著者
粕谷 善俊
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.1, pp.21-26, 2015 (Released:2015-01-10)
参考文献数
24

p38は,細胞外の刺激を核内の転写制御機構へとつなぐシグナル分子,MAPK(mitogen-activated protein kinase)ファミリーの1つであり,特に,ストレスや炎症性サイトカインにより活性化されることから,JNK(c-Jun N-terminal kinase)やERK5とともにストレス活性化プロテインキナーゼ(stress-activated protein kinase:SAPK)とも呼ばれている.p38の発見から20年が経過し,その多岐にわたる生理的・病態生理的機能が明らかになっているとともに,関節リウマチを始めとする炎症性疾患の創薬ターゲットとして着目され,近年,p38阻害薬の開発が精力的に行われてきた.本稿では,p38の機能を解説するとともに,p38阻害薬の治療応用の可能性も含めて,その動向についてふれたい.
著者
毛利 彰宏 野田 幸裕 溝口 博之 鍋島 俊隆
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.1, pp.4-8, 2006 (Released:2006-03-01)
参考文献数
40
被引用文献数
2 2

非競合的N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体拮抗薬であるフェンシクリジン(PCP)の乱用者は,統合失調症とよく似た精神症状を示すことから,統合失調症の病態仮説として「グルタミン酸作動性神経系機能低下仮説」が提唱されている.PCPは単回で投与した場合には一過性の多様な薬理作用を示すが,連続投与した場合は,依存患者が摂取を中止した後も,その精神症状が数週間持続する様に,動物でも行動変化が持続する.例えばPCPをマウスに連続投与すると,休薬後において少量のPCPを投与すると運動過多が増強(自発性障害:陽性症状様作用)され,一方,強制的に水泳をさせても泳がなくなる無動状態が増強(意欲低下の増強:陰性症状様作用)され,水探索試験における潜在学習や恐怖条件づけ試験における連合学習が障害(認知機能障害)される.このようなPCP連続投与マウスに認められる情動・認知機能障害にグルタミン酸作動性神経系がどのように関与しているのか分子機序を調べたところ,運動過多の増強はPCPがNMDA受容体拮抗作用を示し,その結果ドパミン作動性神経系を亢進することによっていた.生理食塩水連続投与マウスでは強制水泳ストレス負荷および水探索や恐怖条件づけ試験で訓練するとCa2+/calmodulin kinase IIやextracellular signaling-regulated kinaseのリン酸化が著しく増加するが,PCP連続投与マウスでは増加しなかった.一方,PCP連続投与マウスの細胞外グルタミン酸の基礎遊離量は著しく減少していた.これはグリア型グルタミン酸トランスポーターのGLASTの発現が増加し,グルタミン酸の再取り込みが増加しているためであることが考えられた.したがって,PCP連続投与マウスに認められる精神行動障害には,グルタミン酸作動性神経系の前シナプス機能およびNMDA受容体を介する細胞内シグナル伝達の低下が関与しているものと考えられる.
著者
相馬 義郎
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.141, no.4, pp.222-223, 2013 (Released:2013-04-10)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1
著者
小野 信文
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.113, no.4, pp.203-210, 1999 (Released:2007-01-30)
参考文献数
50
被引用文献数
1 1

脳血流(CBF)は自動調節(autoregulation)能によってほぼ一定に保持されている.その調節には種々の因子が関与するが,神経性調節を中心にその特徴を述べる.CBFは圧の減少に依存する減少,血圧に依存しない一定量の保持状態,高圧時に圧に依存する増加(breakthrough)を特徴とし,自動調節は保持状態の部分である.これは全身血圧低下による酸素欠乏と全身血圧の異常上昇・CBF増加による脳浮腫から脳組織を保護するための調節機構である.脳血管の緊張低下に関係する脳内機構は,コリン神経,興奮性アミノ酸あるいはGABAなどが神経性にあるいは非ニューロン的に働いている.AChについては,前脳基底部のマイネルト核から大脳皮質へ投射する系と前脳基底部の中隔から海馬へ投射する系があり,コリン系神経興奮によって大脳皮質ではムスカリン性ならびにニコチン性受容体のいずれもCBF増加を起こし,海馬では主にニコチン性受容体を介している.血管緊張に与る系は,交感神経系支配によるノルエピネフリン,セロトニン神経などがある.セロトニンの収縮性受容体は5-HT1Dβならびに5-HT2Bであるが,一部5-HT7受容体性の拡張性も持つ.神経走行が明確でないが,NO,アンジオテンシン,ブラジキニン,PG類も自動調節に影響する.NOS阻害薬は自動調節の上限を強く抑制し,breakthrough発現を抑え,breakthrough時にはNO産生の亢進が推察される.また洞大動脈神経切除によってもbreakthrough発現が見られない.アンジオテンシンの産生を抑制すると自動調節を血圧の低い方ヘシフトする.ブラジキニンは脳血管に対しB2受容体と関連する血管拡張,血管透過性亢進ならびに血液脳関門透過性亢進作用がある.PGF2αもbreakthrough発現を抑える.また,自動調節の下限域では血中TX B2が増加し,上限域ではPG Eタイプや6-keto-PGF1αが増加し,血圧の状態によって異なるPGが産生される.
著者
池田 孝則
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.6, pp.527-538, 2003-12-01
参考文献数
35
被引用文献数
2 39

