著者
富澤 郁美 邱 詠玟 堀 由起子 富田 泰輔
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.158, no.1, pp.21-25, 2023 (Released:2023-01-01)
参考文献数
39

アルツハイマー病(AD)の発症機構を理解する上で,AD発症原因分子であるアミロイドβペプチド(Aβ)の産生機序を理解することは重要である.Aβは,アミロイド前駆体タンパク質(APP)がβ-セクレターゼとγ-セクレターゼによって段階的に切断されることで産生されるが,その詳細な制御機構は未だ明らかではない.そこで我々は,Aβ産生に関わる制御因子を同定するためにCRISPR-Cas9システムを用いたゲノムワイドスクリーニングを構築し,Aβ産生を負に制御する新規因子としてcalcium and integrin-binding protein 1(CIB1)を同定した.CIB1発現量の低下はAβ産生量を上昇させた.また,免疫沈降法によって細胞内におけるCIB1とγ-セクレターゼとの相互作用を確認すると共に,CIB1発現量の低下がγ-セクレターゼの細胞膜への局在を低下させることを明らかにした.このことからCIB1は,相互作用によってγ-セクレターゼの細胞内局在に影響しAβ産生を負に制御していることが考えられる.さらに,ヒトAD患者脳内でのシングルセルRNAシークエンス解析から,初期AD患者脳においてCIB1 mRNAレベルが低下していることも明らかになった.これらの結果から,AD初期において脳内のCIB1発現量が低下することでAβ産生量が増加し,AD発症に寄与している可能性が示唆された.
著者
曽良 一郎 猪狩 もえ 山本 秀子 池田 和隆
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.6, pp.450-454, 2007 (Released:2007-12-14)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

モノアミントランスポーターはコカイン,メチルフェニデート,メタンフェタミン(MAP)などの覚せい剤の標的分子であることから,覚せい剤依存の病態における役割を明らかにするための詳細な精神薬理学的研究が行われてきた.モノアミントランスポーターには,各モノアミンの前シナプス終末に主に発現する細胞膜モノアミントランスポーターと,すべてのモノアミンを基質とするシナプス小胞モノアミントランスポーター(VMAT)の2種類がある.覚せい剤は,モノアミン輸送を阻害し,神経細胞内外の分画モノアミン濃度を変化させ薬理効果を示す.コカインは細胞膜モノアミントランスポーター阻害作用を有し,その報酬効果はドパミントランスポーター(DAT)を介しているとする「DAT仮説」が提唱された.しかし,DATとセロトニントランスポーター(SERT)が共に関与していることが示された.ただし,SERTよりもDATがより大きな役割を果たしていると考えられる.「DAT仮説」は当初提唱された以上に複雑であると思われる.また,メチルフェニデートを健常人に投与すると投与が興奮や過活動を引き起こすが,注意欠陥多動性障害(ADHD)患者へは鎮静作用がある.DAT欠損マウスはメチルフェニデートを投与されると移所運動量が低下することから,ADHDの動物モデルの一つと考えられる.MAPはコカインとは異なる薬理作用を有する.コカインがDATを阻害し,細胞外ドパミン(DA)を増加させるのに対して,MAPはDATに作用して交換拡散によりDAを細胞外へ放出させることで細胞外DA濃度を増加させる.さらに,MAPはVMATに作用して小胞内のDAを細胞質へ放出させる.MAPの反復使用は,逆耐性現象(行動感作)や認知機能に障害を引き起こすことから,覚せい剤精神病や統合失調症などの動物モデルの一つと考えられている.依存性薬物のモノアミントランスポーターへの複雑な作用機序を明らかにすることにより,薬物依存の病態の新たな知見が得られてくると期待される.
著者
塩見 浩人 田村 豊
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.116, no.5, pp.304-312, 2000 (Released:2007-01-30)
参考文献数
25
被引用文献数
10 12

