著者
宮野 加奈子 河野 透 上園 保仁
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.146, no.2, pp.76-80, 2015 (Released:2015-08-10)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

抗がん剤や放射線治療により発症する口内炎は,健常人が経験する口内炎と比較し,炎症が広範囲であり,その痛みは強く,摂食困難,抗がん剤の減量,変更を余儀なくされる場合も多い.現在口内炎に対して推奨される予防・治療法はなく,新たな治療法の確立が必要とされている.我々はこれまでに,漢方薬のひとつである半夏瀉心湯の含嗽が,抗がん剤治療により発症した口内炎に有効であることを臨床試験により明らかにし,さらに半夏瀉心湯の口内炎改善メカニズムを解明するための基礎研究を行っている.抗がん剤投与後,口腔粘膜をスクラッチして口内炎を発生させたGolden Syrian Hamsterの口内炎部位では,炎症・発痛物質であるプロスタグランジンE2(PGE2)量が増加しており,半夏瀉心湯投与によりPGE2は減少し,口内炎は有意に改善された.次に,human oral keratinocyteを用い,PGE2産生に対する半夏瀉心湯の効果を解析した.その結果,IL-1β刺激によるPGE2産生は半夏瀉心湯濃度依存的に抑制され,この抑制作用には半夏瀉心湯を構成している乾姜の成分である[6]-shogaol,ならびに黄芩成分であるbaicalinおよびwogoninが重要であることが明らかとなった.さらに各成分によるPGE2産生抑制メカニズムについて解析を行ったところ,黄芩成分はIL-1β刺激により発現するシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)を阻害することにより,また,[6]-shogaolはPGE2合成関連酵素の活性を阻害することによりPGE2産生を抑制することが示唆された.以上の結果より,半夏瀉心湯の構成生薬成分がそれぞれ異なる作用点を介して総和的にPGE2産生を抑制し,口内炎を改善する可能性が示唆された.
著者
堀上 大貴 小林 幸司 村田 幸久
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.155, no.6, pp.395-400, 2020 (Released:2020-11-01)
参考文献数
46

血管は正常時,高分子を透過させずに酸素や栄養素などの低分子のみを透過させる.しかし,組織で炎症が惹起されると血管の透過性は亢進し,血漿中の高分子や水分が血管外に漏出する.これが免疫細胞の浸潤や炎症性メディエーターの産生の引き金となって炎症をさらに進行させる.血管透過性の亢進は,炎症を背景にもつ疾患の進行に深く関わるが,その制御機構については未だ不明な点が多い.血管透過性の制御に関与する細胞として,血管を構成する内皮細胞と血管壁細胞の2つが挙げられる.内皮細胞は血管の内腔側を覆い,内皮バリアを形成する.一方血管壁細胞は収縮・弛緩することで下流組織の血流量や血圧を調節する.内皮バリアの強化と血管の収縮は透過性を抑制する要因であり,内皮バリアの崩壊と血管の弛緩は血管透過性を亢進する要因となる.プロスタノイドは炎症刺激に応じて産生される低分子生理活性脂質であり,痛みや発熱,細胞浸潤などを引き起こす他,血管透過性にも大きな影響を及ぼす.本稿では,炎症性生理活性脂質として広く知られるプロスタグランジン(PG)E2をはじめとして,PGI2,PGF2α,PGD2,トロンボキサン(TX)A2が血管透過性に与える影響について,内皮細胞や血管壁細胞に発現する各々のGタンパク質共役型受容体の発現量やその働きに注目して整理してみたい.
著者
三輪 宜一 田場 洋二 宮城 めぐみ 笹栗 俊之
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.123, no.1, pp.34-40, 2004 (Released:2003-12-23)
参考文献数
27
被引用文献数
4 4