イベルメクチン(ストロメクトール)は放線菌<i>Streptomyces avermitilis</i>の発酵産物アベルメクチン類から誘導された半合成の環状ラクトン経口駆虫薬である.イベルメクチンは線虫<i>Caenorhabditis elegans</i>(<i>C. elegans</i>)の運動性を濃度依存的に阻害した.<i>C. elegans</i>の膜標本には,イベルメクチンに高親和性の特異的結合部位が存在し,イベルメクチン類縁体のこの結合部位に対する親和性と<i>C. elegans</i>の運動抑制作用の間には,強い正の相関が認められたことから,イベルメクチンの抗線虫活性には,本部位に対する結合が重要であることが示唆された.<i>C. elegans</i>のpoly(A)<sup>+</sup>RNAをアフリカツメガエルの卵母細胞に注入すると,イベルメクチンにより不可逆的に活性化されるクロライドチャネルの発現が確認された.本チャネルの薬理学的性質から,イベルメクチン感受性のチャネルはグルタミン酸作動性クロライドチャネルであることが示された.このグルタミン酸作動性クロライドチャネルについては,2つのサブタイプ(GluCl-&alpha;およびGluCl-&beta;)がクローニングされ,それらがグルタミン酸作動性クロライドチャネルを構成していることが示唆された.以上の結果からイベルメクチンは,線虫の神経又は筋細胞に存在するグルタミン酸作動性クロライドチャネルに特異的かつ高い親和性を持って結合し,クロライドに対する細胞膜の透過性が上昇して神経又は筋細胞の過分極を引き起こし,その結果,線虫が麻痺を起こし死に至るものと考えられた.ヒツジおよびウシの感染実験において,イベルメクチンは,<i>Haemonchus</i>,<i>Ostertagia</i>,<i>Trichostrongylus</i>,<i>Cooperia</i>,<i>Oesphagostomum</i>,あるいは<i>Dictyocaulus</i>属に対し,投与量に依存した強い駆虫効果を示した.糞線虫属<i>Strongyloides</i>に感染したイヌ,ウマおよびヒトに対しても,駆虫活性が報告されている.本邦における第III相試験では,糞線虫陽性患者50例を対象に本剤約200 &micro;g/kgが2週間間隔で2回経口投与された.投与4週間後に実施された2回の追跡糞便検査による駆虫率は98.0%(49/50例)であった.<br>
著者
吉岡 充弘
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.106, no.5, pp.311-319, 1995 (Released:2007-02-06)
参考文献数
49
被引用文献数
3 3

It is known that serotonin is widely distributed in the body; its receptors are located in various tissues and organs. It has been reported that serotonin receptors without apparent synaptic structure exist in the peripheral nervous system. These serotonin receptors might be the target of circulatory serotonin. In particular, serotonin has a potent depolarizing action on vagal afferent nerves. This stimulation causes various autonomic reflexes, so-called von Bezold-Jarisch reflex, that consist of bradycardia, hypotension and apnea. The peripheral 5-HT3-receptor subtype seems to be responsible for the initiation of these reflexes. The physiological and pathophysiological significance of these serotonin-induced modulations have not, however, been established. The present study was designed to examine the effects of exogenous serotonin on the chemosensitive afferent nerves including carotid sinus nerves, cervical vagus nerve, and efferent motor nerves, such as phrenic nerves and pharyngeal nerves. Because little is known about the involvement of the serotonergic system in the pulmonary reflex and pulmonary-related reflexes (swallowing or vomiting), the distribution of the motor component of these nerves within the brain stem of the rat was also determined.
著者
望月 秀紀 谷内 一彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.3, pp.147-150, 2006 (Released:2006-05-01)
参考文献数
17