冬季,環境温度の低下への適応として,一部の哺乳動物では体温を低下させ,非活動の状態で冬期を過ごす冬眠行動をとる.哺乳動物の冬眠は,気温が上昇する春季まで持続するのではなく,冬眠-覚醒のサイクルを何度も繰り返す.しかし,冬眠への導入と維持ならびに冬眠からの覚醒における生理機構はほとんど解明されていない.我々は,冬眠への移行期の体温下降ならびに冬眠状態から覚醒への移行期の体温上昇に関与する中枢機構を検討し,以下の知見を得ている. (1)非冬眠ハムスターの体温(37°C)は,アデノシンA1受容体作用薬,N6-cyclohexyladenosine(CHA) の側脳室内投与により用量依存性に下降する. (2)冬眠初期の低体温(6°C)は,アデノシンA1受容体拮抗薬,8-cyclopentyl-theophylline (CPT) の側脳室内投与により活動期正常体温へ急激に上昇する. (3)A1受容体を介するアデノシンの体温下降作用は,視床下部後野の熱産生中枢の抑制作用による. (4)深冬眠期にはCPT処置によって体温上昇が起こらないことから,アデノシンとは異なる系が熱産生中枢を抑制している可能性がある. (5)冬眠初期,深冬眠期のいずれにおいても, TRH (thyrotropin releasing hormone)の側脳室内投与は活動期正常体温へと急激に体温を上昇させる. (6)非冬眠ハムスターの体温をCHA投与により急性的に15°C以下に低下させると, CPTの拮抗作用は発現せず, TRH の体温上昇作用も現れない.これらの結果から,冬眠導入期には中枢アデノシンが,冬眠からの覚醒には,中枢TRHが重要な役割を演じていることが示唆される.また,自然冬眠時には低温時でも作動する非冬眠時とは異なる熱産生系の存在が示唆される.
著者
中根 貞雄 酒井 健
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1-7, 1974 (Released:2007-03-29)
参考文献数
14
被引用文献数
1

本研究において,自律神経薬ほか諸種薬物の潰瘍形成と胃液分泌およびPSB漏出量におよぼす影響を検討し,以下の結果を得た.1)本実験で,phenoxybenzamineを除き,ストレス潰瘍抑制作用を示した薬物は,潰瘍抑制量で胃液分泌減少とpH上昇作用を示した.このことは,ストレス潰瘍抑制には胃液分泌の抑制が重要な要因であることを示唆するものと考えられる.2)atropineは,潰瘍抑制量において,ストレスによるPSB量減少に対し,少くとも増強作用を示さなかった.また,propranolol,DCIおよびchlorpromazineは,ストレスによるPSB量減少に対し,むしろ阻止的であった.これより,ストレスによる胃粘膜血流の阻止ないし抑制が抗潰瘍作用の一因となると考えられる.
著者
日置 寛之 濱 裕 孫 在隣 黄 晶媛 並木 香奈 星田 哲志 黒川 裕 宮脇 敦史
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.149, no.4, pp.173-179, 2017 (Released:2017-04-04)
参考文献数
32