プロスタグランジンJ2(PGJ2),Δ12-PGJ2,15-デオキシ-Δ12,14-PGJ2(15d-PGJ2)の三者を含むPGJ2ファミリーは,生体内ではアラキドン酸代謝の過程においてPGD2が非酵素的に変換され生成される.これらPGJ2ファミリーの薬理作用としては,古くからがん細胞やウイルスの増殖を強力に抑制することが知られていた.しかしながらその他の作用についてはほとんど知られていなかった.その後,1995年にPGJ2ファミリーが脂肪細胞の分化に必要な核内受容体peroxisome proliferator-activated receptor γ(PPARγ)のリガンドであることが明らかになって以来,研究が飛躍的に進んだ.特に15d-PGJ2は現在のところ最も強力な内因性PPARγリガンドとして知られており,抗炎症作用,アポトーシス抑制および誘導作用,分化誘導作用等の新たな薬理作用を有することが見出された.本稿では主に心血管系の細胞を中心に,これまでに明らかにされたPGJ2ファミリーの薬理作用およびその機序についてまとめた.
著者
石原 真理子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.5, pp.329-334, 2006 (Released:2006-07-01)
参考文献数
32

医薬品,農薬,内分泌撹乱物質,天然および合成有機化合物などの生理活性物質は,その独自の薬理作用と同時に,大なり小なり細胞傷害活性を持っている.この細胞傷害活性の研究は,特にアポトーシス研究の重要なテーマになっている.作用物質の作用発現の決定因子が作用物質の物理化学性にあるのか,作用点に到達してから作用発現させる化学反応性にあるのかで,作用物質の反応性は異なってくる.半経験的分子軌道法(PM3法)によりHOMOエネルギー,LUMOエネルギー,イオン化ポテンシャル(IP),絶対ハードネス(η),絶対電気陰性度(chemical potential,χ),オクタノールー水分配係数(log P)などのデスクリプター(記述子)を算出することにより,構造が類似した薬物の定量的構造活性相関解析(QSAR)を行なうことができる.Betulinic acid誘導体のメラノーマ細胞に対する細胞傷害性は,IPと直線的相関関係を示した.クマリン誘導体の口腔扁平上皮癌細胞に対する細胞傷害性は絶対ハードネス(η)と強く直線的相関性を示した.分子の硬さや柔らかさをPM3法で計算する際にはCONFLEXの使用が有用であった.ゲラニルゲラニオール類,ビタミンK1,K2,K3,プレニルフラボン類,イソフラボン類,没食子酸誘導体,フッ化活性型ビタミンD3誘導体,2-styrylchroman誘導体の細胞傷害性には,疎水性(log P)が大きく影響した.本方法を,生理活性物質のQSAR解析,最安定化構造の予測,細胞傷害活性の検討,そしてラジカル捕捉数の算定に応用した例なども紹介する.QSARは,より活性の高い物質の構造の創薬への貢献が期待される.
著者
関 貴弘
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.4, pp.206-210, 2015 (Released:2015-04-10)
参考文献数
15

細胞内タンパク質分解系の一つであるオートファジー・リソソーム系にはリソソームに基質を運ぶ経路の違いにより,マクロオートファジー(MA),ミクロオートファジー(mA)およびシャペロン介在性オートファジー(CMA)の3種類が存在している.これら3種類のうち,MAは特異的活性マーカーであるLC3-IIの発見を契機に,研究が爆発的に進展し,生理機能や疾患発症への関与が次々と明らかになっている.一方で,mAは酵母では研究が進んでいるものの,哺乳細胞におけるmAの実態は不明なままである.CMAについてはHsc70やLAMP2Aといった関連する分子は解明されたが,有用な活性マーカーがなく,簡便な活性評価法も存在しないため,MAに比べて研究が遅れを取っている.しかし,CMAは①細胞質タンパク質の30%が基質となる,②他の分解系と異なり哺乳細胞しか存在しない,という特徴を持っておりCMAは哺乳細胞の機能維持に不可欠であり,CMAの破綻が様々な疾患発症に繋がる可能性は高い.我々はCMAの基質として知られているGAPDHに多機能ラベリングシステムであるHaloTagを融合したものをCMAマーカーとし,蛍光顕微鏡で簡便にかつ一細胞レベルで詳細にCMA活性を評価することが可能な新規活性評価法を開発した.この新規CMA活性評価法はCMAの生理機能や疾患発症への関与解明に大きく寄与することが期待される.本稿はこの新規CMA活性評価法の詳細とこれを応用した神経変性疾患モデルにおけるCMA活性評価を行った結果を紹介する.
著者
山澤 德志子 小林 琢也 呉林 なごみ 村山 尚
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.157, no.1, pp.15-22, 2022 (Released:2022-01-01)
参考文献数
33