ポジトロン断層影像法(PET)など脳機能画像法が開発されたことによって,これまで研究することが困難だった中枢レベルの痒みの研究が可能となった.現在,中枢における痒みのイメージング研究において2つの展開がある.ひとつは“痒み”という感覚が脳内でどのように作り出されているのか,そして,もうひとつは,中枢神経系を介した痒みの抑制システムの存在についてである.痒みと痛みは同じ末梢神経線維によって伝達されるにもかかわらず,私たちはそれらを異なる体性感覚として知覚する.その違いが脳内でどのように作り上げられているのかが最近のPET研究によって明らかにされつつある.痒みと痛みの脳内ネットワークは非常によく似ているがいくつかの相違点があると考えられている.例えば,痛みの認知に関係する視床や二次体性感覚野は痒み刺激を与えてもあまり反応しない.このような脳内ネットワークの違いが,痒み・痛みといった感覚の違いを作り出している可能性がある.アトピー性皮膚炎や花粉症などのアレルギー疾患は,現在,国民の3割が患う国民病として知られており,その治療法の開発が強く望まれている.特に,アトピー性皮膚炎患者の場合,掻きむしる行為が原因で症状が悪化する.痒みの治療法として,抗ヒスタミン薬など薬剤治療が一般的に用いられるが,それでも痒みの治療は多くの問題を抱えている.その問題のひとつは,心理的ストレスによる痒みの悪化である.逆に,趣味に没頭しているときなどは痒みが軽減される.このような現象から,脳内に痒みを増減するようなシステムが存在する可能性が指摘されている.我々は痒みに関するPET研究から,中脳中心灰白質を中心とした痒みの中枢性抑制システムの存在をヒトにおいて証明した.今後,中枢性痒み抑制メカニズムによる痒みの新たな治療薬の開発が期待される.
著者
佐々 茂
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.4, pp.248-251, 2007 (Released:2007-10-12)
参考文献数
7
被引用文献数
2 2

ヘムタンパク質から遊離するフリー・ヘムはヘム・オキシゲナーゼによって,鉄イオン,ビリベルジンIXα,COに分解される.この反応はこれまで代謝・分解反応として考えられて来たが,一方この酵素反応の結果(1)酸化的ストレスであるフリー・ヘム濃度が減少する事,(2)鉄イオンはフェリチンの誘導を介して酸化的ストレスを軽減する事,(3)ビリベルジンIXαおよびその還元体であるビリルビンIXαはいずれも重要な抗酸化作用を示す事,(4)COはストレスによる細胞死を抑制する事,などの事実も明らかになった.従ってヘムの代謝産物はいずれも酸化的組織障害に防御的貢献をしている.すなわちヘム・オキシゲナーゼ活性,およびフリー・ヘムによるヘム・オキシゲナーゼ遺伝子の活性化はいずれも生体防御反応において重要な役割を果たしている.フリー・ヘムはさらにいろいろな遺伝子の活性化機構にも関与している事も明らかになり,この章ではフリー・ヘムの遺伝子活性化に及ぼす影響を概説した.ヘムによる遺伝子活性化機構の解明は組織防御を始めとする各種の重要な生体反応の理解に極めて重要であると考えられる.
著者
久保山 昇 林 一郎 山口 忠志
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.3, pp.223-232, 2006-03-01
参考文献数
38
被引用文献数
2 14