脳が,認知・思考・記憶・感情といった高次機能を実現する仕組みを解き明かすには,その構造的基盤である神経回路網の理解が必要不可欠である.「構造無き機能は無い」からである.国内外で続々と開発されている脳透明化技術は,高速かつ大規模な三次元構造解析を可能にする革新的技術であり,神経回路解析に新たなブレイクスルーをもたらすと期待される.透明化技術を比較する上で重要なポイントが「clearing-preservation spectrum」である.透明化能力(clearing capability)の向上は散乱光の抑制につながり,深部まで安定して高精細な画像を取得するために大事である.一方で,透明化処理の影響によって組織の構築や標識シグナルの保持が悪くなるというトレードオフが厳存する.標識された構造物を再現よく定量的に観察するためには,構造や各種シグナルを適切に保存・維持する能力(preservation capability)が重要である.このトレードオフ問題に真正面から取り組み,両者を高い次元で両立することに成功したのが,筆者らが開発した透明化技術ScaleS法である.透明化能力の向上はもちろんのこと,①蛍光タンパク質の蛍光の保持,②抗原性の保持,③超微細構造の保持,など標識シグナルの保持に優れている.特に,超微細構造が保持されることで,光学顕微鏡と電子顕微鏡とを繋ぐ「ズームイン」技術の発展が期待される.「かたちをよくみる」バイオイメージングは,生命現象の真理を理解する上で非常に重要なステップであり,「標識」「観察」「解析」といった各要素において様々な技術が要求される.遺伝子工学技術等の発展により,「標識」技術は目覚ましい進展を遂げてきた.そして透明化技術の台頭により「観察」「解析」が大きく進展すると期待され,バイオイメージングは今まさに新たな時代を迎えようとしている.
著者
茶谷 文雄
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.2, pp.82-86, 2009 (Released:2009-02-13)
参考文献数
6
被引用文献数
1 1

精巣は次世代をつくるための精子産生と雄性機能発揮のためのホルモン産生を担う生殖器官であり,医薬品開発時の動物を用いた毒性試験においてしばしば変化が認められる.精巣毒性の多くは精上皮細胞(精細胞とセルトリ細胞)を標的とし,萎縮,空胞,多核巨細胞,脱落,消失,精子遊離遅延などの変化が生じる.精巣毒性の評価には,精子形成段階を理解した病理組織学的検査と安全マージンや病変発現メカニズムを考慮したヒトへの外挿性の判断が重要である.
著者
戸苅 彰史 近藤 久貴 平居 貴生 兒玉 大介 新井 通次 後藤 滋巳
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.3, pp.140-145, 2015 (Released:2015-03-10)
参考文献数
45
被引用文献数
1 3

骨芽細胞および破骨細胞にアドレナリン受容体(AR)の発現が見出されて以来,骨代謝における交感神経系の生理的役割についての研究が著しく進展した.これら細胞へのARシグナルが神経由来であることも示されている.交感神経の骨代謝に及ぼす影響として,β2-ARによる骨吸収の促進および骨形成の抑制による骨量低下が認められている.一方,α1-ARによる骨形成の促進も見出されており,その促進機構を明らかにすると共に,骨芽細胞におけるβ2-ARとα1-ARシグナルの相互関連の解析が求められている.また,臨床的にβ-AR遮断薬が骨折リスクを低下させることが高血圧患者において認められているが,歯科矯正治療における歯の移動をβ-AR遮断薬およびβ-AR作動薬により調節できる可能性も動物実験で示されている.骨組織の局所におけるメカニカルストレスが交感神経活動を制御する機構を解析するため,交感神経と感覚神経との相互関連の解析も望まれる.
著者
葭山 稔 大村 崇 吉川 純一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.124, no.2, pp.83-89, 2004 (Released:2004-07-26)
参考文献数
13
被引用文献数
5 5

急性心筋梗塞後心臓リモデリングに対するACE阻害薬の有効性は広く知られているが,今回は,アンジオテンシンII受容体拮抗薬とアルドステロン拮抗薬の併用療法について検討した.モデルはウィスターラットを用いて心筋梗塞を作成してアンジオテンシンII受容体拮抗薬カンデサルタンを1 mg/kg/dayまたはエプレレノン100 mg/kg/dayその併用について心筋梗塞後4週間目に左室拡大,心機能を心エコー図にて確認した.結果は単独でもリモデリング抑制効果が認められたが併用にて,その効果は単独よりも効果が認められた.急性心筋梗塞後心臓リモデリングに対する両薬剤の併用は有効な治療方法と考えられる.
著者
佐和 貞治
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.3, pp.112-116, 2015 (Released:2015-03-10)
参考文献数
24
被引用文献数
2 2

