著者
芦原 亘 井上 晃一 刑部 正博 逸見 尚
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.23-27, 1987
被引用文献数
1 2

ガラス室ブドウに発生するカンザワハダニとその天敵類の越冬場所と越冬後の増殖場所を岡山市一宮と果樹試験場安芸津支場内(広島県豊田郡安芸津町)で調査した。<br>カンザワハダニはガラス室内ではブドウの落ち葉や枯れ草,敷きわら,ブドウの粗皮下で越冬していた。越冬中の天敵としてはケナガカブリダニ,ヘヤカブリダニ,ミチノクカブリダニ,コブモチナガヒシダニ,オオヒメグモが発見された。これらは落ち葉や枯れ草,敷きわらなどから採集されたが,樹上で越冬しているものはなかった。<br>加温または保温後の調査では,5室のうち保温開始8日目のガラス室1室の粗皮と敷きわらからカンザワハダニの生存個体が発見された。その他のガラス室のブドウからは生存個体がほとんど採集されず,雑草や間作の作物にカンザワハダニの増殖個体が認められた。天敵類は発見されなかった。また,ハダニの越冬個体を鉢植えのブドウに接種し加温した場合,22日目には鉢内の雑草に寄生している個体が見られたが,ブドウにはまったく認められなくなった。したがってカンザワハダニの室内での越冬個体は活動開始後すぐにブドウに寄生することはなく,雑草もしくは間作でいったん増殖したものがブドウに移動して被害を及ぼすと考えられる。
著者
水島 俊一 山田 英一
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.81-88, 1974
被引用文献数
1 6

北海道のほぼ中央部に位置する長沼地方の農耕地および周辺におけるネズミ類の種類構成と食性を調べ,それらの生態的地位などを考察した。<br>1. 1969&sim;1972年の4年間にわたり水田,畑および周辺非農耕地にて毎年3回の捕殺および生捕り調査を行ない,捕殺個体については胃内容物を分析して食性をみた。<br>2. 北海道に生息する4属8種のネズミ類のうち6種が捕獲された。捕獲数の合計はエゾヤチネズミ,カラフトアカネズミ,ドブネズミ,ハツカネズミ,ヒメネズミ,エゾアカネズミの順になっている。<br>3. ドブネズミとハツカネズミの食性は似ており,イネを中心に作物も好食する。しかし前者は水田,排水溝や休耕田に多く,後者はカボチャ,エンバクなどの畑に集まり両者の行動範囲は重なっていない。<br>4. エゾアカネズミとヒメネズミは本来森林性のネズミであり,農耕地へは一時的に侵入したものと思われ捕獲数も少ない。食性にも大きな差はなく動物質や若干の作物を含む植物の種実が主体である。<br>5. カラフトアカネズミは全道的な分布や生態にまだ不明の点が多い。農耕地で捕獲される割合が多く,食性は動物質とともに,イネやエンバクなどの作物の摂取が多い。本州のアカネズミと似た生態的地位にあると考えられる。<br>6. エゾヤチネズミは森林や草原はもとより農耕地とその周辺にも数多く分布しているが,農耕地での捕獲割合は他種にくらべて低い。<i>Microtus</i>属のいない北海道でハタネズミと似た生態的地位を占めていると考えられる。
著者
高倉 耕一 高津 文人
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.87-93, 2008-05-25
参考文献数
24
被引用文献数
1 2

We observed the seasonal occurrence and foraging behaviors of a terrestrial red mite, <i>Balaustium murorum</i> (Hermann), on the roof of a building in Osaka and analyzed the stable isotope ratios in the mite and three prey species to study its feeding habits. On direct observation, the adult mites formed groups and fed on small insects and anthers that had fallen on the roof. When pollen of the grass <i>Polypogon fugax</i> Steud. was experimentally added to the roof surface, the adult mites fed more frequently than they did without the pollen. We measured the stable isotope ratios of C and N in the mite and three prey species, <i>P. fugax</i>, a plant louse (Psyliidae sp.), and a cyanobacterium (<i>Hassallia</i> sp.), and estimated the contribution of each to the mite. This showed that <i>P. fugax</i> made the largest contribution, about 50%, irrespective of the estimation method. From these results, we concluded that the pollen was the most important food resource for the mite, although it is an omnivore.
著者
石崎 摩美 松山 裕城 佐藤 名月
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.167-173, 2017-08-25 (Released:2017-09-05)
参考文献数
24