ミグリトール(セイブル<sup>®</sup>錠)は糖に類似した化学構造を有し,体内に吸収されることにより類薬と異なる作用特性を示す新規α-グルコシダーゼ阻害薬(以下α-GIと略)である.薬物動態試験において,ミグリトールはラット小腸上部にて吸収され,代謝を受けずにほとんどが尿中に排泄された.また,肝薬物代謝酵素の誘導および阻害作用は認められなかった.薬理試験において,ラットの小腸由来スクラーゼ,イソマルターゼおよびマルターゼ活性を競合的に阻害するが,膵α-アミラーゼ活性を阻害しなかった.正常ラットにスクロースを負荷した際に用量に依存した血糖上昇抑制および糖質吸収遅延作用を示し,高用量においては糖質の吸収を阻害した.α化でんぷん,生でんぷんおよびスクロースを負荷した際の血糖上昇を用量依存的に抑制したが,グルコース負荷に対しては作用を示さなかった.また,GKラットに高スクロース・高脂肪食を8週間与えた慢性モデルに対し,HbA<sub>1C</sub>の上昇を抑制し,膵島の病理組織変性を抑制する傾向を示した.国内の臨床試験では,2型糖尿病患者に対し食後の急峻な血糖上昇を強力に抑制し,血糖上昇ピークを遅延させ,食後の急峻な血糖上昇によるインスリンの過剰な分泌を抑制した.また,12週間の用量反応試験では用量に依存した食後血糖およびHbA<sub>1C</sub>の低下が認められた.スルホニルウレア(以下SUと略)剤との12週間の併用試験においては,空腹時血糖,食後の血糖および血清インスリンの低下,HbA<sub>1C</sub>の低下が認められ,継続して実施された52週間の長期投与においてもこれらの作用が減弱することはなかった.有害事象の大半は過度の薬理作用と考えられる消化器症状であった.また,低血糖は単独投与では発現せず,SU剤との併用においても発現率を増加する傾向はなかった.以上,非臨床および臨床試験の成績から,ミグリトールは2型糖尿病の食後過血糖を改善し,かつ安全な薬剤であると考えられた.<br>
著者
小林 裕美
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.132, no.5, pp.285-287, 2008 (Released:2008-11-14)
参考文献数
11
被引用文献数
6 6

アトピー性皮膚炎は症例毎に異なる悪化因子が関与するため,治療に個別のアプローチが必要である.悪化因子が比較的単純で除去しやすい例は,標準的治療のみで充分軽快するが,複雑な因子が関与し長年にわたる経過のうちに悪化の方向に向かう一群も存在する.このような例に対して,私たちはまず漢方で重視する「食」について指導し,なお改善しない場合に漢方方剤内服を併用してきた.アトピー性皮膚炎に用いる漢方エキス製剤は多岐にわたり,それぞれの薬理作用の理解のもとに使用する.小児,成人ともに気虚を伴う例に用いる補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は,内因を改善する補剤の代表方剤である.補中益気湯のアトピー性皮膚炎治療における有用性を明らかにするため,私たちは,内服前後における血中サイトカイン値の変動を検討するなど症例集積研究を重ねてきた.さらに最近,プラセボを対照薬とした多施設共同無作為化二重盲検比較試験を行った(Evidence-based Complementary and Alternative Medicine 2008; doi: 10.1093/ecam/nen003).対象は,4週間以上の標準治療にても緩解しない難治症例でかつ,補中益気湯の使用目標となる気虚判定表のスコアで気虚と判定された例に限定した.試験開始前と同じ治療内容を継続し,補中益気湯またはプラセボを24週間投与し,皮疹の重症度の推移のみならず,外用剤の使用量を点数化し,また安全性についても検討した.3カ月後では有意な差はみられなかったが6カ月後の結果において補中益気湯群で外用量の有意な削減効果がみられ,皮疹が消失した著効例も補中益気湯群に多く,増悪例は有意に少なかった.
著者
佐伯 万騎男 江草 宏
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.144, no.6, pp.277-280, 2014
被引用文献数
1

