,エピゲノムなどmRNA合成の制御機構について多くの知見が蓄積されてきた一方で,mRNA分解などmRNA代謝制御の解析は未だ十分とはいえない.CCR4-NOT複合体は酵母からヒトまで保存されたタンパク質複合体であり,遺伝子発現調節因子として転写調節,mRNA分解,タンパク質修飾など多彩な機能を持つ.近年,CCR4-NOTが発生,細胞分化や癌,炎症に寄与することが報告されているが,私達はCCR4-NOT複合体を新規の心機能調節因子として単離した.最近CCR4-NOT複合体のmRNA poly(A)鎖の分解活性が心臓の恒常性維持に重要であることを解明し,RNA分解の新しい生物学的意義を見出した.Cnot3はAtg7 mRNAに結合し,mRNAポリA鎖の分解,翻訳抑制を介してp53誘導性の心筋細胞死を阻止する.興味深いことに,poly(A)鎖の分解不全の状態では,Atg7がp53と結合し核内で協調的にp53標的の細胞死遺伝子の発現を誘導することが分かった.さらに,mRNAの分解を介したエネルギー代謝制御によっても心筋の恒常性維持に寄与することも明らかになりつつある.mRNAのpoly(A)鎖分解は,心臓のエネルギー代謝,細胞死のコントロールなど心機能調節にかかわる遺伝子発現制御の新たな制御相であることが考えられた.
著者
東海林 徹 桜田 忍 木皿 憲佐
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.11-18, 1975 (Released:2007-03-29)
参考文献数
20
被引用文献数
2

Metaraminol(MA)脳内投与によるマウスの行動変化について検討を加え,次のような成績が得られた.1)MA脳内投与によって光束法およびopen-field testでとらえた自発運動量は投与直後に増加,後,減少するという2相性を示した,2)MA160μg脳内投与30分後,脳内CAに変動は認められなかったが,6時間後,脳内CAの著明な減少が認められた.3)Reserpineおよび6-hydroxydopamine(6-OHDA)による自発運動量減少作用に対してMAは拮抗した.この拮抗はreserpine処理群に対してよりも,6-OHDA処理群に対しての方が強かった.4)Reserpineによるptosis,catalepsyに対してMAは拮抗作用を示した.5)MA投与6時間後に抗methalnphetamine作用が認められた.
著者
田上 昭人
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.116, no.3, pp.189-196, 2000 (Released:2007-01-30)
参考文献数
18

ヒトゲノム計画の進展により,診断から薬の創薬まですべての過程は大きく影響を受け,近い将来には“ありふれた病気”に対しても患者の遺伝的体質に合わせた処方,治療が可能となる.このゲノム情報・技術をもとに患者各人に個別至適化した“テーラーメイド医療”を現実化するために,薬理ゲノミックスは,有用となる.薬理ゲノミックスの具体的方法論としてsingle nucleotide polymorphism (SNP,一塩基多型),特に,薬物応答性に関する遺伝子のSNPが重要となり,その解析法が開発されつつある.現在,SNP解析に用いられている高感度・高速度の解析法について紹介する.
著者
中田 裕康
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.1, pp.4-8, 2007 (Released:2007-07-13)
参考文献数
27

GPCR型プリン受容体のサブタイプの一種であるA1アデノシン受容体の精製の際,アデノシン受容体とP2受容体の特異性を併せ持つハイブリッド的タンパク質(P3LP)を見出しましたが,これが私のGPCRダイマーの研究に携わるきっかけでした.P3LPの特性を再現すべくアデノシン受容体とP2受容体のヘテロダイマーを培養細胞や組織を用いて発現させて解析したところ,いろいろ面白いことがわかってきたのです.また,その他のプリン受容体でもダイマー,もしくはオリゴマーの形成が観察されました.このようにGPCR型のプリン受容体間のダイマー形成はさまざまな様式で受容体の活性調節をつかさどることが示唆されます.
著者
尾崎 茂 和田 清
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.117, no.1, pp.42-48, 2001-01-01
被引用文献数
5