We investigated the effects of changes in the density of rice skipper Parnara guttata guttata Bremer et Grey larvae in paddy fields on the damage caused during the cultivation of forage rice for whole-crop silage. Young instar larvae were released in mesh cages on late-transplanted rice plants. The larvae were reared in the cages until the pupal stage. After removal of the insects, rice plants at the yellow ripening stage were harvested and dried, and the number of panicles and dry weight of panicles and straw were measured. The total digestible nutrients content of the rice plants was also estimated. Dry matter weight decreased with increasing larval density on the rice plants, whereas total digestible nutrients content did not decrease significantly. Thus, P. guttata guttata may cause quantitative damage to forage rice, but the qualitative damage it causes is relatively small.
著者
本田 洋 松本 義明
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.28-35, 1987
被引用文献数
9

モモノゴマダラノメイガの2系,果実系幼虫とマツ科系幼虫の寄主特異性の比較のために,両系幼虫の寄主植物の有機溶媒抽出物および含有糖類に対する摂食反応を,試料添加のロ紙を幼虫に摂食させる簡易検定法で調べた。<br>1) 両系幼虫ともにそれぞれの寄主植物(スギ葉を除く)の80% MeOH抽出物に対して強い摂食反応を示したが,他の有機溶媒抽出物にはほとんど反応を示さなかった。<br>2) 果実系幼虫はマツ科系の寄主植物であるゴヨウマツの80% MeOH抽出物により摂食を阻害されたが,ヒマラヤスギ,ウラジロモミの同抽出物にはほとんど反応しなかった。<br>3) マツ科系幼虫は果実系幼虫の寄主植物のモモ,クリ,リンゴ果実の80% MeOH抽出物にはいずれも強い摂食反応を示した。<br>4) 果実系の寄主植物のクリにはシュークロースが多量に含まれ,モモ,リンゴあるいはスギ葉にはフラクトース,グルコースが多いがシュークロースは少ない。一方,マツ科系の寄主植物にはいずれもフラクトースが多く,シュークロースはきわめて少ない。<br>5) 果実系幼虫はシュークロースに最も強く反応し,ついでフラクトース,グルコースの順に反応した。また幼虫はソルビトール,イノシトールに弱いながら摂食反応を示したが,マルトースとラクトースでは摂食を阻害された。<br>6) マツ科系幼虫はフラクトースに最も強く反応し,ついでシュークロース,グルコースに反応した。しかし他の供試糖類に対してはほとんど反応を示さなかった。<br>7) 両系幼虫の糖選好性と寄主植物中の糖含有量はほぼ対応していた。<br>8) 以上の結果から,果実系とマツ科系は幼虫の寄主特異性の基礎と考えられる糖類に対する摂食反応が異なり,これら2系は分類学上異なる位置にある集団であると結論される。
著者
野村 健一 須藤 昇吾 清水 武秀 田代 祐二
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.69-75, 1964-03-25

メチルジメトン剤には, メタシストックス(P=O体・P=S体あわせて50%)と改良メタシストックス(P=O体のみ25%)とがあるが, 最近は後者のほうが多く用いられ, 果樹への塗布薬剤もこれが主体となっている。われわれはこの改良メタシストックスの塗布処理について, 効果(薬量)および薬害の両観点から考察した。1.成木では, 主幹より主枝または亜主枝に塗布するほうが経済的であり, その薬量は, (a)枝に投与されるべき絶対量, (b)樹皮単位面積あたりの塗布量(塗布液の厚さ), の2点から論議されるべきである。(a)は防除効果に, (b)は薬害に関係があるが(後者についてはあとで述べる), この中(a)は枝の大きさに応じて加減すべきはいうまでもない。従来, その薬量算出基準には, 枝周・葉数・枝体積などがとられてきたが, 枝周基準の方法は枝の大きさによって効果にむらがある(Fig.2)。われわれは原理的には枝体積によるのが妥当であるとし, その適正薬量を次のように想定した。すなわち, アブラムシ類防除には枝体積1500〜3000cm^3あたり原液1cc, ハダニ類には1500〜2000cm^3あたり1ccが適量であるとした(春〜初夏の場合を標準として)。2.上述した各種の薬量算出法で求められた薬量対枝周の関係を比較考察した(Fig.3)。上に提唱した薬量は, アブラムシ類の場合は, V_1〜V_2の範囲で示される。ハダニ類のそれは, V_1からほぼP_2の範囲がこれに相当する。3.実際問題としては, 枝体積を測定して塗布量を算定するのはめんどうであるから, 次のような方法を提案したい(簡易塗布法)。それは原液の引伸し塗布(樹皮100cm^2に対し原液0.6cc〜0.8cc程度の)を行ない, かつ塗布範囲(塗布面積)は枝直径の3〜4倍長とするものである。これによって与えられる薬量は, Fig.3のP_<1〜3>の範囲と期待される。それは, 上述した適正薬量にほぼ符合する。4.次に(b)(樹皮単位面積あたりの薬量)は, 薬害と関連があり, 特にミカンでは注意すべき事項であるが, これと塗布時気温との組合わせから, 薬害(ミカン)の発生有無がおよそ見当つけられることがわかった。Fig.4のSの範囲では, ミカンでも薬害発生の懸念はほとんどないと考えられる。
著者
奥谷 禎一 三方 彰一
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.100-112, 1958-06-01
被引用文献数
1