骨粗鬆症治療薬は骨吸収抑制薬と骨形成促進薬に分類される.従来の骨粗鬆症治療薬は骨吸収抑制薬が主流であったが,破骨細胞と骨芽細胞の活性が共役する機構が存在するために長期的には骨形成が低下して効果が減弱したり副作用が生じたりする問題点があった.骨形成促進薬anabolic agent としてはヒト副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)製剤であるテリパラチドが現在唯一の治療薬である.我々は破骨細胞におけるnuclear factor of activated T cells (NFAT)シグナルをターゲットとした骨吸収抑制薬の創薬を当初の目的として,RAW264.7 細胞を用いたセルベースアッセイ系を構築し,様々な化合物ライブラリーを用いた創薬スクリーニングを行ってきた.スクリーニング中に多くのNFAT 活性化小分子化合物を発見し,これらの破骨細胞を活性化させる化合物が,anabolic therapy に使用できる可能性があるのではないかと考えた.Anabolic agent として唯一臨床応用されているPTH 製剤が血中のカルシウム濃度を上昇させるしくみの一つに,骨吸収の促進がある.したがって,PTH の骨吸収促進という教科書的事実に固執していたら,テリパラチドが骨形成促進薬として開発されることもなかったであろう.PTH の持続的投与は骨吸収の促進をもたらすが,間歇的投与intermittent PTH(iPTH)treatment によるPTH の骨形成促進作用に注目したことが,テリパラチドという骨形成促進薬の開発につながった.我々はこのテリパラチドの例をヒントに,あえて破骨細胞の活性化薬をスクリーニングすることから,新しい骨形成促進薬を開発できないかと考えている.
著者
佐藤 輝紀 久場 敬司
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.153, no.4, pp.172-178, 2019 (Released:2019-04-11)
参考文献数
41

Apelinは内因性のAPJ受容体アゴニストであり,生体内に広く発現し,血管拡張作用,心筋収縮力増強,体液調節,代謝の制御,心血管系の発生,骨格筋の再生など多くの生理機能を有することが解明されてきた.高血圧,心不全,肺高血圧,動脈硬化など心血管系病態に対するApelinの改善効果について多くの研究がなされてきたが,近年サルコペニアや加齢性疾患における役割が注目されている.Apelinの薬理作用のひとつにレニン-アンジオテンシン系(RAS)との相互作用があるが,これまでの私たちの研究成果から,アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)の制御を介して,RASを負に調節することで心不全病態を改善することが明らかになってきた.また近年,第2のAPJ受容体リガンドElabela/Toddlerが心臓発生に不可欠なホルモンとして同定され,Apelinと同様にElabelaが心機能維持,心保護効果の薬理作用を有することが明らかになってきた.心不全パンデミックとよばれ,心不全患者が年々増加している一方で,その病態解明ならびに治療方法の開発はいまだ十分とは言えない.Apelinは強心作用と心保護効果を併せ持つことから新規カテゴリーの心不全治療薬候補であり,今後ApelinあるいはAPJ受容体アゴニストが新しい心不全治療薬として発展することが期待される.
著者
大西 治夫 伊藤 千尋 鈴木 和男 仁保 健 下良 実 山口 和夫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.78, no.3, pp.139-144, 1981 (Released:2007-03-09)
参考文献数
18
被引用文献数
3 2

tofisopam の嗅球摘出ラットにおける拘束ストレス潰瘍,水浸拘束ストレス下における腸管輸送能およびウサギ視床下部電気刺激による自律神経反応に及ぼす影響について検討した.嗅球摘出ラットに拘束ストレスを負荷することにより,胃潰瘍の発現率および潰瘍指数の上昇が認められた.tofisopam は嗅球摘出ラットにおける拘束ストレス潰瘍を著明に抑制した.ラットに水浸拘束ストレスを負荷したところ,明らかに腸管輸送能の亢進が認められたが,tofisopam はこの腸管輸送能の亢進を抑制した.ウサギの視床下部(内側視索前野)を電気刺激したところ,耳介細動脈および細静脈の収縮,耳朶温の低下,瞳孔径の増大などの変化が認められた.tofisopam 1mg/kg 静注により,視床下部の電気刺激による耳介細動脈および細静脈の収縮ならびに瞳孔径の増大に対する抑制が認められた.また,tofisopam 0.1mg/kg の脳脊髄内投与によっても,視床下部の電気刺激による耳介細動脈の収縮,耳朶温の低下および瞳孔径の増大に対する抑制が認められた.これらの結果は,tofisopam が各種ストレス負荷時にみられる自律神経系の異常を改善し,さらに,自律神経系の高位中枢である視床下部に対しても作用を有することを示すものと思われた。
著者
片山 謙一 森尾 保徳 芳賀 慶一郎 福田 武美
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.105, no.6, pp.461-468, 1995-06-01
参考文献数
15
被引用文献数
10