骨格筋のCa2+放出チャネルである1型リアノジン受容体(RyR1)は,骨格筋の興奮収縮連関時に筋小胞体からCa2+を放出する重要な役割を果たしている.RyR1の遺伝子変異は,過剰にチャネルを活性化して悪性高熱症(MH)を惹き起こし,一部の重度熱中症にも関与している.1960年代に開発されたダントロレンは,唯一承認されている治療薬である.しかし水溶性が非常に悪く,血中半減期も長いという欠点がある.そこで我々は,オキソリン酸誘導体のRyR1阻害物質である6,7-(methylenedioxy)-1-octyl-4-quinolone-3-carboxylic acid(化合物1,Cpd1)を開発した.Cpd1の治療効果を調べるため,新規MHモデルマウス(RYR1-p.R2509C)を作出し,イソフルラン吸入麻酔により誘発されたMH症状がCpd1投与により改善されることを明らかにした.また,このマウスは外気温の上昇による熱中症を引き起こしたが,Cpd1の投与は熱中症に対しても延命効果を示した.さらに,Cpd1は水溶性が高く,血中半減期が短いことが明らかとなり,ダントロレンの欠点を大きく改善した.本稿では,新規MHモデルマウス(RYR1-p.R2509C)と,Cpd1の治療効果を中心に概説する.
著者
北村 佳久 高田 和幸 谷口 隆之
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.124, no.6, pp.407-413, 2004 (Released:2004-11-26)
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

小胞体はタンパク質の品質管理を行う細胞内小器官であり,その機能不全によって折り畳み構造の異常なタンパク質が増加・蓄積する.異常タンパク質の蓄積が基盤となり発症する疾患はコンフォメーション病と呼ばれ,アルツハイマー病(AD)などの神経変性疾患がその疾患の一つとして考えられている.AD脳では,細胞外におけるアミロイドβタンパク質(Aβ)の蓄積により形成される老人斑や,神経細胞内で異常リン酸化タウタンパク質の蓄積により形成される神経原線維変化が観察されるが,現在では,脳内Aβの蓄積がAD発症メカニズムの上流に位置すると考えられている.細胞外でのAβ蓄積に対するストレス応答反応として,ミクログリアが老人斑に集積するが,その役割は不明である.近年,我々は,ラット培養ミクログリアがAβ1-42(Aβ42)を貪食し分解すること,その貪食には低分子量Gタンパク質のRac1やその下流で働くWiskott-Aldrich syndrome protein family verprolin-homologous protein(WAVE)により制御されるアクチン線維の再構築が関与することを明らかにした.さらに,ミクログリアによるAβ42貪食は,ストレスタンパク質であるHeat shock proteins(Hsp)により増強され,反対に,核内タンパク質として知られるHigh mobility group box protein-1(HMGB1)により阻害されることがわかった.このような,ミクログリアによるAβ42貪食メカニズムの解明や調節に関する研究を基盤として,新規AD治療法の開発が期待される.
著者
小野寺 憲治
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.100, no.1, pp.1-9, 1992 (Released:2007-02-13)
参考文献数
50
被引用文献数
1 2

When rats were maintained on a thiamine-deficient diet for 30 days, about 70% of the animals showed a mouse-killing response (muricide). The thiamine-deficient killer-rats do not eat but merely killed the mice. Once this abnormal behavior appeared, the response remained, and could not be suppressed by the administration of thiamine hydrochloride plus thiamine-supplemented diet, regardless of a return to normal feeding, growth and heart rate. Drugs that activate the central serotonergic and noradrenergic systems have suppressive effects on it. Conversely, among the various depletions of brain monoamines, only depletion of serotonin by the drug p-chlorophenylalanine significantly increased the incidence of muricide. Antihistaminergic drugs were potently effective, but atropine, an anticholinergic drug, were ineffective. Various antidepressants and electroconvulsive shock treatment also suppressed muricide to various degrees. Thus, it is expected that the muricide induced by thiamine deficiency may be useful as an animal model of depression, although the usefulness of this abnormal behavior as a working model of depression or for screening new antidepressants remains to be evaluated.
著者
古戎 道典 石田 貴之
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.155, no.4, pp.269-276, 2020 (Released:2020-07-01)
参考文献数
31
被引用文献数
3 3