急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)は,急性肺傷害のなかで最も救命率の低い致死性病態である.細菌性肺炎が原因となることが多いことから,細菌感染に対する治療法がARDSの高い死亡率を改善するうえではもっとも重要な戦略である.近年,多くの病原性グラム陰性細菌は,Ⅲ型分泌システムと呼ばれる新しく発見された毒素分泌メカニズムを介してその病原性を発揮することが解明されてきた.この分泌システムを用いて細菌はその毒素を直接,標的細胞の細胞質に転移させる.転移した毒素は,真核細胞の細胞内シグナリングをハイジャックし,細菌がホストの免疫機構から回避できるよう誘導する.我々はこれまで緑膿菌性の急性肺傷害のメカニズムについて研究を進め,その結果,緑膿菌のⅢ型分泌システムが緑膿菌性肺炎における急性肺傷害の病態メカニズムに深く関与していることを見出した.細胞毒性の強い緑膿菌は,肺上皮の急性壊死を引き起こすⅢ型分泌毒素を分泌し,急速に全身循環への細菌播種を誘導して敗血症へと進展させる.Ⅲ型分泌に関わるタンパク質の中でV抗原と呼ばれるPcrVタンパク質にⅢ型分泌毒性に対抗できる免疫効果があることを発見した.ヒト化された抗PcrV抗体が開発され,現在臨床試験が行われている.他の多くの病原性グラム陰性菌もこのV抗原相同体,もしくはV抗原様相同体を持つ.従って,V抗原抗原やその相同体は,致死性の細菌感染に対する現在新しいワクチンや治療のターゲットとして注目されている.
著者
加藤 茂明
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.116, no.3, pp.133-140, 2000 (Released:2007-01-30)
参考文献数
23

脂溶性ビタミンA.D,ステロイド,甲状腺ホルモン,エイコサノイド等の低分子量脂溶性生理活性物質は,核内レセプターのリガンドとして働くことが知られている.核内レセプターは1つの遺伝子スーパーファミリーを形成するリガンド誘導性転写制御因子である.そのためこれらリガンドの生理作用は,核内レセプターを介した遺伝子発現調節により,その作用を発揮する.核内レセプターは,リガンド結合に伴い転写共役制御因子(コリプリッサー)の解離と転写共役活性化因子(コアクチベーター)の会合が起こる.これら転写共役因子群は複合体を形成しており,クロマチン上のヒストンのアセチル化を制御することで,リガンド依存的に転写を制御する.これら最近の動向を概観するとともに,我々の知見についても述べたい.
著者
梛野 健司 高 忠石 原田 寧
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.6, pp.245-254, 2011 (Released:2011-06-10)
参考文献数
10
被引用文献数
2 3

パリペリドンは,日本国内および海外で非定型抗精神病薬として広く使用されているリスペリドンの主活性代謝物(9-ヒドロキシ-リスペリドン)であり,リスペリドンと同様にドパミンD2およびセロトニン5-HT2A受容体に対する阻害作用を有し,セロトニン・ドパミンアンタゴニスト(SDA)に分類される.さらに,パリペリドンの製剤は,放出制御型徐放錠であり,放出制御システム(osmotic controlled release oral delivery system: OROS®)を用いることによって,24時間持続的にパリペリドンを放出し,安定した血漿中薬物濃度が維持できる.これによって,1日1回投与による統合失調症治療が可能になり,有効性および忍容性の向上が期待できる.パリペリドンは,D2受容体および5-HT2A受容体に対してリスペリドンと同程度の親和性を示し,D2受容体と比較して5-HT2A受容体に対して高い親和性を示した.これらのことから,パリペリドンは,統合失調症においてドパミン神経系が関連する陽性症状の改善だけでなく,陰性症状の改善および従来の定型抗精神病薬で問題となる運動障害(錐体外路系副作用)の軽減が期待できる.国内の臨床試験は,成人の統合失調症患者を対象とした探索的試験を第II相試験として実施し,positron emission tomography(PET)検査により,投与量および血漿中濃度とD2受容体占有率との関係を検討した.第III相試験では,統合失調症では国内で初めてのプラセボ対照二重盲検比較試験を実施し,パリペリドンER 6 mg,1日1回朝投与のプラセボに対する優越性を検証するとともに,初回投与時に低用量からの漸増が不要で維持用量の6 mg/日から投与を開始しても安全であることを確認した.また,48週間の長期投与試験において,長期間の曝露に伴う安全性リスクの増加はなく,有効性の維持についても確認した.特に,日本人統合失調症患者に対するエビデンスが明確に示されたことの意義は大きく,パリペリドンERは,現在の本邦における統合失調症の治療において第一選択薬となりうる薬剤として期待される.
著者
中村 一文 三浦 大志 松原 広己 伊藤 浩
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.140, no.6, pp.265-269, 2012 (Released:2012-12-10)
参考文献数
21
被引用文献数
2 1