消化管運動賦活調整薬であるシサプリド(cis-4-amino-5-chloro-N-[1-[3-(p-fluorophenoxy)propyl]-3-methoxy-4-piperidy1]-o-anisamide)のセロトニン(5-HT)<SUB>4</SUB>受容体への親和性を,モルモット脳線条体を膜標品とする<SUP>3</SUP>H-GRIl3808結合試験を用いて検討した.<SUP>3</SUP>H-GR113808は解離定数(Kd値)0.21&plusmn;0.009nM,最大結合量(B<SUB>max</SUB>値)162&plusmn;7.7fmol/mgタンパクで単一結合部位に結合した(Hill係数1.0&plusmn;0.03).しかし,<SUP>3</SUP>H-GRI13808と特異的に結合した膜標品に高濃度のシサプリドを添加すると,<SUP>3</SUP>H-GRI13808は急速に受容体から解離し,シサプリドは<SUP>3</SUP>H-GR113808と同一部位に結合することが示唆された,シサプリドの<SUP>3</SUP>H-GRII3808に対する阻害作用は濃度依存的であり,高濃度では完全に阻害した.結合阻害定数(K<SUB>i</SUB>値)は70nMであり,5-HT<SUB>4</SUB>受容体への親和性は5-HTの約1.9倍,5-メトキシトリプタミンの約7.3倍,モサプリドの約4.3倍,ザコプリドの約11倍,メトクロプラミドの約26倍であった.ドンペリドンの親和性は非常に弱く,マレイン酸トリメブチンおよびナパジシル酸アクラトニウムは親和性を示さなかった.<SUP>3</SUP>H-GR113808結合に対する阻害作用の様式を検討したところ,シサプリドは<SUP>3</SUP>H-GR113808のKd値を増加させ,B<SUB>max</SUB>値には影響を及ぼさなかった.以上の結果から,シサプリドは5-HT<SUB>4</SUB>受容体に対し<SUP>3</SUP>H-GR113808と競合的に結合することが明らかとなった.
著者
東 泰孝 竹内 正吉
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.143, no.6, pp.275-278, 2014 (Released:2014-06-10)
参考文献数
44

炎症性腸疾患は,難治性の慢性腸炎であり,小腸および大腸を好発部位とするクローン病および大腸に起こる潰瘍性大腸炎が代表的な疾患である.いずれも慢性的な炎症の緩解と再燃を繰り返す疾患である.原因は未だ完全には解明されていないが,これまでに,IL-2,IL-10およびT 細胞受容体の遺伝子欠損マウスが炎症性の腸炎を惹起することから,免疫異常,特に粘膜免疫系の過剰な反応によって誘発される可能性が示されている.今回,IL-10ファミリーに分類されるIL-19の炎症性腸疾患における役割を検討したところ,クローン病モデルおよび潰瘍性大腸炎モデルのいずれにおいても,IL-19遺伝子欠損に伴い炎症の悪化が起こることが明らかとなった.
著者
濱田 祐輔 山下 哲 田村 英紀 成田 道子 葛巻 直子 成田 年
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.148, no.3, pp.128-133, 2016 (Released:2016-09-01)
参考文献数
17

慢性疼痛患者は,持続的な痛みを訴える一方で,二次的にうつや不安障害などの精神障害や睡眠障害などの高次脳機能障害を伴うケースが多い.特に,睡眠障害は多くの慢性疼痛患者において共通して認められる症状のひとつであり,逆に睡眠の量や質の悪化が痛みの重症度やうつ・不安障害の悪化に密接に関係している.このような複雑な合併症状による負の連鎖は,「慢性疼痛」という病態を複雑にして患者のQOLを著しく低下させてしまう.こうした現状は,疼痛治療において,疼痛以外の併発・合併症状の改善も考慮に入れて治療を行う必要性を示唆している.そこで我々は,慢性疼痛下における睡眠障害の発現メカニズムについて解析を試みた.神経障害性疼痛モデルマウスを作製し,疼痛下の前帯状回領域において,グルタミン酸遊離量の増加ならびに細胞外GABA濃度の低下を認め,前帯状回領域における神経回路の興奮-抑制のバランスの異常により睡眠障害が惹起されうる可能性を見出した.また,この神経障害性疼痛モデルマウスにおいて,前帯状回領域における神経活動の機能変化にアストロサイトの活性化が一部寄与していることが明らかとなった.さらに,オプトジェネティクス法を駆使した前帯状回アストロサイトの特異的活性化により,睡眠障害が惹起されることを見出した.したがって,慢性疼痛下における睡眠障害の発現の一端には,前帯状回領域における興奮-抑制バランスの調節不全ならびに神経-グリア相互作用の機能異常が関与している可能性が考えられる.
著者
竹内 孝治 加藤 伸一 香川 茂
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.120, no.1, pp.21-28, 2002 (Released:2003-01-28)
参考文献数
40