本報告は1955∼1956年に篠山地方において調査研究した,サクラを加害するヒラタハバチとサクラヒラタハバチの生活史である。<br>ヒラタハバチ;1)篠山では4月中旬から5月上旬にかけ成虫が出現する。生活期間は,成虫が1週間(雄)から3週間(雌),卵が約11日,幼虫が約22日,前蛹が約10か月,蛹が約17日である。2)産卵は葉裏の葉脈間に卵群として8卵内外が産まれる。3)幼虫は5令を経る。幼虫は吐糸によって葉を巻いて巣をつくる。造巣は協同して行われ,1巣内に数頭が群棲する。4)幼虫の食草はソメイヨシノおよびヤマザクラである。5)天敵としては5種のクモを発見した。<br>サクラヒラタハバチ;1)成虫の出現期は前種よりわずかに遅い。生活期間は,成虫が約9日(雄)から26日(雌),卵が約14日,幼虫が約25日,前蛹が約10か月,蛹が約14日である。2)卵は25粒内外の卵塊として葉裏の中肋上に産下される。3)幼虫は雄6令,雌7令で,吐糸によって天幕状の巣をつくり,群棲する。4)幼虫の食草はソメイヨシノ,ヤマザクラおよびナナカマドであるが,イヌザクラ,モモ,ウラジロノキでも飼育が可能である。5)天敵としては3種のクモとアマガエルを発見した。
著者
小泉 清明 柴田 喜久雄
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.91-100, 1964-06-25
被引用文献数
1 5