パーキンソン病は,運動緩慢,無動,振戦などの運動症状を主症状とする神経変性疾患である.中脳黒質のドパミン作動性神経細胞の変性脱落することにより,脳内のドパミンが枯渇し,大脳基底核の運動制御機能が異常になると考えられている.サフィナミドは,選択的で可逆的な新たなモノアミン酸化酵素B(MAO-B)阻害薬であり,ドパミン代謝酵素であるMAO-Bを阻害することで,脳内のドパミン量を増やすと考えられている.さらに本剤は,ナトリウムチャネル阻害作用やグルタミン酸放出抑制作用などの非ドパミン作用を有していることが特徴である.非臨床試験では,ドパミン作動性神経を破壊したラットやカニクイザルにサフィナミドが投与され,進行期のパーキンソン病症状であるウェアリングオフ様症状を改善することが示された.また,カニクイザルを用いた実験では,サフィナミドがレボドパに対する応答時間を延長すると同時に,レボドパ誘発性のジスキネジアを抑制した.これらの結果から,本剤は,MAO-B阻害作用による脳内ドパミン量の増加に加え,非ドパミン作用の影響を介した治療効果が期待できる.臨床試験では,サフィナミドがウェアリングオフを有するパーキンソン病患者のオン時間を延長し,Unified Parkinson’s Disease Rating Scale(UPDRS)Part III(運動機能検査)を改善させることが明らかにされ,パーキンソン病患者の日常生活の活動性を高めることが示された.この結果を受けて,本剤は,ウェアリングオフを有するパーキンソン病に対するレボドパ併用薬として,2019年9月に本邦で承認された.パーキンソン病治療の新たな選択肢として期待される.
著者
阿部 芳春 小関 靖
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.157, no.1, pp.76-84, 2022 (Released:2022-01-01)
参考文献数
33
被引用文献数
1

ホリトロピン デルタ(遺伝子組換え)(製品名:レコベル皮下注12 μgペン/同皮下注36 μgペン/同皮下注72 μgペン)は,フェリング・ファーマ株式会社が開発した遺伝子組換えヒト卵胞刺激ホルモン(rFSH)である.ヒト由来細胞株(ヒト胚性網膜芽細胞:PER.C6)にヒト卵胞刺激ホルモン(FSH)を分泌する遺伝子を組み込み,無血清条件下で内因性のFSHと同様の「α2.3及びα2.6結合シアル酸を有する糖鎖構造」の原薬を生成することが可能になった.本剤は世界初のヒト細胞株由来の遺伝子組換えFSH製剤であり,この2つのシアル酸を有する糖鎖構造によって,内因性FSHと類似した血中動態が期待できる.さらに,血清抗ミュラー管ホルモン(AMH)値及び体重を指標とした投与量アルゴリズムにより,個々の患者に適した投与量で至適な卵胞発育及び安全性リスクの軽減も期待できる.第Ⅱ相臨床試験では,ホリトロピン デルタの用量範囲6~12 μg/日の用量反応性が認められ,有効性と安全性が示されたこと,及び母集団薬物動態/薬力学解析結果から,非日本人女性で設定した個別化用量は日本人でも適切であることが確認された.第Ⅲ相臨床試験では,主要評価項目として臨床的妊娠率(海外試験)および採卵数(国内試験)においてホリトフォリトロピン アルファ(海外試験)またはベータ(国内試験)に対するホリトロピン デルタ非劣性が検証された.また,ホリトロピン デルタ群で全卵巣過剰刺激症候群を発現した被験者及び/又は予防的介入を実施した被験者の割合は,フォリトロピン アルファまたはベータ群と比べて統計学的に有意に低く,その他の安全性評価においてもこれらと同様のプロファイルを示した.以上より,生殖補助医療における調節卵巣刺激を受ける不妊症の女性において,本剤の個別化用量の臨床的ベネフィットが認められたことから,安全性を保ちながら有用な新規の治療選択肢を患者及び医療現場に提供できると考える.
著者
斉藤 昌之 大橋 敦子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.118, no.5, pp.327-333, 2001 (Released:2002-09-27)
参考文献数
21
被引用文献数
5 5