心不全患者においては交感神経の緊張(カテコラミンの上昇),レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAA系)の亢進,TNF-α増加,頻脈や虚血が心筋において活性酸素(ROS)を発生させている.ROSは脂質過酸化の過程でHNEという有害アルデヒドを発生させる.このアルデヒドはさらにROS発生を亢進させる.このようにして発生したROSはCa2+制御タンパク質に異常を導き,細胞内カルシウム動態の異常や細胞内カルシウム濃度の上昇をもたらし,大量のカルシウムによる負荷(カルシウム過負荷)では心筋細胞死も誘導する.β遮断薬はカテコラミンによるROSの発生を抑制し,さらにカルベジロールはフリーラジカルスカベンジャーとして直接の抗酸化作用を有して,Ca2+動態を正常に保つよう働くことができる.
著者
永井 純也
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.135, no.1, pp.34-37, 2010 (Released:2010-01-14)
参考文献数
8

臨床において,患者に薬物が単独で投与されるよりも,複数の薬物が投与される場合の方が多い.したがって,薬物治療を受けている患者において,程度の差はあるものの,少なからず薬物相互作用が生じているものと予想される.また,医薬品が市販後に市場から撤退を余儀なくされる場合,薬物相互作用による重篤な副作用が原因であることが少なくない.したがって,薬物相互作用をいかに回避あるいは予測できるかは,安全性に優れた医薬品を開発していく上で重要である.これまで代謝酵素が関与する薬物相互作用については数多くの報告がなされてきた.一方,近年,薬物の生体膜透過を担うトランスポーターが分子レベルで解明されるとともに,代謝過程の阻害のみでは説明できない薬物相互作用にトランスポーターが関与することが明らかになってきている.本稿では,腎臓および肝臓におけるトランスポーターを介した薬物相互作用を中心に概説する.
著者
近藤 萌 西山 和宏 西村 明幸 加藤 百合 西田 基宏
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.157, no.5, pp.356-360, 2022 (Released:2022-09-01)
参考文献数
14

Gタンパク質共役型受容体(GPCRs)は,細胞内環境の変化(物理化学的刺激)を細胞内情報に変換し,伝達する上で極めて重要な役割を果たしている.リガンド刺激後,多くのGPCRはリン酸化され,β-アレスチン依存性の内在化によって再利用または分解される.このプロセスは,GPCRタンパク質の品質管理を維持するための重要な機構である.一方で,β-アレスチン感受性の低いGPCRがどのように品質管理されるかは不明であった.我々は,β-アレスチン低感受性のプリン作動性P2Y6受容体(P2Y6R)に着目し,リン酸化に依存しないGPCR内在化経路(Redox-dependent Alternative Internalization:REDAI)の存在を新たに見出した.P2Y6Rはマクロファージに高発現しており,大腸炎の発症・進展に深くかかわっている.我々は,食品中に含まれる親電子物質がP2Y6RのREDAIを誘導し,抗炎症効果をもたらす一方で,REDAIの抑制が大腸炎の悪化をもたらすことをマウスで実証した.これらの結果は,GPCRのREDAIを標的にする創薬が,炎症性疾患の画期的な治療戦略となることを強く示唆している.
著者
海老原 格
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.140, no.4, pp.170-173, 2012 (Released:2012-10-10)
参考文献数
19