1. 一生(卵から成虫の産卵まで)を通じての発育有効積算温度数は,ウリミバエ(Dc)は650日度,ミカンコミバエ(Dd)は610日度で,それらの値は15∼30°の範囲で一定である(第1表)。<br>2. 積算温度から東洋温帯地の高温季節に何回世代を重ねるかを推定すれば,韓国,中国本土北部,同東北部,日本の奥羽地方は1∼2回,関東と中部以南の日本は2∼3回となる(第2表)。<br>3. 前成虫を台湾の自然温度から急に8°以下の恒定低温に接触すると40∼55日以内に(第3表),日本の温暖地の冬の平均最高最低を組み合わせた変動低温に接触すると,最低が8°以下で平均示度が11°以下の時は40∼50日以内に低温死する(第4表)。台湾の自然温度から,15→5°に2∼6日なれさせるか,台湾日本間の船艙温度を経て日本の秋から始まる漸降温度を経験させて0∼9°に接触する時は,耐寒性は多少増大して,発育零点は恒温急激接触より1°,変温のそれより2∼3°低くなり,最終温度9°以上で発育し,8°以下では50∼60日で死ぬ(第5表)。<br>4. 成虫は9°以上24∼25°までは100日内外の寿命を保つが,8°以下では30日以内に死ぬ(第6表)。<br>日本温暖地の冬の昼間夜間,平均最高最低,日中の直射日光下の推定体温と夜間温度を組み合わせた変動低温に,成虫を急に接触させると,平均示度が成虫の摂食可能の9°以上の時は天然寿命が保持される。夜間が摂食不能の8°以下の時は,昼間温度に無関係に変温の平均示度に等しい恒温よりも寿命は非常に短く,とくに夜間が0°以下の時は,昼間温度如何にかかわらず,寿命は夜間温度のみによって支配される(第7表)。<br>9∼12月の各月台湾の自然温度から出発して,日本の西部地方のその頃の漸降温(恒温,昼夜間温度を組み合わせた変温)に順次接触すると,成虫は9∼11月出発の場合は,Dc 100∼160日,Dd 80∼125日の寿命を保って1∼2月に死ぬ。急接触にくらべて耐寒性は3∼5倍に増大する。12月に出発すると寿命は40∼55日で1月中まで生存し耐寒性は1.5倍に増大する。しかし漸進接触によって生存を最大2月下旬まで延長することはできない(第8表)。<br>交尾産卵限界温度は漸進接触によっても低下することはなかった。<br>5. 最大の耐寒性を示す漸降温の実験結果から,平均気温にてらして日本の代表的温暖地30ヶ所における越冬の可否を推定すると(第9表),前成虫は琉球,小笠原,伊豆諸島を除けば,いずれの地でも越冬は不可能で,12∼1月から2∼3月にいたる期間に低温死を免れない。<br>成虫も夜間の平均気温0°以下の関東および中部地方の一部,奥羽,北海道,サハリン,朝鮮,中国本土東北部では越冬できないが,夜間0°以上昼間9°以上のその他の地方では,昼間日射下の成虫体温を考慮にいれれば,越冬は必ずしも不可能ではないかもしれない。<br>6. 幼虫の飢餓寿命は,恒温0∼36°で30日以内,最長は10∼12°で,これより温度上るも下るも短縮し,9∼10°の発育零点下の低温では15日以内。摂食可能の限界は8∼10°である(第10表)。<br>成虫の飢餓寿命も,恒温-6∼36°で30日以内,最長は10∼12°,8°以下は20日以内,摂食は9°以上で可能。水だけを与えると寿命の最大は70日に延び,最長は14°,8°以下では20日以内,18°以上の寿命は完全飢餓と差がない(第11表)。<br>変温で水を与えた成虫の寿命は,変温の平均示度に等しい恒温の寿命と大差ない(第12表)。<br>7. 日本の代表的温暖地30ヶ所において,11月から4月にかけ,食物の摂取が不可能の場合の,幼虫と成虫の寿命と越冬の可否を推定すると,幼虫と成虫は,11月と4月には各地とも30日,12月と3月には15∼30日,1月と2月には琉球,小笠原,伊豆諸島(15∼30日)を除けばいずれも10∼15日の寿命で,したがって食物の摂取が完全に不可能の場合は,幼虫成虫とも日本本土では越冬はできない(第13表)。<br>成虫は水の摂取ができれば,11月と4月は琉球,小笠原,伊豆諸島(20日)を除けば,40∼70日,12月から2月にかけて南九州,南四国,紀南,3月の南九州,南四国,紀南,東海がともに30∼60日のほかは,いずれも20日以内の寿命で,したがって成虫も日本本土では越冬は困難と考えられる(第14表)。
著者
市川 俊英 岡本 秀俊 藤本 能弘 川西 良雄 壼井 洋一
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.6-16, 1987-02-25 (Released:2009-02-12)
参考文献数
17
被引用文献数
1 7

1982年4月から1983年5月にかけて,研究室内とオリーブ樹を取り囲む野外網室(3×3×3m)を中心とする野外のオリーブ植栽地でオリーブアナアキゾウムシ成虫の存在場所と行動について調査した。この間に確認された成虫の行動を不活動,静止,歩行,摂食,マウント,交尾および産卵状態に大別した。野外網室での調査によると,長命な成虫の活動期は概略4月から10月までで,おもに夜間オリーブ樹上で活動し,日中には大部分が不活動状態で発見された。ただし,晴天の日中には大部分の成虫が枯草で被覆したオリーブ樹根元周辺の地面(被覆地)で発見され,マウントや交尾を繰り返していた雌雄や根元で産卵中の雌も少数ながら認められた。また,曇天の日中には夜間から引き続きオリーブ樹上にとどまっている個体と裸地で発見される個体が多かった。成虫は野外網室内で越冬可能であることが確認され,11月から3月までの越冬期の成虫は全般に不活発で,被覆地に潜伏する個体が日中,夜間を通じて多かった。しかし,成虫の活動が完全に停止したわけではなく,地面を移動する個体がかなり多く,越冬期の初期と後期にはオリーブ樹に登る個体もかなり多かった。
著者
西東 力 鈴木 誠
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.232-236, 1982-11-25
被引用文献数
2 9