筋肉運動とは別に, 食事や薬物によって代謝的熱産生を増やし体脂肪を減少させようとする試みのターゲットとして, ミトコンドリア脱共役タンパク質UCPが注目されている. UCPはプロトン輸送活性を有しており, その名の通りミトコンドリア内膜での酸化的リン酸化反応を脱共役させて, エネルギーを熱として散逸する機能を持っている. 代表的なUCPである褐色脂肪細胞UCP-1の場合, 寒冷曝露や自発的多食などで交感神経の感動が高まると, 放出されたノルアドレナリンがβ3受容体に作用して細胞内脂肪の分解を促し, 遊離した脂肪酸がUCP-1のプロトン輸送活性を増加させると同時に, 自ら酸化分解されて熱源となる. 更にノルアドレナリンの刺激が持続すると, 転写調節因子や核内受容体の作用を介してUCP-1遺伝子の発現も増加する. 従ってこれらの関与分子を活性化すれば, 熱産生の亢進と肥満軽減の効果が期待される. 事実, β3受容体に対する特異的な作動薬を各種の肥満モデル動物に投与すると, エネルギー消費が増加し体脂肪が減少することが確かめられている. 最近各種のUCP isoformが発見され, 特にUCP-2は広く全身の組織に, またUCP-3は熱産生への寄与が大きい骨格筋に高発現していることが明らかになって, 肥満との関係に多くの関心が集まっている. 現在までに, これらUCPの遺伝子発現の調節については多くの知見が集積したが, 今後, 脱共役機能自体の解析を進めることが抗肥満創薬において重要である.
著者
金田 勝幸 出山 諭司 李 雪婷 張 彤 笹瀬 人暉
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.155, no.3, pp.135-139, 2020 (Released:2020-05-01)
参考文献数
16

ストレスは麻薬や覚醒剤などに対する欲求を増強させる.薬物欲求増強は一旦中止した薬物を再摂取してしまう再燃につながると考えられることから,欲求増強に関わる神経機構の解明が重要である.薬物欲求には,腹側被蓋野,側坐核,内側前頭前野(mPFC)などから構成される脳内報酬系に加え,報酬系と密接に関わる脳幹の背外側被蓋核(LDT)が関与する.また,ストレス時には,mPFCおよびLDTでのノルアドレナリン(NA)レベルが上昇する.したがって,ストレスによる薬物欲求増強に,これらの脳部位でのNA神経伝達の亢進が関与している可能性が推測される.そこで,コカイン条件付け場所嗜好性試験(CPPテスト)に拘束ストレス負荷を組み合わせる実験系を考案し,この仮説を検証した.ポストテスト直前に拘束ストレスを負荷することで,CPPスコアの有意な増大,すなわち,コカイン欲求の増強が認められ,この増強はLDTへのα2あるいはβ受容体拮抗薬の局所投与により抑制された.さらに,コカイン慢性投与後の動物から得たLDTニューロンでは,NAにより抑制性シナプス後電流が抑制されたことから,コカイン摂取により抑制性シナプス伝達に可塑的変化が誘導され,これが,LDTニューロンの興奮性を増大させることが示唆された.一方,NAはα1受容体を介してmPFC錐体ニューロンの興奮性を上昇させた.また,mPFCへのα1受容体拮抗薬の局所投与はストレスによるCPP増大を抑制し,さらに,薬理遺伝学的手法によりmPFC錐体ニューロンの活動を選択的に抑制することによっても,ストレス誘発性CPP増大は減弱した.以上の結果から,ストレスにより遊離の亢進したNAがLDTおよびmPFCニューロンを活性化させることで,コカイン欲求行動を増強させると考えられる.したがって,NA神経伝達の制御が,再燃に対する治療薬・治療法の開発につながることが期待される.
著者
山浦 克典 鈴木 昌彦 並木 隆雄 上野 光一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.135, no.6, pp.235-239, 2010 (Released:2010-06-11)
参考文献数
59
被引用文献数
1 1