医薬品が登場する,患者さんがそれを用いる.いたって単純なことだが,実は重大な意味が込められている.「登場する」とは,「患者さんの苦しみを和らげたい」との製薬企業の希(おも)いを患者さんに伝えること,「用いる」とは患者さんがその希いを受取る,希いが伝わることではないかと考える.勿論仲介する人はいるが.「伝える—伝わる」が成立するとき医薬品は人類共有の財産となる.それが育薬だと思う.ただ医薬品にはメリットだけではなくデメリットがあることを忘れてはいけない.しかし,情報の力を借りることでデメリットを抑えメリットを十分に引き出すことができる.適正使用ということである.RAD-AR活動は,医薬品適正使用確保のために生み出されたものである.くすりの適正使用協議会は,RAD-AR活動を永年展開している.最近の動きを紹介するので,皆さん,ご参考にしていただければ幸甚である.
著者
佐藤 薫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.152, no.6, pp.287-294, 2018 (Released:2018-12-08)
参考文献数
177
被引用文献数
1 3

中枢神経系(central nervous system:CNS)の血管は血液と脳実質間の物質交換を血液脳関門(blood brain barrier:BBB)により制限している.現状,新薬候補化合物の脳内移行性を検討するための信頼性の高いin vitro BBBモデルは存在せず,中枢神経医薬品上市の低確率,中枢性副作用予測の困難さの一要因となっている.本レビューでは,まずBBBの構造と機能,汎用されるBBB機能定量パラメーターについて概説する.そして,新薬開発過程でこれまで使われてきたin vitro BBBモデルの歴史を紐解き,非細胞系モデルPAMPAから初代培養齧歯類細胞,畜産動物細胞,株化細胞,等の細胞系モデルへの推移を紹介する.また,ヒト予測性を向上させるためのヒト細胞適用の試みや,マイクロ流体モデルに代表される工学的アプローチなど,in vitro BBBモデルの最新開発動向についても紹介する.脳の恒常性維持に欠かせない強固なBBBをin vitroで再現することは,BBB形成メカニズムを解明することでもある.これらの新知見,それに基づいて開発される新しいin vitro BBBモデルは,中枢神経系の薬物動態予測,ドラッグデザイン,さらには,毒性・安全性評価を大きく進展させ,新薬成功確立の向上に貢献することが期待される.
著者
深田 吉孝 小亀 浩市
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.103, no.6, pp.263-272, 1994 (Released:2007-02-06)
参考文献数
50

Guanine nucleotide-binding regulatory proteins (heterotrimeric G proteins) are composed of α-, β- and γ-subunits, and they mediate a variety of intracellular signal transductions by coupling activated membrane receptors with effector enzymes and channels. Activated receptors catalyze the exchange of GDP bound to the α-subunits for cytosolic GTP, and GTP-bound α-subunits in turn regulate activities or functions of the effectors. The βγ-complex is not dissociable under physiological conditions, and it is indispensable for the GDP/GTP exchange reaction on the α-subunit. Recently, three kinds of lipid modifications have been found in the α- and γ-subunits. The first is the attachment of fatty acids, myristate (C14:0) or structurally related fatty acids to the N-terminal glycine residues of some members of the α-subunits. Another type of fatty acylation to be characterized is the linkage of palmitate (C16:0) to a number of α-subunits via a thioester bond at their cysteine residues. The third type of modification is polyisoprenylation (farnesylation or geranylgeranylation) and α-carboxyl methylation at the C-terminal cysteine residue of the γ-subunit. These modifications on the two subunits have been shown to play a critical role in not only protein-membrane interaction but also proper protein-protein interaction, both of which are required for the G protein function.