胃粘膜に軽微な傷害が発生した場合,酸分泌は著しく減少し,胃内アルカリ化が生じる.このような酸分泌変化は非ステロイド系抗炎症薬ばかりでなく,一酸化窒素(NO)合成酵素阻害薬の前処置によっても抑制される.特にNO合成酵素阻害薬の存在下に胃粘膜傷害を発生させた場合,胃酸分泌は“減少反応”から“促進反応”に転じ,この変化はヒスタミンH2拮抗薬,肥満細胞安定化薬,および知覚神経麻痺によって抑制される.すなわち傷害胃粘膜では,プロスタグランジン(PG)およびNOを介する酸分泌の抑制系に加えて,粘膜肥満細胞,ヒスタミンおよび知覚神経を介する酸分泌の促進系も活性化されており,両者のバランスによって傷害胃での酸分泌反応が決定されている.通常は抑制系が促進系を凌駕しているために“酸分泌減少”として出現するが,NO合成阻害薬では抑制系が抑制される結果,促進系が顕在化し,“酸分泌促進”を呈する.傷害発生に伴い管腔内に遊離されてくるCa2+はNO合成酵素の活性化において必要であり,管腔内Ca2+の除去も胃内アルカリ化を抑制する.興味あることに,PGは傷害胃の酸分泌変化において両面作用を有しており,“抑制系”の仲介役に加えて,“促進系”の促通因子としての作用も推察されている.また,傷害胃で認められる酸分泌変化に関与するPGやNOはそれぞれCOX-1およびcNOS由来のものであり,傷害後に認められる胃内アルカリ化は選択的COX-2阻害薬やiNOS阻害薬によっては影響されない.このように,傷害胃粘膜の酸分泌反応は正常胃粘膜とは明らかに異なり,内因性PGに加えて,NO,ヒスタミン,知覚神経を含めた複雑かつ巧妙な調節系の存在が推察される.このような酸分泌変化は障害発生に対する適応性反応の一つであり,傷害部への酸の攻撃を和らげることにより,傷害の進展を防ぎ,損傷部の速やかな修復を促す上で極めて重要である.
著者
田辺 光男 高須 景子 小野 秀樹
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.134, no.6, pp.299-303, 2009 (Released:2009-12-14)
参考文献数
37
被引用文献数
1 1

抗てんかん薬ガバペンチンは,欧米において神経因性疼痛治療薬としての地位を確立しているが,その作用メカニズムについては未解明な部分が多い.我々はその作用部位として上位中枢に焦点を当てた研究を行い,脳室内投与したガバペンチンが神経損傷(マウス坐骨神経部分結紮モデル)後の疼痛症状(熱痛覚過敏および機械アロディニア)に対し障害依存的な鎮痛作用を発揮することを示し,ガバペンチン全身投与後の鎮痛作用において,上位中枢を介する効果が大きく寄与することを見出した.ガバペンチンの全身投与あるいは脳室内投与によって引き起こされる鎮痛効果は,脳幹から脊髄へ下行するノルアドレナリン(NA)神経を消失させると大幅に減弱し,また,α2-アドレナリン受容体アンタゴニストヨヒンビンの全身投与や脊髄内投与によって同様に減弱した.脳室内投与したガバペンチンが脊髄腰部膨大部のNA代謝回転を神経障害依存的に促進させたことからも,上位中枢に作用したガバペンチンが下行性NA神経を介して脊髄内においてNA遊離を増加させ,α2-アドレナリン受容体を介した鎮痛効果を発揮すると考えられる.さらに,坐骨神経部分結紮による神経障害後に作製したマウス脳幹スライスの青斑核ニューロンにおいて,ガバペンチンはGABA性の抑制性シナプス伝達をシナプス前性に抑制することを明らかにした.Sham手術マウス由来のスライスではガバペンチンはこの抑制性シナプス伝達抑制作用を示さず,また,神経障害後でも興奮性シナプス伝達に対しては影響を及ぼさなかった.これらの研究結果より,ガバペンチンは青斑核においてGABA性の抑制性入力を抑制することによって青斑核ニューロンを脱抑制し,下行性NA疼痛抑制経路を活性化させて神経因性疼痛を緩解することが示唆された.
著者
林 元英
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.205-214, 1977 (Released:2007-03-29)
参考文献数
7
被引用文献数
28 33