2000年に新規同定されたヒスタミンH4受容体は,主に免疫系細胞に発現し免疫反応への関与が示唆されている.我々は関節リウマチ患者の関節滑膜に着目し,マクロファージ様および線維芽細胞様滑膜細胞いずれにもH4受容体が発現していることを確認した.次に,表皮および真皮のH4受容体発現を検討し,表皮においてはケラチノサイトが分化に伴いH4受容体の発現を増強することを,また真皮においては真皮線維芽細胞にH4受容体が発現することを確認した.さらに,皮膚に発現するH4受容体の役割として掻痒反応への関与が示唆されているため,サブスタンスPによるマウス掻痒反応において,H4受容体遮断薬が抗掻痒作用を示すことを確認した.サブスタンスPにより誘発する掻痒反応では,マスト細胞の関与は小さいこと,ケラチノサイトが反応に重要な役割を果たすとされることから,ケラチノサイトに発現するH4受容体を介する掻痒反応機構の存在が示唆された.
著者
井家 益和 小澤 洋介
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.3, pp.150-153, 2011 (Released:2011-03-10)
参考文献数
12
被引用文献数
2 1

自家培養表皮「ジェイス」は,ヒト細胞を用いた日本初の再生医療製品であり,2007年に承認された.自家培養表皮は,患者自身の皮膚を原材料として作製した表皮細胞シートである.ジェイスの製造は,3T3-J2細胞のフィーダーと,ウシ胎児血清や増殖因子を添加した培地を用いて表皮細胞を培養するGreen法を採用しており,数cm2の皮膚から体表をすべて覆う面積の表皮細胞シートを製造することができる.ジェイスを広範囲熱傷の熱傷創面に適用すると,表皮細胞が生着することによって創が閉鎖される.ジェイスの生着は,移植部位の状態に大きく影響されることがわかっている.生着を阻害する要因には,感染,炎症,物理的刺激,細胞傷害性物質などが考えられる.ジェイスの有効性を発揮させるために,わが国の医療現場に適した移植手技が標準化されることが望ましい.再生医療製品では,細胞毒性が低い併用薬の選択が求められることから,薬理学的なサポートも重要である.
著者
石井 健敏 谷口 弘之 斉藤 亜紀良
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.131, no.3, pp.205-209, 2008 (Released:2008-03-14)
参考文献数
20

片頭痛は頭痛発作を繰り返す疾患であり,本邦では人口の8.4%に存在する.男性に比べて女性での発症率のほうが高く,症状は悪心および嘔吐を伴うことが多い.痛みは激烈で,日常生活および社会生活に大きく影響することから,その病態の解明や治療法の確立は重要且つ急務であると考えられる.片頭痛の治療は,本邦においても2000年にトリプタン製剤が承認されて以降,スマトリプタンを含み合計4種類が臨床で使用されるようになり,新時代を迎えた.セロトニン1B/1D受容体作動薬であるトリプタン系の薬剤は片頭痛に対して治療有効性が高く,多くの患者に有益な効果と日常生活の質の向上をもたらした.しかし,トリプタン製剤もその治療効果は必ずしも十分であるとは言い切れない.また,血管収縮作用を有することから,その使用にあたり制限があることや,熱感,倦怠感,めまいなどの副作用が誘発されるなど,いまだ問題を抱えている.したがって,片頭痛の治療において新規な作用メカニズムを有する薬剤を創製することは今後も必要であろう.片頭痛の発症機序および病態生理についてはいまだ十分には解明されていないものの,血管説,神経説および三叉神経血管説の3つの仮説が有力である.これら3つの仮説のいずれかに当てはまる現象を指標として創薬研究が行われている.
著者
草刈 洋一郎 平野 周太 本郷 賢一 中山 博之 大津 欣也 栗原 敏
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.123, no.2, pp.87-93, 2004 (Released:2004-01-23)
参考文献数
25