動因喪失症候群(amotivational syndrome)は, 有機溶剤や大麻等の精神作用物質使用によりもたらされる慢性的な精神症状群で, 能動性低下, 内向性, 無関心, 感情の平板化, 集中持続の因難, 意欲の低下, 無為, 記憶障害などを主な症状とする人格·情動·認知における遷延性の障害と考えられている.1960年代に, 動因喪失症候群は長期にわたる大麻使用者における慢性的な精神症状として報告された.その後, 精神分裂病の陰性症状, うつ病, 精神作用物質の離脱症候などとの鑑別が問題とされ, 定義の曖昧さを指摘する意見もあるが, 現時点では臨床概念として概ね受ケ入れられつつある.その後, 有機溶剤使用者においても同様の病態が指摘されるとともに, 覚せい剤, 市販鎮咳薬などの使用によっても同様の状態が引き起こされるとの臨床報告が続き, 特定の物質に限定されない共通の病態と考える立場がみられつつある.また, 精神作用物質使用の長期使用後のみならず, かなら早期に一部の症状が出現することを示唆する報告もある.1980年代より, X線CTなどを用いた有機溶剤慢性使用者における脳の器質的障害の検討によって, 大脳皮質の萎縮などが指摘されてきた.最近は, 神経心理学的手法, MRI, SPECTといった形態学的あるいは機能的画像解析などを用いて, 動因喪失症候群の病態をより詳細に解明しようとの試みがなされつつある.それによれば, 動因喪失症候群にみられる認知機能障害の一部には, 大脳白質の障害が関連し, 能動性·自発性低下には前頭葉機能の低下(hypofrontality)が関連している可能性が示唆されている.これについては, 動因喪失症候群の概念規定をあらためて厳密に検討するとともに多くの症例で臨床知見を重ねる必要がある.治療については今のところ決め手となるものはなく, 対症的な薬物療法が治療の中心である.賦活系の抗精神病薬や抗うつ薬を中心に投与しつつ, 精神療法や作用療法を適宜導入して, 長期的な見通しのもとに治療にあたることが求められる.
著者
仁木 一郎 金子 雪子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.128, no.4, pp.214-218, 2006 (Released:2006-10-13)
参考文献数
17
被引用文献数
2

膵B細胞からのインスリン分泌における大きな特徴のひとつとして,多様な栄養物質によるインスリン分泌の調節をあげることができる.私たちは,様々な分泌刺激による膵B細胞からのインスリン分泌が,含硫アミノ酸であるL-システインによって強力に抑えられることを見いだした(Kaneko, et al. Diabetes. 2006).L-システインが膵B細胞に与えるインスリン分泌抑制・グルコース代謝阻害・グルコースによる細胞内Ca2+オシレーション抑制などの作用は,硫化水素(H2S)ドナーであるNaHSによっても再現される.H2Sは,古くから自然界に存在する有毒ガスとして知られてきたが,最近の研究により様々な細胞においてシグナル伝達をおこなう可能性が示されており,一酸化窒素(NO)や一酸化炭素(CO)に次ぐ第3のガス性シグナル伝達分子と目されている.私たちは,L-システインが代謝されて生じたH2Sが,膵B細胞でインスリン分泌抑制以外の細胞機能をも調節しているのではないか,と考えている.L-システインなどの含硫アミノ酸の血中レベルは,糖尿病や動脈硬化など,一部の生活習慣病で異常値を示すことが臨床研究で明らかにされている.これらの結果は,生活習慣病で見られるインスリン分泌障害が,L-システインやその代謝産物であるH2Sによる可能性を示唆している.この総説では,シグナル分子としてのH2Sに関するこれまでの研究を振り返るとともに,膵B細胞におけるL-システインおよびH2Sによるインスリン分泌抑制が持つ意義について,私たちの考えるところを述べた.