1980∼1981年に静岡県伊豆地方でツバキシギゾウムシの生活史を調査した。成虫は5月下旬から7月下旬まで観察され,6月にツバキ種子内に産卵した。ふ化幼虫は種子を摂食し,約1ヵ月で4齢まで発育した。7月下旬から老熟幼虫は果実に穴をあけて脱出し,ツバキ樹下の土中で幼虫越冬した。<br>本種は伊豆半島の東部と南部で多発生していた。<br>幼虫は昆虫病原糸状菌<i>Metarhizium anisopliae</i>および<i>Beauveria tenella</i>に対して高い感受性を示した。土壌殺菌の有無は菌の病原性に影響を及ぼさず,いずれの菌も土中で増殖することが示唆された。以上のことから,これらの菌を土壌施用することによってツバキシギゾウムシの微生物的防除ができるものと考えられる。
著者
小野 知洋 高木 百合香
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.325-330, 2006-11-25
被引用文献数
12

オカダンゴムシは交替性転向反応を示すことが知られている.この反応の機構として,左右の脚にかかる負荷を均等にするというBALM仮説が知られている.しかし,直線歩行路とジグザグ歩行路を歩かせると,直線歩行路においてより早く方向転換や脱出が見られることから,生得的な行動パターンとして存在することを示していると思われた.一方,走触性にもとづく歩行においては,壁面からの離脱はいつでもできる状況でありながら,かなり壁面に沿った歩行を行うことが示された.このような行動パターンの適応的な意味について,T字路が連続する歩行路を用いて,自発的歩行と逃避的歩行で比較したところ,逃避的な歩行において,交替性転向反応を示す比率が高いことがわかった.また,逃避的歩行の場合には歩行速度が迷いことがわかった.これらの事実から,交替性転向反応は天敵などからの逃避の際に有効な行動であることが示唆された.
著者
秋野 順治 山岡 亮平
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.265-271, 1996-11-25 (Released:2009-02-12)
参考文献数
7
被引用文献数
8 17

クロヤマアリFormica japonicaでは同巣仲間の死体を巣外へ運び出す行動が認められるが,このような搬出行動は,死体体表面に含まれるオレイン酸によって引き起こされ,死後48時間以上経過した死体に対して顕著に認められた。オレイン酸は,生きた働きアリの体表面および体液中には殆ど含まれないが,その含有量は死後の時間経過に伴って変化し,死後48時間で急激に増加した。一方,体液中に含まれるトリグリセリドの含有量は,死後48時間で急激に減少し,その構成脂肪酸はオレイン酸であった。また,死亡直後に電子線を照射した場合には,体液中および体表面におけるオレイン酸の増加,および体液中のトリグリセリドの減少のいずれも認められない。これらの結果から,クロヤマアリの死体認識シグナルとして作用するオレイン酸は,働きアリの死後,体液中に含まれるトリグリセリドの酵素的加水分解反応によって生じるものと考えられる。
著者
高木 正見
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.157-163, 1976-09-25
被引用文献数
1 8

アゲハ蛹期の天敵としてのアオムシコバチの働きを説明するため,野外調査といくつかの室内実験を行なった。野外調査は,福岡市東区箱崎にある温州ミカンほ場で,1972年と1974年に行なった。<br>1. アゲハの蛹化は毎年5月から11月にかけて連続的にみられ,アオムシコバチもこの期間中ずっと活動していた。アゲハ蛹密度は8月中旬以降急に高くなった。アオムシコバチは,少しの遅れはあったがこれにすぐ反応し,高い寄生率を示した。しかし,その後他の天敵による死亡が増加してアオムシコバチの寄生率は低下した。<br>2. このアオムシコバチの寄生率が低下した時期でも,アオムシコバチのアゲハ蛹攻撃率は低下しなかった。またこの時期には,アオムシコバチが攻撃した蛹から他の寄生者が脱出してきたり,その蛹がアリに捕食されるのを観察した。<br>3. 野外で採集したアゲハ蛹1頭から,平均156.2頭,最高337頭のアオムシコバチが羽化してきた。<br>4. 野外百葉箱でのアオムシコバチ雌成虫の寿命は,8, 9月に羽化したもので平均1ヵ月であった。10, 11月に羽化したものは,3ヵ月の寿命のものが多く,寄主体内で越冬したアオムシコバチが翌春羽化してきた時期まで生存していたものもあった。<br>5. 野外ではアゲハの5令幼虫や前蛹の上に乗っているアオムシコバチが観察されたが,アオムシコバチが寄生可能なアゲハのステージは蛹期のみで,5令幼虫期・前蛹期のアゲハには寄生不可能であった。<br>6. アゲハを寄主としたときのアオムシコバチの発育零点は12.2°Cで,卵から羽化までに要する有効積算温量は213.7°C日であった。この値をもとに計算した福岡地方でのアオムシコバチの年間世代数は9世代であった。<br>7. 卵巣成熟はsynovigenicな型を示し,給蜜することにより,平均約140の成熟卵を保有した。<br>8. 無給蜜の場合,1雌当り産仔数は平均189.3,最高311で,この資料をもとに計算したこの蜂の内的自然増加率は日当り0.28であった。<br>9. 以上の結果をもとに,アゲハ蛹期の天敵としてのアオムシコバチの働きについて考察した。
著者
鷲塚 靖 山岡 正佳 鈴木 竜矢
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.240-246, 1987-08-25
被引用文献数
1