生薬紫根の薬理学的研究の一環として,その代表的製剤である紫雲膏の炎症反応に対する影響を,紫根ならびに当帰工一テルエキス軟膏の局所適用と比較検討した.紫根エキスはhistamine, bromelain, bradykininおよび抗ラット・ウサギ血清によって惹起した血管透過性充進を明らかに抑制した.抗ラット・ウサギ血清および熱刺激による浮腫に対しても有意な抑制作用を示し,紫外線照射ならびに熱刺激による局所皮膚温の上昇をも抑制した.創傷治癒に対しては創傷部の牽引法および面積法の両方法において明らかな治癒促進効果を示した.紫根エキスによるこれらの作用は0.2~0.1%濃度が最も強力で,それより上下の濃度になるにつれて効果は減弱した.当帰エキスは血管透過性充進を軽度抑制し,濃度の高い程作用も強く,急性浮腫に対しては0.04%濃度軟膏のみに抑制作用が認められた.しかし炎症性皮膚温の上昇や創傷治癒に対しては何ら影響しなかった.紫雲膏は紫根および当帰成分をそれぞれ0.2%,および0.04%含有し,両者が最も強力な効果を示す理想的な濃度を含有することが認められた.そして紫雲膏は紫根エキスと同様な作用を示し,当帰配合による有意差は認められなかったものの,紫根単独より多少強力な効果を呈した.それ故紫雲膏は炎症性の腫張ならびに発赤,発熱を抑制し,創傷治癒を促進すると共に紫根には抗菌作用があると言われるので外傷などの治療薬として好ましい製剤であることが認められた.
著者
中丸 幸一 菅井 利寿 木下 宣祐 佐藤 雅子 谷口 偉 川瀬 重雄
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.104, no.6, pp.447-457, 1994 (Released:2007-02-06)
参考文献数
38
被引用文献数
9 7

特発性炎症性腸疾患(IBD)である潰瘍性大腸炎とクローン病に対する治療薬としてメサラジン(mesalazine)顆粒(Pentasa®)が開発された.我々はすでにメサラジン顆粒の実験的大腸炎モデルに対する有効性を見い出した.本研究では,メサラジン(5-aminosalicylic acid)のラジカルおよび活性酸素の消去作用をin vitroの系で,脂質過酸化に対する作用をin vitroおよびin vivoの系で,さらにはロイコトリエンB4(LTB4)生合成に対する作用を検討した.その結果,メサラジンはフリーラジカルである1,1-diphenyl-2-picrylhydrazylを還元し,IC50値は9.5μMであった.また,活性酸素である過酸化水素と次亜塩素酸イオンの消去作用を示し,IC50値はそれぞれ0.7μM,37.0μMであったが,スーパーオキサイド消去作用は示さなかった.さらに,ラット肝ミクロソームでの過酸化脂質の生成を抑制し,IC50値は12.6μMであった.in vivoの系では,幽門部を結紮したラットにおいて,胃を虚血再灌流することで生じる胃粘膜過酸化脂質量に対する効果を検討した.メサラジン25,50mg/kgの胃内投与で十分量のメサラジンが胃粘膜に分布するとともに,用量依存的に過酸化脂質抑制効果を示し,50mg/kgでは有意(P<0.01)であった.ラットの腹腔から採取した好中球でのLTB4生合成に対してメサラジンは抑制作用を示し,IC50値は44.9μMであった.メサラジンの代謝物であるN-acetyl-mesalazineは高濃度(1mM)でLTB4生合成を抑制したが,ラジカル,活性酸素の消去作用および過酸化脂質の抑制作用は示さなかった.以上の成績から,メサラジンは炎症部位で生じる活性酸素を消去することで細胞障害を抑制すること,さらにはLTB4生合成を阻害することで好中球の浸潤を抑制することが示唆された.そして,メサラジン顆粒はこれらの作用機序を介してIBDに有効であることが示唆される.