正常の心臓は律動的な収縮·弛緩を繰り返し,全身に絶え間なく血液を送り出している.これは,細胞内Ca2+-handlingを中心とした興奮収縮連関が規則正しく行われている結果である.一方で興奮収縮連関が破綻すると,収縮不全や拡張不全が招来されることが明らかになってきた.心筋細胞内Ca2+handlingの調節には多くのタンパク質が関わっているが,中でも筋小胞体のCa2+ポンプであるSERCA2a(心筋筋小胞体Ca2+-ATPase)が中心的な役割を果たしている.近年,分子生物学的手法を用いて,SERCA2aを心筋に選択的に過剰発現させると,心肥大や心不全になりにくいことが指摘されている.しかし,これまでの遺伝子変異動物を用いた研究では主として慢性心不全に関する研究は多いが,急激に起こる心機能の低下の原因に関する研究は少ない.そこで,今回我々は,SERCA2a選択的過剰発現心筋を用いて,急性の収縮不全や拡張不全を起こす病態時に,SERCA2aの選択的機能亢進により細胞内Ca2+-handlingと収縮調節がどのような影響を受けるのかについて調べた.急性収縮不全をきたす病態として,呼吸性(CO2)アシドーシスを用いた.アシドーシスならびにアシドーシスからの回復時における細胞内Ca2+と収縮張力を,SERCA2a過剰発現心筋と正常心筋とで比較した.アシドーシス時の収縮抑制に対しても,またアシドーシスからの回復時の収縮維持に関してもSERCA2a過剰発現心筋は正常心筋よりも収縮低下が抑制された.この結果は虚血性心疾患の初期などでおこるアシドーシスによる収縮不全に対して,SERCA2aの選択的発現増加による細胞内Ca2+-handlingの機能亢進が有用であることを示唆している.
著者
平山 晴子 樅木 勝巳 椎名 貴彦 志水 泰武
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.143, no.6, pp.270-274, 2014 (Released:2014-06-10)
参考文献数
24

グレリンとは,主に胃から分泌される,28個のアミノ酸からなるペプチドホルモンである.他のホルモンにはないグレリンの特徴として,3番目のセリン残基に脂肪酸による修飾を受けていることが挙げられる.この脂肪酸修飾がグレリン受容体を介した作用発現には必須である.生体内にはグレリンの脂肪酸修飾を持たない型も存在し,デスアシルグレリンと呼ばれるが,脂肪酸修飾を欠くというその構造上,グレリン受容体に対しては不活性型である.しかし近年では,デスアシルグレリンのグレリン受容体以外の経路を介する作用についても多数の報告がなされている.グレリンの作用としては,成長ホルモン分泌促進や,食欲亢進,エネルギー消費の抑制をはじめとし,循環器系への作用,消化器系への作用と,その作用は非常に多岐に渡る.グレリンの消化管運動に対する作用としては,胃や小腸,大腸の運動性を亢進させることなどがこれまでに報告されている.また,消化器疾患におけるグレリンの関与についてもさまざまな知見が報告されており,今後の研究の展開が期待されている.我々はこれまでに,in vivoの実験系を用い,グレリンの脊髄腰仙髄部の排便中枢を介する大腸運動への作用について研究してきた.本稿ではこの結果について,実験系も含め紹介する.
著者
馬庭 貴司 山本 寛
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.2, pp.129-134, 2007 (Released:2007-02-14)
参考文献数
11
被引用文献数
2 2

アムビゾームは,現在でも深在性真菌症治療のgold standardとされているアムホテリシンB(AMPH-B)の優れた抗真菌活性を維持しつつ,副作用を低減させたリポソーム製剤である.本剤はリン脂質およびコレステロールで構成された単層膜リポソームの脂質二重膜にAMPH-Bを保持した製剤である.アムビゾームは深在性真菌症の主要起炎菌である,Aspergillus属,Candida属,およびCryptococcus属を始めとする各種真菌に対し,幅広い抗真菌活性を示し,その作用は殺菌的であった.また,アムビゾームは各種真菌感染モデルにおいて,既存のAMPH-B製剤(d-AMPH-B)と比較して,優れた感染防御効果ならびに治療効果を示した.海外臨床試験において,d-AMPH-Bで問題とされる投与時関連反応や腎障害の発現を有意に減少させ,臨床においても本剤のコンセプトが証明された.国内第II相臨床試験においても,Aspergillus属,Candida属,およびCryptococcus属による深在性真菌症に有効であり,他剤無効例に対しても効果を示した.また,臨床的に大きな問題となる副作用は認められず,長期間の投与が可能であった.d-AMPH-Bでは累積投与量が5gを超えると不可逆的な腎毒性の発現が懸念されるが,アムビゾームでは総投与量の大幅な増大が可能であった.血中のAMPH-Bの存在形態を検討したところ,遊離型として存在しているAMPH-Bは平均値で0.8%と低く,そのほとんどがリポソームに保持されており,血中でアムビゾームは安定に存在していた.以上より,アムビゾームは深在性真菌症治療に新たな選択肢になると考えられた.
著者
山村 彩
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.148, no.5, pp.278-280, 2016 (Released:2016-11-01)
参考文献数
12