阿蘇山のミヤマキリシマ群落(第1地点),ミヤマキリシマ,アセビ群落(第2地点),スギ単純林とクロマツ,ヒノキ,スギ,アセビ,ノリウツギ混交林(第3地点)で,P, N, K, Ca, Mg, NaとBHCの分布を調査した。検体は,L, F, H層,植物,ミミズ類,昆虫類,ネズミ類などであった。そのおもな結果はつぎのとおりである。<br>1) 第3地点のF層と第2,第3地点のH層に含まれる6元素の順位はCa>Mg>Na>K>N>Pであった。<br>2) 草本類のそれらの順位はK>N>Ca>Mg>Na>Pの順であり,樹木類のそれは,N>Ca>K>Mg>Na>Pであった。<br>3) 昆虫類のそれは,N>K>P>Na>Mg=Caであった。<br>4) ミミズ類のそれは,N>Ca>K>Na>Mg>Pで,アカネズミでは,N>K>Ca=P>Na>Mgの順であった。<br>5) 草本類におけるN, P, Mgの含量は,火口に近づくにしたがって高くなった。<br>6) Ca, Naの移動と分布は,食物連鎖による移動と考えられ,前者が緑色植物,後者が食植性昆虫までその含量が減少し,その後の移動でこれらは増加した。<br>7) BHCは,L層が最も高く,ついでF層,H層の順になり,樹木類に含まれるそれは,火口に近づくにしたがって,その含量が減少した。
著者
德丸 晋 林田 吉王
出版者
JAPANESE SOCIETY OF APPLIED ENTOMOLOGY AND ZOOLOGY
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.13-21, 2010
被引用文献数
1 16

タバココナジラミ・バイオタイプQの3齢幼虫では42種類、卵および成虫では40種類の薬剤感受性を調べた。その結果、薬剤感受性は、タバココナジラミ・バイオタイプQの発育段階および薬剤の種類により異なった。タバココナジラミ・バイオタイプQの3齢幼虫に対して殺虫効果が高かった薬剤はフェンピロキシメート・ブプロフェジン水和剤、フェンピロキシメート水利剤、ミルベメクチン乳剤、ピリダベン水和剤、レピメクチン乳剤、スピネトラム水和剤およびスピノサド水和剤であり、ミルベメクチン乳剤、ピリダベン水和剤、レピメクチン乳剤、スピネトラム水和剤およびスピノサド水和剤のLC50値は、それぞれ0.98、1.59、0.08、0.04および0.91ppmであった。タバココナジラミ・バイオタイプQの雌成虫に対して殺虫効果が高かった薬剤は、ピリミホスメチル、チオシクラム水和剤、ピリダベン水和剤およびスピネトラム水和剤であった。また、各種薬剤を処理したキャベツ葉におけるタバココナジラミ・バイオタイプQ雌成虫による産卵数が少なかった薬剤はカルタップSG水溶剤、チオシクラム水和剤、ジノテフラン水溶剤、ニテンピラム水溶剤、ピリフルキナゾン水和剤およびスピネトラム水和剤であった。タバココナジラミ・バイオタイプQの卵に対して殺卵効果が高かった殺虫剤はピリダベン水和剤のみであった。
著者
立川 周二
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.74-75, 2007-02-25